大学で学ぶ力学とは?|分野同士の関連と連携

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大学物理では何を学ぶのか?全体像がどうなっているのか?

これらについて初学者には全く分からないにも関わらず、カリキュラムは容赦なく進んでいきます。

暗闇に放り出されて手探りで歩くようなものなので、何から手を付ければ良いのか分からないのは当然です。

大雑把でも力学諸分野のつながりを知っていると、効率的な勉強ができるので、その後の学習で有利に立ち回れます。

今回は高校物理から始めて、大学で学ぶ様々な力学の諸分野のつながりを見ていきます。

工学部や理学部への進学を考えている高校生の方や、物理学の学び直しを考えている方向けの内容になっています。

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高校物理で学んだこと

大学物理について解説する前に、高校物理で学んだことを復習しましょう。

高校物理は力学や電磁気学、熱力学などを広く含んでいます。

高校物理の履修範囲

高校物理の範囲の中でも特に力学に関わる分野を復習します。

そもそも『力学』とは?という方は以下の記事で解説しているので参考にして下さい。

→『力学』についての詳しい解説はこちら

高校で学ぶ力学はニュートンの運動の三法則万有引力の法則を中心として展開されます。

ニュートンの運動の三法則

第一法則慣性の法則
静止または一様な直線運動をする物体は、外力が作用しない限り、その状態を持続する。

第二法則運動の法則
物体の運動量の変化は、これに働く力の向きに起こり、またその力の大きさに比例する

$$ F = ma $$

第三法則作用反作用の法則
二つの物体が互いに力を及ぼし合う時には、これらの力は常に大きさが等しく、向きが反対である

万有引力の法則

2つの物体の間には、物体の質量に比例し、2物体間の距離の2乗に反比例する引力が作用する。

\begin{eqnarray}
F = G\frac{Mm}{r^2} \\
\,
\end{eqnarray}

これにエネルギー保存則運動量保存則が加わり、様々な問題に対処できるようになります。

高校で学ぶ力学の特徴は物体を点として近似して取り扱うことです。

また、物体を点として近似して取り扱う力学の領域を質点の力学と呼びます。

質点の力学は、高校で学ぶ力学とほぼ同じという認識で問題ありません。

※ エネルギー保存則と運動量保存則は、運動方程式から導出できるためサブの法則として扱っています。

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高校物理から大学物理へ

大学物理は高校物理とどう違うのか?という問いに対しては、

ベクトルをベクトルとして数学的に扱うこと、そして微分方程式を中心として理論展開が行われることが最大の違いとして挙げられます。

例えば、力や加速度などは本来ベクトルなので大きさと向きも含めて議論する必要がありますが

高校物理ではこの点をあまり意識せず、ほとんどの場合大きさのみを議論の対象としていました。

一方、大学物理ではベクトルをベクトルとして本格的に取り扱い、物理学を展開していきます。

例として、先ほどの運動の法則と万有引力の法則は、次のような表現で取り扱われます。

運動の法則

$$ \vec{F} = m\vec{a} $$

万有引力の法則

$$ \vec{F} = G\frac{Mm}{r^3}\vec{r} $$

また、加速度や速度は本来、二階微分や一階微分の形で表されるはずです。

そのため、大学物理では加速度などを微分の形で表した微分方程式として運動方程式を表現します。

例えば、先述のニュートンの第二法則などは次のように表されます。

$$ \vec{F} = m \frac{\diff^2\vec{x}}{\diff t^2} $$

始めて微分方程式を見ると、面食らうかもしれませんが、根本的には運動方程式ですので、丁寧に意味を追っていけば何を表現しているのかが理解できます。

運動方程式を微分方程式で表す利点は、複雑な運動でも正確に表現できる点です。

また、電磁気学では微分方程式が本質的に重要な位置を占めますので、微分方程式の導入は必須の事項になります。

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大学物理の数学

大学物理ではベクトルや微分方程式の取り扱いが重要になります。

高校数学の範疇では対応できないため、新たな数学の道具が必要になります。

大学物理では、基礎として微分積分・線形代数・ベクトル解析などが必要になります。

この様子を図にすると、下図のようになります。

微分積分・線形代数・ベクトル解析を基礎として、その上に大学物理が形成されているのです。

微分積分は高校数学から発展した、偏微分全微分が用いられます。

線形代数は、連立方程式を効率的に解くために必要となります。

最初に学ぶ際には有用性がピンとこないのですが、シミュレーションを扱い始めると重要性が分かるようになります。

ベクトル解析では、ベクトル場やテンソル場の微積分を学びます。

ベクトルの内積外積回転などを学びます。電磁気学や流体力学で大いに活躍します。

なお、微分方程式を解く道具としてラプラス変換フーリエ変換を学びます。

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力学の地図

力学の各分野同士の関係は次のようになっています。(主要なものをピックアップしています。)

左側が基礎的な内容を表し、右側に行くほど応用的な内容であることを表しています。

※ 図には電磁気学や相対性理論は出てきませんが、力学と直接の関係が薄いため省いています。

各分野について簡単に紹介します。

質点の力学

質点の力学全ての力学の基礎になります。

繰り返しになりますが、高校物理で習った力学は質点の力学に相当します。

質点の力学では物体の大きさを無視し、点として扱います。

このような近似による利点は、物体の並進運動のみに絞って議論できる点です。

欠点は物体の回転運動を無視しているため、現実の物体の運動に対する分析精度が落ちる点です。

ただし、天体力学のようなスケールの大きな問題を扱う場合は、天体を点と近似しても十分な精度で運動の分析が行えます。

→質点の力学のまとめ記事はこちら

剛体の力学

質点の力学では物体を点として扱いますが、剛体の力学では物体の大きさを考慮します。

その点で剛体の力学は質点の力学の拡張と言えます。

より正確に言うと、物体を質点の集まり―剛体とみなし、剛体の運動を分析する力学が剛体の力学です。

剛体の特徴は、どんなに大きな力が働こうとも決して変形しない(弾性係数が無限大)ことです。

現実にはそんな物体は無いのですが、多くの場合、固体を剛体とみなすことはそれほど悪くない近似です。そのため、質点の力学よりも実用的な力学を言えます。

また、物体に大きさがあるため、重心の並進運動に加えて回転運動を考えてやる必要が生まれます。

このことに関連して、慣性モーメントと呼ばれる新たな物理量が登場します。

→剛体の力学のまとめ記事はこちら

機械力学

機械力学と剛体の力学に違いは実はありません。より応用に近いのが機械力学と言えるでしょう。剛体の力学に比べて変わるのは、幾何学的な拘束条件が複雑になる点です。

機械は複数の部品の集合体なので、所望の性能を出すには部品同士の配置も考慮して機械全体の運動を考えてやる必要があります。そのため、幾何学的条件も重要な要素になってきます。

機械力学では複数の部品同士の運動を考えるため、それぞれの部品に加わる力をいちいち考えるのが面倒になりがちです。

そのため、機械力学では解析力学を積極に使うことになります。

連続体力学

連続体力学は剛体の力学と同様、物体を質点の集合として扱います。

剛体の力学と異なる点は、物体の変形を許容する点です。

物体の変形も考えるため、弾性率や粘性を導入します。

流体力学

連続体力学から発展し液体や気体のような流体の運動を論じるのが流体力学です。

流体力学の基礎方程式はナビエ・ストークス方程式です。

また、粘性が全くない流体のことを非粘性流体と呼び、圧力をかけても体積が変化しない流体のことを非圧縮性流体と呼びます。

そして、粘性が無く(非粘性)、非圧縮な流体のことを理想流体または完全流体と呼びます。

理想流体は現実には存在しませんが、理論的な取り扱いが簡単になるため題材として良く取り上げられます。

材料力学

材料力学は、材料にある力(応力)が働いたときにどれだけ材料が伸びたり曲がったりするのかを研究する学問分野です。

材料力学で分析の対象となるのは金属のような固体です。

主な内容として、はりの曲げや棒の圧縮・引張・ねじり、熱応力などを計算していきます。

計算の際にカスチリアノの定理を使い、効率的に計算を行います。

材料力学がさらに発展し、破壊力学につながります。

→材料力学のまとめ記事はこちら

解析力学

解析力学とは、ニュートン力学(質点の力学)をラグランジュの運動方程式ハミルトンの正準方程式を使い、ニュートン力学をより一般的な形に再定式化した力学のことです。

解析力学の利点は、個々の物体に働く力を考えずとも運動の解析ができるようになる点です。

さらに、複数の物体が運動し衝突し合うような複雑な問題を簡単な形式で扱うことができるようになります。

気体分子運動論や天文学、機械力学で重宝します。

解析力学に関してはこれらの記事で取り上げています。

最速降下曲線と解析力学の幕開け

活力論争と最小作用の原理

統計力学

統計力学とは、物理学の基本的法則をミクロな系に適用し、これを拡大することでマクロな系での性質を導き出す学問です。

統計力学の入口となるのが気体分子運動論です。

気体分子運動論は無数の分子の運動をニュートンの運動法則から計算することを目的とします。

原理的には、全ての分子について運動方程式を立て追跡し、壁や分子同士の衝突のたびに受ける力を考えれば気体全体の振る舞いを知ることができます。

しかしこれほど巨大な連立方程式を解くことは現実的ではありません。

そこで、解析力学が登場します。

解析力学では運動方程式がシンプルかつ一本にまとめることができます。

このような利点があるため、統計力学では解析力学が活躍します。

熱力学

熱力学では、エネルギーの移り変わりが議論の中心になります。

また、エネルギーの概念から発展してエントロピー、エンタルピーといったより抽象的な概念も登場します。

熱力学は平衡熱力学や非平衡熱力学に細分化されます。

熱力学を学ぶ意義は、自動車エンジンや航空機エンジン、ロケットエンジンなどの設計で重要な役割を演じるためです。

※分野間のつながりでは、熱力学は統計力学の後に出てきますが、熱力学単体でもちろん学習可能です。厳密に理解するためには統計力学を学ぶ必要があるということです。

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