今回はエラー関数と呼ばれる特殊関数のラプラス変換について説明します。
結論を先に示すと、この関数のラプラス変換は次の様に表せます。
これを導出するにあたり、まずはエラー関数のマクローリン展開を考えることにします。
エラー関数のマクローリン展開
エラー関数は統計学で主に登場し、正規分布から導かれる関数です。とは言え、半無限個体の熱伝導方程式を解いた際に現れるように、物理学でも頻度は少ないですが登場する関数となります。
今回のエラー関数のラプラス変換を考えるに当たり、まずはエラー関数のマクローリン展開を考えます。
さて、エラー関数 $\RM{erf}(t)$ は次の様に積分の形で定義される関数でした。
\begin{split}
\RM{erf}(t)=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\int_0^t e^{-u^2}\diff u
\end{split}
これの被積分関数である $e^{-u^2}$ のマクローリン展開についてはこちらの結果を参考にすると、
\begin{split}
e^{-u^2}&=1-u^2+\ff{u^4}{2}-\ff{u^6}{6}+\cdots+\ff{(-u^2)^n}{n!}+\cdots \EE
&=1+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(-1)^n\,u^{2n}}{n!}
\end{split}
とできて、これよりエラー関数を以下のように級数展開できます。
\begin{split}
\RM{erf}(t)&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\int_0^t \left(1+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(-1)^n\,u^{2n}}{n!} \right)\diff u \EE
&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\left[u+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(-1)^n\,u^{2n+1}}{(2n+1)n!} \right]_{0}^t \EE
&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\left(t-\ff{1}{3}t^3+\ff{1}{5}\ff{t^5}{2!}-\cdots+\ff{(-1)^n}{2n+1}\ff{t^{2n+1}}{n!}+\cdots \right)
\end{split}
この結果を利用することで、エラー関数のラプラス変換が導けます。
具体的な計算は、次節にて行っていきます。
エラー関数のラプラス変換の導出
それでは、前述の結果を利用し、エラー関数のラプラス変換を導出します。なお、導出の都合上、誤差関数の積分区間の上端を $\sqrt{t}$ とした、
\begin{split}
\RM{erf}(\sqrt{t})&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\int_0^{\sqrt{t}} e^{-u^2}\diff u \EE
&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\left(t^{\ff{1}{2}}-\ff{1}{3}t^{\ff{3}{2}}+\ff{1}{5}\ff{t^{\ff{5}{2}}}{2!}-\cdots+\ff{(-1)^n}{2n+1}\ff{t^{{\ff{2n+1}{2}}}}{n!}+\cdots \right)
\end{split}
をラプラス変換の対象とします。さて、上式についてラプラス変換の線形法則を用いると、
\begin{split}
\L[\RM{erf}(\sqrt{t})]&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\left(\L[t^{\ff{1}{2}}]-\ff{1}{3}\L[t^{\ff{3}{2}}]+\ff{1}{5\cdot2!}\L[t^{\ff{5}{2}}]-\cdots+\ff{1}{(2n+1)\cdot n!}\L[t^{{\ff{2n+1}{2}}}]+\cdots \right) \EE
&=\ff{2}{\sqrt{\pi}}\left( \L[t^{\ff{1}{2}}]+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(-1)^n}{(2n+1)n!}\L[t^{\ff{2n+1}{2}}] \right)
\end{split}
と分解でき、さらに累乗のラプラス変換の結果を適用すると、
\begin{split}
\L[\RM{erf}(\sqrt{t})]
=&\ff{2}{\sqrt{\pi}} \left( \ff{\Gamma\left( \ff{3}{2} \right)}{s^{\ff{3}{2}}}+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(-1)^n}{(2n+1)n!}\ff{\Gamma\left( \ff{2n+1}{2}+1 \right)}{s^{\ff{2n+3}{2}}} \right) \EE
=&\ff{2}{\sqrt{\pi}}\ff{1}{s^{\ff{3}{2}}}\left(\Gamma\left( \ff{3}{2}\right)+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(-1)^n}{(2n+1)n!}\ff{\Gamma\left( \ff{2n+1}{2}+1 \right)}{s^{n}} \right)
\end{split}
と計算できます。今、ガンマ関数の性質より、
$$
\left\{
\begin{split}
&\Gamma\left( \ff{3}{2}\right)=\ff{1}{2}\Gamma\left( \ff{1}{2} \right)=\ff{\sqrt{\pi}}{2} \EE
&\Gamma\left( \ff{2n+1}{2}+1\right)=\Gamma\left( \ff{1}{2} \right)\prod_{m=1}^n \left(\ff{2n+1}{2}+1-m \right)
\end{split}
\right.
$$
が言えるため、先程の式は次の様に書き下せます。
\begin{split}
\L[\RM{erf}(\sqrt{t})]=&\ff{2}{\sqrt{\pi}}\ff{1}{s^{\ff{3}{2}}}\left( \ff{\sqrt{\pi}}{2}-\ff{1}{3}\ff{\ff{3}{2}\ff{1}{2}\sqrt{\pi}}{s}+\ff{1}{5}\ff{\ff{5}{2}\ff{3}{2}\ff{1}{2}\sqrt{\pi}}{2!s^2} \right. \EE
&\left.\qquad-\ff{1}{7}\ff{\ff{7}{2}\ff{5}{2}\ff{3}{2}\ff{1}{2}\sqrt{\pi}}{3!s^3}+\ff{1}{9}\ff{\ff{9}{2}\ff{7}{2}\ff{5}{2}\ff{3}{2}\ff{1}{2}\sqrt{\pi}}{4!s^5}-\cdots \right) \EE
=& \ff{1}{s^{\ff{3}{2}}}\left(1-\ff{1}{2}\ff{1}{s}+\ff{1\cdot3}{2\cdot 4}\ff{1}{s^2}-\ff{1\cdot3\cdot 5}{2\cdot 4\cdot 6}\ff{1}{s^3}+\ff{1\cdot3\cdot 5\cdot 7}{2\cdot 4\cdot 6\cdot 8}\ff{1}{s^4}-\cdots \right)
\end{split}
このような変形を行ったのは、ある関数の級数展開との比較を行うためです。
実は、上式の括弧の中身は $\DL{f(x)=\ff{1}{\sqrt{1+x}}}$ の関数の級数展開となっているのです。実際、マクローリン展開を実行すると
\begin{split}
f(x)&=f(0)+f'(0)x+\ff{1}{2!}f^{”}(0)x^2+\ff{1}{3!}f^{”\prime}(0)x^3+\cdots \EE
&=1-\ff{1}{2}x+\ff{1\cdot 3}{2\cdot 4}x^2-\ff{1\cdot 3\cdot 5}{2\cdot 4\cdot 6}x^3+\cdots
\end{split}
となって、今 $x=\DL{\ff{1}{s}}$ とすると括弧の中身、
\begin{split}
\ff{1}{\sqrt{1+\ff{1}{s}} }=1-\ff{1}{2}\ff{1}{s}+\ff{1\cdot 3}{2\cdot 4}\ff{1}{s^2}-\ff{1\cdot 3\cdot 5}{2\cdot 4\cdot 6}\ff{1}{s^3}+\cdots
\end{split}
が得られます。以上のことより、
\begin{split}
\L[\RM{erf}(\sqrt{t})]
=& \ff{1}{s^{\ff{3}{2}}}\ff{1}{\sqrt{1+\ff{1}{s}} }=\ff{1}{s\sqrt{s+1}}
\end{split}
が導けます。
より一般の状況を考えましょう。すなわち、$a$ を実数として $\RM{erf}(\sqrt{at})$ のラプラス変換を求める際には、ラプラス変換の相似法則を用いることで次の様に求められます。
\begin{split}
\L[\RM{erf}(\sqrt{at})]&=\ff{1}{a}F\left( \ff{s}{a} \right) \EE
&=\ff{1}{a}\ff{1}{\ff{s}{a}\sqrt{\ff{s}{a}+1}} \EE
&= \ff{\sqrt{a}}{s\sqrt{s+a}}
\end{split}
これらより、冒頭に示したエラー関数のラプラス変換が得られました。