今回は、マクスウェル方程式を具体的に解き、電磁波の方程式と光速の導出を行います。
結論から示すと、これらは次のように表せます。
自由空間のマクスウェル方程式の導出
さて、マクスウェル方程式の第三式と第四式からは電場から磁場が生じ、磁場から電場が生じる、……というように、次々と電場と磁場が生まれて、伝播していく様子を見て取れます。
今回は、伝播する電磁波の方程式と光速を導出するのが目的となりますが、準備として、真空でのマクスウェル方程式の形について考えてみます。
今、電荷は無くまた、電流も流れていないとします。すると、$\sigma=0,\B{i}=0$ となるので、マクスウェル方程式を
$$
\left\{
\begin{split}
&\RM{div}\B{D}=0\EE
&\RM{div}\B{B}=0\EE
&\RM{rot}\B{E}=-\ff{\del \B{B}}{\del t}\EE
&\RM{rot}\B{H}=\ff{\del \B{D}}{\del t}
\end{split}
\right.
$$
と書き直すことができます。
さて、真空中では、$\B{D}=\eps_0\B{E},\B{B}=\mu_0\B{H}$ の関係が成立します。($\eps_0$ は真空の誘電率、$\mu_0$ を真空の透磁率とします) これを念頭に入れて各方程式の変形を行うと、
$$
\left\{
\begin{split}
&\RM{div}\B{E}=0\EE
&\RM{div}\B{H}=0\EE
&\RM{rot}\B{E}=-\mu_0\ff{\del \B{H}}{\del t}\EE
&\RM{rot}\B{H}=\eps_0\ff{\del \B{E}}{\del t}
\end{split}
\right.
$$
が得られます。このように表されるマクスウェル方程式のことを、自由空間のマクスウェル方程式と呼びます。
電磁波の方程式の導出
上で得た自由空間のマクスウェル方程式より、目的の電磁波の方程式を導けます。
その準備として、まずは電場と磁場の波動方程式の導出を行います。導出の際に注目するのは、三番目と四番目の方程式です。
電場の波動方程式の導出
まずは、三番目の式についての変形を行います。このとき、両辺のローテーションを計算することがポイントとなります。具体的には、
\begin{split}
\RM{rot}(\RM{rot}\B{E})&=-\mu_0\,\RM{rot}\left(\ff{\del \B{H}}{\del t}\right)
\end{split}
として、ベクトル三重積を考慮すると左辺を次のように計算できます。
\begin{split}
\RM{rot}(\RM{rot}\B{E})&=\nabla\times(\nabla\times\B{E})\EE
&=\nabla(\nabla\cdot \B{E})-(\nabla\cdot\nabla)\B{E}\EE
&=\RM{grad}(\RM{div}\B{E})-\nabla^2\B{E}
\end{split}
今、$\RM{div}\B{E}=0$ のため、第一項も $0$ となります。よって、$\RM{rot}(\RM{rot}\B{E})=-\nabla^2\B{E}$ と言えます。
右辺の $\DL{-\mu_0\,\RM{rot}\left(\ff{\del \B{H}}{\del t}\right)}$ については、次のように変形できて、
\begin{split}
-\mu_0\,\RM{rot}\left(\ff{\del \B{H}}{\del t}\right)=-\mu_0\,\ff{\del}{\del t}(\RM{rot}\B{H})
\end{split}
自由空間のマクスウェル方程式より、$\DL{\RM{rot}\B{H}=\eps_0\ff{\del \B{E}}{\del t}}$ と言えるので、
\begin{split}
-\mu_0\,\RM{rot}\left(\ff{\del \B{H}}{\del t}\right)=-\mu_0\eps_0\ff{\del^2 \B{E}}{\del t^2}
\end{split}
とできます。以上の結果より、
\begin{split}
\nabla^2\B{E}=\mu_0\eps_0\ff{\del^2 \B{E}}{\del t^2}
\end{split}
が得られます。この方程式は電場の波動方程式と呼ばれます。
磁場の波動方程式の導出
四番目の式についても、両辺のローテーションを計算すると次のようになります。
\begin{split}
\RM{rot}(\RM{rot}\B{H})&=-\eps_0\,\RM{rot}\left(\ff{\del \B{E}}{\del t}\right)
\end{split}
左辺について先程と同様の計算を行うと、
\begin{split}
\RM{rot}(\RM{rot}\B{H})&=\RM{grad}(\RM{div}\B{H})-\nabla^2\B{H}
\end{split}
となって、今、$\RM{div}\B{H}=0$ のため、$\RM{rot}(\RM{rot}\B{H})=-\nabla^2\B{H}$ と言えます。
また、右辺についても同様の計算を行うと、$\DL{-\mu_0\eps_0\,\RM{rot}\left(\ff{\del \B{H}}{\del t}\right)=}$ が導け、以上より
\begin{split}
\nabla^2\B{H}=\mu_0\eps_0\ff{\del^2 \B{H}}{\del t^2}
\end{split}
が得られます。この方程式は磁場の波動方程式と呼ばれます。これら二つの方程式のことは電磁波の振る舞いを記述する方程式と言えます。
電磁波の方程式の変形
上で得られた電場と磁場の波動方程式を解いて行きます。今回は問題を簡単にするため電場と磁場が $x$ と $t$ の二変数関数となることを仮定します。
したがって、
$$
\left\{
\begin{split}
&\B{E}=\big(E_x(x,t),E_y(x,t),E_z(x,t)\big) \EE
&\B{H}=\big(H_x(x,t),H_y(x,t),H_z(x,t)\big)
\end{split}
\right.
$$
と表せます。これを自由空間のマクスウェル方程式に適用します。まず、この仮定を第一と第二式に適用すると、次のように計算できます。
\begin{split}
0&=\RM{div}\B{E}=\ff{\del E_x}{\del x}+\ff{\del E_y}{\del x}+\ff{\del E_z}{\del z}\EE
&=\ff{\del E_x}{\del x}+0+0\EE
&\therefore\,\ff{\del E_x}{\del x}=0
\end{split}
\begin{split}
0&=\RM{div}\B{H}=\ff{\del H_x}{\del x}+\ff{\del H_y}{\del x}+\ff{\del H_z}{\del z}\EE
&=\ff{\del H_x}{\del x}+0+0\EE
&\therefore\,\ff{\del H_x}{\del x}=0
\end{split}
第三と第四式にも上の結果を適用すると、
\begin{split}
&\left(0,-\ff{\del E_z}{\del x},\ff{\del E_y}{\del x} \right)=-\mu_0\left(\ff{\del H_x}{\del t},\ff{\del H_y}{\del t},\ff{\del H_z}{\del t} \right)\EE
&\left(0,-\ff{\del H_z}{\del x},\ff{\del H_y}{\del x} \right)=\eps_0\left(\ff{\del E_x}{\del t},\ff{\del E_y}{\del t},\ff{\del E_z}{\del t} \right)\EE
\end{split}
が得られます。
光速の導出
上で説明したように、$\DL{\ff{\del E_x}{\del x}=0,\ff{\del H_x}{\del x}=0}$ となります。これより、$E_x,H_x$ は定数となることが言えます。また、定数を $0$ としても一般性を失わないため、$E_x=0,H_x=0$ とします。
したがって、$\B{E}=\big(0,E_y(x,t),E_z(x,t)\big),\B{B}=\big(0,H_y(x,t),H_z(x,t)\big)$ と整理できます。
このとき、ポイントとなるのは、座標軸を適切に回転させてやると $E_y$ または $E_z$ の片方の成分を $0$ とできることです。今回は、$E_z=0$ となるように座標軸を回転させて、$\B{E}=(0,E_y,0)$ としたとします。
このように、$E_z=0$ であることを利用すると、$\DL{\ff{\del H_z}{\del x}=0,\ff{\del H_z}{\del t}=0}$ となります。ゆえに、$H_y=0$ と言えます。以上の結果をまとめると、
\begin{split}
&\B{E}=\big(0,E_y,0\big)\EE
&\B{H}=\big(0,0,H_z\big)\EE
\end{split}
となることが言えます。
この結果からは、$E$ は $y$ 軸方向に振動し、$H$ は $z$ 方向に振動していると言えるので、電場と磁場は直交していることが分かります。
これらを電場と磁場の波動方程式に適用すると、次の二つの波動方程式が得られます。
$$
\left\{
\begin{split}
\ff{\del^2 E_y}{\del x^2}&=\mu_0\eps_0\ff{\del^2 E_y}{\del t^2}\EE
\ff{\del^2 H_z}{\del x^2}&=\mu_0\eps_0\ff{\del^2 H_z}{\del t^2}
\end{split}
\right.
$$
これより、電磁波の伝播速度=光速 $c$ を、$c=\DL{\ff{1}{\sqrt{\mu_0\eps_0}}}$ であると言えます。
電磁波の一般解の導出
こちらで計算した結果を用いると、電磁波の波動方程式の解を求められ、例えば電場 $E$ についての一般解は、
\begin{split}
E_y(x, t) &= \sum_{n=1}^{\infty} A_n \sin \ff{\omega x}{c}x \cdot\cos\omega t\EE
&\qquad -\sum_{n=1}^{\infty} B_n \cos \ff{\omega x}{c}x \cdot\sin\omega t
\end{split}
と表せます。なお、$c$ を光速、$\omega$ を電磁波の各振動数とします。
ここでは、簡単のため、$n=1,A_n=B_n=E_0$ とします。すると、
\begin{split}
E_y(x, t) &= E_0\sin \ff{\omega x}{c} \cdot\cos\omega t+\cos \ff{\omega x}{c} \cdot\sin\omega t\EE
&=E_0\sin\omega\left(\ff{x}{c}-t \right)
\end{split}
磁場 $H$ の解については、$\DL{\ff{\del H_z}{\del x}=-\eps_0\ff{\del E_y}{\del t},\ff{\del H_z}{\del t}=-\ff{1}{\mu_0}\ff{\del E_y}{\del x}}$ を適用すると、
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del H_z}{\del x}=\eps_0\omega E_0\cos\omega\left(\ff{x}{c}-t \right)\EE
&\ff{\del H_z}{\del t}=-\ff{\omega}{\mu_0c} E_0\cos\omega\left(\ff{x}{c}-t \right)
\end{split}
\right.
$$
とできて、上の二式を $x,t$ で積分すると、
\begin{split}
H_z&=\eps_0c E_0\sin\omega\left(\ff{x}{c}-t \right)+C_x\EE
&=\sqrt{\ff{\eps_0}{\mu_0}}\sin\omega\left(\ff{x}{c}-t \right)
\end{split}
と求められます。これより、$H=\DL{\sqrt{\ff{\eps_0}{\mu_0}}E}$ の関係にあることが分かります。
この様子を描くと上図のようになります。