重心と重心系の運動|理論とその応用【力学】【重心系の力学】

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その点の回りでモーメントが釣り合う点を重心と呼びます。

重心に全質量が集中していると見なせるため、大きさのある物体でも質点に置き換えることができます。

これにより、物体の運動を重心の運動として計算できることが利点となります。

この置き替えは質量の分布が球対称となっている場合に威力を発揮し、天体のような巨大な物体ですら点として扱えるようになるのです。

今回は重心の定義から始め、重心の求め方と重心系の運動の特徴について解説していきます。

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重心の位置の計算

重心の位置を求める方法について考えましょう。

二物体の重心

重心とは、その一点回りでモーメントが釣り合う点のことです。

まずは二つの物体の重心について求めましょう。

例えば、次のように質量$m_1, m_2$の二つの小球が長さ$L$の質量が無視できる棒に繋がれているとします。

二物体の重心

さて、棒をある点で吊り下げた時に棒が回転せずに静止する点が重心です。

すなわち、重心回りではモーメントが釣り合うことを意味します。(→モーメントとは?

この事実を利用して重心の位置を求めましょう。

今、棒の左端から$a$の位置に重心があるとすると、次のようなモーメントの釣り合い式が成り立ちます。

\begin{eqnarray}
a\cdot m_1g\,-b\cdot m_2 g = 0
\end{eqnarray}

ただし、重力加速度を$g$とし、$b = L-a$とします。

また、反時計回りの回転方向をモーメントの正方向とします。

上式より以下の関係が成立することが分かります。

\begin{eqnarray}
\ff{a}{b} = \ff{m_2}{m_1}
\end{eqnarray}

上式より、重心は棒を$m_2:m_1$の質量比で内分する点であることが分かります。

重要な点は、重心の位置が質点の質量比で表されるということです。また、質量比の逆比で棒を分割する点に重心が存在することも重要な事実です。

具体的に重心の位置を式で表すと、次のようになります。

\begin{eqnarray}
\ff{a}{L} &=& \ff{a}{a+b} \EE
&=& \ff{a}{a+\ff{m_1}{m_2}a} \EE
&=& \ff{m_2}{m_1 + m_2} \EE
\therefore\,\, a &=& \ff{m_2}{m_1+m_2}L
\end{eqnarray}

このように、重心の位置は質量比と棒の長さによって決まることが分かります。

多数の物体の重心

先の結果より、2物体の重心の位置に関してその位置を求める方法が分かりました。

それでは、多数の物体から成るグループの重心の位置はどのように求められるのでしょうか?

ここでは多数の物体から成る重心の位置の計算方法を考えましょう。

いきなり一般の場合で考えるのは大変なので、三つの物体に関する重心の位置を求めてみましょう。

三物体の重心

三物体の重心を求めるにあたり、図のように$x$軸をとり、各小球の座標を$x_1, x_2, x_3$と置きます。

さて、重心の座標を$x_G$とおくと、次のようなモーメントの釣り合い式が成り立つはずです。

\begin{eqnarray}
(x_G\,-x_1)m_1 g+(x_G\,-x_2)m_2 g\,-(x_3\,-x_G)m_3g &=& 0 \EE
\end{eqnarray}

この式を整理すると、3物体の重心の座標が求められます。

\begin{eqnarray}
x_G = \ff{m_1x_1 + m_2x_2 + m_3x_3}{m_1+m_2+m_3}
\end{eqnarray}

2物体の重心の位置に関する式と比較すると、重心の位置に関して規則性があることが分かります。

これより、一般的の場合の重心の位置に関しては次のように表されることが分かります。

重心の公式

$n$ 個の質点が存在し、各質点の質量と座標が $m_1, \cdots, m_n$、$x_1,\cdots, x_n$ であるとすると、重心の座標 $x_G$ は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
x_G = \ff{\sum_{i=1}^n m_ix_i}{\sum_{i=1}^n m_i} \\
\,
\end{eqnarray}

この公式の極限を考えると、連続体の重心公式を導けます。

これより、一般的の場合の重心の位置に関しては次のように表されることが分かります。

連続体の重心の公式

連続体の質量を $M$ として、重心の座標は次のように求められる。

\begin{eqnarray}
x_G = \DL{\ff{\int x\diff m}{M}} \\
\,
\end{eqnarray}

連続体の重心

質量が一点に集中(=質点)している場合、先程の重心の公式から重心の位置を求めることができます。

しかし、質量が空間全体に一様に分布している連続体にはこの公式を適用できません。

ここでは連続体の重心の求め方について解説します。

次のような、密度が$\rho$(ロー)で一様な円錐の重心の求め方について考えます。

円錐と重心

この円錐の全質量$M$は三角錐の体積と密度から次の様に求められます。

\begin{eqnarray}
M &=& \rho V \EE
&=& \ff{1}{3}\pi\rho r^2 h
\end{eqnarray}

円錐は連続体なので、モーメントを計算しようにもどこから手を付ければ良いか、初見では分からないでしょうが、物理学の常套手段を使うことでモーメントを求めることができます。

その手段とは、対象を微小部分に分割し、各微小要素の計算結果を足し合わせることで全体の結果を求める方法です。

今回は円錐を$x$軸に対して垂直な面で微小部分に区切り、各微小部分でのモーメントを求めます。

微小要素として、厚みが$\diff x$微小円板を考えます。

円錐の微小要素と座標

座標が$x$の位置でのこの円板の直径は$\DL{\ff{2x}{h}r}$となるため、その質量$\diff m$は次のように求められます。

\begin{eqnarray}
\diff m = \pi\rho\left( \ff{x}{h}r \right)^2\diff x
\end{eqnarray}

したがって、重心まわりのモーメントを次のように計算できます。

\begin{eqnarray}
(x_G\,- x)\diff m g &=& (x_G\,- x)\pi\rho\left( \ff{x}{h}r \right)^2g\diff x g \EE
&=& \ff{\pi \rho r^2}{h^2}(x_G\,- x)x^2 \diff x \EE
\end{eqnarray}

このモーメントの和を円錐全体に渡って計算すると$0$になるため、以下の等式が成立します。(定義より、重心回りのモーメントは釣り合うため)

\begin{eqnarray}
\ff{\pi \rho r^2}{h^2}\int_0^h (x_G\,- x)x^2 \diff x &=& 0 \EE
\end{eqnarray}

この定積分を計算し整理すると、

\begin{eqnarray}
0 &=& \ff{\pi \rho r^2}{h^2}\left[ \ff{1}{3}x^3 x_G\,- \ff{1}{4}x^4 \right]_0^h \EE
\ff{1}{3}h^3 x_G &=& \ff{1}{4}h^4
\end{eqnarray}

となります。

これより、$x_G = \DL{\ff{3}{4}}h$と求められました。

皆さんの直感と合っていたでしょうか?

このように、連続体の重心を求める際には連続体を微小要素に区切り、微小要素ごとに重心回りのモーメントを考え、最終的に積分計算に持ち込むことで重心の座標を求めます。

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衝突と重心の位置

物体が静止しているとき、重心の位置も変わりません。

では、物体が運動しているとき、重心の位置はどうなるのでしょうか?

運動物体の重心の位置について考えてみましょう。

質量$m_1, m_2$の物体が時刻$t=0$において$x_1, x_2$の座標にあったとすると、重心の座標$x_G(0)$は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
x_G(0) = \ff{m_1x_1 + m_2x_2}{m_1+m_2}
\end{eqnarray}

この結果は先程の重心の公式からも明らかです。

さて、各物体が速度$v_1, v_2$で等速度で運動しており、外力が働いていないとします。

運動物体の重心

このとき、$t$秒後の各物体の座標は$x_1 + v_1 t, x_2\,-v_2 t$と表せるので、時刻$t$における重心の座標は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
x_G(t) = \ff{m_1(x_1 + v_1 t) + m_2(x_2\,-v_2 t)}{m_1+m_2}
\end{eqnarray}

この式を整理すると、

\begin{eqnarray}
x_G(t) &=& \ff{m_1x_1+ m_2x_2}{m_1+m_2}+\ff{m_1v_1\,-m_2v_2}{m_1+m_2}t \EE
&=& x_G(0) + \ff{m_1v_1\,+(-m_2v_2)}{m_1+m_2}t
\end{eqnarray}

となります。

さて、右辺第一項に関しては時刻$t=0$における重心の座標であることが分かります。

問題は右辺第二項です。

第二項の係数$\DL{\ff{m_1v_1+(-m_2v_2)}{m_1+m_2}}$が定数であれば、重心は等速直線運動することが言えます。

とは言え、第二項が定数となることはかなりレアなケースのように感じられます。

果たして、そう都合よく係数は定数となるのでしょうか?

そう都合よく$0$となるのでしょうか?

実は、係数が定数となるケースはレアではなく、ある条件を満たすと必ず成立することなのです。

その条件とは、物体に外力が働かないというものです。

このとき、質量と速度の積、すなわち運動量の和は定数(=一定)になるのです。(→運動量保存則とは?

今、二つの物体には外力が働いていないため、運動量が保存されます。

この定数を$A$とすると、$\DL{\ff{m_1v_1\,-m_2v_2}{m_1+m_2}=\ff{A}{M}}$となるので、

\begin{eqnarray}
x_G(t) &=& x_G(0) + \ff{A}{M}t
\end{eqnarray}

となります。なお、$M=m_1+m_2$とします。

これより、重心は等速直線運動することが分かります。

なお、初期の運動量の和が$0$であるとき、その後の物体の運動に関わらず、重心は常に静止していることが分かります。

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重心の運動と運動方程式

外力が働かないとき運動量が保存されるとき、重心は等速直線運動することが分かりました。

重心の運動について、さらに詳細に検討していきましょう。

まずは簡単のため、$x$軸方向にのみ運動する質点系を考え、質点系の重心の運動について考えましょう。(→質点系とは?

各質点の質量を$m_1, m_2, \cdots m_i,\cdots, m_n$とし、座標を$x_1, x_2, \cdots, x_i, \cdots, x_n$とします。

この座標はある時刻での瞬間的な位置であることに注意してください。

多数の質点から成る重心の運動

この瞬間における質点系の重心の座標、$x_G$は重心の公式より次のように表せます。

\begin{eqnarray}
x_G &=& \ff{\sum_{i=1}^n m_ix_i}{\sum_{i=1}^n m_i} \EE
&=& \ff{\sum_{i=1}^n m_ix_i}{M}
\end{eqnarray}

ここで、質点系の全質量を$M$とします。$\left( M = \DL{\sum_{i=1}^n m_i}\right)$

さらに、重心の速度$v_G$を計算してみましょう。

$v_G$は微分を用いると$\DL{\ff{\diff x_G}{\diff t}}$と表せることに注意し、微分の和の公式も同時に用いると、$v_G$を次のように計算できます。(→速度と微分の関係:位置・速度・加速度とは?

\begin{eqnarray}
v_G &=& \ff{\diff\,x_G}{\diff t} \EE
&=& \ff{\diff}{\diff t}\left( \ff{\sum_{i=1}^n m_ix_i}{M} \right) \EE
&=& \ff{1}{M}\left( \sum_{i=1}^n m_i \ff{\diff x_i}{\diff t} \right) \EE
&=& \ff{1}{M}\left( \sum_{i=1}^n m_i v_i \right)
\end{eqnarray}

重心の速度の公式

$n$個の質点が存在し、各質点の質量と速度が$m_1, \cdots, m_n$、$v_1,\cdots, v_n$であるとすると、重心の速度$v_G$は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
v_G = \ff{\sum_{i=1}^n m_iv_i}{\sum_{i=1}^n m_i} \\
\,
\end{eqnarray}

これより、重心の速度は重心の位置の公式での座標を速度に置き換えたものになることが分かります。

もう一度時間に関して微分を行うと、重心の加速度$a_G$が計算できて、

\begin{eqnarray}
a_G &=& \ff{\diff^2 \,x_G}{\diff t^2} \EE
&=& \ff{1}{M}\left( \sum_{i=1}^n m_i \ff{\diff^2 x_i}{\diff t^2} \right) \EE
&=& \ff{1}{M}\left( \sum_{i=1}^n m_i a_i \right) \EE
\end{eqnarray}

と計算できます。

重心の加速度

\begin{eqnarray}
a_G = \ff{\sum_{i=1}^n m_ia_i}{\sum_{i=1}^n m_i} \\
\,
\end{eqnarray}

重心の加速度も、重心の公式における座標を加速度に置き換えたものとなっています。

さて、右辺には質量と加速度の積が現れますが、これはまさに運動方程式を表します。

したがって、右辺の和は各質点に働く力の和となります。

各質点に働く力の和を$F$で表わすと、$F=\DL{\sum_{i=1}^n m_i a_i}$の関係が成立するため、上式は、

\begin{eqnarray}
a_G &=& \ff{F}{M} \EE
\end{eqnarray}

とできて、$F = Ma_G$の関係が成立することが分かります。

これより、質点系全体の運動を重心の運動に代表させて計算することができることが分かります。

さらにこの関係から、質点系に力が働かないとき、すなわち$F=0$のとき$a_G = 0$となるため、重心は静止または、等速直線運動すると言えます。

すなわち、各質点がさまざまな速度で運動していたとしても、質点に力が働いていなければ重心は常に一定の運動をすることが分かります。

※ ここでいう、力とは外力のことです。外力の対となる概念が内力です。(→内力・外力とは?

ここでは、$x$軸方向のみに運動していると考えましたが、三次元の場合でも同様な議論が成立するので、外力が働かないときには重心が一定の運動をすると言えます。

【参考記事】質点と質点系の力学

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重心系と等価質量

さて、座標の原点を重心に取った座標系のことを重心座標系と呼びます。

外力が働かないとき、重心座標系も静止または等速直線運動をするので、通常の慣性系と同様に運動方程式が計算できる利点があります。

重心座標系で考えるとどんな良いことがあるのでしょうか?

ここでは、重心座標系の特徴について考えていきましょう。

そこで、重心系から見た時の2物体の運動エネルギーについて考えてみましょう。

重心系の速度

まず、質点系の外にいる静止した観測者から見た二物体の速度が$v_1, v_2$であるとします。

なお、重力は働いていないとし、それ以外の外力も働いていないとします。

すると、質点系の全エネルギー$E$は、

\begin{eqnarray}
E = \ff{1}{2}m_1v_1^2+\ff{1}{2}m_2v_2^2 \tag{1}
\end{eqnarray}

となります。(→運動エネルギーとポテンシャルエネルギー

さて、重心の速度を$v_G$とすると、重心系から見た物体の速度は$v’_1=v_1-v_G, v’_2=v_2-v_G$と表せます。

これを式(1)に代入すると、

\begin{split}
E &= \ff{1}{2}m_1(v’_1+v_G)^2+\ff{1}{2}m_2(v’_2+v_G)^2 \EE
&= \ff{1}{2}m_1{v’}_1^2+\ff{1}{2}m_2{v’}_2^2 + (m_1v’_1+m_2v’_2)v_G + \ff{1}{2}(m_1+m_2)v_G^2 \EE
\end{split}

とできます。

さて、重心系において原点は重心にあるため、重心系に立つ観測者にとって、重心は常に静止しているように感じます。

ここで、先程の議論を思い出しましょう。

重心はその質点系の運動を代表する点でした。したがって、重心系から見ると質点系全体では静止しているように観測されるはずです。

今、こ質点系には外力が働いていないため、重心系から見た質点系の運動量は時間に依らず常に$0$であると言えます。

これより、$m_1v’_1+m_2v’_2=0$であることが言えます。

以上より、

\begin{eqnarray}
E &= \ff{1}{2}m_1{v’}_1^2+\ff{1}{2}m_2{v’}_2^2 + \ff{1}{2}(m_1+m_2)v_G^2 \tag{2}
\end{eqnarray}

となります。

また、$\DL{v_G = \ff{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}}$であることから、$v’_1$と$v’_2$に関して次のように計算できます。

$$
\left\{
\begin{eqnarray}
v’_1 &=& v_1\,- v_G \EE
&=& v_1\,- \ff{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2} = \ff{m_2}{m_1+m_2}(v_1\,-v_2) \EE
v’_2 &=& v_2\,- v_G \EE
&=& v_2\,- \ff{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2} = -\ff{m_1}{m_1+m_2}(v_1\,-v_2) \EE
\end{eqnarray}
\right.
$$

これを式(2)に代入すると、

\begin{eqnarray}
E &=& \ff{1}{2}m_1{v’}_1^2+\ff{1}{2}m_2{v’}_2^2+\ff{1}{2}(m_1+m_2)v_G^2 \EE
&=& \ff{1}{2}\ff{m_1m_2}{m_1+m_2}(v_1\,-v_2)^2 + \ff{1}{2}(m_1+m_2)v_G^2 \EE
&=& \ff{1}{2}\mu u^2 + \ff{1}{2}Mv_G^2
\end{eqnarray}

となります。($M=m_1+m_2$)

ここで、$\DL{\ff{m_1v_1+m_2v_2}{m_1+m_2}=\mu}$とおき、2つの物体の相対速度を$u$とすると、重心系の運動エネルギーはこのように分解できるのです。

なお、$\mu$を等価質量または換算質量と呼ばれます。

換算質量

\begin{eqnarray}
\mu = \ff{m_1m_2}{m_1 + m_2} \\
\,
\end{eqnarray}

2物体の運動の解析は物理学では二体問題と呼ばれ、天体力学においては換算質量が使われることがあります。

重心系の運動エネルギー

\begin{eqnarray}
E = \ff{1}{2}\mu u^2 + \ff{1}{2}Mv_G^2 \\
\,
\end{eqnarray}

速度$v_G$で等速直線運動をする重心から二物体を見た時、二つの物体の運動エネルギーの合計が相対速度と換算質量より計算されるのです。

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