三角波のフーリエ級数展開に引き続き、今回はのこぎり波のフーリエ級数展開の導出過程について説明します。さて、結論を先に示すと、のこぎり波のフーリエ級数展開表示は以下のようになります。
周期 $2\pi$ ののこぎり波 $f(x)=x$ のフーリエ級数展開表示は以下のように表せる。
\begin{split}
f(x) &=2\sum_{k=1}^{\infty}\ff{(-1)^{k-1}}{k}\sin kx
\end{split}
これの導出過程を説明する前に、のこぎり波について説明を行います。
のこぎり波とは?
のこぎり波とは、その名の通りのこぎりの刃のような形をした波のことを言います。
のこぎり波の例として、下図のような周期が $2a$ のものを示します。
さて、上ののこぎり波を $f(x)$ とすると以下のような式で表せます。
\begin{split}
f(x)=x\quad (-a\leq x< a)
\end{split}
今回は、周期関数である三角波をフーリエ級数展開により表現することを考えます。
のこぎり波のフーリエ級数展開の導出
ここでは、周期が $2\pi$ ののこぎり波のフーリエ級数展開表示を求めることを考えます。
目指す形は下のような級数展開表示です。
\begin{eqnarray}
f(x) &=& \ff{a_0}{2} + \sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cos kx + b_k\sin kx \right)
\end{eqnarray}
このとき、$a_k, b_k$ はフーリエ係数と呼ばれ、今回の場合は次の様に表現されます。
$$
\left\{
\begin{eqnarray}
a_0 &=& \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x) \diff x \EE
a_k &=& \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\cos kx \diff x \EE
b_k &=& \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\sin kx \diff x
\end{eqnarray}
\right.
$$
さて、今回の三角波 $f(x)$ は前述のように、
\begin{split}
f(x)=x\quad (-a\leq x< a)
\end{split}
と表せました。したがって、$a_0,a_k,b_k$ 等の各フーリエ係数はこのように求められます。
\begin{split}
a_0 &= \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x) \diff x \EE
\pi a_0&=\int_{-\pi}^{\pi} x\diff x=0 \EE
\therefore\, a_0&=0
\end{split}
次に $a_k$ は、
\begin{split}
a_k &= \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\cos kx \diff x \EE
\pi a_k&=\int_{-\pi}^{\pi} x\cos kx \diff x \EE
\end{split}
今、$f(x)=x$ は奇関数、$\cos kx$ は偶関数のため $x\cos kx$ は奇関数となります。 そのため、上の積分計算の結果は $0$ となります。ゆえに、
\begin{split}
a_k &= 0
\end{split}
となります。
最後に $b_k$ は、
\begin{split}
b_k &= \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\sin kx \diff x \EE
\pi b_k&=2\int_{0}^{\pi} x\sin kx \diff x \EE
&=2\left[ -\ff{1}{k}x\cos kx \right]_{0}^{\pi}+\ff{2}{k}\int_{0}^{\pi}\cos kx\diff x \EE
&=\ff{2\pi}{k}(-1)^{k-1}+\ff{2}{k}\left[ \ff{1}{k}\sin kx \right]_0^{\pi} \EE
\therefore\,b_k&=\ff{2}{k}(-1)^{k-1}
\end{split}
このようにフーリエ係数が求められたので、のこぎり波のフーリエ級数展開が以下のように表せます。
\begin{split}
f(x) &= 2\sum_{k=1}^{\infty}\ff{(-1)^{k-1}}{k}\sin kx
\end{split}
冒頭に示したのこぎり波のフーリエ級数展開が導けました。
ライプニッツの公式の導出
ところで、$x=\DL{\ff{\pi}{2}}$ を適用してみると、
\begin{split}
\ff{\pi}{2} &= 2\left(1-\ff{1}{3}+\ff{1}{5}-\ff{1}{7}+\cdots \right) \EE
\therefore\, \ff{\pi}{4} &= 1-\ff{1}{3}+\ff{1}{5}-\ff{1}{7}+\cdots
\end{split}
が得られます。
この関係はライプニッツの公式と呼ばれるもので、奇数の逆数の和が円周率と結びつくという不思議な関係が導けます。
のこぎり波のフーリエ級数展開の近似精度の確認
上で導いたのこぎり波のフーリエ級数展開について、実際に描画して見ると以下のようになります。
上図より、$k$ の増加に伴ってのこぎり波にどんどん近づいていくことが分かります。