材料力学で重要な法則である、応力とひずみの関係を規定するフックの法則について解説します。
高校物理のフックの法則の復習から始め、材料力学でのフックの法則を紹介します。
また、発展的な内容として等方弾性体のフックの法則も紹介します。
等方弾性体のフックの法則を導出する過程で、変数の添え字の約束事や記法が登場します。
余裕があれば確認してください。
フックの法則
ばねとフックの法則
高校物理で習ったフックの法則は、ばねに関するものでした。
ばね定数を$k$、ばねの伸びが$x$であるとき、ばねに働く力との間に以下のような関係が成り立つと、高校物理では学びました。
フックの法則から、力の大きさとばねの伸びが比例関係にあるということが分かります。
材料力学とフックの法則
フックの法則をばね以外の物体にも拡張しましょう。
力を加えるのをやめるとばねは元の長さに戻ります。
このように、力がゼロになると変形もゼロになるような物体を弾性体と呼びます。
また、このような変形を弾性変形と呼びます。
ところで、材料力学では単位面積当たりに働く力、すなわち応力を基準として考えます。
実験結果より、弾性変形では応力の大きさはひずみの大きさと比例関係にあることが分かっています。
この関係は、先ほど見たばねでのフックの法則と全く同じ形式となります。
弾性体に適用できるようフックの法則を表すと、『応力とひずみは比例関係にある』と言い換えるとができます。
垂直応力を$\sigma$(シグマ)、垂直ひずみを$\varepsilon$(エプシロン)、ヤング率(縦弾性係数)を$E$としてフックの法則を表すと次のようになります。
注意点すべき事項として、材料力学では通常、応力とひずみが比例関係にある弾性変形での状態を考えます。
同様にせん断応力を$\tau$(タウ)、せん断ひずみを$\gamma$(ガンマ)、せん断弾性係数(横弾性係数)を$G$として、次のような関係が成り立ちます。
ここまで理解できれば材料力学の基本的問題を解けるようになります。
ここから先のトピックは材料力学の発展的な内容を含みます。
フックの法則を利用することで、棒の伸びや梁(はり)の曲げについて計算できるようになります。
詳しくはこちらで解説しています。
応力ーひずみ線図とヤング率
弾性変形やヤング率という単語が出てきたので、応力ーひずみ線図を使ってこれらの用語の意味について解説します。
まず、応力ーひずみ線図について解説します。
応力ーひずみ線図とは、棒に軸力を加えて引張った時に生じる棒のひずみとその時の応力の関係を表した図のことです。
軸力により棒は応力ーひずみ線図の線上に従って変形していきます。
応力ーひずみ線図は次のようなグラフです。
グラフ中の$\sigma_y$ を降伏応力と呼びます。降伏応力より小さい応力(図中の$\RM{OA}$の範囲)であれば物体は弾性変形します。
図から分かるように、$\RM{OA}$上では応力とひずみは比例関係にあります。
先程のフックの法則に当てはめると、線分$\RM{OA}$の傾きがヤング率に相当します。
繰り返しになりますが材料力学では通常、弾性変形の範囲で考えます。
降伏応力を超えて棒に応力を加えるとどうなるか?というと、力を除いても(除荷)棒は元の長さに戻らず、変形したままになります。
例えば$\RM{B}$まで応力を加えた後、除荷すると棒は$\RM{BO^{\prime}}$の直線を通って$\RM{O^{\prime}}$の位置に到達します。
除荷後に残ったひずみを永久ひずみと呼びます。
除荷しても元に戻らない変形を塑性変形と呼びます。
塑性変形の範囲では、フックの法則が適用できません。
グラフのそれぞれの領域に色を付けると、次のようになります。
応力の最大値を引張強さ $\sigma_t$、棒が破断したときの応力を破断強さ $\sigma_B$と呼びます。
今回示している応力ーひずみ線図の応力とひずみは、公称応力と公称ひずみです。つまり、今回の応力ーひずみ線図は、厳密に言えば物理的には正確な図ではありません。
しかし、実用の場面では公称応力ー公称ひずみ線図が使われることがほとんどです。
物理的に正確な応力ーひずみ線図では、真応力と真ひずみを使います。物理的に正確な応力ーひずみ線図のことを、真応力ー真ひずみ線と呼びます。
真応力ー真ひずみ線のグラフは次のようになります。
等方弾性体のフックの法則
三次元の等方弾性体に対して成り立つフックの法則を考えます。
※等方弾性体とは、材料のどの方向も同じ弾性率を持つ均一な弾性体のことです。
添え字の約束事
等方弾性体に対するフックの法則を求める前に材料力学での添え字の約束事を解説します。
荷重が働いている物体の中には、様々な方向と大きさで力が分布しています。
そのため、力が働く面とその方向を指定して考える必要があります。
そこで、材料力学では変数の添え字に関して次のような約束をします。
第一の添え字で座標軸に対して垂直な面を指定し、第二の添え字で力の方向を表します。
具体例として$x$軸に垂直な面に働く応力を考えましょう。
このとき、$x, y, z$方向それぞれに働く応力は下の図のように表現されます。
弾性体の応力とひずみの関係
各軸に生じるひずみを考えます。
$\sigma_{yy}$ の応力によって$x$軸方向に生じるひずみを考えると、$\DL{-\nu\ff{\sigma_{yy}}{E}}$となります。
ただし、$\nu$(ニュー)はポアソン比とします。
$\sigma_{zz}$ によって $x$ 軸方向に生じるひずみも同様に $-\nu\DL{\ff{\sigma_{zz}}{E}}$となります。
以上より、応力による $x$ 軸方向のひずみは次のように表せます。
\begin{eqnarray}
\varepsilon_{xx} &=& \ff{1}{E} \Big\{ \sigma_{xx} -\nu(\sigma_{yy} + \sigma_{zz}) \Big\} \EE
\end{eqnarray}
$y$ 軸、$z$ 軸方向のひずみも同様に次のように表せます。
\begin{eqnarray}
\varepsilon_{yy} &=& \ff{1}{E} \Big\{ \sigma_{yy} -\nu(\sigma_{zz} + \sigma_{xx}) \Big\} \\[6pt]
\varepsilon_{zz} &=& \ff{1}{E} \Big\{ \sigma_{zz} -\nu(\sigma_{xx} + \sigma_{yy}) \Big\} \EE
\end{eqnarray}
物体に働く応力が判明している場合、これらの式から(縦)ひずみを計算できます。
等方弾性体のフックの法則の導出
式を整理してフックの法則の形に持ってきます。
まず、先程の式を行列の形に整理します。
\begin{eqnarray}
\begin{bmatrix}
\varepsilon_{xx} \\
\varepsilon_{yy} \\
\varepsilon_{zz}
\end{bmatrix} =
\ff{1}{E}
\begin{bmatrix}
1 & -\nu & -\nu \\
-\nu & 1 & -\nu \\
-\nu & -\nu & 1
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\sigma_{xx} \\
\sigma_{yy} \\
\sigma_{zz}
\end{bmatrix} \tag{1}
\end{eqnarray}
式(1)を変形して左辺に応力を持って行きます。
\begin{eqnarray}
\begin{bmatrix}
\sigma_{xx} \\
\sigma_{yy} \\
\sigma_{zz}
\end{bmatrix}
= E
\begin{bmatrix}
1 & -\nu & -\nu \\
-\nu & 1 & -\nu \\
-\nu & -\nu & 1
\end{bmatrix}^{-1}
\begin{bmatrix}
\varepsilon_{xx} \\
\varepsilon_{yy} \\
\varepsilon_{zz}
\end{bmatrix} \tag{2}
\end{eqnarray}
正方行列の逆行列を計算すると次のようになります。
\begin{eqnarray}
\begin{bmatrix}
1 & -\nu & -\nu \\
-\nu & 1 & -\nu \\
-\nu & -\nu & 1
\end{bmatrix}^{-1}
=
\ff{1}{(2\nu-1)(\nu+1)}
\begin{bmatrix}
\nu\, – 1 & -\nu & -\nu \\
-\nu & \nu\, – 1 & -\nu \\
-\nu & -\nu & \nu\, – 1
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}
式(2)に逆行列を代入して$\sigma_{xx}$に関して計算すると、
\begin{eqnarray}
\sigma_{xx} &=& \ff{(\nu-1)E}{(2\nu-1)(\nu+1)}\varepsilon_{xx} \,-\, \ff{\nu E}{(2\nu-1)(\nu+1)}(\varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz}) \EE
&=& \ff{E}{(2\nu-1)(\nu+1)}\Big\{(2\nu-1)\, – \,\nu\Big\}\varepsilon_{xx} \,-\, \ff{\nu E}{(2\nu-1)(\nu+1)}(\varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz}) \EE
&=& \ff{E}{1+\nu}\varepsilon_{xx} + \ff{\nu E}{(1-2\nu)(1+\nu)}(\varepsilon_{xx}+\varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz}) \EE
\end{eqnarray}
となります。この式を簡単にするため、次のようなラメの定数を導入します。
\begin{eqnarray}
\lambda &=& \ff{\nu E}{(1-2\nu)(1+\nu)} \EE
\mu &=& \ff{E}{2(1+\nu)}
\end{eqnarray}
ラメの定数を使って$\varepsilon_{xx}$を表すと、
\begin{eqnarray}
\sigma_{xx} &=& 2\mu \varepsilon_{xx} + \lambda(\varepsilon_{xx}+\varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz})
\end{eqnarray}
となります。
$\varepsilon_{yy}, \varepsilon_{zz}$も同様に計算すると、
\begin{eqnarray}
\sigma_{yy} &=& 2\mu \varepsilon_{yy} + \lambda e \EE
\sigma_{zz} &=& 2\mu \varepsilon_{zz} + \lambda e
\end{eqnarray}
となります。ただし、$e = \varepsilon_{xx}+\varepsilon_{yy} + \varepsilon_{zz}$(体積ひずみ)とします。
以上より、等方弾性体のフックの法則は次のように表せます。
※せん断ひずみとせん断応力の間に成立する関係は、最初に紹介したせん断変形のフックの法則と同じです。
体積弾性率
体積$V$の弾性体が応力(圧力)$p$を受けて、$V+\D V$に変形したとします。
このとき、圧力と体積変化の関係を考えましょう。
ひずみの定義を三次元にも拡張すると、体積ひずみ$e$は$\DL{\ff{\D V}{V}}$と表せます。
比例定数を$\kappa$(カッパ)として、圧力と体積ひずみは次のように結びつきます。
\begin{eqnarray}
p = -\kappa \ff{\D V}{V}
\end{eqnarray}
この比例定数のことを体積弾性率と呼びます。
※ $p$が正のとき、$\D V$は負となるので、式にマイナスが付きます。
弾性力学の準備
さらに発展的な内容になります。等方弾性体でない場合にフックの法則はどうなるか考えましょう。
一般的化したフックの法則は次のように表せます。
$C_{ijkl}$はテンソルと呼ばれる係数です。(弾性係数テンソル)
この式は、アインシュタインの縮約記法に従って記述しています。
また、$i,j,k,l$ は $1$ から $3$ までの範囲で動くことを暗黙の了解としています。
一般化フックの法則を具体的に書き下すと、次のようになります。
\begin{eqnarray}
\begin{bmatrix}
\sigma_{11} \\
\sigma_{22} \\
\sigma_{33} \\
\tau_{12} \\
\tau_{13} \\
\tau_{21} \\
\tau_{23} \\
\tau_{31} \\
\tau_{32} \\
\end{bmatrix} =
\begin{bmatrix}
C_{1111} & C_{1122} & C_{1133} & C_{1112} & C_{1113} & \cdots & C_{1132} \\
C_{2211} & C_{2222} & C_{2233} & C_{2212} & C_{2213} & \cdots & C_{2232} \\
\vdots & \vdots & \vdots & & & \ddots & \vdots \\
C_{1211} & C_{1222} & C_{1233} & C_{1212} & C_{1213} & \cdots & C_{1232} \\
\vdots & \vdots & \vdots & & & \ddots & \vdots \\
C_{3211} & C_{3222} & C_{3233} & C_{3212} & C_{3213} & \cdots & C_{3232}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\varepsilon_{11} \\
\varepsilon_{22} \\
\varepsilon_{33} \\
\gamma_{12} \\
\gamma_{13} \\
\gamma_{21} \\
\gamma_{23} \\
\gamma_{31} \\
\gamma_{32} \\
\end{bmatrix} \tag{3}
\end{eqnarray}
弾性体に働く応力と添え字の対応関係は次のようになっています。
また、$x$軸を$x_1$軸、$y$軸を$x_2$軸、$z$軸を$x_3$軸としています。
式(3)には81個もの弾性定数 $C_{ijkl}$ が登場します。
ここで、部材が静止しているという条件を加えると、応力とひずみの対称性が使え、
($\sigma_{ij} = \sigma_{ji}, \, \varepsilon_{kl} = \varepsilon_{lk} $)弾性定数に関しては $C_{ijkl} = C_{jikl}, \,C_{ijkl} = C_{ijlk}$ が成立します。
この結果、独立な弾性係数は$36$個まで減ります。
さらに、ひずみとエネルギの関係を定める式から、$C_{ijkl} = C_{klij}$ が成立します。
つまり、$C_{1122} = C_{2211}$となり、独立な弾性係数は$21$個まで減ります。
\begin{eqnarray}
\begin{bmatrix}
\sigma_{11} \\
\sigma_{22} \\
\sigma_{33} \\
\tau_{12} \\
\tau_{23} \\
\tau_{31} \\
\end{bmatrix} =
\begin{bmatrix}
C_{1111} & C_{1122} & C_{1133} & C_{1112} & C_{1123} & C_{1131} \\
& C_{2222} & C_{2233} & C_{2212} & C_{2223} & C_{2231} \\
& & C_{3333} & C_{3312} & C_{3323} & C_{3331} \\
& & & C_{1212} & C_{1223} & C_{1231} \\
& & & & C_{2323} & C_{2331} \\
sym. & & & & & C_{3131} \\
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\varepsilon_{11} \\
\varepsilon_{22} \\
\varepsilon_{33} \\
\gamma_{12} \\
\gamma_{23} \\
\gamma_{31} \\
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}
これが、異方性材料の一般的なフックの法則になります。($sym.$は行列が対称であることを表します。)
最も一般的な異方性を持つ場合であっても、$21$個の弾性定数により応力とひずみの関係が規定できると言えます。
※ 等方弾性体であれば、さらに弾性定数が9個まで減ります。
具体的な導出の過程は省略しますが、各座標軸に関して180°回転させた場合の弾性行列を等しいと置くことで計算できます。
計算結果は次のようになります。
\begin{eqnarray}
\begin{bmatrix}
\sigma_{11} \\
\sigma_{22} \\
\sigma_{33} \\
\tau_{12} \\
\tau_{23} \\
\tau_{31} \\
\end{bmatrix} =
\begin{bmatrix}
C_{1111} & C_{1122} & C_{1133} & 0 & 0 & 0 \\
& C_{2222} & C_{2233} & 0 & 0 & 0 \\
& & C_{3333} & 0 & 0 & 0 \\
& & & C_{1212} & 0 & 0 \\
& & & & C_{2323} & 0 \\
sym. & & & & & C_{3131} \\
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\varepsilon_{11} \\
\varepsilon_{22} \\
\varepsilon_{33} \\
\gamma_{12} \\
\gamma_{23} \\
\gamma_{31} \\
\end{bmatrix}
\end{eqnarray}