誘電体が存在すると誘電分極により、誘電体内部の電場の大きさが変化します。このような現象が起きるため、ガウスの法則を単純に適用できない問題があります。
このように誘電体も含む一般の状況に対しては、電場の代わりに次のように定義される電束密度という物理量を用いると便利です。
このように、電束密度は電場を拡張した概念であると言えます。電束密度は電磁気学において非常に重要な概念であり、次に示す重要な関係式を満たすこともポイントとなります。
上の関係式は今後説明するマクスウェル方程式の4本の式の一つとなっています。まずは、電束密度の定義について説明を行います。
電束密度とは?
誘電率について説明した際に見たように、誘電体の内部を通過する電場の大きさは誘電体の種類ごとに変化します。したがって、誘電体を含む系ではガウスの法則を適用できません。
このままでは物体ごとに電場に関する式を立て直す必要があるため、不便で仕方ありません。そこで、物体に関わらず普遍的に利用できる物理量の導出を目指します。
これについて考察するため、平行平板コンデンサーに誘電体を挿入したときの電場の変化に注目して計算を行います
今、誘電率 $\eps_1$ の誘電体を挿入した結果、電場の大きさが $E_0$ から $E_1$ に変化したとします。このとき、真空の誘電率を $\eps_0$ として以下の関係が成立します。(→誘電体とコンデンサーの理論)
\begin{split}
E_1=\ff{\eps_0}{\eps_1}E_0
\end{split}
これを整理すると、
\begin{split}
\eps_0E_0=\eps_1E_1
\end{split}
が得られます。上の等式から分かるように、誘電率と電場の積は常に一定となります。この関係式を使えば誘電体の有無に関わらず、統一的に電場の計算が行えそうです。
ゆえに、誘電率と電場の積に電束密度($\RM{electric\,flux\,density}$)という名前を付けることにします。
ところで、極板の電荷の面密度(単位面積当たりの電気量の大きさ) $\sigma_0$ と誘電体表面の面密度を $\sigma_1$ と置きます。すると、次の関係が成立し、
$$
\left\{
\begin{split}
E_0&=\ff{\sigma_0}{\eps_0}\EE
E_1&=\ff{\sigma_0-\sigma_1}{\eps_0}
\end{split}
\right.
$$
さらに、分極ベクトル $\B{P}$ を用いることで、
$$
\left\{
\begin{split}
\sigma_0&=\eps_0E_0\EE
\sigma_0&=\eps_0E_1+|\B{P}|
\end{split}
\right.
$$
とできます。($|\B{P}|=\sigma_1$ の関係にあることを用いています)以上より、
\begin{split}
\eps_0E_0&=\eps_1E_1=\eps_0E_1+|\B{P}| \EE
\therefore\,&\eps_0E_0=\eps_0E_1+|\B{P}|
\end{split}
という関係が得られます。上式は誘電体の誘電率が分からずとも使えて便利なため、これを電束密度の定義として用いることにします。
このように、電束密度は電場を拡張した概念であると言えます。
電気感受率とは?
上で説明したように電束密度は誘電体の種類に依らず一定のため、便利な物理量と言えます。ただし、真空中と誘電体中で
$$
\B{D}=
\left\{
\begin{split}
&\eps_0\B{E}_0\quad(\B{真空中})\EE
&\eps_0\B{E}_1+\B{P}\quad(\B{誘電体中})\EE
\end{split}
\right.
$$
という対応関係であることに注意してください。
話を戻して誘電体中の電場の様子に注目します。ここで、$\B{D}=\eps_1\B{E_1}$ の関係にあることに注意すると、次の等式が導けます。
\begin{split}
\B{D}&=\eps_0\B{E}_1+\B{P}=\eps_1\B{E_1}
\end{split}
これを $\B{P}$ について整理すると、
\begin{split}
\B{P}&=\eps_1\B{E_1}-\eps_0\B{E}_1
\end{split}
となり、さらに比誘電率 $\kappa=\DL{\ff{\eps_1}{\eps_0}}$ を用いると
\begin{split}
\B{P}&=(\kappa-1)\eps_0\B{E}_1
\end{split}
とできます。上式をより簡単にするため、$\kappa-1$ を $\chi_e$(カイ)と置き、電気感受率という名前を付けることにします。
電気感受率を用いると分極ベクトル $\B{P}$ を
\begin{split}
\B{P}&=\chi_e\eps_0\B{E}_1
\end{split}
とも表せます。上の式からより分極ベクトルは電場と平行であることも分かります。
電束密度とガウスの法則
ここまでで説明したように電束密度は電場を一般化した概念と言えます。ここでは、電束密度をガウスの法則の形に持ち込む方法について示します。
まず、こちらで $|\B{P}|=\sigma_1$ となることを利用します。ただし、この式は誘電体の表面が分極ベクトル(または誘電体内部の電場)と垂直である場合に限られることに注意が必要です。
そこで、誘電体の表面が分極ベクトルと直交しない場合の状況について考えます。例えば、$\B{P}$ あるいは $\B{E}_1$ に対して誘電体の表面が $\q$ 傾いている状態であるとします。
このとき、$\B{P}$ と直交する仮想的な面に含まれる面電荷は $\sigma_1$ の関係を満たします。また、仮想面の面積を $S$ とし、誘電体表面での面電荷 $\sigma’$ とします。すると、仮想面と誘電体表面に含まれる電気量が等しいことから、次の等式が立てられます。
\begin{split}
&S\sigma_1=\ff{S}{\cos\q}\sigma’\EE
\therefore\,&\sigma’=\sigma_1\cos\q=|\B{P}|\cos\q
\end{split}
ところで、誘電体表面の法線ベクトルを $\B{n}$ と置きます。そして、次の内積について計算を行うと、
\begin{split}
\B{P}\cdot \B{n}=|\B{P}|\cos\q=\sigma_1\cos\q
\end{split}
となります。それを前の式と比較すると、$\sigma’=\B{P}\cdot \B{n}$ であることが導けます。ゆえに、微小面積 $\diff S$ に含まれる誘電体の電気量 $\diff q$ を
\begin{split}
\diff q=\B{P}\cdot \B{n}\,\diff S
\end{split}
と表せることが分かります。したがって、誘電体の表面全体に現れる電気量 $Q$ を面積分により次のように求められます。
\begin{split}
Q=\int_S\diff q=\int_S\B{P}\cdot \B{n}\diff S
\end{split}
ところで、誘電体自体は最初は中性であるので、誘電体の内部には $-Q$ の電荷が残ることになります。したがって、誘電体内部の電荷は $-Q=-\DL{\int_S\B{P}\cdot \B{n}\diff S}$ とできます。ここで、$Q’=-Q$ と置き、さらにガウスの発散定理を適用すると、
\begin{split}
Q’=-\int_S\B{P}\cdot \B{n}\diff S=-\int_V\RM{div}\B{P}\diff V
\end{split}
と変換できます。今、微小体積 $\D V$ に電気量 $\D Q’$ が含まれているとすると、下の近似式が成立し、
\begin{split}
\D Q’&=-\RM{div}\B{P}\D V\EE
\ff{\D Q’}{\D V}&=-\RM{div}\B{P}
\end{split}
左辺は単位体積当たりの電気量のため電荷密度と考えることができます。したがって、誘電体中の電荷密度を $\rho_1$ として、次式が得られます。
\begin{split}
\rho_1=-\RM{div}\B{P}
\end{split}
次に、誘電体内部の電場 $\B{E}_1$ について考えます。今、真電荷の電荷密度を $\rho$ とすると、誘電体内部に含まれる電荷密度の合計は $\rho+\rho_1$ となります。ゆえに、ガウスの法則から
\begin{split}
\RM{div}\B{E}_1&=\ff{\rho+\rho_1}{\eps_0}
\end{split}
が成立し、上を整理すると、
\begin{split}
\eps_0\,\RM{div}\B{E}_1-\rho_1&=\rho\EE
\eps_0\,\RM{div}\B{E}_1+\RM{div}\B{P}&=\rho\EE
\RM{div}(\eps_0\B{E}_1+\B{P})&=\rho
\end{split}
よって、電束密度を用いて
\begin{split}
&\therefore\,\RM{div}\B{D}=\rho
\end{split}
が得られます。これは、最初に説明した電束密度に関するガウスの法則であると言えます。