ヤコビの楕円関数の定義と微分公式の導出|楕円関数とは?

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楕円関数は数学のみならず、物理学にも応用される重要な特殊関数です。今回は、楕円関数の中で最も代表的なヤコビの楕円関数について定義とその性質について解説します。

まず、ヤコビの楕円関数は次のように定義される関数のことです。

ヤコビの楕円関数の定義

ヤコビの楕円関数の一つ $\RM{sn}u$ を第一種楕円積分の逆関数として次のように定義する。

\begin{eqnarray}
u&=\int_{0}^{x}\ff{\diff t}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}=\RM{sn}^{-1} x
\end{eqnarray}

そして、$\RM{cn}u,\RM{dn}u$ を次のように定義する。

$$
\left\{
\begin{split}
\RM{cn}u&=\sqrt{1-\RM{sn}^2u} \EE
\RM{dn}u&=\sqrt{1-k^2\RM{sn}^2u}
\end{split}
\right.
$$

そして、ヤコビの楕円関数の微分は次のように表されます。

ヤコビの楕円関数の微分公式

ヤコビの楕円関数の微分は次のように表される。

$$
\left\{
\begin{split}
(\RM{sn}u)’&=\RM{cn}u\cdot\RM{dn}u \EE
(\RM{cn}u)’&=-\RM{sn}u\cdot\RM{dn}u \EE
(\RM{dn}u)’&=-k^2\RM{sn}u\cdot\RM{cn}u
\end{split}
\right.
$$

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ヤコビの楕円関数の定義

ところで、逆正弦関数は積分を用いて次のように表されました。

\begin{split}
y=\int_0^x \ff{\diff t}{\sqrt{1-t^2}}=\sin^{-1}x=\sin^{-1} x
\end{split}

ここで、第一種楕円積分が上の積分と似たような形であることの類推から、$\RM{sn}$ という逆関数を導入することにします。(楕円積分の置換

\begin{eqnarray}
u&=\int_{0}^{x}\ff{\diff t}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}=\RM{sn}^{-1} x
\end{eqnarray}

$u$ の値は $x$ のみならず母数 $k$ にも依存するため、$u=\RM{sn}^{-1}(x,k)$ と書くことにします。

上の定義は逆関数のため、これを $x$ について書き直すと、

\begin{eqnarray}
x=\RM{sn}(u,k)\equiv \RM{sn}\,u
\end{eqnarray}

となります。また、$\RM{sn}(u,k)$ は $\RM{sn}u$ と省略して表示することもできます。

抽象的にはなりますが、このように定義される関数をヤコビの楕円関数と呼び、その内の一つ $\RM{sn}$ は上のように定義される関数となります。

ところで、$\RM{sn}u$ の定義から分かるように、$k=0$ のとき $\RM{sn}(u,0)=\sin u$ となります。この事実から $\RM{sn}$ には $\sin$ と似たような性質があると思われます。そこで、次のように定義される関数 $\RM{cn}$ を導入することにします。(ただし、$\RM{sn}^2 u$ は $(\RM{sn}\,u)^2$ の省略表示とします)

\begin{split}
\RM{cn}u=\sqrt{1-\RM{sn}^2u}
\end{split}

さらに、$\RM{dn}u=\RM{dn}u$ という関数を導入し、次のように定義するとします。

\begin{split}
\RM{dn}u=\sqrt{1-k^2\RM{sn}^2u}
\end{split}

なお、ヤコビの楕円関数は以下のようなグラフとなります。

楕円関数のグラフと母数の関係
ヤコビの楕円関数の定義

ヤコビの楕円関数の一つ $\RM{sn}u$ を第一種楕円積分の逆関数として次のように定義する。

\begin{eqnarray}
u&=\int_{0}^{x}\ff{\diff t}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}=\RM{sn}^{-1} x
\end{eqnarray}

そして、$\RM{cn}u,\RM{dn}u$ を次のように定義する。

$$
\left\{
\begin{split}
\RM{cn}u&=\sqrt{1-\RM{sn}^2u} \EE
\RM{dn}u&=\sqrt{1-k^2\RM{sn}^2u}
\end{split}
\right.
$$

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ヤコビの楕円関数の定義域

さて、逆三角関数の一つ $\sin^{-1} x$ の定義域が $-1\leq x \leq1$ であることの類推から、$\RM{sn}\,u$ 等の楕円関数にも定義域があると考えられます。

実際、上に示した $\RM{sn}u$ の定義から $u$ の取り得る値がそのまま定義域になると言えます。$u$ の値については第一種完全楕円積分の値がその最大値に相当するため、$u\leq K(k)$ であることが分かります。なお、$\RM{sn}\,{K(k)}=1$ の関係にあります。

ところで、$\RM{sn}\,u$ は奇関数となることが知られています。実際、積分区間を $[0,-x]$ とした第一種楕円積分に対して $t’=-t$ という置換を施すことで、

\begin{split}
&\,\,\int_{0}^{-x}\ff{\diff t}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}\EE
=&-\int_{0}^{x}\ff{\diff t’}{\sqrt{(1-t’^2)(1-k^2t’^2)}}\EE
=&-u
\end{split}

とできて、したがって、

\begin{split}
\RM{sn}(-u)=-\RM{sn}(u)
\end{split}

となとなります。この結果から確かに $\RM{sn}u$ は奇関数となることが分かります。なお、$\RM{cn}$ および $\RM{dn}$ はその定義式から分かるように偶関数となります。

これより、$\RM{sn}u$ の最小値は $-K(k)$ となることが分かります。したがって、楕円関数の定義域は $-K(k)\leq u\leq K(k)$ であることが言えます。

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ヤコビの楕円関数の微分公式

では、楕円関数の性質を調べる第一歩としてその微分を考えることにします。

最初に $\RM{sn}^{-1}u$ の微分について考えます。この微分は微積分学の基本定理より次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
\ff{\diff\,\RM{sn}^{-1}x}{\diff x}=\ff{\diff u}{\diff\,\RM{sn}u}&=\ff{1}{\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}}
\end{eqnarray}

今求めたい $\DL{\ff{\diff\, \RM{sn}u}{\diff u}}$ は $\DL{\ff{\diff u}{\diff\,\RM{sn}u}}$ の逆数であるため、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff\,\RM{sn}u}{\diff u}&=\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}
\end{eqnarray}

と言えます。これに、$1-x^2=1-\RM{sn}^2u=\RM{cn}^2u,$ $1-kx^2=1-k\RM{sn}^2u=\RM{dn}^2u$ を用いると、

\begin{eqnarray}
(\RM{sn}u)’=\ff{\diff\,\RM{sn}u}{\diff u}=\RM{cn}u\cdot\RM{dn}u
\end{eqnarray}

が得られます。

次、$(\RM{cn}u)’$ について考えます。定義から、その微分は

\begin{split}
(\RM{cn}u)’&=\ff{\diff}{\diff u}\sqrt{1-\RM{sn}^2u}=-\ff{\RM{sn}u}{\sqrt{1-\RM{sn}^2u}}\cdot(\RM{sn}u)’\EE
\therefore\,\,(\RM{cn}u)’&=-\RM{sn}u\cdot\RM{dn}u
\end{split}

と求められます。

最後に $(\RM{dn}u)’$ について考えます。同様に、定義からその微分を

\begin{split}
(\RM{dn}u)’&=\ff{\diff}{\diff u}\sqrt{1-k^2\RM{sn}^2u}=\ff{-k^2\RM{sn}u}{\sqrt{1-k^2\RM{sn}^2u}}\cdot(\RM{sn}u)’\EE
\therefore\,\,(\RM{cn}u)’&=-k^2\RM{sn}u\cdot\RM{cn}u
\end{split}

と求められます。まとめると、楕円関数の微分は次のように表示できます。

楕円関数の微分公式

ヤコビの楕円関数の微分は次のように表される。

$$
\left\{
\begin{split}
(\RM{sn}u)’&=\RM{cn}u\cdot\RM{dn}u \EE
(\RM{cn}u)’&=-\RM{sn}u\cdot\RM{dn}u \EE
(\RM{dn}u)’&=-k^2\RM{sn}u\cdot\RM{cn}u
\end{split}
\right.
$$

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楕円関数の級数展開

得られた楕円関数の微分公式マクローリン展開を用いて、楕円関数のべき級数展開を明らかにしましょう。

まず、$\RM{sn}u$ についての微分を順次繰り返し実行すると、

$$
\left\{
\begin{split}
&(\RM{sn}u)’=\RM{cn}u\cdot\RM{dn}u \EE
&(\RM{sn}u)^{”}=-(1+k^2)\RM{sn}u+2k^2\RM{sn}^3u \EE
&(\RM{sn}u)^{”\prime}=-(1+k^2-6k^2\RM{sn}^2u)(\RM{sn}u)’ \EE
&(\RM{sn}u)^{(4)}=-(1+k^2-6k^2\RM{sn}^2u)(\RM{sn}u)^{”}+12k^2(\RM{sn}u){(\RM{sn}u)’}^2\EE
&(\RM{sn}u)^{(5)}=-(1+k^2-6k^2\RM{sn}^2u)(\RM{sn}u)^{”\prime} +36k^2(\RM{sn}u)(\RM{sn}u)'(\RM{sn}u)^{”}\EE
&\qquad\qquad\quad+12k^2(\RM{sn}u){(\RM{sn}u)’}^3\EE
&(\RM{sn}u)^{(6)}=-(1+k^2-6k^2\RM{sn}^2u)(\RM{sn}u)^{(4)} +48k^2(\RM{sn}u)(\RM{sn}u)'(\RM{sn}u)^{”\prime}\EE
&\qquad\qquad\quad+72k^2{(\RM{sn}u)’}^2(\RM{sn}u)^{”}+36k^2(\RM{sn}u){(\RM{sn}u)^{”}}^2\EE
&(\RM{sn}u)^{(7)}=-(1+k^2-6k^2\RM{sn}^2u)(\RM{sn}u)^{(5)} +60k^2(\RM{sn}u)(\RM{sn}u)'(\RM{sn}u)^{(4)}\EE
&\qquad\qquad\quad+120k^2(\RM{sn}u){(\RM{sn}u)^{”}}(\RM{sn}u)^{”\prime}+120k^2{(\RM{sn}u)’}^2{(\RM{sn}u)^{”}}\EE
&\qquad\qquad\quad\,\,+180k^2(\RM{sn}u)'{(\RM{sn}u)^{”}}^2
\end{split}
\right.
$$

などとなります。

今、$u=0$ にて $\RM{sn}u=0$ であることから、$\RM{cn}u=\RM{dn}u=1$ であることが言えます。これを利用することで、$\RM{sn}u$ のマクローリン展開が求められます。すなわち、

\begin{split}
\RM{sn}u&=\RM{sn}0+(\RM{sn}0)’u+\ff{1}{2!}(\RM{sn}0)^{”}u^2+\ff{1}{3!}(\RM{sn}0)^{”\prime}u^3+\cdots\EE
&=u-\ff{1+k^2}{3!}u^3+\ff{1+14k^2+k^4}{5!}u^5-\ff{1+135k^2+135k^4+k^6}{7!}u^7+\cdots
\end{split}

と以下無限に続く級数となります。

$\RM{cn}u,\RM{dn}u$ についても大変ですが、同様に計算すると、

\begin{split}
\RM{cn}u&=1-\ff{1}{2!}u^2+\ff{1+4k^2}{4!}u^4-\ff{1+44k^2+16k^4}{6!}u^6+\cdots \EE
\RM{dn}u&=1-\ff{k^2}{2!}u^2+\ff{k^2(4+k^2)}{4!}u^4-\ff{k^2(16+44k^2+k^4)}{6!}u^6+\cdots
\end{split}

という級数展開が得られます。

※ 楕円関数のべき級数展開の一般項はかなり複雑な形で与えられるため、今回は紹介しません。

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