調和振動のトラジェクトリーと正準変換|ばねの振動と位相空間上の軌跡

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今回は摩擦の無いばねの運動(=調和振動あるいは単振動と呼ばれます)を位相空間にプロットした軌跡について説明します。

位相空間上のこのような軌跡はトラジェクトリーと呼ばれていて、ばねの振動の場合のトラジェクトリーは図のようになります。

調和振動のトラジェクトリー

図から分かるようにばねの振動トラジェクトリーは系の持つエネルギーに関わらず常に楕円の軌跡を描きます。この点は振り子のトラジェクトリーと異なる点です。

併せて、正準変換と呼ばれる手法についても簡単に説明します。

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ばねの振動のハミルトニアン

ばねの振動位相空間での軌跡を求める準備として、まずはこの系のハミルトニアンを求めます。

調和振動の模式図

さて、$k$ をばね定数として $m$ を錘の質量とします。すると、運動エネルギー $T$ は、

\begin{split}
T=\ff{1}{2}m\dot{x}^2
\end{split}

と表せ、そして、ポテンシャルエネルギー $U$ を、

\begin{split}
U=\ff{1}{2}kx^2
\end{split}

と表せます。

今、ラグランジアンが $\DL{L=\ff{1}{2}m{\dot{x}}^2-\ff{1}{2}kx^2}$ であることと、ラグランジアンと運動量の関係を用いることで、一般化運動量 $p_{x}$ は

\begin{split}
p_{x}=\ff{\del L}{\del \dot{x}}=m\dot{x}
\end{split}

となります。これより、運動エネルギー $T$ は

\begin{split}
T=\ff{p_{x}^2}{2m}
\end{split}

とも表せます。

以上より、調和振動のハミルトニアン $H$ を

\begin{eqnarray}
H=T+U=\ff{p_{x}^2}{2m}+\ff{1}{2}kx^2\tag{1}
\end{eqnarray}

と求められます。

ハミルトニアンの定義を用いても上の結果を導くことができます。実際、

\begin{split}
H&=p_{x}\dot{x}-L\EE
&=p_{x}\cdot\ff{p_{x}}{m}-\left(\ff{p_{x}^2}{2m}-\ff{1}{2}kx^2 \right) \EE
&=\ff{p_{x}^2}{2m}+\ff{1}{2}kx^2
\end{split}

とできて、同じ結果を導けることが分かります。

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ばねの振動のトラジェクトリー

それでは、式$(1)$からばねの振動のトラジェクトリーを描いていきましょう。

今回のハミルトニアンは系の力学的エネルギーの総和と一致しているため $H=E$ と言えます。ゆえに、$p_{x}$ を

\begin{split}
p_{x}&= \pm\sqrt{m(2E-kx^2)}
\end{split}

と記述できます。

上式の表す軌跡を位相空間に描画すると、図のような楕円型の軌跡が得られます。(ただし、$E_1<E_2<E_3$)

調和振動のトラジェクトリー

なお、これらのトラジェクトリーは位相空間上に存在する曲面の等高線に相当します。

トラジェクトリーと曲面

また、ばねの振動トラジェクトリーにはセパラトリクスが存在しないことも図から分かります。

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正準変換への招待

上の結果から分かるようにばねの振動が表すトラジェクトリーは楕円となります。さて、ある変数変換によって楕円の軌跡が円に変換できたとします。

正準変換後のトラジェクトリー

このとき、変換の前後で力学的エネルギーは同じため、トラジェクトリーが囲む面積は保たれます。このことを念頭に入れて、変換後の円の半径について計算してみましょう。

まず、変換前に注目してトラジェクトリーが囲む面積を $S_1$ とします。すると、楕円の公式より $S_1=2\pi E\DL{\sqrt{\ff{m}{k}}}$ と求められます。

次に、変換後の円の面積を $S_1’$ としましょう。すると、$S_1=S_1’$ であることより、$S_1’$ の半径 $a$ についてを、

\begin{split}
a^2=\ff{2E}{\omega}
\end{split}

と求めることができます。ただし、$\DL{\omega=\sqrt{\ff{k}{m}}}$ とします。(これは単振動の角速度と一致します)

以上より、変換後のトラジェクトリーは次の方程式を満たすことが分かります。

\begin{split}
P^2+Q^2=\ff{2E}{\omega}
\end{split}

これを式$(1)$の係数と比較することで、

$$
\left\{
\begin{split}
P^2 &= \ff{p_{x}^2}{m\omega} \EE
Q^2 &= \ff{x^2}{\omega/k}
\end{split}
\right.
$$

という対応関係を導けます。この対応を変数変換の規則と見なすと次のようになります。

$$
\left\{
\begin{split}
P&=(mk)^{-\ff{1}{4}}\,p_x \EE
Q&=(mk)^{\ff{1}{4}}\,x
\end{split}
\right.
$$

これら $P,Q$ がハミルトンの正準方程式を満たすことを確認しましょう。具体的には $\dot{P},\dot{Q},\DL{\ff{\del H}{\del P},\ff{\del H}{\del Q}}$ について計算すると、

$$
\left\{
\begin{split}
\,&\dot{P}=(mk)^{-\ff{1}{4}}\,\dot{p_x}=-m^{-\ff{1}{4}}k^{\ff{3}{4}}x \EE
\,&\ff{\del H}{\del Q}=\omega Q=m^{-\ff{1}{4}}k^{\ff{3}{4}}x \EE
\,&\dot{Q}=(mk)^{\ff{1}{4}}\,\dot{x}=m^{-\ff{3}{4}}k^{\ff{1}{4}}p_x \EE
\,&\ff{\del H}{\del P}=\omega P=m^{-\ff{3}{4}}k^{\ff{1}{4}}p_x
\end{split}
\right.
$$

となって、変数変換の後でも $P,Q$ はきちんとハミルトンの正準方程式を満たすことが分かります。

このように、変換の前後でハミルトンの正準方程式を満たすような変数変換のことを正準変換と呼びます。

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