三角比・三角関数の復習から始めて、オイラーの公式・フーリエ級数展開までの解説を行います。
物理の計算を行う際、三角関数は便利な道具であるため、産業でも重要な役割を果たします。
今回は基礎編として、度数法と弧度法までの解説を行います。
三角比・三角関数とは?
三角関数の説明を行う前に三角比の復習から始めます。
三角比とは、直角三角形にまつわる数学です。
高校数学でも学びましたが、基本事項について改めて復習しましょう。
三角比とは?
三角比を考えるにあたり、次のような直角三角形$\RM{ABC}$を考えます。
さて、$\angle \RM{ABC}$を $\theta$(シータ)とすると、この角度が同じ直角三角形は、各辺の長さに関わらず全て相似になります。
言い換えると、同じ角度を持つ直角三角形の各斜辺の比率は一致することが言えます。
この比率を三角比と呼ぶことにし、各斜辺の比率を次のような記号で表すと約束します。
\begin{eqnarray}
\sin\theta &=& \ff{b}{c} \EE\\
\cos\theta &=& \ff{a}{c} \EE\\
\tan\theta &=& \ff{b}{a} \EE
\end{eqnarray}
各記号は$\sin$(サイン)、$\cos$(コサイン)、$\tan$(タンジェント)と読みます。例えば、$\sin\theta$ は”サインシータ”と読みます。
ちなみに、日本語では$\sin$を正弦、$\cos$を余弦、$\tan$を正接と呼びます。
相似な三角形では三角比はすべて同じであるため、斜辺が$1$の三角形をこれらの三角形の代表として扱うことにします。
斜辺の長さを$1$に保ったまま、$\theta$を増加させていくと、点$\RM{A}$の軌跡は半径$1$の円となることは想像できると思います。
半径が$1$のこの円を単位円と呼び、三角関数を考える際に補助輪として活用されます。
ここで、点$O$を原点として図のように$xy$のデカルト座標(直交座標)を考えると、
\begin{eqnarray}
\RM{OB} = x = \cos\theta \EE
\RM{AB} = y = \sin\theta \EE
\end{eqnarray}
とも表せます。
なお、斜辺が$r$であれば、$x = r\cos\theta, y=r\cos\theta$ と表現できます。(→デカルト座標と極座標)
三角比の重要な性質についても復習しておきましょう。
まず、$\sin\theta$と$\cos\theta$ の関係を考えます。
三角形$\RM{AOB}$で三平方の定理を適用すると、以下の式が成立します。
\begin{split}
&\RM{OB}^2 + \RM{AB}^2 = \RM{AO}^2 \EE
\end{split}
$\RM{OB}, \RM{AB}$は$\sin, \cos$を使って表せ、$\RM{AO} = 1$であるので、
\begin{split}
&\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1
\end{split}
という関係式が成立します。
次に、$\tan\theta$は定義より、$\sin\theta$と$\cos\theta$を使って以下のように表せます。
\begin{split}
\tan\theta &= \ff{b}{a} = \ff{b/c}{a/c} \EE
&= \ff{\sin\theta}{\cos\theta}
\end{split}
三角比・三角関数に関係する問題を扱うとき、これらの関係を大いに活用していきます。
三角関数とは?
三角比の最大のメリットは角度の情報と既知の長さの一辺があれば、その他の一辺の長さを直ちに求められる点です。
この性質を利用すれば、地球の直径や太陽の直径すら簡単に求めることができます。
三角比は非常に便利な道具ですが、定義上、直角三角形の辺の比であるため、利用できる角度$\theta$は、$0^{\circ}$より大きく$90^{\circ}$未満の場合に制限されます。
このままでは不便なため、三角比を一般の角度でも使えるように拡張することを考えましょう。
差し当たり、$0^{\circ}$から$360^{\circ}$までの範囲で拡張することを考えましょう。
このように、三角比を一般の角度でも使えるように拡張したものを三角関数と呼びます。
三角関数を考えるために再び単位円を持ち出します。
先ほどの三角比では直角三角形が主役でしたが、三角関数では単位円が主役になります。
三角比では三角形の辺の比で$\sin$や$\cos$を定義しましたが、三角関数では$x$軸から角度$\theta$動いた、長さ$1$の線分と単位円が交わる位置での$x$座標と$y$座標の値を使って、$\sin, \cos, \tan$を定義します。
なお、線分$\RM{OA}$は角度変化と伴に移動してくため、動径と呼ばれます。
具体的には三角関数としての$\sin, \cos, \tan$を次のように定義します。
\begin{eqnarray}
\sin\theta &=& y \EE\\
\cos\theta &=& x \EE\\
\tan\theta &=& \ff{y}{x} \EE
\end{eqnarray}
この定義でも、$0^{\circ} < \theta < 90^{\circ}$の範囲で三角比の値と三角関数の値が一致します。
したがって、三角関数は三角比と互換性があり、三角比の自然な拡張となっていることが分かります。
ここで注目すべき点は$\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta$が負になることがあるということです。
図で表すと次のような対応関係になります。
さて、三角関数の世界では負の角度を導入することができます。
つまり、$x$軸の正方向から反時計回りに回転する方向を正とし、時計回りに回転する方向を負と約束することで、負の角度を導入することができるのです。
正の角度と負の角度の対応関係は図から分かるように、
\begin{eqnarray}
-\sin\theta &=& \sin(-\theta) \EE
\cos\theta &=& \cos(-\theta) \EE
-\tan\theta &=& \tan(-\theta) \EE
\end{eqnarray}
というようになります。
$$
\,
$$
三角関数のグラフ
三角関数をグラフ化することを考えます。
単位円上の点の移動を追うことでグラフ化することができます。
単位円上の$A$点の$y$座標の値を$\theta$の変化に従ってプロットすると、$\sin \theta$のグラフとなり、$x$座標の値をプロットすると、$\cos \theta$のグラフとなります。
ここでは、動径を時計回りと反時計回りに一回転させたときのグラフを示します。
単位円の半径が$1$であるため、$\sin x$と$\cos x$の最大値は$1$、最小値は$-1$となります。
\begin{eqnarray}
-1\leq \sin x,\,\, \cos x \leq 1
\end{eqnarray}
また、$\sin x$は原点で点対称であるので奇関数に分類され、$\cos x$は縦軸(今回は$x$軸)に対して対称であるため、偶関数に分類されます。
$\sin x$が奇関数、$\cos x$が偶関数になるという事実は、フーリエ変換を考える上で鍵となる性質になります。
三角関数と単振動
さて、単位時間当たりに$\omega$(オメガ)度、点$\RM{A}$が単位円上を移動している様子を考えます。
時刻$t=0$で点$\theta = 0$であるとすると、時刻$t=t_1$で$\theta = \omega t_1$となります。
点$\RM{A}$が反時計回りに回転しているとき、その変化は正弦関数のグラフとして表せることは先ほど学びました。
この例のように、ある変化量の時間変化が三角関数の正弦関数または余弦関数として表される振動を単振動と呼びます。
単振動の例として、振り子の振動やばねの振動があります。
これらの振動についての詳しい解説は別の記事で行っています。
弧度法と度数法
一周を360分割して、角度を表す度数法と、円周の長さが$2\pi$であることに注目して、$2\pi$を基準とした角度で表す弧度法があります。
度数法と弧度法の対応は表のようになります。
\begin{array}{cccccccc}\hline
0^{\circ} & 1^{\circ} & \cdots & 90^{\circ} & \cdots & 180^{\circ} & \cdots & 270^{\circ} & \cdots & 360^{\circ} \\\hline
0 & \DL{\ff{\pi}{180}} & \cdots & \DL{\ff{\pi}{2}} & \cdots & \pi & \cdots & \DL{\ff{3}{2}\pi} & \cdots & 2\pi \\\hline
\end{array}
度数法での$180^{\circ}$に対応する図形は半円であるため、弧度法での角度は半周分の$\pi$とあんります。
したがって、度数法での$1^{\circ}$は弧度法では$\pi$を180分割した$\DL{\ff{\pi}{180}}$となります。
なお、各々の単位は度数法では$[\RM{deg}]$と表記し”ディグリー”と読み、弧度法では$[\RM{rad}]$と表記し”ラジアン”と読みます。
慣れ親しんだ表記法は度数法ですが、物理学の世界では弧度法が標準的に使用されます。
わざわざ、弧度法を使う理由について解説します。
円弧の長さと扇形の面積
度数法と弧度法の対応関係について改めて復習しましょう。
先ほどの表にある通り、度数法での$1\, \RM{deg}$は弧度法では$\DL{\ff{\pi}{180}}\, \RM{rad}$となるので、一般に度数法で$\alpha\,[\RM{deg}]$の角度を、弧度法での$\theta\,[\RM{rad}]$に直すと、
\begin{eqnarray}
\theta = \alpha\ff{\pi}{180}
\end{eqnarray}
という角度の対応関係となります。
逆に、弧度法から度数法への変換は、
\begin{eqnarray}
\alpha = \theta\ff{180}{\pi}
\end{eqnarray}
となります。
ここで、扇形の弧の長さと面積について考えてみましょう。
図のような中心角が$\alpha \, [\RM{deg}]$で半径が$r$の扇形について考えます。
まず、弧の長さ$l$は、度数法では次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
l = 2\pi r \times \ff{\alpha}{360}
\end{eqnarray}
一方、これを弧度法で計算すると、$\DL{\alpha = \theta\ff{180}{\pi}}$であることを思い出して、上式に代入すると、
\begin{eqnarray}
l &=& 2\pi r \times \ff{\alpha}{360} \EE
&=& 2\pi r \times \theta\ff{180}{\pi}\times\ff{1}{360} \EE
&=& r\theta
\end{eqnarray}
となります。
次に、扇形の面積$S$について考えます。
弧度法では、
\begin{eqnarray}
S = \pi r^2 \times \ff{\alpha}{360}
\end{eqnarray}
となりますが、一方の弧度法では、
\begin{eqnarray}
S &=& \pi r^2 \times \ff{\alpha}{360} \EE
&=& \pi r^2\times\theta\ff{180}{\pi}\times\ff{1}{360} \EE
&=& \ff{1}{2}r^2 \theta
\end{eqnarray}
となり、弧長や扇形の面積を簡単に表せることが分かります。
このように、弧の長さや扇形の面積を弧度法では簡単に表せるため、物理学では弧度法が使われます。
今後、角度の単位に関して特に断りが無い場合、弧度法表記であると考えてください。
三角関数と産業
三角関数がどのように物理学で活躍しているのかについての詳細な解説は別の機会に譲るとして、ここでは、三角関数が産業の中でどのような関わりを持つのか見ていきましょう。
三角関数はねじを作る小さな町工場から航空宇宙産業まで、あらゆる産業の場面で利用されますが、生活の中で最も身近なスマホに関わる、通信産業と三角関数の関わりを解説します。
通信で使われる電波は波であるため、数学的にモデル化する際は三角関数が使用されます。
実際に使用されている電波は、様々な周波数の電波を含んでいるため、図のような複雑な波形をしています。
それぞれの周波数の電波に個別の情報が含まれているため、複雑な波形から単一の周波数に分解しなければなりません。
このように、複雑な波形から単一の周波数を取り出す方法をフーリエ変換と呼ばれ、フーリエ変換の背後にはフーリエ級数展開があります。
フーリエ級数展開の解説は次の機会に行います。