カテナリー曲線の導出と変分法との関係【静力学】【解析力学入門】

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糸や鎖のようなひもの両端を固定して、垂らすと特有の形状となります。

たとえば、頭上を通る電線は重力により引かれて、この形状となります。

さて、この形状を専門的にはカテナリー曲線と呼び、電線の他に吊り橋や富士山の裾野にカテナリー曲線を見出すことができます。

このように、カテナリー曲線とは重力が生み出す「形」の一つで、放物線のような形状となります。

カテナリー曲線

$a$を定数として、カテナリー曲線は次のように表される。

\begin{eqnarray}
y =a \cosh x\\
\,
\end{eqnarray}

この曲線は自然に吊した状態での、力学的に最も安定な形であり、サグラダファミリアのような有名な建築にも応用されています。

今回はカテナリー曲線の導出過程について解説します。また、変分法との関わりについも概観します。

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糸の素片での力の釣り合い

重力により垂れ下がっている糸について考えます。このときの糸の形状を求めます。

なお、糸は振動せず静止しているとします。

いきなり全体の様子を求めることは難しいため、糸の微小部分についての力の釣り合いを考えましょう。

糸の素片に働く力

$x-y$座標(デカルト座標)を設定し、図のような微小部分(素片)での力の釣り合いを考えます。

糸の密度を$\rho$(ロー)とすると、長さ$\diff l$の素片には$(\rho \diff l) g$の重力が働きます。

$\theta(x)$の変化を追うことで、形状を求められるので、$\theta(x)$について導出することが目標になりますが、まずは静力学のセオリー通り、釣り合いを考えます。

さて、素片の左右には張力が働いており、それぞれを$T(x), T(x+\diff x)$とおきます。

舞台設定が整ったので、$x$軸方向と$y$軸方向それぞれの力の釣り合いについて考えましょう。まず、$x$軸方向(水平方向)での力の釣り合いを考えます。

\begin{split}
– T(x)\cos \theta(x) + T(x+\diff x)\cos \theta(x+\diff x) = 0
\end{split}

積の微分公式を思い出すと、上式は次のように変形でき、

\begin{split}
\,- \ff{\diff}{\diff x}\Big( T(x)\cos \theta(x) \Big) = 0
\end{split}

したがって、

\begin{split}
T(x)\cos \theta(x) &= const. \EE
&= T(0)\cos \theta(0) \EE
&= T_0
\end{split}

となり、$T(x)\cos \theta(x)$は一定となることが分かります。

ここで、$\theta = 0$での張力を$T_0$とすると、全ての位置において糸に加わる張力を$T_0$とすることができます。次に、$y$軸方向(鉛直方向)での力の釣り合いを考えます。

\begin{split}
0 &= -(\rho \diff l) g \,- T(x)\sin \theta(x) \EE
&\qquad\qquad + T(x+\diff x)\sin \theta(x+\diff x) \EE
T(x)\sin \theta(x) + \rho g \diff l &= T(x+\diff x)\sin \theta(x+\diff x)
\end{split}

両辺に$\cos \theta(x)$をかけ、$x$軸に関しての釣り合い式の結果を適用すると、

\begin{split}
&T(x)\cos \theta(x)\sin \theta(x) + \rho g \diff l\cos \theta(x) = T(x+\diff x)\cos \theta(x)\sin \theta(x+\diff x) \EE
&T(x+\diff x)\cos \theta(x+\diff x)\sin \theta(x) + \rho g \diff l\cos \theta(x) = T(x+\diff x)\cos \theta(x)\sin \theta(x+\diff x) \EE
\end{split}

とできて、($T(x)\cos \theta(x) = T(x+\diff x)\cos \theta(x+\diff x)$)さらに整理すると、

\begin{split}
&\rho g \diff l\cos \theta(x) = T(x+\diff x)\sin \Big(\theta(x+\diff x) \,- \theta(x) \Big) \EE
&\rho g \diff l\cos \theta(x) = T(x+\diff x)\sin \left( \ff{\diff \theta(x)}{\diff x} \diff x \right)
\end{split}

となります。

$\rho g \diff l$に関しては、$\diff l = \sqrt{(\diff x)^2 + (\diff y)^2}$であり、$\DL{\ff{\diff y}{\diff x}} = \tan \theta (x)$とできるで、

\begin{split}
\rho g \diff l &= \rho g \sqrt{(\diff x)^2 + (\diff y)^2} \EE
&= \rho g \sqrt{1 + \left(\ff{\diff y}{\diff x} \right)^2}\,\diff x \EE
&= \rho g \sqrt{1 + \tan^2 \theta(x)}\, \diff x \EE
&= \rho g \cdot \ff{\diff x}{\cos \theta (x)}
\end{split}

となります。また、$T(x+\diff x)$に関しては、微分の公式を利用することで次のように近似できます。

\begin{split}
\ff{\diff T(x)}{\diff x} &\NEQ \ff{T(x+\diff x) \,- T(x)}{\diff x} \EE
\therefore\, T(x+\diff x) &\NEQ T(x) + \ff{\diff T(x)}{\diff x}\diff x
\end{split}

以上より、$\DL{\ff{\diff \theta(x)}{\diff x}}$は

\begin{split}
\rho g \diff x &= T(x+\diff x)\sin \left( \ff{\diff \theta(x)}{\diff x} \diff x \right) \EE
&\NEQ \left( T(x) + \ff{\diff T(x)}{\diff x}\diff x \right) \cdot \left( \ff{\diff \theta(x)}{\diff x} \diff x \right) \EE
&\NEQ T(x)\diff \theta(x) \EE
&\quad \therefore \, \ff{\diff \theta(x)}{\diff x} \NEQ \ff{\rho g}{T(x)}
\end{split}

と求められます。

$\theta(x)$の微分方程式

\begin{split}
\ff{\diff \theta(x)}{\diff x} = \ff{\rho g}{T(x)} \\
\,
\end{split}

糸の素片の角度変化$\theta(x)$に関する微分方程式を求めることができました。

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微分方程式の計算

導出した微分方程式を具体的に解いていきましょう。まず、$\DL{\ff{\diff y}{\diff x} = \tan \theta (x)}$でした。これをさらに$x$で微分すると次のようにできます。

\begin{split}
\ff{\diff^2 y}{\diff x^2} = \ff{1}{\cos^2\theta (x)}\ff{\diff \theta(x)}{\diff x} \\
\end{split}

これに、先ほど導出した微分方程式を代入すると、

\begin{split}
\ff{\diff^2 y}{\diff x^2} = \ff{1}{\cos^2\theta (x)}\ff{\rho g}{T(x)} \\
\end{split}

となり、$T(x)\cos\theta(x) = T_0$、$\DL{\ff{1}{\cos\theta(x)} = \sqrt{1+\tan^2\theta(x)}}$ であることを利用すると、

\begin{split}
\ff{\diff^2 y}{\diff x^2} = \ff{\rho g}{T_0}\sqrt{1+\tan^2\theta(x)} \\
\end{split}

となり、さらに整理すると

\begin{split}
\ff{\diff^2 y}{\diff x^2} = \ff{\rho g}{T_0}\sqrt{1+\left( \ff{\diff y}{\diff x} \right)^2} \\
\end{split}

となります。この微分方程式を解いて行きましょう。まず、$\DL{\ff{\diff y}{\diff x} = Y}$とおくとこの方程式は、

\begin{split}
\ff{\diff Y}{\diff x} = \ff{\rho g}{T_0}\sqrt{1+Y^2} \\
\end{split}

とできて、次のように変形を行い両辺を積分します。

\begin{eqnarray}
\int\ff{\diff Y}{\sqrt{1+Y^2}} = \int\ff{\rho g}{T_0}\diff x \tag{1}
\end{eqnarray}

左辺の積分については、$\DL{Y=\ff{e^{-t} \,- e^t}{2}}$と置換することで、$\DL{\diff Y = \ff{e^{-t} + e^t}{2}\diff t}$となるので、

\begin{split}
\int\ff{\diff Y}{\sqrt{1+Y^2}} &= \int\ff{1}{\sqrt{1+\left( \ff{e^{-t} \,- e^t}{2} \right)^2}}\ff{e^{-t} + e^t}{2}\diff t \EE
&= \int\ff{2}{ e^{-t} + e^t }\ff{e^{-t} + e^t}{2}\diff t \EE
&= t + C \EE
\end{split}

とできて、右辺の積分を実行すると、式(1)は、

\begin{split}
t = \ff{\rho g}{T_0}x + C
\end{split}

と解くことができます。

以上より、$\DL{\ff{e^{-t} \,- e^t}{2}=\sinh t}$(ハイパボリックサイン)と表記すると約束すると、$\DL{\ff{\diff y}{\diff x}}$は、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff y}{\diff x} = Y = \sinh \left( \ff{\rho g}{T_0}x + C \right) \tag{2}
\end{eqnarray}

と表せます。さて、$x=0$にて、$y= y_0, \DL{\ff{\diff y}{\diff x} = 0}$であるとすると、

\begin{split}
0 = \sinh \left(C \right)
\end{split}

となって、$C=0$となります。式(2)をさらに積分すると、

\begin{eqnarray}
y = \ff{T_0}{\rho g}\cosh \left( \ff{\rho g}{T_0}x \right) + C’
\end{eqnarray}

とできます。ただし、$\cosh t = \DL{\ff{e^{-t} + e^t}{2}} $(ハイパボリックコサイン)とします。$x=0$にて$y=y_0$であることから、$\DL{C’=y_0 \,- \ff{T_0}{\rho g}}$となります。以上より、

\begin{eqnarray}
y = y_0 + \ff{T_0}{\rho g}\left\{ \cosh \left( \ff{\rho g}{T_0}x \right) \,- 1\right\}
\end{eqnarray}

と求められます。この曲線をカテナリー曲線と呼びます。

カテナリー曲線

重力により垂れ下がった糸は、次の関数で表される曲線を描く。また、この曲線をカテナリー曲線と呼ぶ。

\begin{eqnarray}
y = y_0 + \ff{T_0}{\rho g}\left\{ \cosh \left( \ff{\rho g}{T_0}x \right) \,- 1\right\}\\
\,
\end{eqnarray}

ただし、$x=0$にて$y=y_0$、糸に働く張力を$T_0$、密度を$\rho$、$\cosh t = \DL{\ff{e^{-t} + e^t}{2}}$とする。

カテナリー曲線は懸垂曲線とも呼ばれ、重力により垂れ下がる糸や鎖が形作る曲線です。カテナリー曲線と放物線を比較すると次のようになります。

カテナリーと放物線の関係

グラフから分かるようにカテナリー曲線は放物線とは異なる曲線であることが分かります。ただし、$x=0$近傍では良く一致していることが分かります。

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変分法とカテナリー曲線

カテナリー曲線は静力学による力の釣り合いから求めることもできますが、変分法と呼ばれる手法によっても求めることができます。

具体的な解説は別の機会に譲りますが、変分法による解法は解析力学にもつながる興味深い事例です。

変分法によるカテナリー曲線の導出を簡単に説明すると、ひもの長さが一定であること、そしてひも全体のポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)が最小になるという条件を課すことで求めることができます。つまり、ひもの長さを$L$として、

\begin{eqnarray}
\int_{-a}^{a} \sqrt{1 + \left(\ff{\diff y}{\diff x} \right)^2}\,\diff x = L
\end{eqnarray}

が第一の条件であり、ひものポテンシャルエネルギー$V$に関しては、

\begin{eqnarray}
V &=& \int_C (\rho \diff l)gy \EE
&=& \rho g\int_{-a}^{a}y\sqrt{1 + \left(\ff{\diff y}{\diff x} \right)^2}\, \,\diff x
\end{eqnarray}

となり、$V$が最小となることが第二の条件となります。

これらの条件の下で、変分法を使うとカテナリー曲線を見事に導くことができます。ひもに加わる具体的な力を考えることなく、幾何学的条件とエネルギーのみの条件から形状を導出できることは驚くべきことです。

変分法による解法の大きな利点は、個々の力の釣り合いに関連する面倒なベクトル計算をすること無しに、スカラー量であるエネルギーのみを考えることで答えに辿り着けることです。

変分法は動力学にも適用することができ、解析力学と呼ばれる新たな地平を開拓する契機となりました。

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