今回は、球殻と球体の形成する重力ポテンシャル(=ある点での単位質量当たりのポテンシャルエネルギー)の導出を行います。この導出を通して、ケプラーの法則や二体問題で天体を質点と近似した手法の妥当性を確認します。
結論から示すと、球殻と球体の重力ポテンシャルは、それぞれ次のように表せます。
まずは、球殻が形成する重力ポテンシャルの導出方法の説明を行います。
球殻の外部に形成される重力ポテンシャル
始めに、球殻が作り出す重力ポテンシャル(=ある点での単位質量当たりのポテンシャルエネルギーのこと)を導出します。
準備として、球殻を構成する微小なリングが形成する重力ポテンシャルについて考えます。具体的には、下図のように、半径 $a$ の球殻から平行な二面に挟まれた細いリング部分について考えます。
ここで、原点 $O$ から微小なリングを見た時、その幅が $\diff \q$ で表せたとします。また、球殻の密度は均一であるとし、$\rho$ と置きます。
このとき、リングの質量 $\diff m$ は次のように与えられます。
\begin{split}
\diff m=(\rho a\,\diff a\,\diff\q)\cdot 2\pi a\sin\q
\end{split}
ところで、重力によるポテンシャルエネルギー(=位置エネルギー) $\psi$ は、万有引力定数を $G$、質点の質量を $m$、質点からの距離を $r$ として次のように表せました。
\begin{split}
\psi=-G\ff{m}{r}
\end{split}
これを考慮すると、球殻の外部の点 $\RM{P}$ に形成される重力ポテンシャル $\diff \psi$ を次のように表せます。
\begin{split}
\diff\psi=-G\ff{\diff m}{r}=-G\ff{2\pi \rho a^2\sin\q \diff\q\diff a }{r}
\end{split}
上式から $\q$ を消去したいので、図の三角形に注目して余弦定理を適用します。
\begin{split}
r^2=a^2+R^2-2aR\cos\q
\end{split}
技巧的になりますが、両辺を $\q$ で微分すると、以下のようになります。
\begin{split}
r\diff r=aR\sin\q\diff \q
\end{split}
この結果を用いると、前の式から $\q$ を消去できて、
\begin{split}
\diff \psi=-G\ff{2\pi\rho a}{R}\diff a\diff r
\end{split}
が得られます。
さて、球殻全体の形状は、$\q$ を $0$ から $\pi$ まで動かすと得られますが、これは $r$ を $R-a$ から $R+a$ まで動かすことに相当します。したがって、球殻により外部の点 $\RM{P}$ に形成される重力ポテンシャル $\psi$ を、以下のように求められます。
\begin{eqnarray}
\psi&=&\int_{R-a}^{R+a}\diff \psi=-G\ff{2\pi\rho a}{R}\diff a\int_{R-a}^{R+a} \diff r\tag{1}\EE
&=&-G\ff{4\pi \rho a^2 \diff a}{R}
\end{eqnarray}
今、$4\pi \rho a^2\diff a$ は球殻の全質量 $m$ と一致することに注目すると、重力ポテンシャルを
\begin{split}
\psi&=-G\ff{4\pi \rho a^2 \diff a}{R}=-G\ff{m}{R}
\end{split}
変形できます。
これより、球殻の外部の点が受ける重力ポテンシャルは、球殻の質量を原点に集中させたときに生じるポテンシャルと一致することが分かります。
球体の外部に形成される重力ポテンシャル
次に、球体の外部の点に形成される重力ポテンシャルについて考えます。
このとき、(質量分布が球対称な)球体が、上で考えた球殻を玉ねぎのように重ね合わせた状態と見なせることに注目しましょう。
すると、球体外部の点 $\RM{P}$ に形成される外部ポテンシャル $\psi$ を次のように計算できます。
\begin{split}
\psi&=-G\int_0^a \ff{4\pi \rho a^2 }{R}\diff a\EE
&=-\ff{G}{R}\cdot\ff{4}{3}\pi\rho a^3
\end{split}
今、$\DL{\ff{4}{3}\pi\rho a^3}$ は、球体の質量 $M$ と一致するので、
\begin{split}
\psi&=-G\ff{M}{R}
\end{split}
が得られます。
また、重力はポテンシャルエネルギーを位置で微分したものと一致します。したがって、$\RM{P}$ に置かれた質量 $m$ の質点に作用する重力 $F_g$ が以下のようになって、万有引力の法則と同じ形が得られます。
\begin{split}
F_g=-m\ff{\diff \psi}{\diff R}=-G\ff{mM}{R^2}
\end{split}
質点近似の妥当性
球殻と球体の計算から分かる通り、これらが外部に形成する重力ポテンシャルは、質量を一点に集中させたときに生じるポテンシャルエネルギーと一致します。
二体問題やケプラーの法則などでは、天体を質点と近似して計算を進めますが、これらの結果より、質点近似が正当であることが分かります。すなわち、天体の質量分布が対称なときは、天体の大きさを無視して良いことが言えます。
球体内部の重力ポテンシャルの導出
次に、球体内部における重力ポテンシャルを考えます。導出の準備として、球殻内部での重力ポテンシャルを計算します。
これについては、一から考え直す必要ななく、式$(1)$の $R$ を $a$ 未満とすれば簡単に得られます。すなわち、点 $\RM{P}$ の位置を $R(<a)$ として計算を行うと、球殻内の重力ポテンシャル $\psi$ を以下のように求められます。
\begin{split}
\psi&=\int_{a-R}^{a+R}\diff \psi=-G\ff{2\pi\rho a}{R}\diff a\int_{a-R}^{a+R} \diff r\EE
&=-G\cdot 4\pi\rho a\diff a\EE
&=-G\ff{4\pi\rho a^2\diff a}{a}\EE
&=-G\ff{m}{a}
\end{split}
この結果からは、球殻内部の点の重力ポテンシャルは、原点からの位置に依存せず一定であることが分かります。また、球殻内の重力が $0$ となることも分かります。
上の結果を利用すると、球体内部の重力ポテンシャルが求めます。すなわち、球体を $\RM{P}$ より内側と外側で分けて、それぞれの重力ポテンシャルを計算すれば良く、次のように計算できます。
\begin{split}
\psi&=\int_{0}^{R}\diff \psi+\int_{R}^{a}\diff \psi\EE
&=-G\left(\int_{0}^{R} \ff{4\pi \rho a^2 }{R}\diff a+\int_{R}^{a} 4\pi\rho a\diff a\right)\EE
&=-G\cdot \left(\ff{4\pi}{3}\rho R^2+2\pi\rho(a^2-R^2)\right)\EE
&=-G\left( 2\pi\rho a^2-\ff{2}{3}\pi\rho R^2 \right)\EE
\end{split}
さらに、球体全体の質量を $M$ とすると、$M=\DL{\ff{4\pi}{3}\rho a^3}$ と置けるので、上式を
\begin{split}
\psi&=-\ff{GM}{2a}\left( 3-\ff{R^2}{a^2} \right)\EE
\end{split}
と表せます。以上より、球体内部の重力ポテンシャルの導出が行えました。
これより、球体内部の点に作用する重力を次のようにも計算できます。
\begin{split}
F_g=-m\ff{\diff \psi}{\diff R}&=\ff{GmM}{a^3}R
\end{split}
銀河の回転とダークマターの発見
球体内部の重力ポテンシャルの応用先として、銀河の回転があります。
今、銀河の質量分布が一様であると仮定して、銀河内の天体の運動に注目します。
この天体が半径 $r$ の円を描いて運動しているとし、この円内の銀河の質量を $M$ とします。すると、天体の円周上の速度 $v$ は、ケプラーの第三法則より、
\begin{split}
v=\sqrt{\ff{GM}{r}}
\end{split}
と表せます。これより、銀河の中心部に近づくほど軌道速度が減少することが予想されます。
ところが、銀河内の天体の速度分布を測定してみると、どの銀河においても、中心部を除いて軌道速度の分布がほぼ一定となっていたのです。
この矛盾が生じる理由は永らく謎とされていましたが、現時点では、銀河全体をすっぽりと包み込むよう、質量を持つ未知な何かかが存在しているためだと解釈されています。
この未知な何かは、ダークマターと呼ばれており、存在自体は確実視されいますが、その正体については未解明となっています。