物体はどのようなメカニズムで破損あるいは破壊に至るのでしょうか?
物体の破損や破壊のメカニズムを知ることは生活の安全に直結しますが、現代でも完全には解明されておらず、さまざまな説が提唱されています。
今回は、弾性材料が破損するメカニズムに関する説として代表的な最大主応力説、最大せん断応力説、せん断ひずみエネルギー説について解説します。
弾性破損とは?
弾性体に作用させる応力を徐々に大きくしていくと、どこかの段階で弾性体は破損または、破壊します。(→弾性体とは?)
専門的には破損と破壊という言葉を使い分け、弾性体が弾性的な性質を失い永久ひずみが残るような状態を破損と呼び、材料そのものが分離された状態になったことを破壊と表現します。
実際の設計では、安全率と許容応力の記事で解説したように、部材が弾性の範囲内に収まるように(=降伏応力以下になるように)設計を行います。
したがって今回は破損に至るメカニズム、すなわち弾性破損についての理論に絞って考えていきます。
弾性破損に至るメカニズムとして、いくつかの説が提唱されており、今回は代表的な最大主応力説、最大せん断応力説、せん断ひずみエネルギー説三つの説について解説します。
最大主応力説
はじめに、最大主応力説について解説します。
三次元の弾性体では、主応力は三つ存在します。
弾性体に作用する三つの主応力のうち、その絶対値が最大となる主応力を$\sigma_{max}$とします。(→主応力とは?)
最大主応力仮説では、$\sigma_{max}$が降伏応力$\sigma_Y$と一致するとき、弾性破損が生じると考えます。
すなわち、最大主応力仮説は次のような数式で表せます。
\begin{eqnarray}
|\sigma_{max}| = \sigma_Y
\end{eqnarray}
なお、圧縮降伏応力と引張降伏応力が一致すると仮定しています。
このように、最大主応力仮説は降伏条件を表す最も簡単な説です。
最大主応力説は、脆性材料(ガラス・セラミックスなど)の実験結果と良く一致することが分かっています。
さて、最大主応力仮説が正しいとすると、材料の弾性破損は主応力の作用する面で生じることになります。
しかしながら、金属のような延性材料の降伏はせん断面での滑りにより生じると考えられており、最大主応力仮説は延性材料の破損には当てはまらないとされています。
最大せん断応力説
最大主応力説は延性材料には適応できないことが分かりました。
このような状況のなか、最大主応力仮説に代わり、最大せん断応力説が提唱されました。
今、三次元の弾性体を考えているため主応力は三つあり、$\sigma_1, \sigma_2, \sigma_3$と表せます。
$\sigma_1 > \sigma_2 > \sigma_3$の関係にあるとき、主せん断応力$\tau_{max}$は
\begin{eqnarray}
\tau_{max} = \ff{\sigma_1\,- \sigma_3}{2}
\end{eqnarray}
と表せました。
※ 主せん断力がこのように表せる理由はこちらで解説しています。
応力状態が最も簡単な引張試験での様子を考えます。
引張試験を行う場合には$\sigma_1 $以外の主応力が$0$であるため、$\sigma_1 = \sigma_Y$となったときに破損すると言えます。
つまり、主せん断応力は次のようになる訳です。
\begin{eqnarray}
\tau_{max} = \ff{\sigma_1}{2} = \ff{\sigma_Y}{2}
\end{eqnarray}
この状態は一般の場合でも成立するので、材料が破損するときは以下の条件が満たされる訳です。
\begin{eqnarray}
\ff{\sigma_1\,- \sigma_3}{2} = \ff{\sigma_Y}{2} = \tau_{max}
\end{eqnarray}
視点を逆転させ、最大せん断応力説では主せん断応力が以下の条件を満たしたときに破損に至ると考えます。
\begin{eqnarray}
\tau_{max} = \ff{\sigma_1\,- \sigma_3}{2} = \ff{\sigma_Y}{2}
\end{eqnarray}
最大せん断応力説は、$\sigma_1\,-\sigma_3 = \sigma_Y$となるとき、材料が破損するとも言い換えられます。
最大主応力説は延性材料に良く当てはまることが知られています。
また、条件式も簡単であることから延性材料についての実用的な設計基準として用いられます。
せん断ひずみエネルギー説
先程の最大せん断応力説では、$\sigma_2$について考えませんでしたが、破損に無関係であるとは思えません。
そこで、これら全ての主応力について考慮したせん断ひずみエネルギー説が提唱されました。
せん断ひずみエネルギー説では、材料内部のせん断ひずみエネルギーが降伏応力のひずみエネルギーと一致したとき、破損に至ると考えます。
専門的には、三つの応力のみが作用している状態を三軸応力状態と呼びます。
この三軸応力状態でのひずみエネルギーは次のように表せます。
\begin{eqnarray}
U = \ff{1+\nu}{6E}\Big\{ (\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2 \Big\}
\end{eqnarray}
一方、引張試験において降伏したとき、$\sigma_1 = \sigma_Y, \sigma_2 = 0, \sigma_3 = 0$となりますが、このときひずみエネルギーは、
\begin{eqnarray}
U = \ff{1+\nu}{6E}\sigma_Y^2
\end{eqnarray}
と表せます。
せん断ひずみエネルギー説では、三軸応力状態でのひずみエネルギーが降伏応力のひずみエネルギーと一致したとき破損に至ると考えるので、二式を等値し、
\begin{eqnarray}
\ff{1+\nu}{6E}\left\{ (\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2 \right\} = \ff{1+\nu}{6E}\sigma_Y^2
\end{eqnarray}
とできます。
これより、降伏応力と主応力の対応関係は、
\begin{eqnarray}
\sigma_Y = \sqrt{ (\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2 }
\end{eqnarray}
となります。
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