天体の軌道は六つの要素を用いて完全に決定することができます。この要素は軌道要素と呼ばれ、次のように表されます。
軌道要素とは?
まず、二体問題の運動を記述する運動方程式は以下のような形をしていました。
\begin{split}
\ddot{\B{r}} + \mu\ff{\B{r}}{r^3} = \B{0}
\end{split}
$\B{r}$ は三次元空間でのベクトルです。そのため、運動方程式の解は $6$ つの積分定数が含まれることが分かります。
この積分定数を決めるのが軌道要素(またはケプラー要素)と呼ばれる定数です。
前述のように、軌道要素は $6$ つの定数から成り立っていて、軌道の大きさと形、位置の決定に関わる $3$ つの次元要素と、慣性座標系に対しての軌道面の向きに関わる $3$ つの方位要素から構成されています。
軌道要素の内、まずは次元要素について説明します。
次元要素となるのは、長半径 $a$(放物線の場合は近心点距離 $q$)、離心率 $e$、そして近心点を通過する時刻 $t_{\pi}$ の三つです。なお、慣性座標系の $x$ 軸を春分点の方向に設定しています。
※ 春分点の記号として慣例的に牡羊座のマーク $\Upsilon$ の記号を使っています。ただし、現在の春分点の位置はうお座の位置にあることに注意して下さい。占星術が生まれた三千年前には牡羊座の位置に春分点がありましたが、地球の歳差運動により現在ではうお座の位置まで春分点が移動しています。
$a,q$ は軌道の大きさを定め、$e$ は軌道の形を決め、$t_{\pi}$ は天体の軌道上の位置を定める要素です。そのため、三要素が定められたならば軌道面内での天体の軌道と軌道上の位置を一意に決められます。
方位要素は、基準となる慣性座標系(地球を太陽を原点とした座標系等)に対して軌道面どのような向きにあるかを決定する要素のことです。
例えば慣性座標系に $xyz$ 軸を設定すると、基準面となる $xy$ 平面と軌道面は、図のように直線 $ON$ で交差します。
天体力学では $ON$ を交線と呼び、軌道面の $xy$ 平面に対する傾き角 $i$ を軌道傾斜角と呼びます。そして、天体が基準面を南から北へ通過する点 $N$ を昇交点と言い、$x$ 軸と $ON$ の成す角 $\Omega$ を昇交点経度と呼びます。
方位要素の最後の一つは、軌道の長軸方向を決定するもので交線 $ON$ と近心点方向 $OP$ との成す角 $\omega$ です。$\omega$ は近心点引数と言います。(近心点とは、二天体が最も近づくポイントのことです)
軌道の空間表示
上の軌道要素に含まれる $a,q,e,t_{\pi}$ が、軌道の形状とある時刻での位置を定めることは軌道方程式やケプラーの三法則から納得できるでしょう。
ここでは、$i,\Omega,\omega$ の方位要素により、軌道面の傾きが一意に決められる理由を説明します。
さて、軌道面の座標軸は、基準面の座標軸を回転させた結果と見なすことができます。数学的には、回転行列によるものとして定式化できます。
すなわち、基準面の座標系の単位ベクトルを $\B{i},\B{j},\B{k}$ とすると、軌道面の座標系の単位ベクトル $\B{p},\B{q},\B{w}$ は次のような関係となります。
\begin{split}
(\B{p},\B{q},\B{w})^T=R_z(\omega)R_x(i)R_z(\Omega)(\B{i},\B{j},\B{k})^T
\end{split}
これを具体的に計算すると、各単位ベクトルを
$$
\left\{
\begin{split}
&\B{p}= (\cos\omega\cos\Omega-\sin\omega\cos i \sin\Omega)\B{i}-(\cos\omega\sin\Omega+\sin\omega\cos i\cos\Omega)\B{j}+\sin\omega\sin i\,\B{k}\EE
&\B{q}=(\sin\omega\cos\Omega+\cos\omega\cos i\sin\Omega)\B{i}-(\sin\omega\sin\Omega-\cos\omega\cos i\cos\Omega)\B{j}-\cos\omega\sin i\,\B{k} \EE
&\B{w}=\sin i\sin\Omega\B{i}+\sin i\cos\Omega\B{j}+\cos i\,\B{k} \EE
\end{split}
\right.
$$
とできます。
ところで、角運動量ベクトルは軌道面に対して垂直方向を向いています。したがって、角運動量ベクトル $\B{h}$ は $\B{w}$ と平行であることが言えます。そのため、角運動量ベクトルを基準面での成分を用いて $\B{h}=(h_x,h_y,h_z)$ と置くと、次の式が成立します。
\begin{split}
\B{h}&=h_x\B{i}+h_y\B{j}+h_z\B{k}\EE
&=|\B{h}|\sin i\sin\Omega\B{i}+|\B{h}|\sin i\cos\Omega\B{j}+|\B{h}|\cos i\,\B{k} \EE
\end{split}
これらの係数を比較すると、以下の関係式が得られます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\sin i\sin\Omega=\ff{h_x}{|\B{h}|}=\ff{h_x}{\sqrt{h_x^2+h_y^2+h_z^2}} \EE
&\sin i\cos\Omega=\ff{h_y}{|\B{h}|}=\ff{h_y}{\sqrt{h_x^2+h_y^2+h_z^2}} \EE
&\cos i=\ff{h_z}{|\B{h}|}=\ff{h_z}{\sqrt{h_x^2+h_y^2+h_z^2}}
\end{split}
\right.
$$
上図から分かるように、$i$ の範囲は $0\le i \le\pi$ であるので、第三式の $i$ が一意に決まることが言えます。この結果を第一式と第二式に適用すると、$\Omega$ も一意に定まります。$\omega$ については、観測により決定できます。
このように、角運動量を背景に軌道面の傾斜角が決まり、その傾きとして表れる $i,\Omega,\omega$ も一意に決まります。このようにして、方位角を定めると傾斜角の傾きが決まることが分かります。