力積・撃力とは?【運動量・運動量保存則】【インパルス関数】

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卵を高いところから落下させると、どうなるでしょうか?

普通は殻が割れて中身が飛び出るでしょう。なぜ、殻は割れたのでしょうか?

高い所から落としたから?早い速度で落下したから?殻がもろかったから?

どれも正しいように感じますが、本質的な理由ではありません。

卵が割れた理由には運動量が深く関わっています。

今回は運動量についても考察を通して卵が割れた理由と、どうしたら卵が割れないように出来るのかを考えていきましょう。

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運動量と運動方程式

運動量を考える前に運動方程式について復習しましょう。

運動方程式はニュートンの第二法則から導かれる基礎方程式でした。

運動の第二法則運動の法則

物体の運動量の変化は、これに働く力の向きに起こり、またその力の大きさに比例する。すなわち、力を$\B{F}$、運動量を$\B{p}$として、運動方程式は次のように表される。

\begin{split}
\B{F} &= \ff{\diff \B{p}}{\diff t} \\
\,
\end{split}

なお、第二法則は運動の法則とも呼ばれます。

ところで$\B{F}$の力が質量$m$の物体に働いているとき、力が働く方向に$\B{a}$の加速度が働きます。

これを式で表すと、

\begin{split}
\B{F} &= m\B{a}
\end{split}

となります。

運動の第二法則・運動方程式の模式図

高校物理では、この式を運動方程式として習いましたが、例えば、自動車はガソリンを消費して走行するため、時々刻々と質量が変化しますし、ロケットも同様に質量が変化します。

質量は時間により変化するため、一般的には$\B{F} = m(t)\B{a}$と表さなければなりません。

より詳しく微分方程式として表すと、

\begin{split}
\B{F} &= \ff{\diff }{\diff t}( m\B{v} ) = \ff{\diff \B{p}}{\diff t}
\end{split}

となります。(加速度$\B{a}$と速度$\B{v}$の関係は$\DL{\B{a}=\ff{\diff \B{v}}{\diff t}}$となるため)

質量と速度の積が運動方程式の中に現れるため、この積に運動量という名前を付けることにします。

運動量を$\B{p}$として、運動方程式を書き換えると上式のように簡単にできます。

このように運動の法則をより一般的に表現するため、運動量が用いられます。

運動量により運動方程式を表すことで、あらゆる運動に対して適用できる強力な道具となります。

大学以降の物理学ではこの運動方程式も用いられます。(→ロケット方程式での応用

力はベクトル量であるため、運動方程式もベクトルを含んだ式になります。また、ベクトルを太字で表すと約束します。詳しくはベクトルの記法・記号の意味の記事を確認してください。

運動量とは?

運動方程式において、運動量なるものを定義しましたが、この運動量について考えていきましょう。

運動量とは、「質量」×「速度」で表されるベクトル量です。

質量自体はスカラー量ですが、速度はベクトル量なので、その積である運動量もベクトル量になります。

運動量

質量を$m$、速度を$\B{v}$として運動量$\B{p}$は次のように表される。

\begin{split}
\B{p} &= m\B{v} \\
\,
\end{split}

運動量は質量と速度の積であることから、運動の勢いを表す物理量と言えます。

また、運動方程式から分かるように、力のベクトルと運動量のベクトルは方向が一致します。

もちろん、運動量はベクトルであるため、ベクトルの合成や分解ができます。

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運動量と力積

ところで、運動方程式を時間に関して積分するとどうなるでしょうか?

そこで、$t_0$から$t_1$までの時刻で運動方程式を積分し、運動量と力の関係について調べてみましょう。

非常に短い時間間隔で考えるため、力の大きさと向きは一定であると近似できます。

このとき、運動方程式の両辺を積分すると、

\begin{eqnarray}
\int_{t_0}^{t_1}\B{F} \diff t &=& \int_{t_0}^{t_1} \ff{\diff \B{p}}{\diff t}\diff t \EE
\B{F}(t_1\,- t_0) &=& \B{p}_1 \,- \B{p}_0 \EE
\therefore\, \D \B{p} &=& \B{F}\D t \tag{1}
\end{eqnarray}

となります。(ただし、$t_0$における運動量を$\B{p}_0$、$t_1$における運動量を$\B{p}_1$とします。)

さて、$\D t = t_1\,- t_0$、$\D \B{p} =\B{p}_1 \,- \B{p}_0 $として式を整理すると、運動量の時間変化は$\B{F}\D t$とできます。

時間と力の積が運動量の時間変化と結びつくため、この積に力積という特別な名前を付けることにします。

力積もベクトル量となります。

力積は$\B{I}$で表し、正確には積分を使って次のように定義されます。

力積の定義

\begin{split}
\B{I} = \int_{t_0}^{t_1}\B{F} \diff t \\
\,
\end{split}

また、力積はベクトル量であるため、運動量と同様に合成や分解することができます。

力積と運動量の関係

\begin{eqnarray}
\B{I}=\B{F}\D t = \D \B{p} \\
\,
\end{eqnarray}

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運動量保存則

力積と運動量の関係式が得られたので、この関係式について調べてみましょう。

まずは、$\B{F}$が$\B{0}$のときどうなるでしょうか?(つまり、$\B{I}=\B{0}$)

式(1)から明らかなように、

\begin{eqnarray}
\B{p}_0 &=& \B{p}_1
\end{eqnarray}

となって、運動量が時刻に関わらず一定になることが分かります。

言い換えると、運動量は時間に依らず保存されると考えることができるため、このことを運動量保存則と呼びます。

運動量保存則

系に外力が働かないとき、運動量は時間に依らず一定となる。

運動量保存則は常に成立するわけではなく、外力が働かないときに限り成立します

ここで言う外力とは、系の外から加えられる力のことであり、外力が働くと$\B{F}\neq 0$となるので運動量保存則は成立しません。

一方、系に含まれる物体同士が及ぼし合う力(この力を内力と呼びます)のみしか無い場合、運動量保存則が成立します。

外力が働かない例として、ロケットの運動や物体同士の衝突問題が挙げられます。

運動量保存則はエネルギー保存則とも関連を持ちます。

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撃力と力積:どうしたら卵は割れない?

次に、時間間隔を小さくした場合での、式(1)の力との関係について考察してみましょう。

ここでは物体同士の衝突を考え、衝突の前後での運動量と力積の変化を考えます。また、時間間隔に関わらず、力積が一定の場合を考えます。

時間間隔が小さくなると、力積が一定に保たれるよう、力の大きさは反比例して大きくなっていきます。

力の大きさと時間間隔の関係をグラフ化すると、下のようになります。

力積と撃力の関係

ここで$\D t$を極限まで小さくするとどうなるでしょうか?

図から、力が際限なく大きくなっていくことが見て取れます。

このように、極めて短時間の間に衝突が起きると作用する力が非常に大きくなるで、この力を撃力と呼びます。

最初の質問に戻りましょう。

高い位置から卵を落下させると、卵はなぜ割れるのでしょうか?

高い所から落としたから?早い速度で落下したから?殻が脆かったから?

どれも感覚的には正しいように感じますが、物理学的に考えれば、殻の破壊に関与するのは力のはずです。

問題はこの力がどうやって生じたのかですが、ここまでの運動量と力積の関係の議論から明らかにできます。

まず、力が生じた理由は衝突の前後で運動量が変化し、それに伴って力積も生じたためです。

次に、卵の殻が破壊されたのは、限度以上の大きさの力が殻に加わったためです。

卵と床との衝突接触時間が短かかったため、撃力が生じ、殻が破壊されたのです。

原因が分かれば対策が立てられます。

卵が割れないようにするためには、撃力を小さくすれば良いことが分かります。撃力が生じないように、卵との接触時間が長くできるような柔軟な素材を床に敷けば良いことが分かります。

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インパルス関数

発展的な内容になりますが、撃力をモデル化することを考えましょう。

衝突した瞬間を$t=0$として、撃力をグラフ化すると図のようになります。

このグラフから分かるように衝突の瞬間にて力が働き、それ以外の時刻では力は働きません。

インパルス関数

この様子を数式として表現すると、このようになります。

$$
F(t)=\left\{
\begin{split}
\infty \qquad (t=0) \EE
0 \qquad (t\neq 0)
\end{split}
\right.
$$

ただし、力積は有限な値を取ることから、このままでは不都合です。

そのため、このグラフを全ての時間に渡って積分すると有限な値になると約束します。

つまり、このグラフが表す関数を$\delta (t)$(デルタ)と表し、

\begin{split}
\int_{-\infty}^{\infty}\delta(t) \diff t = 1
\end{split}

と約束します。

このような関数をインパルス関数(デルタ関数)と呼び、撃力や質点のモデル関数として使われます。

力積と気体分子運動論

力積に関連して、気体分子運動論の話題についても紹介します。

気体分子運動論では、最も単純な単原子分子の運動から壁に与える圧力を導きます。

単原子分子気体とは、HeやAr等の希ガスのように、一つの原子が分子のように振舞う気体のことです。

力学的には、単原子分子を質点と見なせるため、物理的に取り扱いやすいのです。

さて、いきなり気体分子全体の様子を考えるのは辛いため、一個の分子の運動から考え始めます。

モデルとして一辺$L$の立方体の中を運動する質量$m$の分子について考えます。

気体分子運動論

気体分子の速度を $\B{v} = (v_x, v_y, v_z)$として、分子が衝突した際に容器の壁に与える力$\B{f}$を求めましょう。

この力は、今までの運動量と力積の関係から簡単に求めることができて、$x$軸に対して垂直な壁への衝突前後での運動量の変化から、

気体分子の衝突前後の速度変化

\begin{eqnarray}
I &=& mv_{x2} \,- mv_{x1} \\
&=& -2mv_{x1} \\
&=& -2mv_x\\
\end{eqnarray}

と計算できます。(完全弾性衝突とし、衝突の前後で速さが変わらないと仮定します)

分子は周期的に壁に衝突するため、その様子を図にすると、緑色のグラフのようになります。

撃力と気体分子運動論

グラフの緑色の山の面積が、衝突による力積を表します。

衝突は短い時間の間に何度も起きるため、平均の力を求める方が都合が良く、$\DL{\langle f \rangle = \ff{mv^2_x}{L}}$をメインとして気体分子運動論では考察を行っていきます。

気体分子運動論についての詳細は「気体分子運動論と統計力学の初めの一歩」で解説しています。

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