仮想仕事の原理・ダランベールの原理とは?|解析力学の基本原理②

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解析力学には最小作用の原理という基本原理の他に、仮想仕事の原理ダランベールの原理というものがあります。

今回はこれらの原理について解説していきます。まず、仮想仕事の原理についてですが、これは次のように表現されます。

仮想仕事の原理

釣合いの近傍において、外力 $\bold{F}_i^{(a)}$ による仮想仕事の総和 $\delta W$ は $0$ となり、以下の式が成立する。

\begin{split}
\delta W = \sum_{i=1}^n \bold{F}_i^{(a)} \cdot \delta\bold{r}_i = 0 \\
\end{split}

これを仮想仕事の原理と呼ぶ

そして、仮想仕事の原理より次に示すダランベールの原理が導かれます。

ダランベールの原理

質点に作用する外力運動量をそれぞれ、$\bold{F}_i^{(a)},\,\dot{p}_i$ として、ダランベールの原理は次のように記述される

\begin{split}
\sum_{i=1}^n (\bold{F}_i^{(a)}- \bold{\dot{p}}_i ) \cdot \delta\bold{r}_i = 0 \\
\,
\end{split}

一見、使いどころが分からない原理ですが、これらの原理から解析力学の基礎方程式の一つである、オイラー・ラグランジュ方程式が導出されます。

最初に仮想仕事の原理を導くことを目標とします。その準備として、静止物体に作用する力について改めて見直してみることとします。

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仮想変位と仮想仕事

さて、運動方程式の教えるところによれば物体に作用する全ての力が分かれば、過去未来を含めて物体の軌跡を完全に知ることができるはずです。

運動方程式を用いた手法は非常に強力ですが、系に作用する力が不明な場合には使用できないという欠点があります。そして現実には、作用する全ての力の大きさや向きを知ることは非常に困難と言えます。

もし、力を考えること無しに系が描く軌跡を知ることができるのなら、非常に便利と言えるでしょう。そこで、どうすれば力を用いず力学の問題を解けるのかについて考えることにします。

しかしながら、いきなり力を排除することは難しそうです。また、加速度運動している対象について考えるのもハードルが高いと言えます。そこで、静止している系に絞って考え始めることとします。

さて、物体を質点の集合と考えます。すると、各質点に作用している力を次のように図示できます。

剛体の幾何学的関係と拘束力と外力

今、系全体は静止しています。したがって、各質点に作用している力(拘束力&外力)$\bold{F}_i$ を合計すると $\bold{0}$ になると言えます。つまり、

\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^n \B{F}_i=\B{0}
\end{eqnarray}

が成立します。ここまでは当たり前のことです。

ここで、静止した状態を維持したままで、各質点をほんの少し $\delta\bold{r}_i$ だけ変位させたとしましょう。(ただし、系に作用している力や拘束と矛盾しないように動かしています)

また、実際に動かしているのではなく、あくまでも仮想的な変位であることに注意して下さい。そのため、$\delta\bold{r}_i$ のことは仮想変位と呼ばれます。

仮想変位とは?

思考実験の上で質点に仮想的に与えた変位のことを仮想変位あるいは、変分と呼ぶ。

仮想変位を図示すると以下のようになります。

仮想変位はほんの少しの変位のため、系の釣り合いは依然として保たれています。ゆえに、仮想変位 $\delta\bold{r}_i$ の方向に力 $\bold{F}_i$ の内積を掛けた仮想仕事 $ \bold{F}_i \cdot\delta\bold{r}_i $ も $0$ となります。(仕事と内積の関係)

仮想仕事とは?

質点に作用している力と仮想変位内積仮想仕事と呼ぶ。

重要なポイントは全ての質点で、その仮想仕事は $0$ となることです。ゆえに、各質点での仮想仕事の和も $0$ となります。よって、以下の式が成立します。(ただし、$\delta W$ を仮想仕事の和とします)

\begin{eqnarray}
\delta W = \sum_{i=1}^n \bold{F}_i \cdot \delta\bold{r}_i = 0 \tag{1}
\end{eqnarray}

この結果自体にはそれほど面白い点はありませんが、 次に述べる仮想仕事の原理に至る助走路となります。

太字はベクトルを表します。詳しくはこちらで解説しています。

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仮想仕事の原理とは?

次に、系に作用している拘束力(内力)と外力を切り分けることを考えます。

今、質点系に作用する各力 $\bold{F}_i$ が拘束力 $\bold{R}_i$(例えば垂直抗力)とそれ以外の外力 $\bold{F}_i^{(a)}$ に分解して、

$$ \bold{F}_i = \bold{F}_i^{(a)} + \bold{R}_i $$

と分けられるとしましょう。

すると、式$(1)$を次のように表示できます。

\begin{eqnarray}
\delta W &=& \sum_{i=1}^n \bold{F}_i \cdot \delta\bold{r}_i \EE
&=& \sum_{i=1}^n\Big(\bold{F}_i^{(a)} + \bold{R}_i\Big)\cdot \delta\bold{r}_i \EE
&=& \sum_{i=1}^n \bold{F}_i^{(a)} \cdot \delta\bold{r}_i + \sum_i \bold{R}_i \cdot \delta\bold{r}_i = 0 \tag{2}
\end{eqnarray}

ここで、拘束力による仮想仕事が $0$ であるような系に絞って考えることとします。(特殊な状況のように聞こえますが、剛体の場合はこの条件が常に成立します)

もちろん、現実の滑り摩擦があるような状況に対しては、拘束力による仮想仕事は $0$ となりません。したがって、滑り摩擦が働く状況は今回は除外します。

話が逸れましたが、拘束力による仮想仕事が $0$ であるような系では、式$(2)$の右辺第二項が $0$ となります。

よって、第一項も $0$ であることが分かります。以上より、『外力による仮想仕事は $0$ となる』という条件が得られます。

この条件を解析力学では仮想仕事の原理と呼びます。

仮想仕事の原理

釣合いの近傍において、外力 $\bold{F}_i^{(a)}$ による仮想仕事の総和 $\delta W$ は $0$ となり、以下の式が成立する。

\begin{split}
\delta W = \sum_{i=1}^n \bold{F}_i^{(a)} \cdot \delta\bold{r}_i = 0 \\
\end{split}

これを仮想仕事の原理と呼ぶ

めでたく系に働く拘束力を消すことができました。次節にて外力の扱いについて考えることにします。

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ダランベールの原理とは?

仮想仕事の原理単体では、あまり面白みがありません。

とは言え、静止している系の状態を外力のみで記述できたことは興味深い事実です。次は、運動している系に対して仮想仕事の原理を拡張することを考えます。

一旦、運動方程式に立ち帰ります。

復習になりますが、運動方程式は外力 $\bold{F}_i^{(a)}$ と運動量 $\bold{p}_i$ を使って次のように表現できました。

$$ \bold{F}_i^{(a)} = \bold{\dot{p}}_i $$

これを変形すると、

$$ \bold{F}_i^{(a)} \,-\, \bold{\dot{p}}_i = 0 $$

となります。

上付きドットは時間微分を表します。詳しくはこちらで解説しています。

単純な式変形ですが、この式は系が逆向きの有効力$-\bold{\dot{p}}_i$ を受けて釣り合っているとも解釈できます。

このように考えることで、運動している系をあたかも静止しているように取り扱うことができます。

すると、仮想仕事の原理が適用できて、先述の議論と同様に式変形を進めていけます。よって、以下の式を導けます。

\begin{eqnarray}
\delta W &=& \sum_{i=1}^n \Big(\bold{F}_i^{(a)}-\bold{\dot{p}}_i \Big) \cdot \delta\bold{r}_i=0 \tag{3}
\end{eqnarray}

式$(3)$はダランベールの原理と呼ばれ、この原理を用いると動力学の問題を静力学の問題に置き換えられるようになります。

ダランベールの原理

質点に作用する外力運動量をそれぞれ、$\bold{F}_i^{(a)},\,\dot{p}_i$ として、ダランベールの原理は次のように記述される

\begin{split}
\sum_{i=1}^n (\bold{F}_i^{(a)}- \bold{\dot{p}}_i ) \cdot \delta\bold{r}_i = 0 \\
\,
\end{split}

外力を消去することは流石に出来ませんでしたが、ダランベールの原理により外力に制約を課すことができました。これを用いることで、オイラー・ラグランジュ方程式の導出が行えます。

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