ビオとサバールはアンペールの実験をさらに精密に行い、ビオ・サバールの法則を導きました。
ビオ・サバールの法則は、電流がある位置に形成する磁場(磁束密度)を表す法則であり、次のように表されます。
今回はビオ・サバールの法則が上のように表される理由と、ビオ・サバールの法則を用いた例題について説明します。最初に、ビオ・サバールの法則が主張する内容について説明します。
ビオ・サバールの法則とは?
ビオとサバールは、電流 $I$ と磁場 $\B{B}$ の関係について精密な実験を行い、電流素片 $I\diff \B{l}$ が空間上の任意の点に作り出す微小な磁場 $\diff \B{H}$ が次の式により与えられることを示しました。
\begin{split}
\diff \B{H}=\ff{1}{4\pi}\ff{I\diff \B{l}\times (\B{r}-\B{r}’)}{|\B{r}-\B{r}’|^3}
\end{split}
これをビオ・サバールの法則と呼びます。
ビオ・サバールの法則が主張する内容について説明します。まず、$I$ の電流が任意形状の導線を流れているとします。このとき、原点から任意 $\B{r}’$ の位置に流れる電流素片 $I\diff \B{l}$ が形成する微小な磁場について考えます。
ここで、原点から $\B{r}$ の位置に電流素片により $\diff \B{H}$ の磁場が形成されるとします。
このとき、微小な磁場 $\diff\B{H}$ が向いている方向は外積、$\diff \B{l}\times \DL{\ff{(\B{r}-\B{r}’)}{|\B{r}-\B{r}’|}}$ で表される方向を向きます。そして、$\diff \B{H}$ の大きさは $\DL{\ff{|I\diff \B{l}\times (\B{r}-\B{r}’)|}{4\pi |\B{r}-\B{r}’|^2}}$ となります。このようになることは、ビオとサバールにより見出されました。
これらを整理すると冒頭のビオ・サバールの法則の形となります。
ところで、導線の断面積を $\diff S$ とすれば、電流素片 $I\diff \B{l}$ は電流密度 $\B{j}$ を用いて $|\B{j}\diff S|\diff \B{l}$ とも表せます。さらに、電流素片と電流密度は方向も一致しているので、$I\diff \B{l}=\B{j}\diff S|\diff \B{l}|$ が成立します。
さらに電流素片の微小な体積 $\diff V$ は、$\diff V=\diff S\diff l$ の関係にあるため、$I\diff\B{l}=\B{j}\diff V$ とできます。以上より、ビオ・サバールの法則を電流密度を用いて
\begin{split}
\diff \B{H}=\ff{1}{4\pi}\ff{\B{j}\times (\B{r}-\B{r}’)}{|\B{r}-\B{r}’|^3}\diff V
\end{split}
とも表現できます。
磁束密度についても同様にビオ・サバールの法則が成立します。これについては両辺に透磁率を掛ければ得られ、具体的には
\begin{split}
\diff \B{B}=\ff{\mu}{4\pi}\ff{I\diff \B{l}\times (\B{r}-\B{r}’)}{|\B{r}-\B{r}’|^3}
\end{split}
などと表せます。
ところで、ある位置での磁場(磁束密度)の大きさは、微小な磁場の重ね合わせにより決定されると考えられます。そのため、一般の位置での磁場の大きさは積分を用いて次のように計算することができます。
\begin{split}
\B{B}=\ff{\mu}{4\pi}\int_V\ff{\B{j}\times (\B{r}-\B{r}’)}{|\B{r}-\B{r}’|^3}\diff V
\end{split}
この結果を用いて具体的な形状での磁束密度の大きさを求めていきます。
直線電流が形成する磁束密度の導出
ビオ・サバールの法則を利用し、直線電流が形成する磁束密度の導出を行います。このとき、$\B{j}$ を電流密度として、原点から半径 $a$ の位置に形成される磁束密度の大きさについて考えます。
まずは、原点から鉛直方向に $x$ 離れた位置に存在する電流素片が、求めたい位置に形成する微小な磁束密度の大きさについて求めます。
さて、図のようにベクトルならびに角度を設定すると、$|\B{j}\times \B{r}|=jr\sin\q$ と表せます。したがって、$|\diff \B{B}|$ を以下のように表せます。
\begin{split}
|\diff \B{B}|&=\ff{\mu}{4\pi}\ff{|\B{j}\times \B{r}|}{r^3}\diff x\EE
&=\ff{\mu}{4\pi}\ff{jr\sin\q}{r^3}\diff x\diff S\EE
&=\ff{\mu}{4\pi}\ff{I\sin\q}{r^2}\diff x
\end{split}
よって、$|\B{B}|$ は積分を用いて以下のように計算できます。
\begin{split}
|\B{B}|&=\ff{\mu}{4\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\ff{I\sin\q}{r^2}\diff x\EE
&=\ff{\mu I}{2\pi}\int_{0}^{\infty}\ff{\sin\q}{r^2}\diff x\EE
&=\ff{\mu I}{2\pi}\int_{0}^{\infty}\ff{\sin\q}{a^2+x^2}\diff x
\end{split}
これを計算可能な形にするため、変数の置換を行います。そこで、図のように新たな角度変数 $\varphi$ を導入するとします。このとき、$\q=\DL{\ff{\pi}{2}+\varphi}$ の関係にあるため、
$$
\left\{
\begin{split}
\sin\q&=\sin\left( \ff{\pi}{2}+\varphi \right)=\cos\varphi\EE
\tan\varphi &=\ff{x}{a}\EE
\diff x &= \ff{a}{\cos^2\varphi}\diff \varphi
\end{split}
\right.
$$
と変数変換が行えます。ここで、$x$ が $0\to\infty$ と動くとき、$\varphi$ は $0\to\DL{\ff{\pi}{2}}$ の範囲を動きます。これらより上式が次のように計算でき、
\begin{split}
|\B{B}|&=\ff{\mu I}{2\pi}\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{\cos\varphi}{a^2(1+\tan^2\varphi)} \cdot\ff{a}{\cos^2\varphi}\diff\varphi \EE
&=\ff{\mu I}{2\pi a}\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\cos\varphi\diff\,\varphi \EE
\end{split}
これより、$|\B{B}|=\DL{\ff{\mu I}{2\pi a}}$ となります。この結果は、アンペールが実験により得た直線電流が形成する磁束密度の大きさと一致します。
コイルが形成する磁束密度の導出
次に、半径 $a$ の円形状コイルの中心に形成される磁束密度の大きさを求めます。このとき、図のようにコイルには電流密度 $\B{j}$ が流れており、$\diff \B{l}$ の線素ベクトルよりコイル中心に $\diff \B{B}$ の磁束密度が形成されているとします。
今、コイル中心を原点と考えます。すると、$\diff \B{B}$ はビオ・サバールの法則から次のように表せます。($|\B{r}|=a$ であることを利用しています)
\begin{split}
\diff \B{B}=\ff{\mu}{4\pi}\ff{\B{j}\times \B{r}}{|\B{r}|^3}\diff V=\ff{\mu}{4\pi}\ff{\B{j}\times \B{r}}{a^3}\diff V
\end{split}
また、$|\B{j}\times\B{r}|$ についてはベクトルが直交しているため、$|\B{j}\times\B{r}|=jr=ja$ となります。そして、$\diff V=\diff S\diff l$ の関係にあるので、上式が次のように変形でき、
\begin{split}
|\diff \B{B}|=\ff{\mu}{4\pi}\ff{ja}{a^3}\cdot\diff S\diff l
\end{split}
さらに、電流 $I$ は $I=j\,\diff S$ の関係にあるので、
\begin{split}
|\diff \B{B}|=\ff{\mu}{4\pi}\ff{I}{a^2}\diff l
\end{split}
とできます。
最後に円周に沿って積分を実行すると、求めたい磁束密度が得られます。具体的には、
\begin{split}
|\B{B}|=\ff{\mu}{4\pi}\ff{I}{a^2}\oint \diff l
\end{split}
と表せ、微小な線素を円周にそって足し合わせた周回積分の結果が、$2\pi a$ となることに注意すると、
\begin{split}
|\B{B}|&=\ff{\mu}{4\pi}\ff{I}{a^2}\cdot 2\pi a=\ff{\mu I}{2a}
\end{split}
という結果が得られます。