今回は振り子の周期の厳密解(一般の振れ角での周期)の導出過程について紹介します。
結論から示すと、振り子の周期の厳密解は次のように表されます。
上の結果から分かるように厳密解は初等関数では表せず、楕円積分と呼ばれるものが密接に関わっています。
なお、振り子の周期の近似解についてはこちらで紹介しているので参照下さい。
ハミルトン・ヤコビ理論による振り子の運動の解析
振り子の微分方程式自体は既に求めているため、今回は趣向を変え、ハミルトン・ヤコビ方程式を用いて振り子の運動の解析を行っていきます。
まず、振り子のハミルトニアンについてはこちらで計算したように次のように表せます。ただし、振り子の最下点をポテンシャルエネルギーの基準点としています。
\begin{split}
H(q,p)=\ff{p^2}{2ml^2}+mgl(1-\cos\q)=E
\end{split}
※ $E$ を系の持つ全エネルギーとします。
今、ハミルトニアンは時間 $t$ を陽に含んでいないため、運動量 $p$ は、ハミルトンの特性関数 $W$ を用いて次のように表せます。
\begin{split}
p=\ff{\diff W}{\diff \q}
\end{split}
さらに、半角の公式を用いることで上の方程式を
\begin{eqnarray}
E=\ff{1}{2ml^2}\left( \ff{\diff W}{\diff \q} \right)^2+2mgl\sin^2\ff{\q}{2}\tag{1}
\end{eqnarray}
とできます。以上、振り子の運動方程式を導出できました。
振り子の周期の導出
先程得た、式$(1)$を整理すると、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff W}{\diff \q}=\sqrt{2m}\,l\cdot \sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}
\end{eqnarray}
これより作用変数 $J$ が以下のように求められます。
\begin{eqnarray}
J&=&\oint \ff{\diff W}{\diff \q}\diff \q\EE
&=&\sqrt{2m}\,l \oint \sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}\,\diff \q\tag{2}
\end{eqnarray}
なお、$E<2mgl$ のとき $J$ は振り子のトラジェクトリーにおける青線の閉曲線の面積に相当し、$E>2mgl$ の場合は赤線の曲線と $\q$ 軸、そして $\pi$ から $-\pi$ までの面積に相当します。つまり、
$$
\oint\,\diff \q=
\left\{
\begin{split}
&2\int_{-\q_{\RM{max}}}^{\q_{\RM{max}}}\diff\q \qquad(E<2mgl)\\[8pt]
&\int_{-\pi}^{\pi}\diff\q\qquad(E>2mgl)
\end{split}
\right.
$$
という関係にあります。ただし $\q_{\RM{max}}$ を振れ角の最大値とします。
※ $E<2mgl$ のときは振り子の往復運動の周期であり、$E>2mgl$ のときは回転運動の周期に相当します。
さて、式$(2)$の両辺を $J$ について微分すると、
\begin{split}
1&=\sqrt{\ff{m}{2}}l \oint \ff{\diff \q}{\sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}}\cdot\ff{\del E}{\del J}
\end{split}
移項して、
\begin{split}
\DL{\ff{1}{\ff{\del E}{\del J}}}&=\sqrt{\ff{m}{2}}l \oint \ff{\diff \q}{\sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}}
\end{split}
今、$\DL{\ff{\del E}{\del J}}$ は振動数 $\nu$ であるため、その逆数である左辺は周期 $T$ に相当します。 以上より、振り子の周期を次の様に求められます。
\begin{eqnarray}
T&=\sqrt{\ff{m}{2}}l \oint \ff{\diff \q}{\sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}}\tag{3}
\end{eqnarray}
これが振り子の周期の厳密解となります。
微小角の場合の周期
まずは、振り子の振れ角が微小であるとき、つまり $E\ll 2mgl$ の場合について考えます。このとき、$\q_{\RM{max}}\NEQ\DL{\sqrt{\ff{2E}{mgl}}}$ とでき、また、$\DL{\sin^2\ff{\q}{2}\NEQ \ff{\q^2}{4}}$ と近似できます。これらを式$(2)$に適用すると周期が
\begin{split}
T&=2\sqrt{\ff{m}{2}}l \int_{-\sqrt{\ff{2E}{mgl}}}^{\sqrt{\ff{2E}{mgl}}} \ff{\diff \q}{\sqrt{E-\ff{mgl}{2}\q^2}}\EE
&=2\sqrt{\ff{m}{2E}}l \int_{-\sqrt{\ff{2E}{mgl}}}^{\sqrt{\ff{2E}{mgl}}} \ff{\diff \q}{\sqrt{1-\ff{mgl}{2E}\q^2}}\EE
&=2\sqrt{\ff{l}{g}}\,\left[\arcsin\sqrt{\ff{mgl}{2E}}\q \right]_{-\sqrt{\ff{2E}{mgl}}}^{\sqrt{\ff{2E}{mgl}}}\EE
&=2\pi\sqrt{\ff{l}{g}}
\end{split}
と求めれらます。この結果は、振り子の周期の近似解と見事に一致します。
振り子の周期の厳密解
式$(3)$を利用して近似解が求めれらることが確認できたので、ここからは厳密な周期(一般の場合での周期)について考えていくことにします。
その準備として、第一種完全楕円積分と呼ばれる次のような関数を導入します。
\begin{eqnarray}
K(x)=\int_0^{\ff{\pi}{2}}\ff{\diff \phi}{\sqrt{1-x^2\sin^2\phi}}
\end{eqnarray}
では、第一種完全楕円積分を用いて周期を計算していきます。まず、$E>2mgl$ の場合、$\q=2\phi$ とすることで$(3)$を、
\begin{split}
T&=\sqrt{\ff{m}{2}}l \int_{-\pi}^\pi \ff{\diff \q}{\sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}}\EE
&=2\sqrt{\ff{2m}{E}}\,l\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{\diff \phi}{\sqrt{1-\ff{2mgl}{E}\sin^2\phi}}\EE
\end{split}
とでき、ここで $\gamma=\DL{\sqrt{\ff{E}{2mgl}}}$ とおくことで、
\begin{split}
T&=2\sqrt{\ff{l}{g\gamma}}\cdot K\left(\ff{1}{\gamma}\right)
\end{split}
が得られます。
次に、$E<2mgl$ の場合を考えます。この場合は、
\begin{split}
\sin\ff{\q}{2}=\sqrt{\ff{E}{2mgl}}\sin\phi=\gamma\sin\phi
\end{split}
と変数変換すると上手くいきます。両辺を $\q$ で微分することで、$\diff\q$ と $\diff \phi$ の関係を次のように表せ、
\begin{split}
&\ff{1}{2}\cos\ff{\q}{2}=\gamma\cos\phi\cdot\ff{\diff \phi}{\diff \q}\EE
\therefore\,&\diff \q=\ff{2\gamma\cos\phi}{\sqrt{1-\gamma^2\sin^2\phi}}\diff\phi
\end{split}
これより周期を次のように求められます。
\begin{split}
T&=\sqrt{2m}\,l \int_{-\q_{\RM{max}}}^{\q_{\RM{max}}} \ff{\diff \q}{\sqrt{E-2mgl\sin^2\ff{\q}{2}}}\EE
&=2l\sqrt{\ff{2m}{E}}\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{1}{\cos\phi}\cdot\ff{2\gamma\cos\phi}{\sqrt{1-\gamma^2\sin^2\phi}}\diff\phi \EE
&=4\sqrt{\ff{l}{g}}\cdot K(\gamma)
\end{split}
以上、振り子の周期の厳密解を以下のように表せます。
なお、第一種完全楕円積分の級数展開表示についてはこちらで解説しています。