今回は、ステップ関数(ヘヴィサイドの単位階段関数)とディラックのデルタ関数のラプラス変換を導きます。
今回はこれらの結果の導出過程について説明します。始めに、ステップ関数(ヘヴィサイドの単位階段関数)についての説明を行います。
ステップ関数とは?
ステップ関数とは、正負の引数に対して $0$ か $1$ の返り値を返すような関数のことを言います。これをグラフにすると、図のような階段状になることからステップ関数または階段関数と呼ばれます。
$$
u(t)=
\left\{
\begin{split}
& 0\quad(t<0) \EE
& 1\quad(0<t)
\end{split}
\right.
$$
特に、$t>0$ にて $u(t)=1$ となるステップ関数のことをヘヴィサイドの単位階段関数あるいは単位階段関数と呼びます。
ステップ関数のラプラス変換の導出
それでは、ステップ関数のラプラス変換を導出していきます。
ラプラス変換の定義より、ステップ関数のラプラス変換 $\L[u(t)]$ は次のように計算できます。
\begin{split}
\L[u(t)]&=\int_0^{\infty}u(t)e^{-st}\diff t \EE
&=\int_0^{\infty}1\cdot e^{-st}\diff t \EE
&= \left[ -\ff{1}{s}e^{-st} \right]_0^{\infty} \EE
&= \ff{1}{s}
\end{split}
以上より、$\L[u(t)]=\DL{\ff{1}{s}}$ となることが分かります。
平行移動したステップ関数のラプラス変換
次に、ステップ関数を $a$ だけ平行移動させたステップ関数のラプラス変換について考えてみます。
これについても、ラプラス変換の定義に従って計算すると、
\begin{split}
\L[u(t-a)]&=\int_0^{\infty}u(t-a)e^{-st}\diff t \EE
&=\int_a^{\infty}1\cdot e^{-st}\diff t \EE
&= \left[ -\ff{1}{s}e^{-st} \right]_a^{\infty} \EE
&= \ff{e^{-as}}{s}
\end{split}
となります。なお、第二移動法則を用いても同じ結果を導くことができます。すなわち、$f(t)=1$ として、$\L[f(t)]=\DL{\ff{1}{s}}$ なので、
\begin{split}
\L[u(t-a)f(t-a)]&=e^{-a s}F(s)=\ff{e^{-as}}{s}
\end{split}
となります。次に、デルタ関数の定義とそのラプラス変換について考えていきます。
デルタ関数とは?
デルタ関数とは、次の様に定義される関数のことです。デルタ関数は超関数に分類され、三角関数のような通常の関数とは異なる関数であることに注意して下さい。
デルタ関数の性質から、積分区間に $0$ が含まれていれば積分の結果は $1$ になると言えます。ゆえに、積分区間の取り方によって計算結果が次のようになると言えます。
$$
\int_{-\infty}^{t}\delta(t)\diff t=u(t)=
\left\{
\begin{split}
0 \qquad(t<0)\EE
1 \qquad(0<t)
\end{split}
\right.
$$
この結果は、先程説明した単位ステップ関数の振る舞いと同じため、$\DL{\int_{-\infty}^{t}\delta(t)\diff t=u(t)}$ という関係にあることが言えます。
デルタ関数の性質
デルタ関数のより詳細な性質を見ていくため、デルタ関数を $a$ だけ平行移動させた関数について考えます。これは、次の様に表現できます。
$$
\delta(t)=
\left\{
\begin{split}
&+\infty\quad (t=a) \EE
&0\quad (t\neq a)
\end{split}
\right.
$$
そしてその積分は、
\begin{split}
\int_{-\infty}^{\infty}\delta(t-a)\diff t=1
\end{split}
となりますが、上と同様の議論からステップ関数と以下のような関係があることが言えます。
$$
\int_{-\infty}^{t}\delta(t-a)\diff t=u(t-a)=
\left\{
\begin{split}
0 \qquad(t<a)\EE
1 \qquad(a<t)
\end{split}
\right.
$$
これの両辺を微分すると、次の関係が導けます。
\begin{split}
\ff{\diff}{\diff t}u(t-a)=\delta(t-a)
\end{split}
さて、このデルタ関数はその定義から $\DL{\int_{-\infty}^{\infty}\delta(t-a)\diff t=1}$ の関係にあるので、ある関数 $f(a)$ について
\begin{split}
f(a)&=f(a)\cdot 1 \EE
&=f(a)\int_{-\infty}^{\infty}\delta(t-a)\diff t \EE
&= \int_{-\infty}^{\infty}f(a)\delta(t-a)\diff t
\end{split}
の関係にあると言えます。
デルタ関数のラプラス変換の導出
それでは、デルタ関数のラプラス変換を導出していきます。
これは、ラプラス変換の定義より次の様に計算できます。なお、$a$ だけ平行移動させた $\delta(t-a)$ のラプラス変換について計算していきます。
\begin{split}
\L[\delta(t-a)]&=\int_0^{\infty}\delta(t-a)e^{-st}\diff t \EE
\end{split}
前節で導いたデルタ関数の性質より、右辺の積分が以下のように変形できます。(※ $f(a)=e^{-as}$ とすることに相当します)
\begin{split}
\int_0^{\infty}\delta(t-a)e^{-st}\diff t&=\int_{-\infty}^{\infty}\delta(t-a)e^{-st}\diff t \EE
&=e^{-as}
\end{split}
これより、$\DL{\L[\delta(t-a)]=e^{-as}}$ であることが導けました。なお、$a=0$ とすると $\L[\delta(t)]=1$ であることも言えます。この結果は、冒頭で示したデルタ関数のラプラス変換の結果と一致します。