今回は電気回路を解く際に重宝するキルヒホッフの法則について説明します。さて、キルヒホッフの法則は次のように述べられる法則です。(※伝熱工学で登場するキルヒホッフの法則はこちらで説明しています)
キルヒホッフの法則とは?
冒頭で示したように、キルヒホッフの法則は次のように述べられる法則です。(※伝熱工学の輻射についてのキルヒホッフの法則はこちらで解説しています)
第一法則の導出
まずは、キルヒホッフの第一法則が成立する理由について見ていきます。第一法則を考える際は電気回路の接合点に注目します。例えば、ある接合点での電流の出入りの様子を描くと下図のようになります。
次に、この接合点に流入する電流 $I$ と流出する電流 $I’$ のバランスを考えます。なお、接合点で電荷は蓄えられないとします。
すると、電荷保存則から流入した電荷と同じ量の電荷が流出すると言えます。したがって、流入した電流と同じ大きさの電流が流出することが分かります。
よって、流入した電流の総和 $I_{in}$ と流出した電流の総和 $I_{out}$ は等しく $I_{in}=I_{out}$ が成立すると言えます。これを具体的な式とすると、
\begin{split}
I_{in}&=I_{out}\EE
\therefore\,\,\sum_{i=1}^n I_{i}&=\sum_{j=1}^m I_{j}’
\end{split}
となり、第一法則の式が導けました。次に、キルヒホッフの第二法則について考えます。
第二法則の導出
ところで、電気回路に電位差を生じさせるのは電池(電源)です。電池には、内部の化学作用によって電位差を消滅させずに維持しようとする性質があります。電池により電位差が維持されるため、回路には電流が流れ続けるのです。
そして、電池のように電位差を維持して、電流を流し続ける働きのことを起電力と呼びます。
さて、電池と抵抗が繋がれた回路について考えます。先程説明したように、電池は起電力により電位差(電圧)を生じさせます。そして、抵抗に電流が流れると、オームの法則に従って抵抗両端に電位差が生じます。なお、抵抗での電位は電流の方向に沿って減少していきます。このような現象を電圧降下と呼びます。
(理想的な)電池は起電力が一定に保たれているため、電池両端の電位差も一定となります。したがって、エネルギー保存則の観点から、抵抗両端での電位差も同じになると言えます。よって、今考えている電池と抵抗が繋がれた回路を一周すると、起電力と電圧降下の大きさが一致すると言えます。
この議論は一般の場合にも拡張できます。例えば、下図のように複数の抵抗と電源が繋がれた回路でも起電力の総和と電圧降下の総和は等しくなるはずです。
具体的に計算を行う際、最初にどの閉回路に注目するかを決め、次に、どの方向で閉回路をたどるかを考えます。今回は上図の実線での閉回路を考え、時計回りで閉回路をたどるとします。なお、時計回りの方向の電流をを正とします。
このように約束すると、起電力については $E_1$ の符号が正、$E_i$ の符号は負となります。ゆえに、閉回路全体での起電力の総和は $E_1-E_j$ となります。そして、電圧降下の総和については $I_1R_1+I_jR_j+I_mR_m$ とできます。以上より、
\begin{split}
E_1-E_j=I_1R_1+I_jR_j+I_mR_m
\end{split}
が成立することが言えます。この結果を一般化すると、キルヒホッフの第二法則で示した
\begin{split}
\sum_{i=1}^n E_i=\sum_{j=1}^m I_jR_j
\end{split}
が導かれます。
ブリッジ回路の解法
キルヒホッフの法則を用いて回路の例題を解いて行きます。ここでは、ブリッジ回路またはホイートストンブリッジと呼ばれる、下図のように途中で橋を渡したような形の電気回路について考えます。
今、起電力 $E$ の電池に $R_1,R_2,R_3,R_4,R_x$ の大きさの抵抗が繋がれているとします。そして、各抵抗には $I_1,I_2,I_3,I_4,I_x$ の電流が流れているとします。なお、$I_x$ の電流は $a\to b$ の方向に流れていると仮定して計算を進めます。
さて、始めに電池から $I$ の電流が流れているとします。すると、キルヒホッフの第一法則から次の関係が導けます。
$$
\left\{
\begin{split}
I&=I_1+I_2=I_3+I_4\EE
I_1&=I_3+I_x\EE
I_4&=I_2+I_x
\end{split}
\right.
$$
次に、キルヒホッフの第二法則を適用すると以下の式が得られます。
$$
\left\{
\begin{split}
&E=I_1R_1+I_3R_3\EE
&E=I_2R_2+I_4R_4\EE
&I_1R_1+I_xR_x-I_2R_2=0\EE
&I_xR_x+I_4R_4-I_3R_3=0
\end{split}
\right.
$$
この連立方程式から $I_x$ について計算すると、
\begin{split}
I_x=\ff{R_3R_2-R_1R_4}{(R_1+R_3)(R_2+R_4)}\cdot \ff{E}{R_x}
\end{split}
が得られます。
ブリッジ回路と未知の抵抗の測定方法
ブリッジ回路を用いると未知の抵抗を高精度に測定できます。その方法について説明します。
図のように、ブリッジ部分の抵抗を電流計として $R_3$ を可変抵抗(抵抗値を任意に変更可能な抵抗)に置き換えた回路とします。ここでは、$R_1,R_2$ の抵抗が既知であるとして、$R_4$ の抵抗値を測定することを目的とします。
このとき、$R_3$ の抵抗を適切に調整すると $ab$ 間の電流値が $0$ となるポイントがあります。この瞬間は電流計で確認できます。
さて、$ab$ 間の電流が $0$ となっているため、$I_x=0$ と言えます。先程の計算結果より、
\begin{split}
R_3R_2-R_1R_4=0
\end{split}
と言え、これより $\DL{R_4=\ff{R_2R_3}{R_1}}$ となることが分かります。