今回は、ファラデーの電磁誘導の法則をコイルに応用した場合に導かれるインダクタンスの概念について説明します。
また、トランス(変圧器)の動作原理に関わる相互インダクタンスの概念と、相互インダクタンスの相反定理についても説明します。
まずは、一個のコイルについてファラデーの電磁誘導の法則を考え、これより導かれる自己インダクタンスについて説明します。
自己インダクタンスとは?
図のように、電流 $I$ が流れている $N$ 回巻きのコイルに形成される磁束 $\Phi$ について考えましょう。
まず、一回巻きのコイルの中心に生じる磁束密度の大きさ $|\B{B}_1|$ はこちらで計算したように、
\begin{split}
|\B{B}_1|&=\ff{\mu}{2a}I
\end{split}
となりました。したがって、$N$ 回巻きコイルの中心に生じる磁束密度の大きさが以下のように計算できます。
\begin{split}
|\B{B}_N|&=\ff{\mu }{2a}NI
\end{split}
ここで、近似的にコイル内の磁束密度が一定であると考えます。すると、断面積 $S$ のコイルに形成される磁束 $\Phi$ を
\begin{split}
\Phi=|\B{B}_N|S &=\ff{\mu S}{2a}NI
\end{split}
と表せます。
ところで、直流電流の場合は電流の時間変化はありませんが、交流電流の場合は電流が時間変化します。このような場合、ファラデーの電磁誘導の法則より以下で表される誘導起電力 $V$ が生じます。
\begin{split}
V=-\ff{\diff\Phi}{\diff t}
\end{split}
なお、コイルに生じる起電力は磁束の変化を妨げるように作用するため、逆起電力とも呼ばれます。これに上で求めた磁束を適用すると、以下のようにできます。
\begin{split}
V&=-\ff{\diff}{\diff t}\left( \ff{\mu S}{2a}NI \right)\EE
&=-\ff{\mu SN}{2a}\cdot\ff{\diff I}{\diff t}\EE
&=-L\ff{\diff I}{\diff t}
\end{split}
計算過程から分かるように、右辺の磁束の時間微分に関する項の中で電流以外は時間に依らず一定のため、係数として外側に出すことができます。
ところで、この係数はコイル固有の定数となることが分かります。そこで、$L$ として一まとめにすることとします。
また、逆起電力の大きさは係数 $L$ により決まると言えます。これをオームの法則と対比させると $L$ は抵抗に相当する量と見なせます。そして、$L$ はコイル自身の諸元により決定されるため、$L$ に自己インダクタンスという名前を付けることにします。
※ インダクタンス($\RM{inductance}$)は誘導や感応といった意味を持ちます。
相互インダクタンスとは?
次に、二つのコイルを接近して置いた場合について考えてみます。
このとき、片方のコイルの磁束が変化すると、もう片方のコイルにも逆起電力が生じます。このような現象を相互誘導と呼びます。
例えば $I_1$ の電流が変化すると、$I_2$ の電流も変化します。このとき、コイル $2$ に生じる逆起電力 $V_{12}$ は次のように表せます。
\begin{split}
V_{12}=-M_{12}\ff{\diff I_2}{\diff t}
\end{split}
上の係数 $M_{12}$ は相互インダクタンスと呼ばれる定数で、コイル $1$ と $2$ の組み合わせで決まる固有の定数です。
同様に $I_2$ の電流が変化すると、相互誘導によって、コイル $1$ にも逆起電力 $V_{21}$ が生じて $I_1$ が変化します。このときの $V_{21}$ も以下のようにできます。
\begin{split}
V_{21}=-M_{21}\ff{\diff I_1}{\diff t}
\end{split}
相互誘導を工学的に応用したものに、トランス(変圧器)があります。変圧器を使うと電圧を変換できます。例えば、変電所からの高圧電流を家庭用の電圧まで降圧したり、外国製品の使用電圧に昇圧することができます。
相互インダクタンスの相反定理とその証明
相互誘導による電圧の大きさは、相互インダクタンスという定数により決まります。そして、相互インダクタンスの間には必ず $M_{12}=M_{21}$ の関係が成立します。
この関係を相互インダクタンスの相反定理と呼びます。相反定理の数学的な証明は以下のようになります。
まず、コイル $1$ を貫く磁束密度 $\B{B}$ とベクトルポテンシャル $\B{A}$ の間には、
$$
\left\{
\begin{split}
&\B{B}=\nabla\times\B{A}\EE
&\B{A}=\ff{\mu}{4\pi}\int_{V}\ff{\B{j}(\B{r}’)}{|\B{r}-\B{r}’|}\diff S\EE
&\quad\,\,=\ff{\mu}{4\pi}\int_{C_1}\ff{I_1}{|\B{r}-\B{r}’|}\diff \B{l}_1
\end{split}
\right.
$$
が成立します。次に、コイル $2$ を貫く磁束は定義より $\Phi_2=\DL{\int_S\B{B}\cdot\B{n}_2\,\diff S}$ と表せます。これに先程のベクトルポテンシャルを適用すると、
\begin{split}
\Phi_2&=\int_{S_2}(\nabla\times\B{A})\cdot\B{n}_2\,\diff S
\end{split}
さらにストークスの定理を適用すると、
\begin{split}
\Phi_2&=\int_{C_2}\B{A}\cdot\diff \B{l}_2
\end{split}
そして、最初のベクトルポテンシャルの式を適用すると、
\begin{split}
\Phi_2&=I_1\cdot \ff{\mu}{4\pi}\int_{C_2}\int_{C_1}\ff{\diff\B{l}_1\cdot \diff \B{l}_2}{|\B{r}-\B{r}’|}
\end{split}
が得られ、これより相互インダクタンスを、$M_{21}=\DL{\ff{\mu}{4\pi}\int_{C_2}\int_{C_1}\ff{\diff\B{l}_1\cdot \diff \B{l}_2}{|\B{r}-\B{r}’|}}$ と置けます。この結果はコイル $2$ の変化についても計算しても同じ結果となります。これより、$M_{12}=M_{21}$ が示されました。
トランス(変圧器)の仕組み
ここまでに導いた結果を利用して、日常生活を陰で支えるトランス(変圧器)の仕組みについて考えていきます。
トランスの構造を単純化したのが下図で、鉄心とコイルから構成されています。この鉄心に巻き数 $N_1,N_2$ のコイルが同じ鉄心に巻かれているとします。
このときの $V_1$ と $V_2$ の関係について求めてみましょう。 まず、鉄心を貫く磁束はそれぞれのコイルに生じる磁束の和となるため、$k$ を係数として、
\begin{split}
\Phi=\Phi_1+\Phi_2=k(N_1I_1+N_2I_2)
\end{split}
と表せます。ゆえに、各コイルに生じる逆起電力はファラデーの電磁誘導の法則より、
$$
\left\{
\begin{split}
&V_1=-N_1\ff{\diff \Phi}{\diff t}\EE
&V_2=-N_2\ff{\diff \Phi}{\diff t}
\end{split}
\right.
$$
と求められます。辺々を割ると以下のようになり、
\begin{split}
\ff{V_1}{V_2}=\ff{N_1}{N_2}
\end{split}
これより、電圧 $V_2$ が次のように求められます。
\begin{split}
V_2=\ff{N_2}{N_1}V_1
\end{split}
この結果から電圧の変換に必要な巻き数が求められます。例えば、電柱の上に設置されているトランスでは、$V_1=6600\,\RM{V}$ を $V_2=100\,\RM{V}$ に変換していますが、上の結果よりコイルの巻き数比を $66:1$ の関係とすれば良いことが分かります。