運動エネルギーとポテンシャルエネルギー|力学の基礎の基礎 【力学】

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物理学を学ぶ上で、最も基本的事項となるエネルギーについて解説します。

中でも、運動エネルギーポテンシャルエネルギーについて解説します。

運動エネルギーとポテンシャルエネルギーは次のように表されます。また、ポテンシャルエネルギーに関連して、保存力と呼ばれる力についても解説します。

運動エネルギーとポテンシャルエネルギー

運動エネルギー$T$

\begin{eqnarray}
T = \ff{1}{2}mv^2 \\
\end{eqnarray}

ポテンシャルエネルギー$V(\B{s})$

\begin{eqnarray}
V(\B{s}) = – \int_{A}^{B} \B{F}(\B{s’}) \cdot \diff \B{s’} \\
\,
\end{eqnarray}

保存力$\B{F}$

\begin{eqnarray}
\B{F} = -\nabla V = -\RM{grad} V \\
\,
\end{eqnarray}

※ ポテンシャルエネルギーはスカラー関数であることに注意してください。

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ジュールの実験

エネルギーについて理解するためには、エネルギーの概念について知ることが近道になります。

エネルギーについての実験の中でも代表的なジュールの実験を取り上げます。

ジュールの実験

ジュールの実験は次のような装置構成で行われました。

断熱容器に水温$T$の水を入れ、羽根車により水をかき回すような機構を取り付けます。

滑車に吊り下げた錘が徐々に落下することで羽根車が回転します。

また、水温の変化が分かるように容器には温度計が取り付けられています。

錘の質量を$M$、落下距離$h$とします。

質量と落下距離を変えて水温の変化$\D T$を精密に測定し続けた結果、ジュールは温度変化が錘の質量、落下距離に対し比例して増加することを見出しました。

すなわち、$a$を比例定数として、$\D T = aMh$となることが判明したのです。

言い換えると、質量$M$で高さ$h$の位置にある物体は、水温を$kMh$だけ上昇させる能力を持つということです。

なぜ、比例関係を持つのかについては分かりませんが、とにかく、このような能力のことをエネルギーと呼ぶことにします。

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仕事とエネルギー

理論的なことは一旦忘れ、日常生活の体験の中から物理の世界を覗いてみましょう。

仕事とは?

軽い物体と重い物体を同じ距離$h$だけ持ち上げる場合、どちらの方が大変でしょうか?

仕事の比較

実際に試せばすぐ分かるように、重い物体を持ち上げる方が大変ですし、疲れます。

また、同じ重さの物体でもより、長い距離を持ち上げる場合の方が大変なことも理解できるでしょう。

どうやら物体を持ち上げる作業の大変さは物体の重さとそれを動かす距離に比例するようです。

この経験を数式に落とし込み物理学的に取り扱えるようにしましょう。

まず、作業の大変さの度合いを仕事と呼ぶことにしましょう。

そして、仕事の大きさを$W$で表すとします。

今までの議論から$W \propto mh$となるでしょう。

今度は水平方向に物体を動かすときの仕事を考えましょう。

同じ質量の物体をスケートリンクのようなつるつるな面上で移動させる場合と、ざらざらした面上で移動させる場合でどちらの方が大きな仕事が必要になるでしょうか。

この場合、ざらざらな面の方がより大きな仕事が必要になることは直感的に理解できると思います。

質量が同じで移動距離も同じなのに大きな仕事が必要となる理由は、ざらざらな面では物体を動かすときの抵抗力が大きくなるためです。

この例から、仕事の大きさを決める要素は、質量の大小よりも移動に要する力の大小のように感じられます。

この予想を裏付ける証拠としてばねを引張る実験が挙げられます。

ばねの引張り

ばね定数が$k_1 < k_2$の関係である二つのばねを用意します。(二つのばねの質量は同じとします)

ばねの端点を持って距離$x$だけ引張る際、ばね定数が$k_2$のばねの方がより大きな仕事が必要になります。

このことから、ばね定数が$k_2$である方がより大きな仕事となるような式の形でなければならないと判断できます。

さて、ばね定数の違いにより変わるのは変形に要する力の大きさのため、仕事の大きさを決めるのが力の大小である、という予想を支持する結果であることが分かります。

つまり、質量の大小よりも、移動に要する力の大小が仕事の大きさを決める決定的な要因になるようです。

力の大きさを$F$、移動させる距離を$x$として、仕事の大きさについて改めて考えると、これらには比例関係があり、$W \propto Fx$となるようです。

つまり、比例係数を$a$として仕事の大きさを$W = aFx$と表せることが分かりました。

このままでは不便なため、$a=1$として仕事の大きさを次のように定義しましょう。

仕事の大きさ

\begin{eqnarray}
W = Fx \\
\,
\end{eqnarray}

エネルギーとは?

仕事という物理量をめでたく定義できたので、仕事についてより深く考えましょう。

先ほどに引き続き、ばねの伸びについて検討します。

伸びた状態で固定したばねを用意し、これに物体をつなげた装置を作ります。

この装置のばねの固定を解除すると、つながれた物体はばねに引張られて移動します。

不思議なことに外から力を加えたわけでもないのに物体が移動しました。

この実験を詳細に検討すると、固定する前にばねにした仕事と実験開始後にばねが物体にした仕事は同じになることが判明しました。

どうやらばねにした仕事は保存されているようです。

仕事が保存されていたため、その分の仕事を物体に対して行うことができたのです。

しかし、ばねが固定された状態では実際の仕事として観察できないため、仕事と呼ぶことに抵抗感があります。

言うなれば、ばねに蓄えられた仕事と表現するべきところですが、もっとエレガントに蓄えれた状態の仕事のことをエネルギーと呼ぶことにしましょう。

より一般的にエネルギーという用語を表すならば、『仕事をする能力』と表現できます。

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仕事と内積の関係

仕事の大きさは、力の大きさと移動距離の積によって決まることが分かりました。

より一般的な状態について考えます。

大きさは同じでも、向きが異なる力を加えて水平方向に$x$だけ移動させる状況を考えます。(物体は垂直方向に移動しないように固定されているとします)

物体に働く力の向きによる仕事

さて、両方の仕事の大きさは同じでしょうか?

直感に従えば二つの仕事の大きさは異なると判断できます。そう判断できる理由を理論的に説明すると、水平方向に働く正味の力の大きさが異なるためです。

ここで、力がベクトル分解できると仮定します。すると、力が水平面に対して $\theta$ だけ角度がついた方向を向いているとき、水平方向の正味の力の大きさを $F\cos \theta$ と表示できます。

このことから、仕事の大きさが $W = Fx\cos \theta$ となると結論付けられます。

この式をよく見ると、ベクトルの内積の計算式と同じであることに気付きます。

すなわち、ベクトル $\vec{a}$と$\vec{b}$の成す角が$\theta$のとき、内積を使って $\vec{a}\cdot \vec{b} = |a||b|\cos \theta$ と表せるので、仕事の大きさを

\begin{eqnarray}
W = Fx \cos \theta = \vec{F}\cdot \vec{x}
\end{eqnarray}

とできます。

また、ベクトルを太字で表現すると約束すると、$W = \B{F}\cdot \B{x}$とも表現できます。

【参考記事】ベクトルの記法と記号について

仕事のベクトルによる表現

\begin{eqnarray}
W = \vec{F}\cdot \vec{x} = \B{F}\cdot \B{x} \\
\,
\end{eqnarray}

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運動方程式と仕事の関係

仕事が力と距離の積であることから、力と加速度の関係を規定する運動方程式と何らかの関係を持つはずです。

この予想に基づいて、運動方程式と仕事との関係を探っていきます。

仕事と積分

基本に立ち返り、$s$軸に沿って、$s_a$から$s_b$まで移動する質点について考えます。

さらに、始点から終点までに働く力が一定でないとします。

この場合の仕事について計算しましょう。

各微小区間での仕事

まず、$s_a$から$s_b$までの道筋を$n$等分して、$n$個の微小区間に分割します。

各微小区間内では力が一定であると近似できるので、$i$番目の区間を通過する間にされた仕事$\D W_i$は、

\begin{eqnarray}
\D W_i = F_i \D s_i
\end{eqnarray}

とできます。

物体が$s_a$から$s_b$に移動する間にされた仕事$W_{ab}$は、微小区間での仕事の和となるため、次のように表せます。

\begin{eqnarray}
W_{ab} = \sum_{i=1}^n F_i \D s_i
\end{eqnarray}

$W_{ab}$の正確な値は、微小区間を限りなく小さくし、微小区間の数が無限大となる極限のため、次のように積分により表現できます。

\begin{eqnarray}
W_{ab} &=& \lim_{n\to \infty}\sum_{i=1}^n F_i \D s_i \EE
&=& \int_{s_a}^{s_b} F(s) \diff s \EE
&=& \int_{s_a}^{s_b} \B{F}(s)\cdot \diff \B{s}
\end{eqnarray}

仕事の一般式

\begin{eqnarray}
W &=& \int_{s_a}^{s_b} \B{F}(s)\cdot \diff \B{s} \\
\,
\end{eqnarray}

この仕事の計算式は次のような一般の場合でも成立します。

軌跡と仕事

仕事と運動エネルギー

仕事は力と移動距離の積で表されますが、力の大きさを直接測定することは難しく、先ほどの一般式は実用的ではありません。

一方、速度は比較的測定しやすい物理量です。

そこで、仕事を速度によって表す方法について検討しましょう。

まず、力と速度の関係に関しては運動方程式から次のように結び付けられました。

\begin{eqnarray}
F(x) = m\ff{\diff^2 x}{\diff t^2} = m\ff{\diff v}{\diff t}
\end{eqnarray}

少々技巧的になりますが、この式の両辺に$v = \DL{\ff{\diff x}{\diff t}}$を掛け、次のように変形していきます。

\begin{eqnarray}
F(x)\ff{\diff x}{\diff t} &=& m\ff{\diff v}{\diff t}\ff{\diff x}{\diff t} = mv\ff{\diff}{\diff t}\left( \ff{\diff x}{\diff t} \right) \EE
&=& mv\ff{\diff v}{\diff t} \EE
&=& \ff{1}{2}m\cdot \ff{\diff }{\diff t}(v^2) \EE
\therefore \, F(x)\ff{\diff x}{\diff t} &=& \ff{\diff }{\diff t}\left( \ff{1}{2}mv^2 \right) \EE
\end{eqnarray}

これを変形して、

\begin{eqnarray}
F(x)\diff x &=& \ff{1}{2}mv^2 = \diff W\EE
\end{eqnarray}

とできます。

この式は、微小区間の移動に物体にされた仕事$\diff W$がその区間での速度を使って表せることを示します。

見方を変えれば、質量$m$で速度$v$の物体は$\DL{\ff{1}{2}mv^2}$の仕事をする能力を持つと言えます。すなわち、エネルギーに分類される物理量であることが分かります。

このエネルギーは物体の運動によって生じるため運動エネルギーと呼ぶことにしましょう。

さて、質点が点$x_a$から$x_b$まで移動し、この移動が時刻$t_a$から$t_b$にかけて行われたとします。

すると、次のように積分計算ができます。

\begin{eqnarray}
W = \int_{x_a}^{x_b} F(x)\diff x &=& \int_{t_a}^{t_b} \ff{1}{2}mv^2 \EE
&=& \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 \,- \ff{1}{2}mv_{t_a}^2 \tag{1} \EE
\end{eqnarray}

$\DL{W = \int_{x_a}^{x_b} F(x)\diff x}$については、$x_a$から$x_b$まで移動する間に力が物体にした仕事を表します。

一方、右辺は時刻$t_a$から$t_b$での運動エネルギーの変化を表します。

これより、『物体に働く力がした仕事$W$は、物体の運動エネルギーの増加分に等しい』ことが示されます。

予想通り、仕事は運動方程式と深い関係を持っていました。さらに、運動エネルギーという新たな物理量の発見にもつながりました。

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運動エネルギーとポテンシャルエネルギー

天下り的ですが、以下のように$V(x)$なる関数を定義します。

\begin{eqnarray}
V(x) = – \int_{x_0}^{x} F(x)\diff x \tag{2}
\end{eqnarray}

$V(x)$が位置座標$x$のみを変数とする関数であることに注意してください。

$V(x)$の値が物体の位置のみで決まるため、$V(x)$のことを力$F(x)$の位置エネルギーまたはポテンシャルエネルギーと呼びます。

$x_0$はポテンシャルエネルギーを測る基準点であり、$V(x)$は$x_0$から$x$までのポテンシャルエネルギーを表します。

ポテンシャルエネルギーが負の仕事として表現される理由について解説します。

まず、前提となる重要な約束事として、物理ではエネルギーが減る方向に力が働いたとき物体は仕事をしたと言い、エネルギーが減る方向に力が働いたとき物体は仕事をしたと言います。

また、仕事をしたときに符号を正、仕事をされたときに符号を負で表すことにします。

ややこしいですが、仕事をされたとき物体の持つエネルギーは増え、反対に物体が仕事をしたとき物体の持つエネルギーは減ります。

様々なポテンシャルエネルギーがありますが、最もイメージし易い重力によるポテンシャルエネルギーを例に考えましょう。

まず、座標軸を鉛直方向上向きに取ります。

すると、重力は下向きに働く力であるため$-mg$と表されることになります。

このとき、基準位置$x_0$に対して上方の$x$に移動すると、正方向に動いているため物体は仕事をされたことになります。

仕事は力と移動距離の積であるため、素直に計算すると$-mg(x-x_0) < 0$となります。

しかしながら、エネルギーの観点で見るとポテンシャルエネルギーは増加したため、符号は正でなければなりません。

従って、あらかじめマイナスを掛けて正にすることで対応します。

一方、基準位置より下方に移動した場合は$-mg(x-x_0) > 0$となりますが、定義上負でなければならいので、この場合もマイナスを掛ける必要があることが分かります。

座標軸を鉛直下向きに向けた場合も同様の議論が成立するため、あらかじめマイナスを掛ける必要があります。

以上のことから、重力によるポテンシャルエネルギーを計算する際はあらかじめ負を掛ける必要があることが分かります。

重力以外のばねによる弾性力や静電気力なども、重力と同じ性質を持つため、これらのポテンシャルエネルギーを計算する際は負を掛ける必要があるのです。

ポテンシャルエネルギーの定義を使って式(1)を変形すると、

\begin{split}
\int_{x_a}^{x_b} F(x)\diff x &= \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 \,- \ff{1}{2}mv_{t_a}^2 = -\Big( V(x_b) \,- V(x_a) \Big) \EE
&\therefore \, \ff{1}{2}mv_{t_a}^2 + V(x_a) = \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 + V(x_b)
\end{split}

となります。

例えば重力によるポテンシャルエネルギーは$mgx$(座標軸は鉛直上向きを正とする)ですが、この場合は、

\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}mv_{t_a}^2 + mgx_a &=& \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 + mgx_b
\end{eqnarray}

であり、ばねによる位置エネルギーは$\DL{\ff{1}{2}kx^2}$なので、

\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}mv_{t_a}^2 + \ff{1}{2}kx_a^2 &=& \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 + \ff{1}{2}kx_b^2
\end{eqnarray}

となります。

さて、運動エネルギー$T$と位置エネルギー$V$の和を力学的エネルギーと呼ぶことにすると、この関係式が力学的エネルギーは時間に依らず一定に保たれることを示していることが分かります。

※ 力学的エネルギーが保存されるのは$\B{F}$が保存力の場合です。

力学的エネルギー保存

外力が保存力の場合、力学的エネルギーは保存される

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保存力とは?

ポテンシャルエネルギーの定義式(式(1))の両辺を$x$で微分すると力$F(x)$はポテンシャルエネルギーの微分として、次のように表せます。

\begin{eqnarray}
F(x) = \,- \ff{\diff V(x)}{\diff x}
\end{eqnarray}

さらに、ポテンシャルエネルギーの微分として表される力のことを保存力と呼びます。

保存力とは?

ある点からある点までの経路に依らず一定となるような力を保存力と呼ぶ。

保存力 $\B{F}$ とポテンシャルエネルギー $V$ の間には次のような関係がある。

\begin{eqnarray}
\B{F} = -\nabla V = -\RM{grad} V \\
\,
\end{eqnarray}

保存力には、質点が任意の点$\RM{A}$から$\RM{B}$まで移動する経路に依らず、力が行う仕事が一定になるという重要な性質があります。

保存力と経路の関係

保存力の例とし、万有引力・静電気力・弾性力が挙げられます。

また、この式はポテンシャルエネルギーが小さくなる方向に力が働くことを示します。

ポテンシャルエネルギーは斜面に例えることができ、ポテンシャルエネルギーが減少する方向の斜面の傾きに相当する力が物体に働く様子として描写できます。

位置エネルギーと力の働く方向

この考えを拡張し、三次元の場合にポテンシャルエネルギーを拡張して考えてみましょう。

まず、ポテンシャルエネルギーが位置ベクトル$\B{r}(x, y,z)$により$V(\B{r})$と表されるとします。

そして、ポテンシャルエネルギーが下図のように上に凸な曲面となっているとしましょう。

このようなポテンシャルエネルギーの分布を持つ空間では、物体はこの曲面の接戦方向に沿って下方に落下していくことが見て取れます。

ポテンシャル曲面と力

具体的には、位置$\B{r}$の位置にある物体には、

\begin{eqnarray}
\B{F} = \ff{\del V(\B{r})}{\del \B{r}} = \left( -\ff{\del V(\B{r})}{\del x}, -\ff{\del V(\B{r})}{\del y}, -\ff{\del V(\B{r})}{\del z} \right)
\end{eqnarray}

の力が働き、$x, y, z$軸の各方向に働く力の成分を$F_x, F_y, F_z$として各軸方向の単位ベクトルを$\B{i}, \B{j}, \B{k}$とすると保存力は、

\begin{eqnarray}
\B{F} &=& F_x \B{i} + F_y \B{j} + F_z \B{k} \EE
&=& -\left( \ff{\del V}{\del x}\B{i} + \ff{\del V}{\del y}\B{j} + \ff{\del V}{\del z}\B{k} \right) \EE
&=& -\nabla V = -\RM{grad} V
\end{eqnarray}

と表せることが分かります。

【参考記事】$\nabla$(ナブラ)・$\RM{grad}$(グラディエント)とは?

力が保存力となるための必要十分条件

力が保存力となるための必要十分条件

力 $\B{F}$ が保存力となるための必要十分条件は以下で与えられる。

\begin{split}
\nabla \times \B{F} =\RM{rot}\B{F}= \B{0}
\end{split}

ただし、$\RM{rot}$ はローテーションを表す。

保存力には経路に依らず仕事が一定になるという性質を持ちます。そして、力が保存力となるための必要十分条件は上のように与えられます。このようになる理由について説明します。まずは十分条件から検討します。

移動経路

三次空間での質点の移動を考えます。

上図のような微小な直方体を考え、赤線と青線の経路で移動させたときの仕事について考えます。

$xy$平面上の二辺の長さが$\diff x, \diff y$の長方形について、$(x,y,z)$から$(x+\diff x, y+\diff y , z)$までの二つの経路における位置エネルギーを計算します。

微小経路の仕事

赤線の経路についての位置エネルギーは、次のように計算できます。(スタート地点での力が一定であると近似し計算しています)

\begin{eqnarray}
V_1(\B{r}) = \,-F_x(x,y,z)\diff x \,- F_y(x+\diff x,y,z)\diff y
\end{eqnarray}

また、青線の経路についての位置エネルギーは、次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
V_2(\B{r}) = \,-F_y(x,y,z)\diff y \,- F_x(x,y+\diff y,z)\diff y
\end{eqnarray}

$\B{F}$が保存力であるとき、二つの経路の位置エネルギーは等しいため、$V_1 = V_2$となります。

したがって、

\begin{eqnarray}
V_1(\B{r}) &=& V_2(\B{r})\EE
\,-F_x(x,y,z)\diff x \,- F_y(x+\diff x,y,z)\diff y &=& \,-F_y(x,y,z)\diff y \,- F_x(x,y+\diff y,z)\diff y \EE
\end{eqnarray}

となり、これを整理すると、

\begin{split}
&\Big( F_x(x,y+\diff y,z) \,- F_x(x+\diff x,y,z) \Big)\diff x \\
&\qquad\qquad \,- \Big( F_y(x+\diff x,y,z) \,- F_y(x,y,z) \Big)\diff y = 0
\end{split}

となります。

偏微分の定義より、上式は次のように変形できます。

\begin{split}
\ff{\del F_x}{\del y}\diff x \diff y \,- \ff{\del F_y}{\del x} \diff x \diff y &= 0 \EE
\therefore \, \ff{\del F_x}{\del y} \,- \ff{\del F_y}{\del x} &= 0
\end{split}

その他の経路についても同様に計算でき、

$$
\left\{
\begin{split}
& \ff{\del F_y}{\del z} \,- \ff{\del F_z}{\del y} = 0 \EE
& \ff{\del F_z}{\del x} \,- \ff{\del F_x}{\del z} = 0 \EE
& \ff{\del F_x}{\del y} \,- \ff{\del F_y}{\del x} = 0 \EE
\end{split}
\right. \tag{a}
$$

となります。これはベクトル解析の表記に従って、

\begin{split}
\nabla \times \B{F} = \B{0}
\end{split}

と表すことができます。

この結果から、力$\B{F}$が保存力であるための十分条件は$\nabla \times \B{F} = \B{0}$であることが示されました。($\nabla \times \B{F} = \B{0} $ ならば$\B{F}$は保存力)

一方、$\B{F}$が保存力ならば$\B{F} = -\nabla V$が成り立ち、これは必要条件になります。

$\B{F} = -\nabla V$という条件が、$\B{F}$が保存力であるための必要十分条件であることを示しましょう。

まず、

\begin{eqnarray}
\B{F} &=& (F_x, F_y, F_z) \EE
&=& \left( -\ff{\del V}{\del x}, -\ff{\del V}{\del y}, -\ff{\del V}{\del z} \right)
\end{eqnarray}

であることに注意し、式(a)の左辺に代入して計算すると、

\begin{split}
\ff{\del F_y}{\del z} \,- \ff{\del F_z}{\del y} &= \ff{\del }{\del z}\left( -\ff{\del V}{\del y} \right) \,- \ff{\del }{\del y}\left( -\ff{\del V}{\del z} \right) \EE
&= -\ff{\del^2 V}{\del y \del z} + \ff{\del^2 V}{\del y \del z} = 0 \EE
\ff{\del F_z}{\del x} \,- \ff{\del F_x}{\del z} &= \ff{\del }{\del x}\left( -\ff{\del V}{\del z} \right) \,- \ff{\del }{\del z}\left( -\ff{\del V}{\del x} \right) \EE
&= -\ff{\del^2 V}{\del x \del z} + \ff{\del^2 V}{\del x \del z} = 0 \EE
\ff{\del F_x}{\del y} \,- \ff{\del F_y}{\del x} &= \ff{\del }{\del y}\left( -\ff{\del V}{\del x} \right) \,- \ff{\del }{\del x}\left( -\ff{\del V}{\del y} \right) \EE
&= -\ff{\del^2 V}{\del x \del y} + \ff{\del^2 V}{\del x \del y} = 0 \EE
\end{split}

となり、計算結果が$0$となることが分かりました。

つまり、$\B{F} = -\nabla V$という条件は十分条件も満たすと言えます。

したがって、$\B{F}$が保存力でのあるための必要条件は$\B{F} = -\nabla V$であると言えます。

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