このひずみにより、弾性体にひずみエネルギーと呼ばれるエネルギーが生じることを以前解説しました。
言い換えると、外力のした仕事の変化はひずみエネルギーの変化と等しくなると言えます。
このように、ひずみエネルギーと弾性体の変形量にはとある関係が成立するのです。この関係をカスティリアノの定理と呼びます。
今回は、カスティリアノの定理について解説し、併せてカスティリアノの定理を利用した例題の解法について解説します。
一般化力と一般化変位
図のように壁に固定された弾性体に集中荷重や集中モーメントが働いているとします。(→弾性体とは?)また、この弾性体は静止しているとします。
さて、弾性体に働いている力とモーメントを一般化力として、力とモーメントを同一のものとして扱うことにしましょう。
このとき、弾性体に働く一般化力を$P_i$のように表すとします。また、一般化力による一般化変位を$\delta_i$(デルタ)のように表すとします。
ここで、集中荷重による一般化変位は距離、モーメントによる一般化変位は角度を表します。
一般化力$P_i$による一般化変位が$\delta_i$であるとすると、これによるひずみエネルギー$u_i$は次のように計算できます。
\begin{split}
u_i = \ff{1}{2}P_i\delta_i
\end{split}
※ このように計算される理由はこちらで解説しています。
したがって、弾性体に蓄えられる全ひずみエネルギー$U$は次のように計算できます。
\begin{split}
U = \sum_{i=1}^n u_i = \ff{1}{2}\sum_{i=1}^n P_i\delta_i
\end{split}
この式を関数として表示すると、$U(P_1,\cdots, P_n, \delta_1, \cdots, \delta_n)$とできます。
一旦、$U$を定数として、一般化力と一般化変位の関係について考えていきましょう。
$U$は定数であるため、$P$が変化すると$\delta$もそれに従って変化します。すなわち、$\delta$は$P$の従属変数であると言えます。(逆の議論も成立します)
これより、一般化力と一般化変位で表した$U$の関数は、$U(P_1,\cdots,P_i,\cdots,P_n)$と、一般化力のみの関数となるのです。
この状態で、任意の一つの一般化力$P_i$を微小に変化させ、$P_i + \diff P_i$とした状態を考えます。このときのひずみエネルギーは$U(P_1,\cdots,P_i+\diff P_i, \cdots, P_n)$と表せます。変化前の$U$との関係は、偏微分を使うことで以下のように表現できます。
\begin{eqnarray}
U(P_1,\cdots,P_i+\diff P_i, \cdots, P_n) = U + \ff{\del U}{\del P_i}\diff P_i \tag{1}
\end{eqnarray}
一方、$\diff P_i$の一般化力だけが働いてる状態から残りの一般化力を作用させた場合のひずみエネルギーについて考えます。
$\diff P_i$により$\delta_i$の変位があったとすると、そのひずみエネルギーは$\diff P_i\delta_i$と近似できます。
これより、$\diff P_i$の一般化力を先に作用させた後に残りの力を作用させた場合に蓄えられるひずみエネルギーは、
\begin{eqnarray}
U + \diff P_i\delta_i \tag{2}
\end{eqnarray}
と表せるわけです。さて、式(1)と式(2)で得られたひずみエネルギーは見た目は違いますが、一致しているはずです。そのため、次の等式が成立し、
\begin{eqnarray}
U + \ff{\del U}{\del P_i}\diff P_i = U + \diff P_i\delta_i
\end{eqnarray}
これより、
\begin{eqnarray}
\delta_i = \ff{\del U}{\del P_i}
\end{eqnarray}
の関係が成立することが分かります。
カスティリアノの定理
先程求めた変位と力の関係式について改めて考えます。以下のように、一般化変位はひずみエネルギを一般化力で偏微分することで求められるのでした。
\begin{eqnarray}
\delta_i = \ff{\del U}{\del P_i}
\end{eqnarray}
これより、一つのある一般化力でひずみエネルギーを偏微分すると、その一般化力が作用する点での一般化変位を計算できることが分かります。
このことをカスティリアノの第二定理と言います。一方、ひずみエネルギーを一般化変位を使って表すと、一般化力を
\begin{eqnarray}
P_i = \ff{\del U}{\del \delta_i}
\end{eqnarray}
とできます。なお、これをカスティリアノの第一定理と呼びます。以上より、カスティリアノの定理は次のように表せます。
※ 通常、カスティリアノの定理と呼ぶときは、カスティリアノの第二定理のことを言います。
カスティリアノの定理を利用することで、たわみ曲線の微分方程式を解く過程をショートカットして答えに辿り着くことができるのです。
言葉だけでは実感が湧かないでしょうから、実際に問題を解いて確認していきましょう。
カスティリアノの定理を利用した例題
カスティリアノの定理を利用して、実際に問題が解けることを確認していきます。まず、片持ち梁の曲げについて考えます。
集中荷重の働く片持ち梁の曲げ
図のようにヤング率が$E$、断面二次モーメントが$I$の長さ$l$のはりの左端に大きさ$P$の集中荷重が働いているとします。
この問題において、左端での曲げ変形量$\delta$はこちらで解いたように、$\DL{\ff{Pl^3}{3EI}}$と求められました。
この結果をカスティリアノの定理から導けることを示します。
カスティリアノの定理を使用するために、まずはひずみエネルギーを計算する必要があります。梁に蓄えられるひずみエネルギーは以前学んだように、次のように表せました。
\begin{eqnarray}
U = \ff{1}{2}\int_0^l\ff{M(x)^2}{EI}\diff x \\
\end{eqnarray}
今、曲げモーメント$M(x)$は$M(x)=-Px$と求められるため、これを上式に代入するとひずみエネルギーは
\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}\int_0^l\ff{P^2x^2}{EI}\diff x \EE
&=& \ff{P^2l^3}{6EI}
\end{eqnarray}
と計算できます。(→曲げモーメントの計算過程)この結果をカスティリアノの定理の式に代入すると、次のようになります。
\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{\del U}{\del P} \EE
&=& \ff{\del}{\del P}\left( \ff{P^2l^3}{6EI} \right) \EE
&=& \ff{Pl^3}{3EI}
\end{eqnarray}
カスティリアノの定理によると、計算された結果はその点に働く力による変位でした。したがって、計算結果は集中荷重の働く左端での曲げ変形量と一致するのです。
このように、カスティリアノの定理を利用することで曲げ変形量を簡単に求められるのです。
分布荷重の働く片持ち梁の曲げ
カスティリアノの定理を利用することで、集中荷重が働く片持ち梁の曲げを見事に計算できることが分かりました。次に、大きさ$w$の分布荷重が働く場合の片持ち梁の曲げに、カスティリアノの定理を適用できるのかを見ていきます。
※ この問題において、左端での曲げ変形量$\delta$はこちらで解いたように、$\DL{\ff{wl^4}{8EI}}$と求められました。
分布荷重が働く問題にカスティリアノの定理を適用するとき、注意しなければならないことがあります。
それは、カスティリアノの定理は集中荷重または集中モーメントが働く場合に限ってが成立するということです。したがって、このままではカスティリアノの定理を適用することができません。
そのため、代わりに大きさ$P$の集中荷重を梁の左端に働かせた状態について考えます。これにより、左端での変形をカスティリアノの定理より計算できるようになるのです。
この状態でのひずみエネルギーは次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2EI}\int_0^l\Big\{-\left(Px+\ff{1}{2}wx^2\right)\Big\}^2\diff x \EE
&=& \ff{1}{2EI}\left[ \ff{1}{3}P^2x^3 + \ff{1}{4}Pwx^4 + \ff{1}{20}w^2x^5 \right]_0^l \EE
&=& \ff{1}{2EI}\left( \ff{1}{3}P^2l^3 + \ff{1}{4}Pwl^4 + \ff{1}{20}w^2l^5 \right) \EE
\end{eqnarray}
となります。(→曲げモーメントの計算過程)この結果をカスティリアノの定理に代入すると、
\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{\del U}{\del P} \EE
&=& \ff{1}{2EI}\ff{\del}{\del P}\left( \ff{1}{3}P^2l^3 + \ff{1}{4}Pwl^4 + \ff{1}{20}w^2l^5 \right) \EE
&=& \ff{Pl^3}{3EI}+\ff{wl^4}{8EI}
\end{eqnarray}
となります。実際には$P=0$であるため、上式の結果は$\delta = \DL{\ff{wl^4}{8EI}}$となります。この結果も、たわみ曲線の微分方程式を解く方法より求めた結果と見事に一致することが分かります。
不静定問題の梁
最後に、次のような分布荷重を受ける一端支持他端固定梁について考えましょう。なお、カスティリアノの定理を利用することで、支持端での反力を求めることを目的とします。
まず、梁に働く反力とモーメントを書き出すと下図のようになります。
左端に働く反力を$R_A$として、ひずみエネルギーを計算すると次のようになります。(→曲げモーメントの計算過程)
\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2EI}\int_0^l \left(R_Ax-\ff{1}{2}wx^2\right)^2 \diff x \EE
&=& \ff{1}{2EI}\left[ \ff{1}{3}R_A^2x^3 \,- \ff{1}{4}R_Awx^4 + \ff{1}{20}w^2x^5 \right]_0^l \EE
&=& \ff{1}{2EI}\left( \ff{1}{3}R_A^2l^3 \,- \ff{1}{4}R_Awl^4 + \ff{1}{20}w^2l^5 \right) \EE
\end{eqnarray}
これより、左端でのたわみは、
\begin{eqnarray}
\delta &=& \ff{\del U}{\del R_A} \EE
&=& \ff{1}{2EI}\ff{\del}{\del R_A}\left( \ff{1}{3}R_A^2l^3 \,- \ff{1}{4}R_Awl^4 + \ff{1}{20}w^2l^5 \right) \EE
&=& \ff{R_Al^3}{3EI}\,-\ff{wl^4}{8EI}
\end{eqnarray}
と計算できます。左端でのたわみは$0$であるため、$R_A$は次のように求められます。
\begin{split}
&\ff{R_Al^3}{3EI}\,-\ff{wl^4}{8EI} = 0 \EE
&\quad \therefore\,\, R_A = \ff{3}{8}wl
\end{split}
$R_B$に関しては、$wl = R_A+R_B$より、$\DL{R_B = \ff{5}{8}wl}$と求めることができます。このように、カスティリアノの定理を利用することで材料力学の問題を簡単に解くことができるのです。
今回紹介した例題を、たわみ曲線の微分方程式を解くことで計算する方法は以下の参考記事で解説しています。
参考記事