高校物理でもおなじみのローレンツ力について解説します。高校物理では、$q,v,B$ を電気量、電荷の速さ、磁束密度の大きさとして、ローレンツ力 $f$ が $f=qvB$ とできると学びました。
ここから一歩進んで、電磁気学ではにローレンツ力を次のように定義します。
上で示したように、ローレンツ力は外積を用いて表示されます。このように表される理由について説明していきます。
まずは、電流が磁場から受ける力であるアンペア力の復習とその数学的な表現について考えます。
アンペア力と外積
再び、アンペールの実験について振り返ってみます。
ここで、真空中で平行に張られた二つの導線に $I_1$ と $I_2$ の電流が流れているとします。このとき、$I_1$ の電流により大きさ $B_1$ の磁束密度が形成され、この磁束密度が $I_2$ に作用することでアンペア力が働きます。
アンペールは実験を行い、アンペア力の大きさ $F_{12}$ が次のように表せることを見出しました。($\mu_0$ は真空の透磁率とします)
\begin{split}
F_{12}=I_2B_1=I_2\cdot \ff{\mu_0I_1}{2\pi r}
\end{split}
このときの磁束密度とアンペア力、そして電流の向きの配置を描くと下図のようになっていて、$\B{F}_{12}$ と $\B{B}_1$、$I_2$ の方向は全て直交しています。
これらのベクトルの配置は、外積を用いると上手く定式化できます。すなわち、アンペア力 $\B{F}_{12}$ は、磁束密度 $\B{B}_1$ と電流を形式的にベクトルと考えた $\B{I}_2$ を用いて、
\begin{split}
\B{F}_{12}=\B{I}_2\times \B{B}_1
\end{split}
とできると言えます。
さて、電流の定義で示したように、電流は厳密にはスカラー量です。そのため、上の式は数学的には正確ではありません。これを解決するため、電流の方向を担う微小な線素ベクトル $\diff \B{l}$ を導入し、ベクトル量としての微小な電流の要素を定めます。
そして、このような電流の要素のことを電流素片と呼び、次のように定義されます。
電流素片を定義すると、アンペア力を数学的に正確な表現で以下のように表すことができます。
\begin{split}
\B{F}=I \diff\B{l}\times \B{B}
\end{split}
このようにして、アンペア力は外積により表すことができます。次節では一歩進んで、上式を電流密度で表す方法について考えます。
アンペア力と電流密度
上で得た結果を単位体積当たりの力に換算してみます。まず、電流素片 $I\diff \B{l}$ に作用するアンペア力 $\B{F}$ は、$\B{F}=I\diff\B{l}\times \B{B}$ とできました。
ここで、導線の長さと断面積をそれぞれ $\diff l,\diff S$ とすると、単位体積当たりのアンペア力 $\B{f}$ が次のように計算できます。
\begin{split}
\B{f}=\ff{\B{F}}{\diff l\diff S}=\left(\ff{I}{\diff S} \ff{\diff \B{l}}{\diff l}\right)\times \B{B}
\end{split}
上式の $\DL{\ff{I}{\diff S}}$ は電流密度の大きさ $|\B{j}|$ に相当し、$\DL{\ff{\diff \B{l}}{\diff l}}$ は電流が流れる方向の単位ベクトルを表します。
したがって、電流密度を $\B{j}$ として $\B{j}=\DL{\ff{I}{\diff S} \ff{\diff \B{l}}{\diff l}}$ が成立します。これより、単位体積当たりのアンペア力が以下のようにできます。
\begin{split}
\B{f}=\B{j}\times \B{B}
\end{split}
ところで電流 $I$ は、$e$ を電荷素量、$v$ を電子の平均速度、$n$ を単位体積当たりの自由電子の個数として、 $I=envS$ とできました。これより、電流密度の大きさは $|\B{j}|=env$ とできます。
このとき、$en$ は単位体積当たりの電気量であり、電荷密度に相当します。したがって、$en=\rho$ とできます。そして、$v$ は電流密度の方向と一致します。以上より速度ベクトル $\B{v}$ を用いて電流密度 $\B{j}$ は、
\begin{split}
\B{j}=\rho\B{v}
\end{split}
とできます。これらをまとめると、単位体積当たりのアンペア力を
\begin{split}
\B{f}=\rho\B{v}\times \B{B}
\end{split}
と表示できます。この結果を用いて、ローレンツ力を導いていきます。
ローレンツ力とは?
ここで、磁場に加えて、電場も作用しているときの状況について考えましょう。
まず、平均速度 $\B{v}$ で運動している電荷の集団があったとしましょう。今、この集団の電荷密度が $\rho$ であったとき、集団全体として受ける静電気力(クーロン力)を $\rho \B{E}$ と表せます。
したがって、磁場と電場が作用している空間に置かれた、電荷密度 $\rho$ の電荷の集団が受ける全ての力は、アンペア力とクーロン力の和として次のように表せます。
\begin{split}
\B{f}&=\rho \B{E}+\rho\B{v}\times \B{B}\EE
&=\rho(\B{E}+\B{v}\times \B{B})
\end{split}
そして、電場によるクーロン力と磁束密度によるアンペア力を足し合わせたものを電磁気学ではローレンツ力と呼びます。
したがって、電気量 $q$ の一個の電荷に対して作用するローレンツ力は次のように表されます。
\begin{split}
\B{f}&=q(\B{E}+\B{v}\times \B{B})
\end{split}
ローレンツ力の例題
例題を通して、ローレンツ力の具体例について見ていきます。今回は簡単のため、電場は $\B{0}$ であるとします。このとき、磁束密度 $\B{B}$ が水平方向に一様に分布しているとします。
また、$\B{B}$ と直交する方向に導線(質量 $m$、断面積 $S$、長さ $l$)が置かれているとします。この状況で、導線を静止させるために必要な電流密度の大きさとその方向を導きます。
まず、電流密度の方向についてです。導線が静止するためにはローレンツ力は鉛直上向きを向いている必要があります。そのため、電流密度は手前側に向いている必要があります。
次に電流密度の大きさを考えます。今、$\B{j}$ と $\B{B}$ は直交しているため、単位体積当たりローレンツ力の大きさ $f$ を次のように求められます。
\begin{split}
f=|\B{j}\times \B{B}|=jB\sin 90^{\circ}=jB
\end{split}
そして、重力により導線が鉛直下向きに引かれる力は $mg$ であるため、単位体積当たりに作用する下向きの力は $\DL{\ff{mg}{Sl}}$ となります。
ローレンツ力と重力は釣り合うため以下の式が成立し、電流密度の大きさが求められます。
\begin{split}
jB&=\ff{mg}{Sl}\EE
\therefore\,j&=\ff{mg}{BSl}
\end{split}