電磁波はその名前から分かるように、電場と磁場から構成されるエネルギーの流れと考えることができます。
これを考える際、次のように定義されるポインティング・ベクトルを導入すると便利です。
ポインティング・ベクトルについて説明する準備として、電磁波の持つエネルギーについて考えてみます。
電磁波のエネルギー密度とは?
まずは、電磁波の持つエネルギーについて考えてみましょう。
まず、電場と磁場について、それぞれの大きさが $E,H$ とすると、それらの空間には単位体積当たり、
$$
\left\{
\begin{split}
u_E&=\ff{1}{2}\eps_0E^2\EE
u_H&=\ff{1}{2}\mu_0H^2
\end{split}
\right.
$$
のエネルギーが蓄えられることになります。($\eps_0$ は真空の誘電率、$\mu_0$ は真空の透磁率)
電磁波が存在する空間には、電場と磁場が共に存在していることを考慮すると、電磁波の持つ単位体積当たりのエネルギー $u$ が次のように計算できることが分かります。
\begin{split}
u=u_E+u_H=\ff{1}{2}\Big(\eps_0E^2+\mu_0H^2\Big)\EE
\end{split}
$H$ については、こちらで計算したように $H=\DL{\sqrt{\ff{\eps_0}{\mu_0}}E}$ の関係にあるので、$u$ は
\begin{split}
u&=\ff{1}{2}\Big(\eps_0E^2+\mu_0\cdot \ff{\eps_0}{\mu_0}E^2\Big)\EE
&=\eps_0 E^2
\end{split}
と整理できます。
ポインティング・ベクトルとは?
ところで、電磁波は光速 $c$ で伝播し、その大きさは次のように表せました。
\begin{split}
c=\ff{1}{\sqrt{\eps_0\mu_0}}
\end{split}
そのため、電磁波がある面に対して垂直に伝播したとき、この面を単位時間当たり $cu$ の電磁波のエネルギーが通過すると言えます。
具体的に計算すると、
\begin{split}
cu&=\ff{1}{\sqrt{\eps_0\mu_0}}\cdot\eps_0 E^2\EE
&=E\cdot \sqrt{\ff{\eps_0}{\mu_0}}E\EE
&=EH
\end{split}
と変形できます。
ここで、電磁波を構成する電場と磁場が $\B{E}\perp\B{H}$ の関係にあることを思い出すと、外積の計算について、
\begin{split}
|\B{E}\times\B{H}|=EH\sin\ff{\pi}{2}=EH
\end{split}
という式を導けます。
以上のことから、電場と磁場の外積として定義されるベクトル $\B{S}$ の導入を考えてみましょう。
\begin{split}
\B{S}=\B{E}\times\B{H}
\end{split}
このとき、$\B{S}$ の向きは電磁波の伝播方向と一致し、その大きさは、単位時間に単位面積を通過する電磁波のエネルギーと一致します。
したがって、$\B{S}$ は、電磁波のエネルギーの流れを表現するベクトルと言えます。
このように、$\B{S}$ は電磁波の伝播方向とそのエネルギー量を表す際、便利です。そのため、提案者の名を冠して、$\B{S}$ はポインティング・ベクトルと呼ばれます。
※ ポインティング・ベクトルに似たものとして、電流密度などがあります。