連成振動の解法と運動方程式の対角化|固有振動・固有角振動数とは?

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今回は、連成振動と呼ばれる $2$ 個以上の物体が連動して振動している系を解析していきます。

連成振動では固有振動固有角振動数というものが現れます。

固有振動・固有角振動数

系全体が同一の角振動数で振動するような解のことを基準振動あるいは固有振動と呼ぶ。

また、基準振動の角振動数のことを固有角振動数と呼ぶ。

連成振動を理解することは物理学的の興味を満たすだけでなく、現実の様々な振動問題を考える際にも有用となります。

身近なところでは自動車のサスペンションのモデル、そして、自由度を無限大まで拡張した極限での『場の理論』とも深い関わりを持ちます。

なお、今回は解析力学を利用して運動方程式を導出し、その運動方程式を対角化という手法を用いて解く方法について説明します。

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連成振動とは?

$2$ 個以上の物体が連動し、振動している状態のことを連成振動と呼びます。

練成振動の模式図

今回は、上図のようにばね定数がそれぞれ $k_1,k_2,k_3,k_4$ のばねに繋がれた $3$ つの錘(質量:$m_1,m_2,m_3$) の連成振動について考えていきます。

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連成振動の運動方程式

それでは前節で示した系の連成振動について解析していきましょう。この系に作用する各力を書き出すのは面倒なので、力を考えることなく機械的に運動方程式を導出できる解析力学の力を借りることとします。

始めの一手としてラグランジアンを計算します。今、各錘が初期位置から $x_1,x_2,x_3$ だけ動いているとします。すると、系の運動エネルギー $T$ を、

\begin{split}
T=\ff{1}{2}m_1\dot{x}_1^2+\ff{1}{2}m_2\dot{x}_2^2+\ff{1}{2}m_3\dot{x}_3^2
\end{split}

とできます。そして、ばねの伸びによるポテンシャルエネルギー $U$ については、

\begin{split}
U&=\ff{1}{2}k_1x_1^2+\ff{1}{2}k_2(x_1-x_2)^2\EE
&\qquad+\ff{1}{2}k_3(x_2-x_3)^2+\ff{1}{2}k_4x_3^2
\end{split}

と表せます。以上より今回の連成振動におけるラグランジアン $L$ が得られます。

\begin{split}
L&=T-U\EE
&=\ff{1}{2}m_1\dot{x}_1^2+\ff{1}{2}m_2\dot{x}_2^2+\ff{1}{2}m_3\dot{x}_3^2\EE
&\qquad-\ff{1}{2}k_1x_1^2-\ff{1}{2}k_2(x_1-x_2)^2\EE
&\qquad\quad-\ff{1}{2}k_3(x_2-x_3)^2-\ff{1}{2}k_4x_3^2
\end{split}

ラグランジアンを求められたので、次に運動方程式を求めていきましょう。

運動方程式 $L$ をオイラー・ラグランジュ方程式に代入すれば求められます。実際に計算すると、以下の $3$ つの運動方程式が得られます。

$$
\left\{
\begin{split}
m_1\ddot{x}_1&=(k_1+k_2)x_1-k_2x_2\EE
m_2\ddot{x}_2&=-k_2x_1+(k_2+k_3)x_2-k_3x_3\EE
m_3\ddot{x}_3&=-k_3x_2+(k_3+k_4)x_3
\end{split}
\right.\tag{1}
$$

※ 上付きドットはニュートンの記法と呼ばれる時間微分を表します。

運動方程式と行列

簡単のため、錘の質量とばね定数が全て同一とします。すると式 $(1)$ をこのように行列表示として整理できます。

$$
m\ff{\diff^2}{\diff t^2}
\begin{bmatrix}
x_1 \EE
x_2 \EE
x_3
\end{bmatrix}
=k
\begin{bmatrix}
2 & -1 & 0 \EE
-1 & 2 & -1 \EE
0 & -1 & 2
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
x_1 \EE
x_2 \EE
x_3
\end{bmatrix}
\tag{2}
$$

行列表示の目的は、視覚的に分かり易くすることもありますが、最も重要な目的は対角化と呼ばれる操作を行うためです。

一見、何でもないように思える行列表示こそ、今回の連成振動の運動方程式を解く際の核となります。

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運動方程式の対角化

式$(2)$は単に見やすくしただけでなく、もっと重大な意味を我々に教えてくれています。

さて、$(2)$の右辺に登場する行列を $A$ として係数行列と呼ぶことにします。

$$
A=
\begin{bmatrix}
2 & -1 & 0 \EE
-1 & 2 & -1 \EE
0 & -1 & 2
\end{bmatrix}
$$

そして、係数行列 $A$ を対角化します。なぜ対角化を施すのかについては、この後の展開を見ていけば自然と理解できます。

詳細な計算過程は省きますが、$A$ に対角化という操作を施すと次のようになります。

$$
P^{-1}AP=
\begin{bmatrix}
2 & 0 & 0 \EE
0 & 2-\sqrt{2} & 0 \EE
0 & 0 & 2+\sqrt{2}
\end{bmatrix}
$$

ただし行列 $P$ は

$$
P=
\begin{bmatrix}
-1 & 1 & 1 \EE
0 & \sqrt{2} & -\sqrt{2} \EE
1 & 1 & 1
\end{bmatrix}
$$

です。ここで新たに $\B{y}=(y_1,y_2,y_3)$ というベクトルを導入し、$\B{x}=(x_1,x_2,x_3)$ と以下のような関係があるとします。

$$
\B{y}=P^{-1}\B{x}
$$

以上のことを活用して、運動方程式 $(2)$ を次のように変形していきます。

\begin{split}
m\ff{\diff \B{x}}{\diff t^2}&=kA\B{x} \EE
m\ff{\diff }{\diff t^2}P^{-1}P(P^{-1}\B{x})&=kP^{-1}AP(P^{-1}\B{x}) \EE
\therefore\,\ff{\diff \B{y}}{\diff t^2}&=\ff{k}{m}P^{-1}AP\B{y} \EE
\end{split}

これを書き下すと、上の運動方程式を

$$
\ff{\diff^2}{\diff t^2}
\begin{bmatrix}
y_1 \EE
y_2 \EE
y_3
\end{bmatrix}
=\ff{k}{m}
\begin{bmatrix}
2 & 0 & 0 \EE
0 & 2-\sqrt{2} & 0 \EE
0 & 0 & 2+\sqrt{2}
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
y_1 \EE
y_2 \EE
y_3
\end{bmatrix}
\tag{3}
$$

と表示できます。

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固有振動・固有角振動数とは?

$(3)$より運動方程式が以下のようにできます。

$$
\left\{
\begin{split}
\ddot{y}_1&=\ff{2k}{m}y_1 \EE
\ddot{y}_2&=\ff{(2-\sqrt{2})k}{m}y_2 \EE
\ddot{y}_3&=\ff{(2+\sqrt{2})k}{m}y_3 \EE
\end{split}
\right.
$$

これから分かるように、対角化という操作を挟むことで運動方程式が単純な形となります。これこそが対角化を行った目的なのです。

さて、$\DL{\omega_1^2=\ff{2k}{m}},$ $\DL{\omega_2^2=\ff{(2-\sqrt{2})k}{m}},$ $\DL{\omega_3^2=\ff{(2+\sqrt{2})k}{m}}$ とします。

すると、振り子の微分方程式の結果より $y_1,y_2,y_3$ の一般解として

$$
\left\{
\begin{split}
y_1&=A_1\cos(\omega_1t+\phi_1) \EE
y_2&=A_2\cos(\omega_2t+\phi_2) \EE
y_3&=A_3\cos(\omega_3t+\phi_3)
\end{split}
\right.
$$

が得られます。なお、この解は基準振動あるいは固有振動と呼ばれます。

ここまで来れば $\B{x}$ の答えはすぐそこです。すなわち、$\B{x}=P\B{y}$ の関係を用いることで、

$$
\left\{
\begin{split}
x_1&=-A_1\cos(\omega_1t+\phi_1)+A_2\cos(\omega_2t+\phi_2)+A_3\cos(\omega_3t+\phi_3) \EE
x_2&=\sqrt{2}A_2\cos(\omega_2t+\phi_2)-\sqrt{2}A_3\cos(\omega_3t+\phi_3) \EE
x_3&=A_1\cos(\omega_1t+\phi_1)+A_2\cos(\omega_2t+\phi_2)+A_3\cos(\omega_3t+\phi_3)
\end{split}
\right.
$$

となります。以上より各錘の位置を無事に導けました。

上の結果から分かるように、錘の振動の解はいくつかの角振動数の重ね合わせとして表現できていることが分かります。

さて、これらの解を構成するそれぞれの角振動数のことを固有角振動数と呼びます。今回の固有角振動数はそれぞれ、$\DL{\omega_1^2=\ff{2k}{m}},$ $\DL{\omega_2^2=\ff{(2-\sqrt{2})k}{m}},$ $\DL{\omega_3^2=\ff{(2+\sqrt{2})k}{m}}$ となります。

この例から分かるように、固有角振動数は固有値(=係数行列を対角化したときの数値)と対応します。

そして、固有角振動数により表される振動のことを固有振動あるいは基準振動と呼びます。

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