オイラーの座屈理論とは?|【柱の座屈問題の例題と実験式】

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長い柱に対して軸圧縮荷重を作用させると、柱にたわみが生じます。

材料力学では、この現象のことを座屈と呼びます。

座屈の模式図

今回は柱の座屈を理論的に考察し、これより座屈を数学的に記述する方程式を導出します。

オイラーの座屈荷重

柱の長さを$l$、ヤング率を$E$、断面二次モーメントを$I$、$n$を自然数としてオイラーの座屈荷重$P$は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
P = \ff{\pi^2n^2EI}{l^2}\,\,\quad (n=1,2,3,\cdots) \\
\,
\end{eqnarray}

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座屈の理論

座屈により柱がたわんだ状態における力学的状態を考えます。

まずは、たわんだ柱から微小部分を取り出した自由体図を考えます。

柱の微小部分

柱にかかる軸圧縮荷重を$P$、床から受ける反力を$R$とします。

このとき、床から微小な部分を取り出すと、その微小部分に働く力やモーメントは図のように表せます。

今、微小部分は静止しているため、次のような力とモーメントの釣り合い式が立てられます。(→物体の静止条件とは?

$$
\left\{
\begin{eqnarray}
-R + P &=& 0 \EE
Rx \,- M &=& 0
\end{eqnarray}
\right.
$$

これより、$R=P、M=Rx=Px$であることが分かります。

さて、柱の座屈と言われると馴染みが無いために身構えてしまいますが、90度視点を回転させれば、梁の曲げと同じ状況であることに気が付きます。

これに気が付けば話は簡単になります。

すなわち、座屈の状態はたわみ曲線の微分方程式を流用して数学的に記述することができて、次のように表せます。

\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 x}{\diff y^2} = -\ff{Px}{EI}
\end{eqnarray}

ただし、柱のヤング率を$E$、断面二次モーメントを$I$とします。(→断面二次モーメントの定義と計算方法

つまり、柱の座屈の様子は次のような微分方程式で表せるのです。

柱の座屈と微分方程式

柱のヤング率を$E$、断面二次モーメントを$I$、軸圧縮荷重を$P$として、次のように座屈の様子を記述できる

\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 x}{\diff y^2} = -\ff{Px}{EI} \\
\,
\end{eqnarray}

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オイラーの座屈荷重

それでは先程導出した微分方程式を解いていきましょう。

$x=e^{\lambda y}$として微分方程式に代入すると、次のような特性方程式を導けます。(→特性方程式とは?

\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 x}{\diff y^2} &=& -\ff{Px}{EI} \\
\lambda^2 &=& -\ff{P}{EI}
\end{eqnarray}

この特性方程式を解くと、$\lambda = \pm\DL{\sqrt{\ff{P}{EI}}}i$と求められます。

したがって、微分方程式の解は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
x = C_1e^{\sqrt{\ff{P}{EI}}i} + C_2e^{-\sqrt{\ff{P}{EI}}i}
\end{eqnarray}

ただし、$C_1, C_2$を積分定数とします。

境界条件を考え、積分定数を明らかにしていきます。

柱の両端において、変位しないという条件を課すと以下のような関係式が成立します。(この条件が今回の境界条件になります)

上式に$x=0, x=l$をそれぞれ代入すると、

$$
\left\{
\begin{eqnarray}
0 &=& C_1 + C_2 \EE
0 &=& C_1\left( e^{\sqrt{\ff{P}{EI}}li} \,- e^{-\sqrt{\ff{P}{EI}}li} \right)
\end{eqnarray}
\right. \tag{1}
$$

となります。

$C_1 = -C_2 = 0$のとき、柱は座屈していないことになるため、$C_1 = -C_2 \neq 0$でなければなりません。

式(1)に関して、オイラーの公式を用いると次のように整理できます。

\begin{eqnarray}
0 &=& C_1\left( \cos\sqrt{\ff{P}{EI}}l + i\sin\sqrt{\ff{P}{EI}}l \,- \cos\sqrt{\ff{P}{EI}}l +i\sin\sqrt{\ff{P}{EI}}l \right) \EE
&=& 2C_1i\sin\sqrt{\ff{P}{EI}}l
\end{eqnarray}

これより、$\sin\DL{\sqrt{\ff{P}{EI}}l }=0$であることが分かります。($C_1\neq0$のため)

この条件を満たすためには、$n$を自然数として、

\begin{eqnarray}
\sqrt{\ff{P}{EI}}l = n\pi
\end{eqnarray}

となる必要があることが分かります。

これより、軸圧縮荷重$P$は次のように整理できます。

\begin{eqnarray}
P = \ff{\pi^2n^2EI}{l^2}\,\,\quad (n=1,2,3,\cdots)
\end{eqnarray}

この軸圧縮荷重をオイラーの座屈荷重と呼びます。

オイラーの座屈荷重

柱の長さを$l$、ヤング率を$E$、断面二次モーメントを$I$、$n$を自然数としてオイラーの座屈荷重$P$は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
P = \ff{\pi^2n^2EI}{l^2}\,\,\quad (n=1,2,3,\cdots) \\
\,
\end{eqnarray}

これより、柱の座屈の様子を数式で表すと次のようにできることが分かります。

\begin{eqnarray}
x = C\sin\sqrt{\ff{P}{EI}}l = C\sin n\pi
\end{eqnarray}

なお、$C$は$x=l/2$でのたわみ量を表す定数とします。

式より、柱は正弦関数に沿った形状で変形することが分かります。

柱の座屈のモード

図のように$n$の値に従って、柱の変形がより複雑になることが分かります。

さて、真っ直ぐな柱が座屈したとき、最初はどんな形状になるでしょうか?

実験せずとも、日常的な経験から分かるように座屈したときの最初の形状は$n=1$の正弦関数の形状となります。

したがって、この軸圧縮荷重が実質的に柱に座屈を生じさせる荷重となるのです。

この荷重を臨界座屈荷重と呼びます。

臨界座屈荷重

柱の長さを$l$、ヤング率を$E$、断面二次モーメントを$I$とすると、柱に座屈を生じさせる臨界座屈荷重$P_{cr}$は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
P_{cr} = \ff{\pi^2EI}{l^2} \\
\,
\end{eqnarray}

柱の断面積を$A$とすると、臨界座屈荷重が働いているときの柱に働く応力は次のように表せます。(→応力とは?

\begin{eqnarray}
\sigma_{cr} = \ff{P_{cr}}{A} = \ff{\pi^2EI}{Al^2}
\end{eqnarray}

なお、この応力を座屈応力と呼びます。

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座屈応力と降伏応力の関係

実際の例題を解いて座屈応力と降伏応力の関係について考察してみましょう。

鋼鉄製(降伏応力:$200\,\RM{MPa}$、ヤング率:$206\,\RM{GPa}$)の長さ$1\,\RM{m}$、直径$10\,\RM{mm}$の柱の両端を回転固定された丸棒を考えます。

このとき、棒が座屈するときの臨界座屈荷重を求めましょう。

まず、丸棒の断面二次モーメントは次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
I = \ff{\pi d^4}{64} = \ff{\pi (10\times10^{-3})^4}{64} \NEQ 4.91\times10^{-10}\, [\RM{m}^4]
\end{eqnarray}

このとき、臨界座屈荷重は次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
P_{cr} &=& \ff{\pi^2EI}{l^2} \EE
&=& \ff{\pi^2\times206\times10^9\times4.91\times10^{-10}}{1^2} \EE
&\NEQ& 998\, [\RM{N}]
\end{eqnarray}

これより、座屈応力は、

\begin{eqnarray}
\sigma_{cr} &=& \ff{998}{\ff{\pi}{4}\times(10\times10^{-3})^2} \EE
&\NEQ& 12.7\,[\RM{MPa}]
\end{eqnarray}

と求められます。

座屈応力と降伏応力を比較すると、座屈応力は降伏応力の$6\, \%$程度しかないことが分かります。

つまり、引張力よりもはるかに小さな応力でも柱が座屈する可能性があるのです。

したがって、設計の際にはなるべく引張力が働くように部材を配置することが重要であることが分かります。

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座屈の実験式

実際の柱は必ずしも、理論通りオイラーの座屈荷重で座屈するとは限りません。そのため、実用的には様々な実験式が利用されています。

最後に、座屈に関する実験式について紹介します。

ランキンの式

\begin{eqnarray}
\sigma_{cr} &=& \ff{\sigma_0}{1+a\lambda^2}
\end{eqnarray}

テトマイヤーの式

\begin{eqnarray}
\sigma_{cr} &=& \sigma_0(1-a\lambda)
\end{eqnarray}

ジョンソンの式

\begin{eqnarray}
\sigma_{cr} &=& \sigma_{Y}\left(1\,- \ff{\sigma_Y\lambda^2}{4\pi^2 E}\right)
\end{eqnarray}

なお、$\lambda$は柱の細長比(アスペクト比)、$\sigma_Y$は圧縮降伏応力、$\sigma_0, a$は実験により定まる定数とします。

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