今回はクーロンの法則に並んで電磁気学の最も基本な法則である、オームの法則について説明します。結論から示すと、オームの法則は次のように説明されます。
電気回路に流れる電流 $I$ と電池(直流電源)の電圧(=電位差)$V$ は以下の比例関係となる。
\begin{split}
V=RI
\end{split}
比例係数 $R$ は導体の材質・形状・温度などによって定まる定数であり、電気抵抗または抵抗と呼ぶ。電気抵抗の単位として、$[\RM{\Omega}]$(オーム)を用いる。
なお、$R$ は $e$ を電荷素量、$k$ をクーロン定数、$n$ を単位体積当たりの自由電子の個数、$l,S$ を抵抗の長さと断面積として次のように与えられる。
\begin{split}
R=\ff{kl}{e^2nS}=\rho\ff{l}{S}
\end{split}
また、$\rho$ を抵抗率と呼び、$\rho=\DL{\ff{k}{e^2n}}$ とする。
上で示すように、オームの法則は回路の電圧と流れる電流が比例定数 $R$ により結び付けられることを主張しています。オームの法則を基礎として、様々な電気回路に対する電圧と電流が求められます。
オームの法則からはさらに電流密度と電場の関係を結びつける次の関係式が得られます。
これらの関係を導くため、まずはオームの法則から説明していきます。
オームの法則とは?
以前、移動する電荷により生まれる動電気とそれを数学的に表現した電流という物理量を説明しました。しかしながら、今までに導出した電圧(=電位差)との関係など、静電気の世界との関係は明確ではありませんでした。
電圧(=電位差)と電流の関係は実験により調べる他ありません。この実験は現代では簡単に行えますが、実行可能になったのは人類史から見ればつい最近のことで、ボルタ電池のような電池の発明により初めて可能になりました。
さて、$19$ 世紀初頭、ドイツの科学者ゲオルク・オームは発明されたばかりの電池を用いて実験を行い、電圧の大きさと電流が比例関係にあることを見出しました。
この関係は電池(直流電源)の電圧を $V$、回路に流れる電流を $I$、そして比例定数 $R$ を用いて次のように表せます。
\begin{split}
V=RI
\end{split}
※ 比例係数 $R$ は導体の材質・形状・温度などによって定まり、電気抵抗($\RM{electric\,resistance}$)あるいは単に抵抗($\RM{resistance}$)と呼ばれます。
この関係はクーロンの法則と並んで電磁気学の世界でも非常に重要な位置を占めます。そのため、発見者の名を冠してオームの法則と呼ばれます。
電気抵抗の導出
電気抵抗の正体をミクロな視点から導いてみましょう。まず、抵抗が断面積 $S$、長さ $l$ の円筒状であるとします。
今、抵抗が電圧 $V$ の電池(直流電源)に繋がれているとします。すると、抵抗中に形成される電場の大きさを $E=\DL{\ff{V}{l}}$ と表せます。このとき、抵抗中の電子は負の電荷を持つために、電場と逆方向のクーロン力(静電気力)を受けて左側に向かって加速されます。
電子は電場により加速されますが、ある程度まで加速された段階で陽イオンと衝突し減速します。衝突後、再び加速されますが、先程と同様にある程度加速されると陽イオンと衝突します。このように、電子はイオンとの衝突による”抵抗”を文字通り受けるのです。この過程を繰り返した結果、十分な時間が経つと電子は一定速度に落ち着いていきます。
それでは、電子の移動速度を導出してみましょう。まず、電子が受ける力は静電気力の $eE$ があります。そして、イオンから受ける抵抗があります。抵抗力の大きさですが、これは電子の速度に比例すると考えられるため、定数を $k$ として、$kv$ と表せると考えられます。
したがって、電子の運動方程式は次のように記述できます。
\begin{split}
m\ff{\diff v}{\diff t} &=-eE-kv\EE
\end{split}
これを変形して積分を実行すると、
\begin{split}
&\DL{\ff{\diff v}{v+\ff{eE}{k}}} =-\ff{k}{m}\EE
&\therefore\,v=e^{-\ff{k}{m}}-\ff{eE}{k}
\end{split}
と $v$ が得られます。
上式より十分な時間が経過した後($t\to\infty$)では、$v=-\DL{\ff{eE}{k}}$ となると言えます。これに、$E=\DL{\ff{V}{l}}$ を適用すると、
\begin{split}
v=-\ff{eV}{kl}
\end{split}
が導けます。ところで、電流 $I$ は $e$ を電荷素量、$v$ を電子の平均速度、$n$ を単位体積当たりの自由電子の個数として、$I=evnS$ の関係にありました。電子の電気量が $-e$ であることに注意して上の結果を代入すると、
\begin{split}
I=evnS=\ff{e^2nS}{kl}V
\end{split}
となって電流と電圧の式が得られました。これをオームの法則の関係式と比較すると、
\begin{split}
R=\ff{kl}{e^2nS}=\rho \ff{l}{S}
\end{split}
が得られます。以上より抵抗 $R$ の具体的な正体が分かりました。なお、$\rho=\DL{\ff{k}{e^2n}}$ として、これに抵抗率という名前を付けることとします。抵抗率を用いると $\DL{R=\rho \ff{l}{S}}$ とも表せます。
電気伝導度とは?
ここまで説明してきたように、オームの法則は電流と電圧の関係を表します。ここから一歩進んで、オームの法則を電流密度を用いて表現ことを考えます。
今回の状況では電流が流れる方向と電流密度の方向が一致しています。したがって、電流密度の大きさ $j$ は
\begin{split}
j=\ff{I}{S}
\end{split}
と置けます。これをオームの法則に適用すると、
\begin{split}
V&=RI=\rho\ff{l}{S}\cdot (j S)\EE
\therefore\,j&=\ff{1}{\rho}\ff{V}{l}=\sigma E
\end{split}
とできます。変形の過程では、$E=\DL{\ff{V}{l}}$ であることを用いています。そして抵抗率の逆数 $\DL{\ff{1}{\rho}}$ を $\sigma$ とおいて、電気伝導度と呼ぶことにします。
この結果より電流密度と電気伝導度、電場の関係を次のように述べられます。