高校で物理学を学んだとき、保存力のみが働いている場合、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和が一定になることを学んだと思います。
また、運動方程式を解くことによって軌道の形を計算できることを学びました。具体的な過程は二体問題の解法で解説しています。ただ、運動方程式から厳密な軌道を計算するのは結構めんどうですし、
大抵は厳密な軌道を求めるより、大まかな形が分かれば良い場合がほとんどです。
今回はポテンシャルエネルギーのグラフから軌道の形を予測する方法について見ていきます。
※ 中心力が保存力の場合に有効です。
系全体のエネルギー
中心力かつ保存力(万有引力のような保存的中心力)によって引かれながら運動している物体について考えましょう。
ここで言う保存的中心力は、万有引力を含む一般的な概念であると考えてください。
力の中心を極座標の原点にとります。今の場合,質点が原点の周りを回転する軌道を描くだろうことが予測されるためです。また、回転運動では極座標のほうがイメージがし易く、計算が楽になるためです。
動径ベクトル$ \boldsymbol{r} $が下図のように軌道に沿って変化するとき、
質点$m$の全エネルギー$E $は、運動エネルギー$T$とポテンシャルエネルギー$ U(r) $を用いて、次のように表せます。
さらに,角運動量を$l$とし、$ l = mr^2\dot{\theta} $ であることを利用して、
上式の右辺から$\dot{\theta}$ を消去します。計算を実行すると、次式のように整理できます。
\begin{eqnarray}
E = \frac{1}{2}m\dot{r}^2 + \frac{1}{2}\frac{l^2}{mr^2} + U(r) \tag{1}
\end{eqnarray}
式の見通しが良くなりました。→角運動量についての解説はこちら
ただ、ポテンシャルエネルギーの具体的な形が不明なので、こいつの正体を考えていきます。
運動方程式の導出
ポテンシャルエネルギーが質点の運動にどんな役割を果たしているかを見るため、運動方程式と比較する必要があります。
ということで、エネルギーから運動方程式を導出して見みましょう。
ここで、解析力学の知識を使います。
解析力学について分からない読者は、この節を読み飛ばしてもらって構いません。以下、定石通りラグランジアン$L$を求めます。
ラグランジアンは運動エネルギー$T$とポテンシャルエネルギー$U(r)$を使って、次のように書かれます。
$$ L = T-U = \frac{1}{2}m(\dot{r}^2 + r^2\dot{\theta}^2) \,- U(r) $$
運動方程式は、オイラー・ラグランジュ方程式に代入することで計算できます。
今回の場合は、次のように計算できます。(この段階で先ほど$\dot{\theta}$を消去したことが効いてきます。)
\begin{eqnarray}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \frac{\partial L}{\partial \dot{r}} \right) \,- \frac{\partial L}{\partial r} = 0
\end{eqnarray}
ここに先程の$L$を代入して、
$$ m\ddot{r} = \frac{l^2}{mr^3} + \frac{\partial U(r)}{\partial r} \tag{3} $$
となります。
運動方程式が無事導出できました。
この運動方程式について考察してみます。
まず、右辺第一項に関してですが、$ v_{\theta} = r\dot{\theta} $を用いて、次のように変形すると正体が分かります。
$$ \frac{l^2}{mr^3} = \frac{m v_{\theta}^2}{r} $$
そう、遠心力です。
次に第二項のポテンシャルエネルギーの微分は何を表しているのかと言うと、運動方程式の意味を考えれば正体が分かります。
そもそも運動方程式は加速度と力の関係を表した式でした。
今、右辺が力を表しているため、ポテンシャルエネルギーに関する微分も力を表していることが分かります。
ということで,ポテンシャルエネルギーは力と結びついていることが分かります。明示的に書けば次のようになります。($f(r)$は保存力と呼ばれる距離のみで決まる力です。)
\begin{eqnarray}
m\ddot{r} &=& \frac{l^2}{mr^3} + \frac{\partial U(r)}{\partial r} \EE
&=& \frac{l^2}{mr^3} \,- f(r)
\end{eqnarray}
ただし、$$ f(r) = – \,\DL{\frac{\partial U(r)}{\partial r}} $$
逆に、$ \DL{\frac{1}{2}\frac{l^2}{mr^2}} $も遠心力のエネルギーと言える訳です。
いよいよ本題に入ります。
動径ベクトルの取り得る範囲
軌道の形状は動径ベクトル $ \dot{r} $ の長さの時間変化によって描かれます。(変化しなければ円軌道)
そこで、式(2)の右辺の中で$ V’ = \DL{\frac{1}{2}\frac{l^2}{mr^2} + U(r)} $ と置いて、今後の議論の準備とします。
$$ E = \frac{1}{2}m\dot{r}^2 + V’ \tag{4} $$
先程の議論からポテンシャルエネルギー$U(r)$ は力と関係していることが分かりました。力$f(r)$が、仮に逆二乗の法則に従うとします。
この場合での $\dot{r}$ の変化を見ていきましょう。力が逆二乗の法則に従うため、$k$を定数として力は次のように表せます。
$$ f(r) = \frac{k}{r^2} $$
このとき、ポテンシャルエネルギー$U(r)$は次のように表せます。
$$ U(r) = -\frac{k}{r} $$
したがって、$V’$は次のような式となります。
$$ V’ = \frac{1}{2}\frac{l^2}{mr^2} – \frac{k}{r} $$
では、$V’$のグラフを$r$について描画してみましょう。このとき、$V’$のグラフは以下のようになります。
$V’$は遠心力のエネルギーとポテンシャルエネルギーの和なので、
そのグラフは、青い点線で示したグラフを足し合わせた赤い曲線となります。
全エネルギー$E$は常に一定なので、グラフ上では緑色の直線となります。
式(4)より、$\DL{\frac{1}{2}m\dot{r}^2 = E – V’}$であるので、運動エネルギー$\DL{\frac{1}{2}m\dot{r}^2}$は、緑色の直線と赤い曲線で囲まれた斜線部の範囲内で値を取ることになります。
以上のことから、動径ベクトルの取り得る値は斜線部のどれかの値であることが分かりました。
これについてより詳しく見ていきましょう。
エネルギーと動径ベクトルの関係
動径ベクトルの取り得る範囲とエネルギーのおおざっぱな関係については分かりました。
系全体のエネルギーとそのときの動径ベクトルが取り得る範囲について詳しくみましょう。
まずは、系全体のエネルギー$E_1$が$V’$と次のように1点で交わっている場合を考えます。
この交点を$r_1$とします。
図から分かるように,動径ベクトルが取り得る範囲は図の斜線部になります。また,$E_1$と$V’$が$r_1$以外と交わらないことも分かります。
つまり、動径ベクトルは$r_1$以上の大きさを常に取ることが分かります。
また、動径ベクトルの大きさは$r_1$より小さくすることが決してできないことが分かります。
このことは、質点が力の中心から距離$r_1$より内側に近づこうとしても、遠心力に負けて外側にはじき出されることを意味します。
質点が見えない壁に阻まれたように見えることから、これを遠心力の壁と呼びます。
$r$を決めると自動的に$\dot{r}$と$\dot{\theta}$が求められます。
そのため、連続的に$r$を変えてやると質点の描く軌道も計算することができます。
このときの軌道を描くと下の図のようになります。
驚くことに双曲線が描かれました。(放物線は$E = 0$の場合に相当します。)
次に系全体のエネルギーを少し減らして$E_2$としたとき、 どうなるかを考えます。
具体的には$V’$と次のように2点で交わっている場合を考えます。
また、このときの交点をそれぞれ$r_1, r_2$とします。
この図から動径ベクトルの長さが取り得る範囲は、$r_1$から$r_2$の間であることが分かります。
すなわち、質点は半径$r_1$と$r_2$の二つの円に挟まれた領域の中を運動するということです。
しかし、この結果は質点が楕円運動することを保証しません。
この条件では動径ベクトルの長さがある範囲に収まることは保証でき、そのような軌道を描くことのみが言えます。 (このような軌道を”有界な軌道”と呼びます。)
ただ質点が始めの場所に戻ってきて、また同じ経路を辿る(このような軌道を”閉じた軌道”と呼びます)とは言えないのです。
ですから、下の図のようなぐねぐねした軌道も考えられます。
最後に$V’$の極値で$E_3$が交わる場合を考えましょう。
このとき$V’$と$E_3$は一点で交わります。
また、取り得る$r$の値は$r_1$のみであることも分かります。
なぜなら、$\DL{\frac{1}{2}m\dot{r}^2}$が負の値を取ることは物理的にあり得ないからです。
※ $\DL{\frac{1}{2}m\dot{r}^2}$ が負の場合、$\dot{r}$が虚数となるため
このとき、動径ベクトルの長さは変化せず質点の描く軌道は半径$r_1$の円軌道になります。
※ $E-V’ = 0$となる$r$を回帰点と呼びます。($E_1$での$r_1$,$E_2$での$r_1, r_2$,$E_3$での$r_1$が回帰点に相当)
どんな条件なら閉軌道を描くのか?(ベルトランの定理へ)
以上のことから、エネルギーから動径ベクトルの長さが取り得る範囲が決まることが分かりました。
しかし、動径ベクトルが取り得る上限と下限が決まっても描く軌道が必ずしも閉じた軌道(閉軌道)になる訳ではないことも分かりました。
では、どんな条件なら閉軌道を描くと言えるのでしょうか?
また、距離の逆二乗以外で働く力以外、例えば、逆四乗で働く力や一乗・二乗に比例する力など、
様々な力の場合、動径ベクトル$r$が取り得る値はどのようになるのでしょうか?
ぜひ、この問題に取り組んでみてください。
※ この問題については、ベルトランの定理で詳しく解説しています。