今回は、万有引力の法則を宇宙全体に適用したときに導かれる、ゼーリガーのパラドックスについて考えていきます。ゼーリガーのパラッドクスには色々な言い換えがありますが、代表的には次のように述べられます。
宇宙が一様かつ無限であれば、無限の数の星からの重力の総和も無限になり宇宙の崩壊は免れ得ない
ゼーリガーのパラッドクスが生じる理由は、万有引力の到達範囲が無限大であることと、重力の計算に用いる基準点を任意の位置にできるためです。
ゼーリガーのパラッドクスを理解する準備として、まずは、一様密度の球殻から受ける重力について考えていきます。
球殻内部の重力の導出
原点 $O$ を中心とした半径 $a$ の球殻を考えます。また、球殻の密度は一様であり $\rho$ とします。このとき、球殻が原点 $O$ に作用する重力について計算してみます。
計算の準備として、球殻を構成する微小なリングが形成する重力ポテンシャルについて考えます。具体的には、下図のように、半径 $a$ の球殻から平行な二面に挟まれた細いリング部分について考えます。
ここで、原点 $O$ から微小なリングを見た時、その幅が $\diff \q$ で表せたとします。また、球殻の密度は均一であるとし、$\rho$ と置きます。
このとき、リングの質量 $\diff m$ は次のように与えられます。
\begin{split}
\diff m=(\rho a\,\diff a\,\diff\q)\cdot 2\pi a\sin\q
\end{split}
ところで、重力によるポテンシャルエネルギー(=位置エネルギー) $\psi$ は、万有引力定数を $G$、質点の質量を $m$、質点からの距離を $r$ として次のように表せました。
\begin{split}
\psi=-G\ff{m}{r}
\end{split}
これを考慮すると、球殻の原点 $\RM{O}$ に形成される重力ポテンシャル $\diff \psi$ が次のように表せます。
\begin{split}
\diff\psi=-G\ff{\diff m}{a}=-2\pi \rho Ga\sin\q \diff\q\diff a
\end{split}
さて、球殻全体の形状は、$\q$ を $0$ から $\pi$ まで動かすと得られます。したがって、球殻により原点 $\RM{O}$ に形成される重力ポテンシャル $\psi$ を以下のように求められます。
\begin{split}
\psi&=\int_{0}^{\pi}\diff \psi\EE
&=-2\pi \rho Ga\diff a\int_{0}^{\pi}\sin\q \diff\q \EE
&=0
\end{split}
重力ポテンシャルが $0$ となることより、球殻の原点では重力が $0$ となることも分かります。
ゼーリガーのパラドックス
上の計算結果は拡張できて異なる半径の球殻を玉ねぎのように重ね合わせると、半径 $a$ の球体が $O$ に形成する重力ポテンシャル $\Psi$ が求められます。すなわち、
\begin{split}
\Psi&=\int_{0}^{a}\diff \psi=0
\end{split}
となることが分かります。
ところで、球体の中心以外での重力ポテンシャルはどのようになるでしょうか?
結論から示すと、球殻内の重力ポテンシャル $\psi$ は、こちらの結果を流用することで次のように求められます。なお、球体内部の点 $P$ の中心からの距離を $R\,(0<R<a)$ とします。
\begin{split}
\psi&=\int_{0}^{R}\diff \psi+\int_{R}^{a}\diff \psi\EE
&=-G\left(\int_{0}^{R} \ff{4\pi \rho s^2 }{R}\diff s+\int_{R}^{a} 4\pi\rho s\diff s\right)\EE
&=-G\cdot \left\{\ff{4\pi}{3}\rho R^2+2\pi\rho(a^2-R^2)\right\}\EE
&=-2\pi\rho G\left( a^2-\ff{1}{3} R^2 \right)\EE
\end{split}
これより、$R$ の位置に置かれた質量 $m$ の物体に作用する重力 $F_g$ を、
\begin{split}
F_g&=m\ff{\diff \psi}{\diff R}
&=\ff{4}{3}\pi\rho GmR\EE
\end{split}
と求められます。今、球体を宇宙全体を表すと考えると、宇宙の中心をどこに置くかにより、物体に作用する重力を任意に設定できることになります。例えば、宇宙の中心を銀河系の中心とすると、地球に作用する重力は、約 $400\,\RM{kN}$ となります。
これを一般化すると冒頭に説明したゼーリガーのパラッドクスが述べる、「宇宙が一様かつ無限であれば、無限の数の星からの重力の総和も無限になり宇宙の崩壊は免れ得ない」ということになります。
パラッドクスが生じる理由は、万有引力の到達範囲が無限大であることと、重力の計算に用いる基準点を任意の位置にできるためです。これを解決する方法として、万有引力の法則を修正する方法などが提案されましたが、現在では、一般相対性理論より回避できると考えられています。