棒の静定・不静定問題の解法|丁寧な解説による材料力学の基本問題①

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軸力を受ける棒を例に、棒の伸びを具体的に計算する方法について解説します。

棒の伸び量

軸力を $P$、棒の長さを $l$、棒の断面積を $A$、ヤング率を $E$ とする。

このとき、棒の伸び量 $\lambda$(ラムダ)を次のように表せる。

\begin{eqnarray}
\lambda = \ff{P l}{AE} \EE
\,
\end{eqnarray}

棒の伸びを計算する問題は、材料力学で基本的な問題の一つです。

今回は、剛体壁に拘束されている棒に生じる反力を計算する例題について扱います。

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棒の静定問題

長さ $l$ の棒が軸力 $P$ により引張られている状況で、棒の伸び量 $\lambda$ を計算します。

なお、棒の断面積を $A$、直径を $d$、ヤング率を$E$ とします。

棒の伸びと軸力

材料力学での『正』の方向の定義

具体的な計算に入る前に、材料力学での力と、伸びの正の方向を解説します。

ただし、座標軸の正の方向と材料力学の正の方向は異なります。

間違えないように注意してください。

材料力学では、正の方向を次のように定義します。

材料力学の『正』の方向

棒:棒が伸びる方向を正棒が縮む方向を負

梁(はり):梁が下に変形にする方向を正、上に変形する方向を負

図で表すと、棒に関しての正の方向は次のようになります。

材料力学の問題を解く際、仮想切断面での内力を計算する必要が生じますが、内力の大きさや向きは不明です。

そのため、材料力学の『正』の方向に内力が働いていると仮定して計算を進めます。(内力の方向は機械的にこのように設定します。)

棒の伸びと縮み量の計算

引張による棒の伸び量

棒の伸び量 $\lambda$ について計算していきます。

ここで、フックの法則の出番です。

フックの法則は、応力を $\sigma$(シグマ)、ひずみ を$\varepsilon$(エプシロン)として次のように表せます。

\begin{eqnarray}
\sigma = E \varepsilon
\end{eqnarray}

フックの法則についての詳しい解説はこちらしています。

今後のため、フックの法則をひずみに関して変形し、見やすくします。

\begin{eqnarray}
\varepsilon = \ff{\sigma}{E} \tag{1}
\end{eqnarray}

ところで、ひずみは棒の最初の長さを$l$、伸びを$\lambda$として次のように表せました。

\begin{eqnarray}
\varepsilon = \ff{\lambda}{l}
\end{eqnarray}

これを式(1)に代入して、$\lambda$ について整理すると、

\begin{eqnarray}
\lambda = \ff{\sigma l}{E} \tag{2}
\end{eqnarray}

となります。

また、応力 $\sigma$ は、$\DL{\ff{P}{A}}$で表せるので、式(2)に代入すると次のように整理できます。

以上より、棒の伸び$\lambda$を求めることができました。

棒の伸び量

軸力を $P$、棒の長さを $l$、棒の断面積を $A$、ヤング率を $E$ とする。

このとき、棒の伸び量 $\lambda$(ラムダ)を次のように表せる。

\begin{eqnarray}
\lambda = \ff{P l}{AE} \EE
\,
\end{eqnarray}

※ ひずみと応力についての詳しい解説はこちらでしています。

圧縮による棒の縮み量

次に、圧縮の場合の棒の縮みを計算します。

圧縮の場合、軸力 $P$ は材料力学での負の方向に働くので、$-P$となります。

これを先程の引張の伸びの結果に代入すると、圧縮の場合の棒の縮みを計算できます。

縮みのため、符号が負になることに注意してください。

棒の縮み量

軸力を $-P$、棒の長さを $l$、棒の断面積を $A$、ヤング率を $E$ とする。

このとき、棒の伸び量 $\lambda$(ラムダ)を次のように表せる。

\begin{eqnarray}
\lambda = -\ff{P l}{AE} \EE
\,
\end{eqnarray}

※ 棒を縮める方向に軸力が作用するため、軸力の符号は負となります。(材料力学の正方向の定義から)

複雑な軸力が働く場合の変形量の計算

少し複雑な問題に取り組みましょう。

次のように、複数の外力を受ける棒の伸びを考えます。

複雑な軸力が働く棒

なお、左上に$x$軸、$y$軸とモーメント$M$の座標上での正方向を示しています。

また、棒の左端を$x, y$座標の原点とします。

ステップ1:力の釣り合い

最初に外力の釣り合いを考えます。

棒は静止しているので、力の釣り合い式が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
-P_A \,-\, P_B + P_C &=& 0
\end{eqnarray}

\begin{eqnarray}
\therefore P_A &=& P_C \,-\, P_B \tag{3}
\end{eqnarray}

力の符号は座標軸の正の方向に従って表していることに注意してください。

ステップ2:各区間での内力の計算

図から分かるように、$P_B$ が作用sるう位置を境に内力の大きさが変化します。

そのため、左側の区間と右側の区間に分けて内力を計算します。

まず、左側の区間($0 \leq x \leq l_1$)での内力を考えます。

$0 \leq x \leq l_1$ の仮想切断面での力の釣り合いを考えます。

仮想切断面での内力$N_1$ の向きは不明なので、一旦、材料力学での正の向きに取ります。(今回は、座標軸の正の方向と一致しています。)

左側区間での内力

仮想切断面での力の釣り合いを考えると、このようになります。

\begin{split}
&-P_A + N_1 = 0 \EE
&\therefore\,\,N_1 = P_A
\end{split}

次に、右側の区間($l_1 \leq x \leq l_2$)での内力を考えます。

先程と同様に$l_1 \leq x \leq l_2$の仮想切断面での力の釣り合いを考えます。

右側区間での内力

\begin{split}
&-P_A-P_B + N_2 = 0 \EE
&\therefore\,\,N_2 = P_A + P_B
\end{split}

となります。

ステップ3:伸びの計算

計算結果から、どの区間でも内力は材料力学での正の方向であることが分かりました。

それでは、式(3)も利用して棒全体の伸びを計算してみます。

伸び変形量の公式に代入して、

\begin{eqnarray}
\lambda &=& \lambda_1 + \lambda_2 \EE
&=& \ff{N_1 l_1}{AE} + \ff{N_2 l_2}{AE} \EE
&=& \ff{(P_C \,-\, P_B) l_1}{AE} + \ff{P_C\, l_2}{AE} \EE
&=& \ff{P_C\, l}{AE} \,-\, \ff{P_B\, l_1}{AE}\\
\,
\end{eqnarray}

となります。

めでたく、棒の伸び変形量が計算できました。

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棒の不静定問題

棒の伸びに関する応用問題を考えます。

棒が次のような剛体壁に固定されているとして、点$\RM{B}$に荷重$P$ が働いているときの反力$R_A, R_B$ を求めてみましょう。

棒の不静定問題

ステップ1:力の釣り合い

$R_A, R_B$ の具体的な形は分かりませんが、各力の関係を最小に明らかにします。

釣り合いの式を立てると、

\begin{eqnarray}
-R_A + P + R_C &=& 0
\end{eqnarray}

となり、

\begin{eqnarray}
R_A = P + R_C \tag{4}
\end{eqnarray}

と求められます。

ステップ2:各区間での内力の計算

まず、左側の区間($0 \leq x \leq l_1$)での内力$N_1$を計算します。

不静定問題の左区間の内力

図より、

\begin{split}
&-R_A + N_1 = 0 \EE
&\therefore\,\,N_1 = R_A
\end{split}

と求められます。

次に、右側の区間($l_1 \leq x \leq l_2$)での内力$N_2$を計算します。

不静定問題の右区間の内力

図より、

\begin{split}
&-R_A + P + N_2 = 0 \EE
&\therefore\,\,N_2 = R_A-P
\end{split}

と求められます。

ステップ3:伸びの計算

内力が計算できたので、次に伸び$\lambda$を計算しましょう。

一旦、壁はないものとして考えます。

伸び変形量の公式に代入すると、

\begin{eqnarray}
\lambda &=& \lambda_1 + \lambda_2 \\[6pt]
&=& \ff{N_1 l_1}{AE} + \ff{N_2 \,l_2}{AE} \\[6pt]
&=& \ff{R_A \, l_1}{AE} + \ff{(R_A \,-\, P)\, l_2}{AE} \\[6pt]
\therefore\,\,\lambda &=& \ff{R_A\, l}{AE} \,-\, \ff{P\, l_2}{AE} \tag{5}
\end{eqnarray}

と求められます。

ステップ4:幾何的条件の検討

先程は、壁が無いものとして伸びを計算しましたが、実際には剛体壁に固定されているので、伸びは$0$のはずです。

この幾何学的条件を考慮すると、式(5)より、

\begin{split}
&\lambda = 0 \EE
&0 = \ff{R_A\, l}{AE} \,-\, \ff{P\, l_2}{AE} \EE
\therefore\,\,&\ff{R_A\, l}{AE} = \ff{P\, l_2}{AE} \EE
\end{split}

となり、$R_A$ を次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
R_A = \ff{l_2}{l}P
\end{eqnarray}

式(4)より、$R_C$は、

\begin{eqnarray}
R_C = -\ff{l_1}{l}P
\end{eqnarray}

となり、反力$R_A, R_C$ を計算できました。

力の向きは、座標軸の方向に合わせていることに注意してください。

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静定問題・不静定問題とは?

静定問題不静定問題の用語を説明無しに出しましたが、これらの用語について解説します。

部材内力と支点反力が力およびモーメントの釣合い条件のみで計算できる問題静定問題と呼びます。

一方、力とモーメントの釣合い条件のみでは、内力と反力を計算できない問題不静定問題と呼びます。

静定問題・不静定問題とは?

静定問題:部材内力と支点反力が力およびモーメントの釣合い条件のみで計算できる問題

不静定問題:力とモーメントの釣合い条件のみでは、内力と反力を計算できない問題

一般に、不定問題の方が静定問題よりも難しく、幾何学条件など追加の条件を考慮しなければ解けません。


別の機会に棒の断面積が変化する場合の伸びも計算します。この問題を通して、宇宙エレベータのケーブルについても検討します。

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