ロケットの性能を表す重要な指標として、比推力 $I_{sp}$ と推力重量比 $\psi$ と呼ばれるものがあります。(H-ⅡAロケットの比推力は $390\,\RM{s}$、推力重量比は $2.0$ となっています)
始めに、比推力とその導出過程について説明します。
比推力とは?
以前、ロケット方程式を導出しました。ロケット方程式からはロケットが獲得する速度が計算できます。
しかしながら、ある瞬間でのロケットの推進力は求められません。そこで、ロケットの推力を導出することを考えます。
さて、ロケット外の気圧が一様で $p_0$ であるとして、ロケットの燃焼室から、圧力 $p_e$ の噴流が速度 $u_e$ で単位時間当たりの質量流量 $\dot{m}_e$ で噴出しているとします。
このとき、力積 $\dot{m}_eu_e$ は単位時間当たりの運動量変化、すなわち力となることに注目すると、ロケットが得る推力 $F$ が以下のように記述できます。
\begin{split}
F&=\dot{m}_eu_e+p_eA-p_0A\EE
&=\dot{m}_eu_e+(p_e-p_0)A
\end{split}
なお、この方程式の右辺第一項の $\dot{m}_eu_e$ は運動量推力、第二項の $(p_e-p_0)A$ は圧力推力と呼ばれます。
圧力推力は外気圧の影響を受け、真空中で最大となります。ただし、噴出時の圧力が外気圧を下回ると、推力が低下することに注意しなければなりません。そのため、実際の設計では噴出圧力が外気圧と等しいか大きくなるよう、ノズルを設計する必要があります。
さて、ロケットの性能を示す指標として、推力の全てを運動量推力に換算した排気速度が用いられることがあります。これは有効排気速度 $c$ と呼ばれ、次のように定義されます。
\begin{split}
c=\ff{F}{\dot{m}_e}=u_e+\ff{(p_e-p_0)A}{\dot{m}_e}
\end{split}
有効排気速度は、推力 $F$ と推進剤の質量流量 $\dot{m}_e$ を実験的に測定することで得られます。
排気速度以外の重要な指標として、比推力 $I_{sp}$ と呼ばれるものがあります。
比推力は単位質量の推進剤が、地表での重力加速度 $g_0$ に相当するだけの推力を何秒間発生させられ続けるかを表し、次のように定義されます。
\begin{split}
I_{sp}=\ff{F}{\dot{m}_e\,g_0}=\ff{c}{g_0}
\end{split}
後ほど説明するように、比推力はロケットの性能を表す重要な指標です。ほとんどのロケットの比推力は $200\sim 500\,\RM{s}$ の範囲となっています。(有効排気速度の値が $2000\sim 5000\,\RM{m/s}$ の範囲にあることを意味します)
なお、スペースX社にて開発中のラプターというロケットエンジンの比推力は約 $380\,\RM{s}$ となっています。
推力重量比・燃え切り速度とは?
次に、ロケットの運動方程式について検討してみましょう。
ロケットが鉛直上向きに飛翔しているとして、ある時刻での速度を $v$、推力を $F$、重力加速度を近似的に一定として $g_0$ とします。すると、以下の運動方程式が成立します。
\begin{split}
m(t)\ff{\diff v}{\diff t}=F-m(t)g_0
\end{split}
ここで、ある時刻のロケットの質量 $m(t)$ は、ロケット点火時の質量を $M_0$、推進剤の質量流量を $\dot{m}$ として、
\begin{split}
m(t)=M_0-\dot{m}t
\end{split}
と表せます。これを最初の運動方程式に適用すると、
\begin{split}
\ff{\diff v}{\diff t}=\ff{F}{M_0-\dot{m}t}-g_0
\end{split}
両辺を $t$ で積分することで、ある時刻での速度 $v(t)$ を以下のように求められます。($t=0$ で $v(t)=0$ を用いています)
\begin{split}
v(t)&=\ff{F}{\dot{m}}\ln \ff{M_0}{M_0-\dot{m}t}-g_0t
\end{split}
ここで、前述の比推力を用いると、推力は
\begin{split}
F=I_{sp}\dot{m}g_0
\end{split}
と表せるので、ロケットの速度を
\begin{eqnarray}
v(t)&=\left( I_{sp}\ln \ff{M_0}{M_0-\dot{m}t}-t\right)g_0\tag{1}
\end{eqnarray}
ともできます。今、ロケットの燃焼時間を $t_b$ とすると、燃焼終了時のロケットの質量 $M_e$ を $M_0-\dot{m}t_b$ と置くことができます。
ここで、簡単のためにロケットの初期質量と燃焼終了時の質量の比を $\Lambda$(ラムダ)で表し、質量比と呼ぶことにします。
\begin{split}
\Lambda=\ff{M_0}{M_e}=\ff{M_0}{M_0-\dot{m}t_b}
\end{split}
質量比を $t_b$ について整理すると、
\begin{split}
t_b=\ff{M_0}{\dot{m}}\left(1-\ff{1}{\Lambda} \right)
\end{split}
これに、$\dot{m}=\DL{\ff{F}{I_{sp}\,g_0}}$ を適用すると、
\begin{split}
t_b=\ff{I_{sp}M_0g_0 }{F}\left(1-\ff{1}{\Lambda} \right)=\ff{I_{sp}}{\psi_0}\left(1-\ff{1}{\Lambda} \right)
\end{split}
となります。このとき、推力重量比 $\psi_0$ と呼ばれる量を次のように定義します。
これらの結果を適用すると、ロケット燃焼終了時の最終速度=燃え切り速度 $v_b$ を次のように求められます。
\begin{split}
v_b=v(t_b)&=\left\{ \ln \Lambda-\ff{1}{\psi_0}\left(1-\ff{1}{\Lambda} \right) \right\}g_0I_{sp}
\end{split}
ロケットの最高到達高度の導出
上で得られた結果を元に、ロケットの最高高度の導出を行っていきます。
さて、ある時刻 $t$ における高度は、式$(1)$を $t$ で積分すれば得られ、以下のように計算できます。
\begin{split}
h(t)&=\int_0^t \left( I_{sp}\ln \ff{M_0}{M_0-\dot{m}t}-t\right)g_0\,\diff t \EE
&=g_0 I_{sp}\int_0^t\ln \ff{1}{1-\ff{\dot{m}}{M_0}t } \diff t-\ff{1}{2}g_0t^2 \EE
&=\ff{I_{sp}M_0g_0}{\dot{m}}\left\{1-\ff{M_0-\dot{m}t}{M_0}\left(\ln\ff{M_0}{M_0-\dot{m}t}+1 \right) \right\}-\ff{1}{2}g_0t^2\EE
\end{split}
この結果より、ロケットの燃焼終了時の高度、すなわち燃え切り高度 $h_b$ が以下のように求められます。
\begin{split}
h_b&=h(t_b)=\ff{I_{sp}M_0g_0}{\dot{m}}\left\{1-\ff{1}{\Lambda}\left(\ln\Lambda+1 \right) \right\}-\ff{1}{2}g_0\left\{\ff{I_{sp}}{\psi_0}\left(1-\ff{1}{\Lambda} \right) \right\}^2\EE
&=\ff{g_0\,I_{sp}^2}{\psi_0}\left\{1-\ff{1}{\Lambda}\left(\ln\Lambda+1 \right)-\ff{1}{2\psi_0}\left(1-\ff{1}{\Lambda} \right)^2 \right\}
\end{split}
燃焼終了後もロケットは慣性により上昇し続けます。したがって、$t_b\leq t$ 以降の高度 $h$ は以下のように表せます。
\begin{split}
h(t)&=h_b+v_b(t-t_b)-\ff{1}{2}g_0(t-t_b)^2
\end{split}
さて、最高高度に到達した時刻 $t_c$ では、$v=0$ となることに注意しましょう。すると、$t_c$ を
\begin{split}
t_c=I_{sp}\ln \Lambda
\end{split}
とできて、これを上式に適用すると、最高高度 $h_c$ が次のように計算できます。
\begin{split}
h_c&=h(t_c)\EE
&=h_b+v_b(t_c-t_b)-\ff{1}{2}g_0(t_c-t_b)^2\EE
&=\ff{g_0\,I_{sp}^2}{\psi_0}\left(\ff{1}{2}\psi_0\ln^2\Lambda-\ln\Lambda-\ff{1}{\Lambda}+1 \right)
\end{split}