ローレンツ力を具体的に解いて、サイクロトロン運動とE×Bドリフト(イー・クロス・ビー・ドリフト)と呼ばれる運動の解析を行います。
サイクロトロン運動:一様で定常な磁束密度の下での、荷電粒子の運動のこと
サイクロトロン運動は加速器内の荷電粒子の運動や、極地にてオーロラが生じる理由の一つを担います。
E×Bドリフトはプラズマ中の粒子の運動を解析する際にも登場し、プラズマ物理学の最先端である核融合にも用いられます。
まずは、最も基本的なサイクロトロン運動から考え始めます。
サイクロトロン運動とは?
まず、電場 $\B{E}$ と磁束密度 $\B{B}$ の両方が存在する空間(=電磁場)にて、速度 $\B{v}$ で運動している電気量 $q$ の電荷の運動方程式について考えます。なお、荷電粒子の質量を $m$ とします。
このとき、荷電粒子が受ける力はローレンツ力と呼ばれるものであり、その力 $\B{F}$ は次のように表せます。(※太字はベクトルを表します。詳しくはこちらで解説しています)
\begin{split}
\B{F}&=q(\B{E}+\B{v}\times \B{B})
\end{split}
したがって、荷電粒子の運動方程式を次のように記述できます。
\begin{split}
m\ff{\diff \B{v}}{\diff t}&=q(\B{E}+\B{v}\times \B{B})
\end{split}
簡単のため、電場が $\B{0}$ である場合について考えましょう。すると、上の運動方程式はアンペア力のみとなるので、
\begin{split}
\ff{m}{q}\ff{\diff \B{v}}{\diff t}&=\B{v}\times \B{B}
\end{split}
とできます。そして、$\B{B}$ と $\B{v}$ が直交しているとすると、荷電粒子の運動は上図のような円運動となります。なお、一様で定常な磁束密度の下での、荷電粒子のこのような運動のことをサイクロトロン運動と呼びます。
サイクロトロン運動:一様で定常な磁束密度の下での、荷電粒子の運動のこと
ラーマー半径・サイクロトロン周期とは?
上のように言える理由は外積の性質に由来します。すなわち、アンペア力 $\B{F}$ の方向は $\B{v}$ と $\B{B}$ の外積のため、$\B{v}$ と $\B{B}$ に対して直交すると言えます。
このように、アンペア力のベクトルは荷電粒子の速度ベクトルと直交しているため、速さには影響を及ぼしません。このようになるため、荷電粒子は等速円運動すると言えます。
ただし、速度ベクトルの方向はアンペア力により時々刻々と変化するため、向心力加速度(=中心への加速度)は存在します。ここで旋回半径を $r$ とすると、向心加速度の大きさは力学の結果から、$\DL{\ff{v^2}{r}}$ と言えます。
これらの結果を用いると、以下のように整理でき、
\begin{split}
\ff{m}{q}\left|\ff{\diff \B{v}}{\diff t}\right|&=|\B{v}\times \B{B}|=vB\sin 90^{\circ}\EE
\ff{m}{q}\ff{v^2}{r}&=vB\EE
\therefore\,r&=\ff{mv}{qB}
\end{split}
サイクロトロン運動の旋回半径 $r$ が求められます。
電磁気学では、サイクロトロン運動の旋回半径のことをラーマ―半径と呼びます。
サイクロトロン運動の旋回半径のことをラーマ―半径と呼ぶ。ラーマ―半径 $r$ は、$m,v,q,B$ を荷電粒子の質量、速さ、電気量、磁束密度の大きさとして次のように表せる。
\begin{split}
r&=\ff{mv}{qB}\\
\,
\end{split}
さらに、円軌道を一周するのに要する時間のことをサイクロトロン周期と呼びます。この時間を $T$ とすると、これは
\begin{split}
T=\ff{2\pi r}{v}=\ff{2\pi m}{qB}
\end{split}
と求められます。また、サイクロトロン運動の角振動数、すなわちサイクロトロン角振動数 $\omega$ を考えることができ、次のように与えられます。
\begin{split}
\omega=\ff{2\pi}{T}=\ff{qB}{m}
\end{split}
サイクロトロンの円軌道を一周するのに要する時間のことをサイクロトロン周期と呼ぶ。
サイクロトロン周期 $T$ は次のように表される。
\begin{split}
T=\ff{2\pi m}{qB}
\end{split}
また、サイクロトロン運動の角振動数、サイクロトロン角振動数 $\omega$ は次のように表される。
\begin{split}
\omega=\ff{2\pi}{T}=\ff{qB}{m}
\end{split}
ただし、$m,v,q,B$ を荷電粒子の質量、速さ、電気量、磁束密度の大きさとする。
E×Bドリフトとは?
前節では、電場が $\B{0}$ であるとして磁束密度 $\B{B}$ のみが存在する状況について考えましたが、ここからは $\B{E}$ が存在する一般のローレンツ力を受ける状態での荷電粒子の運動を考えます。
今、電気量 $q$ の荷電粒子が原点に最初置かれており、ある時刻から電場と磁束密度が生じたとします。なお、電場は $y$ 軸の正方向、磁束密度は $z$ 軸方向上向きに作用させているとします。
このとき、荷電粒子は電場から静電気力(=クーロン力) $q\B{E}$ を受け $y$ 軸正方向に移動を始めます。
クーロン力 $q\B{E}$ によって荷電粒子が $+y$ 方向の速度 $\B{v}$ を獲得すると、磁束密度 $\B{B}$ によるアンペア力 $q\B{v}\times \B{B}$ を受けるようになります。
アンペア力の方向は、$+y$ 方向の速度 $B{v}$ と$+z$ 方向を向く磁束密度 $\B{B}$ の外積の方向と一致するので $+x$ 方向を向きます。ゆえに、初期の状態ではアンペア力は $+x$ 方向を向くと言えます。アンペア力によって、荷電粒子は$+x$ 方向にも移動することになります。
このように、荷電粒子は $+y$ 方向に真っ直ぐ移動することはできず、軌道は $+x$ 方向(進行方向右向き)にずれていきます。
このようなずれ運動はドリフト運動と呼ばれます。今回の場合、荷電粒子の全体としてのドリフト方向は $\B{E}\times\B{B}$ の方向を向いているため、$\B{E}\times\B{B}$ ドリフトと呼ばれます。
$\B{E}\times \B{B}$ 方向に荷電粒子がドリフトすること
E×Bドリフトの解析
上述のように荷電粒子は、$\B{E}\times\B{B}$ 方向にドリフトします。これを念頭に置いた上で、ローレンツ力を受ける荷電粒子の運動の解析を行います。まず、ローレンツ力を受ける荷電粒子の運動方程式は前述のように、以下となり、
\begin{split}
m\ff{\diff \B{v}}{\diff t}&=q(\B{E}+\B{v}\times \B{B})
\end{split}
これを計算するため、それぞれのベクトルを、
$$
\left\{
\begin{split}
\B{v}&=(v_x,v_y,v_z)\EE
\B{E}&=(0,E,0)\EE
\B{B}&=(0,0,B)\EE
\end{split}
\right.
$$
と置きます。このとき、$\B{E}\times\B{B}$ が下のように計算できます。
\begin{split}
\B{v}\times \B{B} &=
\begin{vmatrix}
\B{i} & \B{j} & \B{k} \EE
v_x & v_y & v_z \EE
0 & 0 & B
\end{vmatrix} \EE
&= (v_y\,B,-v_x\,B,0)
\end{split}
これより運動方程式を
\begin{split}
m\left(\ff{\diff v_x}{\diff t},\ff{\diff v_y}{\diff t},\ff{\diff v_z}{\diff t} \right)&=q(v_y\,B,E-v_x\,B,0)
\end{split}
と書き下せます。上の方程式からは $x$ 成分と $y$ 成分についての運動方程式を解けば良いと言えます。よって、以下二つの微分方程式について考えていきます。
$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\diff v_x}{\diff t}&=\ff{qB}{m}v_y=\omega\,v_y\EE
\ff{\diff v_y}{\diff t}&=\omega\left( \ff{E}{B}-v_x\right)=-\omega v_x’
\end{split}
\right.
$$
なお、$\omega=\DL{\ff{qB}{m}},$ $v_x’=\DL{v_x-\ff{E}{B}}$ と置いています。さらに、$\DL{\ff{\diff v_x}{\diff t}=\ff{\diff v_x’}{\diff t}}$ が成立することに注意して、両辺を $t$ で微分すると、
$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\diff^2 v_x’}{\diff t^2}&=\omega\ff{\diff v_y}{\diff t}=\omega^2 v_x’\EE
\ff{\diff^2 v_y}{\diff t^2}&=\omega\,\ff{\diff v_x}{\diff t}=-\omega^2 v_y
\end{split}
\right.
$$
が得られます。さて、$v_y$ は振り子の微分方程式の結果から次のようにできます。
\begin{split}
v_y&=C_1\cos \omega t+C_2\sin \omega t
\end{split}
$t=0$ にて荷電粒子は静止しているので $v_y=0$ となります。ゆえに、$C_1=0$ と言え、$v_y=C_2\sin \omega t$ となります。
さらに、$\DL{v_x’=-\ff{1}{\omega}\ff{\diff v_y}{\diff t}}$ の関係にあることを利用すると、
\begin{split}
v_x’&=-\ff{1}{\omega}\ff{\diff v_y}{\diff t}=-C_2\cos\omega t
\end{split}
これより $v_x$ は、
\begin{split}
v_x&=\ff{E}{B}-C_2\cos\omega t
\end{split}
となります。先程と同様の議論より $t=0$ にて $v_x=0$ のため、$C_2=\DL{\ff{E}{B}}$ となります。以上から $v_x,v_y$ が次のように表せます。
$$
\left\{
\begin{split}
v_x&= \ff{E}{B}-\ff{E}{B}\cos\omega t\EE
v_y&= \ff{E}{B}\sin\omega t
\end{split}
\right.
$$
E×Bドリフトの軌跡
上で得られた結果より、ある時刻での位置を求めることができます。すなわち、積分を用いて
$$
\left\{
\begin{split}
x=\int v_x\diff t&= \ff{E}{B}t-\ff{E}{B\omega}\sin\omega t+D_1\EE
y=\int v_y\diff t&= -\ff{E}{B\omega}\cos\omega t+D_2
\end{split}
\right.
$$
$t=0$ にて $x,y=0$ のため、$D_1=\DL{0},D_2=\DL{\ff{E}{B\omega}}$ となります。以上より、
$$
\left\{
\begin{split}
x= \ff{E}{B}t-\ff{E}{B\omega}\sin\omega t\EE
y= \ff{E}{B\omega}\left( 1 -\cos\omega t\right)
\end{split}
\right.
$$
が得られます。この軌跡を描くと図のようになります。