変位電流とは?|電束密度の時間変化と仮想的な電流の関係

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アンペールの法則は、定常電流と静磁場の関係を記述する法則です。この法則を時間変化する電流にも適用できるよう、一般化するとき、変位電流という考え方が必要となります。

変位電流とは?

電束密度 $\B{D}$ の時間変化を変位電流密度と呼ぶ。

変位電流密度 $\B{j}_d$ は次のように表される。

\begin{split}
\B{j}_d=\ff{\del \B{D}}{\del t}
\end{split}

また、変位電流密度を面積分したものを変位電流と呼ぶ。

変位電流 $I_d$ は、面積分を用いて次のように表される。

\begin{split}
I_d=\int_S \B{j}_d\,\diff S\\
\,
\end{split}

また、変位電流密度を用いると、定常電流が周囲に生み出す静磁場の関係を記述するアンペールの法則を一般化した、マクスウェル・アンペールの法則を導くことができます。

変位電流について説明する前に、変位電流の有用性が確認できる、マクスウェル・アンペールの法則について説明から始めます。

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マクスウェル・アンペールの法則とは?

まずは、(微分型の)アンペールの法則の復習になりますが、導線に流れる定常電流電流密度を $\B{j}$ としたとき、この導線の周りに形成される磁場 $\B{H}$ は、ローテーションを用いて次のような関係となります。

\begin{split}
\RM{rot}\B{H}=\B{j}
\end{split}

さて、物理の世界から一旦離れて、上式に数学的な操作を施してみます。すなわち、両辺の発散を取ると、

\begin{split}
\RM{div}\left(\RM{rot}\B{H}\right)&=\RM{div}\B{j}\EE
\end{split}

とします。このとき、左辺はローテーションの重要公式より $0$ と言えます。したがって、

\begin{split}
\RM{div}\left(\RM{rot}\B{H}\right)&=\RM{div}\B{j}=0
\end{split}

と言えます。

次に、電流密度が時間変化する状況を考えます。この電流密度を $\B{j^{\prime}}$ として、アンペールの法則が成立すると仮定すると、上と同様の計算を施して

\begin{split}
\RM{div}\left(\RM{rot}\B{H}\right)&=\RM{div}\B{j^{\prime}}=0
\end{split}

となります。この結果を、一般の時間変化する電流が満たす電荷保存則の式と比較すると、

\begin{split}
&\RM{div} \B{j^{\prime}}+\ff{\del \rho}{\del t}=0\EE
&\quad\therefore\,\ff{\del \rho}{\del t}=0
\end{split}

となって、電荷密度 $\rho$ が時間変化しないことを意味し、矛盾した結果となります。これより、時間変化する一般の電流に対しては、アンペールの法則が成立しなことが言えます。

ではどうすれば良いのでしょうか?

結論から言えば、アンペールの法則を次のように修正すれば、一般の電流についても成立することが、マクスウェルによって示されました。

\begin{split}
\RM{rot}\B{H}=\B{j}’+\ff{\del\B{D}}{\del t}
\end{split}

右辺に新たに付け加えられた項がポイントとなります。この式は、電束密度(≒電場)の時間変化を記述しています。

電磁気学では、アンペールの法則を修正した上の式のことを、アンペール・マクスウェルの法則と呼びます。

アンペール・マクスウェルの法則とは?

$\B{j}$ を時間変化する一般の電流密度電束密度を $\B{D}$ とする。

このとき、この電流周りに形成される磁場 $\B{H}$ は次のように表される。

\begin{split}
\RM{rot}\B{H}=\B{j}+\ff{\del\B{D}}{\del t}
\end{split}

これをアンペール・マクスウェルの法則と呼ぶ。

さて、アンペール・マクスウェルの法則を認めた場合、両辺の発散を取ると

\begin{split}
\RM{div}(\RM{rot}\B{H})&=\RM{div}\B{j}’+\RM{div}\left( \ff{\del\B{D}}{\del t}\right)\EE
&=\RM{div}\B{j}’+\ff{\del \rho}{\del t}=0
\end{split}

となって、電荷保存則を確かに満たすことが分かります。なお、式変形の途中で、電束密度のガウスの法則を適用しています。

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変位電流とは?

さて、アンペール・マクスウェルの法則で新しく加えた、$\DL{\ff{\del \B{D}}{\del t}}$ のことを変位電流密度と呼びます。

変位電流とは?

電束密度 $\B{D}$ の時間変化を変位電流密度と呼ぶ。

変位電流密度 $\B{j}_d$ は次のように表される。

\begin{split}
\B{j}_d=\ff{\del \B{D}}{\del t}
\end{split}

また、変位電流密度を面積分したものを変位電流と呼ぶ。

変位電流 $I_d$ は、面積分を用いて次のように表される。

\begin{split}
I_d=\int_S \B{j}_d\,\diff S\\
\,
\end{split}

変位電流の考え方について理解するため、例として、直流電源につながれたコンデンサ―の充電について考えます。

変位電流の模式図

ある瞬間にスイッチを入れて電流が流れ始めたとすると、電流は時間と共に増加していき、コンデンサーには電荷が蓄えられていきます。このとき、回路の周りには磁場が生じます。

このとき、コンデンサーの極板間には磁場は生じるのでしょうか?

この疑問はマクスウェルにより検証され、コンデンサ―の周囲にも磁場が生じることが結論付けられました。

実際には極板間に電流が流れていません。したがって、極板間の空間で磁場が生じている訳ではありません。(コンデンサーに磁場が生じる理由は後ほど説明します)

とは言えこのままでは不便なので、極板間に仮想的な電流が流れていると考えます。仮想的なこの電流こそが変位電流となります。

変位電流を導入すると、コンデンサ―間に生じる磁場が簡単に計算できるようになります。すなわち、変位電流密度を $\B{j}_d$ として、極板間の電束密度 $\B{D}$ との間に次の関係があると定義します。

\begin{split}
\B{j}_d=\ff{\del \B{D}}{\del t}
\end{split}

ある時刻 $t$ で、コンデンサ―に電気量 $Q$ の電荷が蓄えられているとします。

このとき、回路に流れる電流 $I$ は、$\DL{\ff{\diff Q}{\diff t}}$ と表せます。

ところで、コンデンサ―の電気容量 $C$ は、$C=\DL{\eps\ff{S}{d}}$ とでき、そして、電圧は $V=Ed$ の関係にあります。よって、電気量は

\begin{split}
Q=CV=\eps SE
\end{split}

と計算できます。ゆえに、電流は

\begin{split}
I=\eps S\ff{\del E}{\del t}
\end{split}

とも表せます。両辺を断面積で割ったものが電流密度なので、

\begin{split}
j_d=\eps \ff{\del E}{\del t}
\end{split}

という関係が導けます。さらに、電束密度 $D$ は、$D=\eps E$ の関係にあることより、

\begin{split}
j_d=\ff{\del D}{\del t}
\end{split}

となって、変位電流の関係式が得られます。

以上より、回路全体で生じる磁場を次のように表せます。

\begin{split}
\RM{rot}\B{H}=\B{j}+\B{j}_d=\B{j}+\ff{\del\B{D}}{\del t}
\end{split}

なお、コンデンサーの充電が完了すると電束密度は一定となります。したがって、変位電流は $\B{0}$ となって、コンデンサ―から生じる磁場も $\B{0}$ となります。

※ 磁場は電流(=電荷の移動)が存在して初めて生じます。したがって、電流が流れていない極板間に磁場が生じることは有りません。物理学的に正しい説明は、次のようになります。すなわち、極板間の電束密度の変化に伴って、図の緑線のような電流が生じます。この電流がコンデンサー周辺の磁場を生み出すのです。なお、磁場の大きさは、ビオ・サバールの法則から計算できますが、今回は割愛します。

コンデンサーに流れる真電流と変位電流の関係

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