落下してきた物体が衝突すると、その物体を受け止めた部材には落下物体の重量以上の荷重が働きます。
落下によるエネルギーが加わるため、衝突された物体には、落下物体の重さ以上の荷重が働くことになるのです。
このような荷重のことを材料力学では衝撃荷重と呼びます。
今回は、衝撃荷重を導出する過程について具体的に解説していきます。
衝撃荷重とエネルギー保存則
まずは最も単純な状況を考えます。
図のように、皿の付いたばねの上に、質量$m$の物体が高さ$h$の距離から落下してきて、衝突すると、衝撃を受けてばねは変形します。
衝撃によりばねが$\lambda$(ラムダ)変形したとすると、その変形によりばねには、
\begin{eqnarray}
U_1 = \ff{1}{2}k\lambda^2
\end{eqnarray}
のエネルギーが蓄えられます。ただし、ばねのばね定数を$k$とします。
この変形が質量$m$の物体の落下による衝撃によるものだとすると、その位置エネルギーの変化は、
\begin{eqnarray}
U_2 = mg(h+\lambda)
\end{eqnarray}
と表せます。力学的エネルギー保存則より、$U_1=U_2$となるので、以下の関係式が成立します。
\begin{eqnarray}
U_1 &=& U_2 \EE
\ff{1}{2}k\lambda^2 &=& mg(h+\lambda) \tag{1}
\end{eqnarray}
ここで、衝撃荷重を$F$とすると、フックの法則より$F=k\lambda$と表せるので、式(1)は次のように変形でき、
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}\ff{F^2}{k} = mg\left(h+\ff{F}{k}\right) \EE
\therefore\,\, F^2\,- 2mgF \,-2khmg = 0
\end{eqnarray}
と二次方程式を導出することができました。二次方程式を解くと、このように$F$を導出することができます。
\begin{eqnarray}
F = mg\left( 1\pm\sqrt{1+\ff{2kh}{mg}}\,\, \right)
\end{eqnarray}
計算結果から明らかなように、ばねの速度が$0$となるポイントが上下の二か所あるため、$F$の答えとして二通りの結果が導けます。
ただし、ばねを押し込むときの荷重が衝撃荷重としては適切なため、より大きな方を採用して、
\begin{eqnarray}
F = mg\left( 1+\sqrt{1+\ff{2kh}{mg}}\, \right)
\end{eqnarray}
これが衝撃荷重として適切であることが言えます。
衝撃荷重の式から、落下物体の質量、落下距離、ばね定数が大きいほど衝撃荷重が大きくなることが分かります。皆さんの直感と合っていたでしょうか?
棒の衝撃荷重
次に、棒に働く衝撃荷重について考察していきましょう。
長さが$l$、ヤング率$E$、断面積が$A$の棒に対して、質量$m$の物体を高さ$h$から衝突したときの衝撃荷重を計算します。
先程と同様、衝撃により棒が$\lambda$伸びたとすると、蓄えられるひずみエネルギー$U$は次のように計算できます。(→ひずみエネルギーとは?)
\begin{eqnarray}
U_1 = \ff{1}{2}P\lambda
\end{eqnarray}
ただし、衝撃荷重を$P$とします。また、衝撃荷重と伸びの関係は、$\DL{\lambda = \ff{Pl}{EA}}$なので、
\begin{eqnarray}
U_1 = \ff{P^2l}{2EA} \tag{2}
\end{eqnarray}
となります。(→棒の伸び変形量の計算)
一方、物体の位置エネルギーの変化は、
\begin{eqnarray}
U_2 &=& mg(h+\lambda) \EE
&=& mg\left(h+\ff{Pl}{EA} \right) \tag{3}
\end{eqnarray}
となります。先程と同様、力学的エネルギー保存則より式(2)と(3)を等値でき、これより衝撃荷重を次のように求められます。
\begin{eqnarray}
P = mg\left( 1+\sqrt{1+\ff{2EAh}{mgl}}\, \right) \\
\end{eqnarray}
衝撃荷重の式から、落下物体の質量、落下距離、ヤング率、断面積が大きいほど衝撃荷重が大きくなることが分かります。
意外なことに、棒の長さが長くなると衝撃荷重は小さくなることが見て取れます。また、衝撃応力は、
\begin{eqnarray}
\sigma = \ff{mg}{A}\left( 1+\sqrt{1+\ff{2EAh}{mgl}}\, \right) \\
\end{eqnarray}
と計算できます。
衝撃荷重の式から分かるように、おもりの重さ以上の大きな荷重が働くのです。そのため、衝撃を受ける部材の安全率は静荷重を受ける場合よりも大きくとるのです。
衝撃荷重について注目すべき点は、$l=0$つまり、物体を棒の台座ぎりぎりの距離から落下させた場合でも、2倍の荷重が働くことです。
このような背景があるため、機械を設置する際にはゆっくり丁寧に下ろすよう指導されるのです。
曲げ衝撃荷重
最後に、単純支持梁に働く衝撃荷重について導出していきましょう。
質量$m$の物体が高さ$h$の位置から落下し、ヤング率$E、断面二次モーメントが$I$の単純支持梁が$\delta$(デルタ)変形したとします。
衝撃荷重を$P$とすると、左端から中央までの$x$の断面には$\DL{\ff{P}{2}x}$の大きさの曲げモーメントが働きます。これより、はりに蓄えられるひずみエネルギーは、
\begin{eqnarray}
U_1 &=& \ff{1}{2EI}\int_{0}^{l}M^2\diff x \EE
&=& \ff{1}{EI}\int_{0}^{\ff{l}{2}}\left(\ff{Px}{2}\right)^2\diff x \EE
&=& \ff{1}{EI}\left[ \ff{1}{12}P^2x^3 \right]_0^\ff{l}{2} \EE
&=& \ff{P^2l^3}{96EI} \tag{4}
\end{eqnarray}
と計算できます。一方、錘の位置エネルギーの変化は、
\begin{eqnarray}
U_2 &=& mg(h+\delta) \tag{5}
\end{eqnarray}
と求められます。さて、衝撃荷重$P$による変形は、
\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{Pl^3}{48EI}
\end{eqnarray}
であることから、力学的エネルギー保存則の式は、
\begin{eqnarray}
\ff{P^2l^3}{96EI} = mg\left(h+ \ff{Pl^3}{48EI}\right)
\end{eqnarray}
となります。この式を$P$について解くと、衝撃荷重を求められます。
\begin{eqnarray}
P = mg\left( 1+\sqrt{1+\ff{96EIh}{mgl^3}}\,\, \right) \\
\end{eqnarray}
衝撃荷重の式から、落下物体の質量、落下距離、ヤング率、断面二次モーメントが大きいほど衝撃荷重が大きくなることが分かります。一方、はりの長さが長くなると衝撃荷重は小さくなることが見て取れます。
靭性と硬さ
衝撃に対する部材のねばり強さのことを靭性と言います。一方、押込みや引っかきに対する材料の変形に対する抵抗の度合い(尺度)を硬さと呼びます。
一般に、金属材料はセラミックス材料と比べて高い靭性を持ちますが、硬さはセラミックス材料の方が勝ります。(金とガラスの対比が分かりやすいでしょう)
強度と聞くと、一般に硬さを思い浮かべるでしょうが、一概にそう言えないところが材料力学の面白い所です。
例えば、ダイヤモンドは地球上で最も硬い物質の一つとして有名ですが、ハンマーで叩くなどの強い衝撃を受けるとあっさり割れてしまいます。
一方、手で簡単に曲げられる針金でも、ハンマーで叩いたところで砕けることは無く、薄くなるだけです。
設計者の立場から考えると、硬さよりも靭性を重視する方が合理的になります。
このように、用途や立場によって考える”強度”が変化するため、設計したい機械に要求される性能を良く考えて、材料を選定していくことになります。
※ 靭性と硬さは結晶の構造や原子同士の結合の強度により決まると考えられていますが、完全には解明されていません。