今回から、線形代数の考え方を他の分野に応用していくことを考えていきます。その第一歩として、連立一次方程式の解を与えるクラーメルの公式について説明します。
クラーメルの公式を説明するために、まずは連立一次方程式と行列の関係についての考察を行います。
連立一次方程式と行列の関係
$n$ 個の未知数 $x_1,x_2,\cdots,x_n$ を含む、$n$ 個の方程式から成る連立一次方程式について考えます。この連立方程式はこのように表せました。ただし、係数を $a_{ij}$、定数を $b_i$ とします。
$$
\left\{
\begin{split}
&a_{11}x_1+a_{12}x_2+\cdots+a_{1n}x_n=b_1 \EE
&a_{21}x_1+a_{22}x_2+\cdots+a_{2n}x_n=b_2 \EE
& \vdots \EE
&a_{n1}x_1+a_{n2}x_2+\cdots+a_{nn}x_n=b_n \EE
\end{split}
\right.
$$
ここで、係数だけを集めた行列を $A$、未知数だけを集めた列ベクトルを $\B{x}$、定数だけを集めた列ベクトルを $\B{b}$ として、以下のように表します。
$$
A=
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \\
\end{pmatrix},\,\,\,
\B{x}=
\begin{pmatrix}
x_{1} \\
x_{2} \\
\vdots \\
x_{n} \\
\end{pmatrix},\,\,\,
\B{b}=
\begin{pmatrix}
b_{1} \\
b_{2} \\
\vdots \\
b_{n} \\
\end{pmatrix}
$$
このようにすると、最初の連立一次方程式は行列の積として表現できて、
$$
A\B{x}=\B{b}
$$
とできます。今、$|A|\neq 0$ として、仮に $A^{-1}$ が分かっていたなら、
\begin{split}
A^{-1}A\B{x}&=A^{-1}\B{b} \EE
E\B{x}&=A^{-1}\B{b} \EE
\therefore \B{x}&=A^{-1}\B{b}
\end{split}
となって、連立一次方程式の解があっさりと求められます。
クラーメルの公式とは?
冒頭で示したように、連立一次方程式については、以下に示すクラーメルの公式が成立することが知られています。
クラーメルの公式の背景について説明します。まず、解 $\B{x}$ については前節で説明したように、
\begin{split}
\B{x}&=A^{-1}\B{b}
\end{split}
と表せました。このとき、逆行列 $A^{-1}$ は余因子行列 $\widetilde{A}$ を用いて、
\begin{split}
A^{-1}=\ff{1}{|A|}\widetilde{A}
\end{split}
の関係にあるので、解を
\begin{split}
\B{x}=\ff{1}{|A|}\widetilde{A}\B{b}
\end{split}
とできます。これがクラーメルの公式の背景となります。さて、連立一次方程式については $\B{b}=\B{0}$ とした場合つまり、$A\B{x}=\B{0}$ の状況が応用上重要です。
$A\B{x}=\B{0}$ で一番初めに思いつくのは、$\B{x}=\B{0}$ という解です。この解は $A\B{x}=\B{0}$ の自明な解と呼ばれます。これだけではつまらないので、通常興味があるのは $\B{x}=\B{0}$ 以外の非自明な解となります。
なお、非自明な解を持つための条件は次のように表現されます。
連立一次方程式 $A\B{x}=\B{0}$ が非自明な解を持つための必要十分条件は以下のように表される。
\begin{split}
|A|= 0
\end{split}
ただし、$|A|$ を $A$ の行列式とする。