片持ち梁(はり)の曲げ変形量をたわみ曲線の微分方程式を利用して計算します。
たわみ曲線の微分方程式は、ヤング率を$E$、断面二次モーメントを$I$、曲げモーメントを$M(x)$として次のように表せました。
今回は集中荷重と分散荷重での片持ち梁の曲げを計算します。
※たわみ曲線の微分方程式の詳しい導出過程については、こちらで解説しています。
固定支持と単純支持
壁に梁を固定する支持方法を、固定支持と呼びます。
固定支持では、固定端でのたわみ角とたわみが$0$となることが特徴です。
※ 固定端でのたわみ角は $=0$、たわみは $=0$ となります。
一方、梁を支えるだけの支持方法を単純支持と呼びます。
単純支持では、支持端でのたわみ角が$0$にならないことが特徴です。
※ 単純支持端でたわみ角は $\neq 0$、たわみは $=0$ となります。
また、支えのない端を自由端と呼びます。
支持方法による梁の分類
支持方法により、梁を次のように分類し、それぞれに名前が付けられています。
片持ち梁
片持ち梁では、片方の端が壁に固定(固定端)され、もう片方の端が自由端になっていることが特徴です。
両端固定梁
両端固定梁では、両方の端が壁に固定(固定端)されていることが特徴です。
単純支持はり
単純支持梁では、両方の端が単純支持されていることが特徴です。
連続梁
最後に、3つ以上の支点で支えられるような梁を連続梁と呼びます。
連続梁では、単純支持梁と比べ、梁のたわみ量が小さくなる利点があります。
集中荷重による片持ちはりの曲げ
片方が壁に固定された片持ち梁のたわみを考えます。
具体的には長さ$l$の梁の自由端に、大きさ$P$の集中荷重が働いている場合の自由端でのたわみを計算します。
ステップ1:自由体図の作成
たわみを考えるにあたり、まずは梁に働く曲げモーメントを知る必要があります。
初めに、自由体図という仮想切断面ではりを切り離した図を考えます。
左端から$x$だけ離れた位置での自由体図を作り、位置$x$での曲げモーメント $M(x)$ を計算します。
なお、仮想切断面に働くモーメントが計算したい曲げモーメントになります。
最初は、曲げモーメントの向きが時計周りか反時計周りなのか分からないので、ここでは適当に曲げモーメントの方向を仮定します。
ただ、本当に適当に設定すると訳が分からなくなるので、一貫した基準に則り曲げモーメントの方向を設定します。
その基準とは、『はりが下向き($y$軸正)にたわむ向きに曲げモーメントを仮定する』というものです。
今回の場合、仮想切断面での曲げモーメントを反時計方向に仮定します。
ややこしいですが、この座標系では時計回りのモーメントを正とします。
ステップ2:モーメント釣り合い計算
次のステップでは、モーメントの釣り合いを考えます。
自由体図での区間のはりは回転していないので、梁の左端と仮想切断面でのモーメントが釣り合っているはずです。
仮想切断面でのせん断力を考えるのは面倒なため、仮想切断面をモーメント計算の原点にします。
具体的なモーメントの釣り合いは、次のようになり、
\begin{eqnarray}
-Px &+& (- M(x) ) = 0 \EE
\therefore M(x) &=& -Px \tag{1}
\end{eqnarray}
釣り合い式より、仮想切断面に働く曲げモーメントが求められました。
ステップ3:微分方程式への代入
先程計算した曲げモーメントをたわみ曲線の微分方程式に代入します。
すると、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 v}{\diff x^2} &=& \ff{Px}{EI}
\end{eqnarray}
となります。
一回積分すると、
\begin{eqnarray}
\int \ff{\diff^2 v}{\diff x^2} \diff x &=& \int \ff{Px}{EI} \diff x \EE
\ff{\diff v}{\diff x} &=& \ff{1}{2} \ff{Px^2}{EI} + C_1 \EE
\theta (x) &=& \ff{1}{2} \ff{Px^2}{EI} + C_1 \tag{2}
\end{eqnarray}
となります。たわみ角 $\theta (x)$ が $\DL{\ff{\diff v}{\diff x}}$ と表されることに注意してください。
※ たわみ角がこのように表される理由はこちらで解説しています。
さらに、一回積分すると、
\begin{eqnarray}
\int \ff{\diff v}{\diff x} \diff x &=& \int \left( \ff{1}{2} \ff{Px^2}{EI} + C_1 \right) \diff x \EE
v(x) &=& \ff{1}{6} \ff{Px^3}{EI} + C_1 x + C_2 \tag{3}
\end{eqnarray}
となり、各$x$でのたわみ $v(x)$ を求められました。
ただ、積分定数 $C_1, C_2$ が分からないため、次のステップで明らかにします。
ステップ4:境界条件の検討
先程の計算結果からは不明な積分定数を決定するため、境界条件から積分定数を計算します。
梁が壁で固定されているため、$x = l$ でのたわみ角とたわみは $0$ になります。
この条件から、式(2)と(3)から積分定数を次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
\theta (l) &=& \ff{1}{2} \ff{Pl^2}{EI} + C_1 = 0 \EE
\therefore C_1 &=& -\ff{1}{2} \ff{Pl^2}{EI} \EE
v(l) &=& \ff{1}{6} \ff{Pl^3}{EI} + C_1 l + C_2 = 0 \EE
0 &=& \ff{1}{6} \ff{Pl^3}{EI} \,-\, \ff{1}{2} \ff{Pl^3}{EI} + C_2 \EE
\therefore C_2 &=& \ff{1}{3}\ff{Pl^3}{EI}
\end{eqnarray}
ステップ5:はり左端でのたわみの計算
以上より、たわみ曲線は、
\begin{eqnarray}
v(x) &=& \ff{1}{6} \ff{Px^3}{EI} \,-\, \ff{1}{2} \ff{Pl^2}{EI} x + \ff{1}{3}\ff{Pl^3}{EI} \EE
\end{eqnarray}
と求められます。
梁先端でのたわみは、$x=0$ を代入して、
\begin{eqnarray}
v &=& \ff{Pl^3}{3EI} \EE
\end{eqnarray}
と計算できます。
分布荷重による片持ちはりの曲げ
梁全体に荷重が分布している場合の自由端でのたわみ量を計算します。
具体的には、長さ $l$ の片持ちはりに分布荷重が働いている場合を考えます。
今回は簡単のため、均一な分布荷重を考えます。
特に、単位長さ当たりの合計荷重を $w$ として、$wl = P$ とできます。
ステップ1:自由体図の作成
先程と同様に自由体図を考え、曲げモーメント $M(x)$ を計算します。
分布荷重は自由体図での中心 $\DL{\ff{1}{2}x}$ に荷重が集中していると考えられます。
分布荷重を集中荷重に置き換えた結果が下の図になります。
ステップ2:モーメント釣り合い計算
自由体図のモーメントの釣り合いから、位置$x$での仮想切断面での曲げモーメントを計算します。
\begin{eqnarray}
-\ff{1}{2}wx^2 &+& (- M(x)) = 0 \EE
\therefore M(x) &=& -\ff{1}{2}wx^2 \tag{4}
\end{eqnarray}
ステップ3:微分方程式の計算
先程計算した曲げモーメントをたわみ曲線の微分方程式に代入します。
すると、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 v}{\diff x^2} &=& \ff{1}{2}\ff{wx^2}{EI}
\end{eqnarray}
となります。
一回積分して、
\begin{eqnarray}
\int \ff{\diff^2 v}{\diff x^2} \diff x &=& \int \ff{1}{2}\ff{wx^2}{EI} \diff x \EE
\theta (x) &=& \ff{1}{6} \ff{wx^3}{EI} + C_1 \tag{5}
\end{eqnarray}
となり、
さらに、一回積分すると、
\begin{eqnarray}
\int \ff{\diff v}{\diff x} \diff x &=& \int \left( \ff{1}{6} \ff{wx^3}{EI} + C_1 \right) \diff x \EE
v(x) &=& \ff{1}{24} \ff{wx^4}{EI} + C_1 x + C_2 \tag{6}
\end{eqnarray}
となって、位置 $x$ でのたわみ $v(x)$ が計算できました。
積分定数 $C_1, C_2$ が分からないため、次のステップで明らかにします。
ステップ4:境界条件の検討
境界条件から積分定数を決定します。
先程と同様に、右端は壁に固定されているので、$\theta (l) = 0, v(l) = 0$ が境界条件となります。
この条件を適用すると、式(5)と(6)から積分定数は、
\begin{eqnarray}
\theta (l) &=& \ff{1}{6} \ff{wl^3}{EI} + C_1 = 0 \EE
\therefore C_1 &=& -\ff{1}{6} \ff{wl^3}{EI} \EE
v(l) &=& \ff{1}{24} \ff{Pl^4}{EI} -\ff{1}{6} \ff{wl^4}{EI} + C_2 = 0 \EE
\therefore C_2 &=& \ff{1}{8} \ff{wl^4}{EI}
\end{eqnarray}
と計算できます。
ステップ5:はり左端でのたわみの計算
以上より、たわみ曲線は、
\begin{eqnarray}
v(x) &=& \ff{1}{24} \ff{wx^4}{EI} \,-\, \ff{1}{6} \ff{wl^3}{EI}x + \ff{1}{8} \ff{wl^4}{EI} \EE
\end{eqnarray}
と求められます。
梁先端でのたわみは、$x=0$ を代入して、
\begin{eqnarray}
v(0) &=& \ff{wl^4}{8EI} = \ff{Pl^3}{8EI} \EE
\end{eqnarray}
と求められます。
単純支持でのたわみ
ここまで見てきたように、梁の支持方法は、たわみ曲線の決定に重要な役割を果たします。
勘の良い方は、単純支持ではたわみ曲線が簡単には計算できないことに気付いたと思います。
なぜなら、単純支持端ではたわみ角は $0$ とならないためです。
そのため、片持ち梁の時のように、たわみ角の積分定数 $C_1$ を決定できません。
このように単純支持の場合、端点での条件から積分定数を決定できません。
ではどうするのか?というと、
集中荷重が働く $\RM{B}$ で左右の区間のたわみ角とたわみが一致すること、端点 $\RM{A}, \RM{C}$ でたわみが $0$ であることから積分定数を決定できます。
具体的な計算方法については、こちらで解説しています。