今回は交流回路の”抵抗”に相当する概念である、リアクタンス(誘導抵抗、感応抵抗)とインピーダンス(合成抵抗)について説明します。まず、リアクタンスは次のように説明される物理量です。
そして、インピーダンスは次のように説明される物理量です。
これらの物理量について理解するため、まずは交流回路にコイルやコンデンサーをつないだこれらの電流の時間変化について計算します。
交流回路でのコイルとコンデンサーの応答
直流電源にコイルやコンデンサーをつないだとき、これらの電気部品の働きによって電流の立ち上がりが若干遅れます。このような現象が起きる理由は、$LC$ 回路と $RL$ 回路 を考えた際に説明しています。
では、電源を交流電源とした場合にて、電気部品に流れる電流の時間変化について考えてみましょう。
例えば、ある時刻での交流電源の電圧が $V_0\cos\omega t$ と表されるとします。この場合、$R$ の抵抗に流れる電流は、オームの法則より
\begin{eqnarray}
I(t)=\ff{V_0}{R}\cos\omega t \tag{1}
\end{eqnarray}
と言えます。抵抗に流れる電流については比較的簡単に求められました。ここから一歩進んで、コイルとコンデンサーに流れる電流の時間変化を計算してみます。
コイルと交流電源
まずは、交流電源とコイルから成る回路にて、コイルに流れる電流 $I(t)$ を計算します。最初に、回路方程式について考えます。
今、$L$ をコイルの自己インダクタンスとします。すると、ファラデーの電磁誘導の法則とキルヒホッフの第二法則より回路方程式が以下のように表せます。
\begin{split}
V_0\cos\omega t-L\ff{\diff I(t)}{\diff t}=0
\end{split}
整理して、
\begin{split}
\ff{\diff I(t)}{\diff t}=\ff{V_0}{L}\cos\omega t
\end{split}
これの両辺を積分すると、
\begin{eqnarray}
I(t)=\ff{V_0}{L\omega}\sin\omega t \tag{2}
\end{eqnarray}
となります。めでたく、ある時刻にコイルに流れる電流 $I(t)$ が求められました。
コンデンサ―と交流電源
次に、交流電源とコンデンサーから成る回路にて、コンデンサーに流れる電流 $I(t)$ を計算します。
今、$C$ をコンデンサーの電気容量とします。また、コンデンサ―の極板間の電位差は $V_0\cos\omega t$ となることを考慮すると、コンデンサ―に蓄えられる電気量 $Q(t)$ が次のように与えられます。
\begin{split}
Q(t)=CV_0\cos\omega t
\end{split}
さらに、電流と電気量が $\DL{I=\ff{\diff Q}{\diff t}}$ の関係にあることを用いると、回路に流れる電流が
\begin{eqnarray}
I(t)=\ff{\diff Q(t)}{\diff t}=-C\omega\cdot V_0\sin\omega t\tag{3}
\end{eqnarray}
と求められます。以上の結果を表示すると下図のようなグラフとなります。
グラフから分かるように、コイルやコンデンサーに流れる電流の位相は、交流電源の電圧の位相と異なったものとなります。
リアクタンスとは?
交流電源につないだときの、コイルとコンデンサーに流れる電流は 式 $(2),(3)$ のように表されました。次の一手として、これらの式を次のように変形してみます。
$$
\left\{
\begin{split}
&V_0\cos\left(\omega t-\ff{\pi}{2} \right)=I(t)\cdot(L\omega) \EE
&V_0\cos\left(\omega t+\ff{\pi}{2} \right)=I(t)\cdot\left(\ff{1}{C\omega} \right)
\end{split}
\right.
$$
これより、コイルの電流変化は交流の電圧より $\DL{\ff{\pi}{2}}$ 遅れ、コンデンサ―の電流変化は交流の電圧より $\DL{\ff{\pi}{2}}$ 先行して起きることが分かります
ところで、式をオームの法則と比較すると、$L\omega$ や $\DL{\ff{1}{C\omega}}$ を”抵抗”と見なせることに気が付きます。
そこで、これらの”抵抗”のことをリアクタンスと呼ぶことにします。また、区別を付けるため、コイルのリアクタンスは誘導性リアクタンス、コンデンサ―のリアクタンスは容量性リアクタンスと呼ばれることがあります。
リアクタンスの複素表示とは?
上で見たように、コイルやコンデンサーの電流の位相は、交流電源の電圧の変化に対して、$\DL{\ff{\pi}{2}}$ 先行あるいは遅れます。このことに注意して、単位円上に各位相をプロットすると、下図のようになります。
これらの位置関係は数学的には、虚数単位 $j$ を掛けることに相当します。
具体的には、コンデンサーの位相は電圧より $\DL{\ff{\pi}{2}}$ 先行しているので、$j$ 掛けることで表せ、コイルの位相は電圧より $\DL{\ff{\pi}{2}}$ 遅れているので、$-j$ を掛けることで表せます。
このようにして、虚数を用いることでリアクタンスに位相の情報も含めることができるのです。したがって、リアクタンスを
$$
\left\{
\begin{split}
&X_L=jL\omega \EE
&X_C=-j\ff{1}{C\omega}=\ff{1}{jC\omega}
\end{split}
\right.
$$
とも表せます。このように複素数を用いて表現されるリアクタンスのことを、複素リアクタンスと呼びます。
インピーダンスとは?
最後に、抵抗とコイル、そしてコンデンサーを直列につないだ $RLC$ 回路の振る舞いについて考えてみましょう。
専門的には $RLC$ 回路は共振回路とも呼ばれます。なお、共振回路に流れる電流の時間変化 $I(t)$ はこちらで計算しており、次のようになります。
\begin{split}
I(t) &=\ff{V_0 }{\sqrt{R^2+\left(L\omega-\ff{1}{C\omega} \right)^2}}\,\cos(\omega t+\phi)
\end{split}
ただし、$\tan\phi=\DL{\ff{L\omega-\ff{1}{C\omega}}{R}}$ の関係にあります。
ところで、リアクタンスの単位は前述のように $\Omega$ であることから分かる通り、$Z=\DL{\sqrt{R^2+\left(L\omega-\ff{1}{C\omega} \right)^2}}$ も $\Omega$ の単位を持ちます。
このように、$Z$ も”抵抗”と見なせるため、これをインピーダンスと呼ぶことにします。
インピーダンスの幾何学的な関係を表すと、下図のようになります。
インピーダンスの複素表示とは?
先述のように、コイルやコンデンサーのリアクタンスは虚数を用いることで、位相も表現できます。これを念頭において、共振回路について、抵抗 $R$ とリアクタンス $jL\omega,\DL{-j\ff{1}{C\omega}}$ の和の、$\dot{Z}$ を求めると次のようになります。
\begin{split}
\dot{Z}=R+jL\omega-j\ff{1}{C\omega}=R+j\left(L\omega-\ff{1}{C\omega} \right)
\end{split}
ところで、インピーダンスは、$\dot{Z}$ とその共役複素数 $\bar{\dot{Z}}$ を用いて、以下のような関係があります。
\begin{split}
\dot{Z}\bar{\dot{Z}}&=R^2+\left(L\omega-\ff{1}{C\omega} \right)^2 \EE
&=Z^2
\end{split}
このように、$\dot{Z}$ はインピーダンスの複素表示とも考えられます。そのため、$\dot{Z}$ は複素インピーダンスと呼ばれます。