運動量保存則・力学的エネルギー保存則・角運動量保存則の違いと使い分け【力学基礎】

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物理学の学習を進めていくと運動量保存則力学的エネルギー保存則角運動量保存則など複数の保存則に出会います。

これらの保存則を適切に運用すれば問題解決に絶大な威力を発揮しますが、これらの保存則がどんな場合に適用できるのか曖昧に理解している人も多いでしょう。

今回は、これらの保存則が成立する前提条件を整理し、どんな場面でどんな保存則が適用できるのかを解説します。

 

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運動量保存則

どんな場面でどんな保存則が適用できるのかを確認する前に、各保存則が成立するための前提条件について確認します。

最初に、運動量保存則が成立するための前提条件について確認しましょう。

運動量とは、質量と速度の積として次のように定義される物理量でした。

運動量

質量を$m$、速度を$\B{v}$として運動量$\B{p}$を次のように定義する

\begin{split}
\B{p} &= m\B{v} \\
\,
\end{split}

運動量の重要なポイントは、運動量はベクトルで表されるということです。(→運動量とは?

さて、運動量は運動方程式の中に現れます。

運動量と運動量の関係

物体の運動量の変化は、これに働く力の向きに起こり、またその力の大きさに比例する。すなわち、力$\B{F}$と運動量$\B{p}$の間には次のような関係がある。

\begin{split}
\B{F} &= \ff{\diff \B{p}}{\diff t} \\
\,
\end{split}

この関係から、運動量の時間変化はその間に加えられた力により生じることが分かります。

では、力が全く働いていないとき、運動量の時間変化はどのようになるでしょうか?

具体的に計算してみましょう。

$\B{F}=\B{0}$を運動方程式に代入すると、

\begin{split}
\B{0} &= \ff{\diff \B{p}}{\diff t} \EE
\end{split}

の関係が成立します。

この式が成立するためには、$\B{p}$が定数(定ベクトル)でなければならないことが分かります。

したがって、力が働かないとき運動量は時間依らず一定となるのです。

\begin{split}
\B{p} &= const.
\end{split}

言い換えると、運動量は時間に依らず保存されると考えることができるため、運動量保存則と呼ぶことができます。

以上をまとめると、運動量保存則は次のように記述できます。

運動量保存則

系に外力が働かないとき、運動量は時間に依らず一定となる。

運動量保存則が成立するための重要なポイントは、系に外力が働いていないという条件です。

運動量保存則に出てくる系とは、一つのグループとして考えることができる物体の集団のことです。

この集団に重力や電磁力のような外力が働かない(または考えなくて良い)とき、運動量保存則が成立します。

逆に言うと系同士でどんなに複雑な内力が働いていようと、外力が働かない限り運動量保存則は成立します。

複雑な内力が働く例として物体の衝突が挙げられます。

衝突の瞬間には非常に大きな力が働きますが、この力を正確に求めることは困難です。

このような場合に運動量保存則を重宝します。

なお、反発係数が$1$で無い場合でも運動量保存則は成立します。

以下の記事で内力と外力の違い、運動量保存則について解説しています。

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力学的エネルギー保存則とは?

次に、力学的エネルギー保存則が成立するための前提条件について確認します。

力学的エネルギーは運動エネルギーと位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)の和として表されます。

力学的エネルギー = 運動エネルギー + 位置エネルギー

エネルギーはスカラー量なので、力学的エネルギーもスカラー量となります。

運動エネルギーと位置エネルギーについて、確認しましょう。

まず、運動エネルギーは次のように定義されます。

運動エネルギー

質量$m$の物体が速度$v$で運動しているとき、物体は以下の大きさの運動エネルギー$T$を持つ

\begin{eqnarray}
T &=& \ff{1}{2}mv^2 \\
\,
\end{eqnarray}

例として、物体が力を受けながら時刻$t_a$から$t_b$にかけて運動したとすると、運動エネルギーの変化$\D T$は次のように計算されます。

\begin{eqnarray}
\D T &=& \int_{x_a}^{x_b} F(x)\diff x = \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 \,- \ff{1}{2}mv_{t_a}^2 \tag{1}
\end{eqnarray}

なお、運動エネルギーの変化はその間になされた仕事と等しくなることも重要なポイントです。

一方、位置エネルギーについては次のように定義されます。

位置エネルギー

保存力を$F(x)$とし、位置エネルギー$V(x)$は次のように表される

\begin{eqnarray}
V(x) = – \int_{x_0}^{x} F(x)\diff x \\
\,
\end{eqnarray}

位置エネルギーは運動の経路に依存せず位置関係のみにより決まる

ここで、$x_0$は位置エネルギーを測る基準点であり、$V(x)$は$x_0$から$x$までの位置エネルギーを表します。

位置エネルギーの例とし、重力による位置エネルギーやばねによる位置エネルギーがあります。

位置エネルギーは保存力に対して計算されるものです。

保存力には、任意の点$\RM{A}$から$\RM{B}$まで移動する経路に依らず、力が行う仕事が一定になるという性質があります。(→保存力とは?

保存力と経路の関係

これにより、位置エネルギーは運動の経路に依存せず位置関係のみにより決まる物理量となります。

運動エネルギーや位置エネルギーについて詳しく知りたい方は以下を参考にしてください。

さて、ポテンシャルエネルギーの定義を使って式(1)を変形すると、次のようになります。

\begin{split}
\int_{x_a}^{x_b} F(x)\diff x &= \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 \,- \ff{1}{2}mv_{t_a}^2 = -\Big( V(x_b) \,- V(x_a) \Big) \EE
&\therefore \, \ff{1}{2}mv_{t_a}^2 + V(x_a) = \ff{1}{2}mv_{t_b}^2 + V(x_b)
\end{split}

これより、力学的エネルギーが時刻$t_a$と$t_b$で等しくなることが分かります。

力学的エネルギーが二つの時刻の間で一致したのは、系に働いている力が保存力のみであったためです。

この場合、力学的エネルギーは時間に依らず保存されると言えます。

以上より、力学的エネルギー保存則は次のように記述できます。

力学的エネルギー保存則

外力が保存力の場合、力学的エネルギーは保存される

力学的エネルギーが保存されるための重要な前提は、外力が保存力であるということです。

摩擦力のような経路により仕事の大きさが変わるような力が働いている場合、力学的エネルギー保存則は成立しません。→摩擦力とは?

※ エネルギー自体が消滅した訳ではなく熱エネルギー等として環境中に散逸しているだけです。どんな状況でもエネルギー保存則は厳密に成立します。

また、運動量保存則とは異なり、通常の物体の衝突では物体の変形に伴う熱エネルギー等として運動エネルギーが散逸するため、力学的エネルギーは保存されません。

弾性衝突の場合($e=1$)に限り、例外的に力学的エネルギーは保存されます。

つまり、弾性衝突の場合は運動量保存則と力学的エネルギー保存則が同時に成立するのです。

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角運動量保存則

最後に、角運動量保存則が成立するための前提条件について確認しましょう。

まず、角運動量とは次のように定義される物理量です。

角運動量

質量を$m$、速度を$\B{v}$、動径ベクトルを$\B{r}$として角運動量$\B{L}$を次のように定義する

\begin{eqnarray}
\B{L} &=& \B{r}\times \B{p} \EE
&=& \B{r}\times m \B{v} \EE
&=& \B{r}\times m(\B{r}\times\B{\omega}) \EE
\,
\end{eqnarray}

角運動量は動径ベクトル$\B{r}$と質点の持つ運動量$\B{p}$の外積として表されます。(→外積とは?

さて、モーメントと角運動量には、次のような関係があることが知られています。

モーメントと角運動量の関係

モーメントを$\B{N}$、角運動量を$\B{L}$として次の関係が成立する

\begin{eqnarray}
\B{N} &=& \ff{\diff \B{L}}{\diff t} \\
\,
\end{eqnarray}

この式から分かるように、角運動量の時間変化率は質点に加わるモーメントの大きさに等しいのです。

ある意味、力と運動量の関係を表す運動方程式の親戚と言えます。

質点に働く外力と角運動量

さて、質点に働く力を$\B{F}$とすると、モーメントには$\B{N}=\B{r}\times \B{F}$の関係があるので、先述の式は次のように変形できます。

\begin{eqnarray}
\B{r}\times \B{F} &=& \ff{\diff \B{L}}{\diff t} \tag{2}
\end{eqnarray}

ところで、力$\B{F}$は動径と平行な方向と垂直な方向に分解することができて、それぞれを$\B{F}_r, \B{F}_{\theta}$とすると、式(2)は、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff \B{L}}{\diff t} &=& \B{r}\times(\B{F}_r + \B{F}_{\theta}) \EE
\end{eqnarray}

と変形できます。

外積の性質から動径と垂直方向な力のみが残るため、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff \B{L}}{\diff t} &=& \B{r}\times\B{F}_{\theta} \tag{3}
\end{eqnarray}

となります。

質点が中心力のみによって運動しているとき、すなわち、$\B{F}_{\theta}=\B{0}$であるとき、$\B{N}=\B{0}$となるので式(3)は、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff \B{L}}{\diff t} &=& \B{r}\times\B{0} = \B{0} \EE
\end{eqnarray}

とできます。

この関係を満たすとき$\B{L}$は定ベクトルとなります。

\begin{eqnarray}
\B{L} &=& const.
\end{eqnarray}

中心力の作用を受けて運動する質点では$\B{L}$が定ベクトルとなることから、この場合は角運動量ベクトルの向きも大きさも変化しないことが分かります。

角運動量が時間により変化せず一定であることから、角運動量保存則と呼ぶことができます。

角運動量保存則

中心力の作用のみを受けて運動する系では角運動量は時間に依らず一定となる。

角運動量保存則が成立するための重要な点は、中心力の作用のみを受ける系で成立するという点です。

中心力は保存力の一種であるため、角運動量保存則が成立する系(=外力は中心力のみ)では、力学的エネルギー保存も自動的に成立します。

モーメントや角運動量保存則については以下の記事で詳しく解説しています。

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保存則の使い分け方

以上より、運動量保存則、力学的エネルギー保存則、角運動量保存則の使い分けと、各保存則を適用するための前提条件を次のようにまとめることができます。

最初の判断基準は、『質点系に働く力は内力のみか?』ということです。

内力のみが働いている場合、運動量保存則を適用することができます。

通常、物体の衝突前後では力学的エネルギー保存則は成立しませんが、弾性衝突(=反発係数$1$)の場合に限って力学的エネルギー保存則も成立します。

一方、外力が働くとき運動量保存則は適用できません。

系に外力が働いているときに、2番目の判断基準が必要になります。

その判断基準とは、『働く外力は保存力のみか?』です。

外力が保存力である場合、力学的エネルギー保存則は成立します。

もし、保存力以外の力が働いていれば、力学的エネルギー保存則は成立しません。

その場合は運動方程式を地道に計算する他ありません。

外力が保存力のみである場合に、3番目の判断基準が登場します。

その判断基準とは、『保存力は中心力か?』です。

保存力が中心力である場合、角運動量保存則が適用できます。

これらをまとめると、以下の図のようになります。

判断のフローチャート

この判断基準に従って、問題に対してどんな保存則が適用できるのかを判断していきます。

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