摂動・摂動関数とは?|多体問題の検討と摂動関数の導出

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人工衛星の軌道を考えるときなど、基本的には中心天体とその周囲を巡る天体の二体問題と考えることは、非常に良い近似と言えますが、長期で考えると太陽や月からの重力や、地球自体が扁平楕円体であることの影響によって予測精度が落ちていきます。

長期的な予想精度を確保するためには、周囲の天体からの重力を考える必要があります。ところが、三体問題の例から分かるように、3つ以上の天体から成る多体問題の軌道を求めることは基本的にはできません。

このような多体問題の計算は、摂動論と呼ばれる天体力学の一分野で研究が行われています。

今回は摂動という用語と、摂動論で用いられる摂動関数について説明します。

摂動関数とは?

$G$ を万有引力定数、$m_j$ を摂動体の質量、$\rho_j$ を注目している天体と摂動体までの距離、$\B{r}$ を中心星から注目天体を向くベクトル、$\B{r}_j’$ を中心天体から摂動体を向くベクトルとする。

このとき、摂動関数 $R_j$ を次のように定義する。

\begin{split}
R_j=Gm_j \left(\ff{1}{\rho_j}-\ff{\B{r}\cdot\B{r}_j’}{r_j^3} \right)\\
\,
\end{split}

まずは、摂動という用語の内容について説明していきます。

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摂動とは?

二体問題で見たように、二つの天体の軌道の形は不変に保たれます。すなわち、軌道のサイズや形、離心率、軌道面の向きは、どれだけ時間が経過しようと不変に保たれます。

しかしながら、この不変性は天体の軌道の有り方を理想化したものに過ぎず、現実の軌道は理想とは少し異なっていることに注意しなければなりません。

例えば、地球を周回する人工衛星の軌道について考えてみます。人工衛星の運動を支配しているのは、地球からの引力のみと見なせるため、二体問題の結果を用いて衛星軌道を求めることは、極めて良い一次近似となります。

ところが、地球の形状が扁平楕円体であることや空気抵抗、そして月や太陽からの引力が存在するために、現実には二体問題とは言えません。そのため、人工衛星は理想的な軌道から若干変化することとなります。

空気抵抗などの力は地球の重力に比べればずっと小さなものですが、それでも、長期的には理想的な軌道を乱すこととなります。

さて、このような軌道にもたらされる小さな変化のことを摂動と呼びます。

摂動とは?

摂動:天体の軌道にもたらされる小さな変化のこと

また、月や太陽など、摂動の原因となる力を及ぼす天体のことを摂動体と呼びます。

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多体問題の運動方程式

三体問題にて説明したように、三つ以上の天体から成る系の厳密な軌道を得ることはできませんが、ここでは、定性的な様子を見るために、一般の $n$ 個の天体から成る多体問題について検討することにします。

摂動について考える始めの一歩として、一般の $n$ 個の天体から成る多体問題の運動方程式について検討してみましょう。

ところで、人工衛星の軌道などを計算する工学的な立場からは、地球や太陽といった中心星に対する、人工衛星の相対的な運動が最も重要な意味を持ちます。

多体問題の模式図

したがって、$m_1$ を中心星の質量、$m_2$ を人工衛星の質量として、それ以外の天体の質量を $m_3,m_4,\cdots,m_n$ と置くことにします。また、原点から各天体への位置ベクトルをそれぞれ、$\B{r}_1,\B{r}_2,\cdots,\B{r}_n$ と置くことにします。

今、興味があるのは中心星と人工衛星との相対運動のため、これら二つに絞って運動方程式を立式すれば良く、

$$
\left\{
\begin{split}
m_1\ff{\diff^2 \B{r}_1}{\diff t^2}&=G\ff{m_1m_2}{|\B{r}_{12}|^3}(\B{r}_2-\B{r}_1)+Gm_1\sum_{j=3}^n\ff{m_j}{|\B{r}_{1j}|^3}(\B{r}_j-\B{r}_1) \EE
m_2\ff{\diff^2 \B{r}_2}{\diff t^2}&=G\ff{m_1m_2}{|\B{r}_{21}|^3}(\B{r}_1-\B{r}_2)+Gm_2\sum_{j=3}^n\ff{m_j}{|\B{r}_{2j}|^3}(\B{r}_j-\B{r}_2)
\end{split}
\right.
$$

辺々を引いて整理すると、

\begin{split}
\ff{\diff^2 (\B{r}_2-\B{r}_1)}{\diff t^2}=-G\ff{m_1+m_2}{|\B{r}_{12}|^3}(\B{r}_2-\B{r}_1)+G\sum_{j=3}^nm_j \left( \ff{\B{r}_j-\B{r}_2}{|\B{r}_{2j}|^3}-\ff{\B{r}_j-\B{r}_1}{|\B{r}_{1j}|^3} \right)
\end{split}

を得られます。

摂動論の模式図

これを整理するため、上図のようにベクトルの表示を変更して、

$$
\left\{
\begin{split}
\B{r}&=\B{r}_2-\B{r}_1\EE
\B{r}_j’&=\B{r}_j-\B{r}_1\EE
\B{\rho}&=\B{r}_j-\B{r}_2
\end{split}
\right.
$$

と置くことにします。すると、上の方程式を

\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 \B{r}}{\diff t^2}=-G\ff{m_1+m_2}{r^3}\B{r}-G\sum_{j=3}^nm_j \left( \ff{\B{\rho}_j}{\rho_j^3}+\ff{\B{r}_j’}{r_j’^3} \right)\tag{1}
\end{eqnarray}

とまとめられます。

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摂動関数とは?

式$(1)$は摂動論において、基本的な運動方程式となります。これをさらに扱い易くするため、摂動関数というものを導入することにします。

この節では、摂動関数の導出過程について説明します。

まず、中心星を原点とした座標系を新しく設定し、ベクトル $\B{r},\B{r}_j’$ を $\B{r}=(x,y,z),\B{r}_j’=(x_j,y_j,z_j)$ と置きます。すると、

\begin{split}
\rho_j^2=(\B{r}-\B{r}_j’)\cdot (\B{r}-\B{r}_j’)=(x-x_j)^2+(y-y_j)^2+(z-z_j)^2
\end{split}

と計算できます。

次に、$\DL{\ff{\del}{\del x}\left(\ff{1}{\rho_j} \right)}$ について考えてみます。これは、連鎖律を用いて以下のように計算できます。

\begin{split}
\ff{\del}{\del x}\left(\ff{1}{\rho_j} \right)&=\ff{\del}{\del \rho_j}\ff{\del \rho_j}{\del x}\left(\ff{1}{\rho_j} \right)\EE
&=-\ff{1}{\rho_j^2}\cdot \ff{x-x_j}{\rho_j}\EE
&=-\ff{x-x_j}{\rho_j^3}
\end{split}

この結果を考慮すると、$\DL{-\ff{\B{\rho_j}}{\rho_j^3}}$ がグラディエントを用いて次のように計算できます。

\begin{split}
-\ff{\B{\rho_j}}{\rho_j^3}=\nabla\left(\ff{1}{\rho_j} \right)
\end{split}

また、$\B{r}\cdot\B{r}_j’=(xx_j+yy_j+zz_j)$ であることに注目すると、

$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del}{\del x}\left( \ff{xx_j+yy_j+zz_j}{r_j’^3} \right)=\ff{x_j}{r_j’^3}\EE
&\ff{\del}{\del y}\left( \ff{xx_j+yy_j+zz_j}{r_j’^3} \right)=\ff{y_j}{r_j’^3}\EE
&\ff{\del}{\del z}\left( \ff{xx_j+yy_j+zz_j}{r_j’^3} \right)=\ff{z_j}{r_j’^3}\EE
\end{split}
\right.
$$

となるので、同様について

\begin{split}
\ff{\B{r}_j’}{r_j’^3}=\nabla\left(\ff{\B{r}\cdot\B{r}_j’}{r_j^3} \right)
\end{split}

とできます。以上より、

\begin{split}
\ff{\B{\rho_j}}{\rho_j^3}+\ff{\B{r}_j’}{r_j’^3}=-\nabla\left(\ff{1}{\rho_j}-\ff{\B{r}\cdot\B{r}_j’}{r_j^3} \right)
\end{split}

という関係が導けます。

これを式$(1)$に適用すると、

\begin{split}
\ff{\diff^2 \B{r}}{\diff t^2}+G\ff{m_1+m_2}{r^3}\B{r}=\nabla\sum_{j=3}^nGm_j \left(\ff{1}{\rho_j}-\ff{\B{r}\cdot\B{r}_j’}{r_j^3} \right)
\end{split}

が得られます。このとき、右辺を摂動関数 $R$ あるいは擾乱(じょうらん)ポテンシャルと呼び、以下のように定義します。

摂動関数とは?

$G$ を万有引力定数、$m_j$ を摂動体の質量、$\rho_j$ を注目している天体と摂動体までの距離、$\B{r}$ を中心星から注目天体を向くベクトル、$\B{r}_j’$ を中心天体から摂動体を向くベクトルとする。

このとき、摂動関数 $R_j$ を次のように定義する。

\begin{split}
R_j=Gm_j \left(\ff{1}{\rho_j}-\ff{\B{r}\cdot\B{r}_j’}{r_j^3} \right)\\
\,
\end{split}

※ 摂動関数は、摂動体の位置 $(x_j,y_jz_j)$ も含むため、保存力とはなりません。なお、摂動関数を用いて天体の運動を議論する天体力学の一分野のことを摂動論と呼ばれます。

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