キャベンディッシュの実験とは?|万有引力定数の測定実験

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距離$r$離れた質量$m$と$M$の物体の間に働く万有引力の大きさ$F$は、万有引力の法則より次のように表されました。

万有引力の法則

\begin{eqnarray}
F = G\ff{mM}{r^2} \\
\,
\end{eqnarray}

ここで、$G$は万有引力定数を表します。

万有引力定数は重要な物理定数であり、約$6.67\times 10^{-11}\, \RM{m^3/kg\cdot s^2}$とされています。

万有引力は非常に小さな力であり、1m離れた質量1トンの物体同士に働く万有引力は約$6.7\times 10^{-5}\, \RM{N}$に過ぎません。このように、非常に小さな万有引力を測定することは難題です。

万有引力定数を測定する実験は、ヘンリー・キャベンディッシュにより達成されたため、これを記念してキャベンディッシュの実験と呼ばれます。

※ 現代ではレーザ干渉計や原子干渉計を利用しても万有引力定数が測定されています。

今回は、このキャベンディッシュの実験とその手法について解説します。

なお、万有引力の法則が逆二乗の法則に従う理由ついては、ベルトランの定理にて詳しく解説しています。

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キャベンディッシュの実験とは?

キャベンディッシュの実験における装置構成について説明します。

長さ$2l$の腕の両端のそれぞれに質量$m$の小球を取り付け、この腕の真ん中$O$に長さ$a$のワイヤーを取り付けて吊り下げます。

さらに、小球のそばに質量$M$の大球を置きます。(大球は固定されています)

この装置をねじり秤とも呼びます。

キャベンディッシュの実験の装置構成

小球と大球は万有引力により引き合い、小球は大球に引き寄せられます。小球が引き寄せられることにより、吊り下げているワイヤーもねじれます。

ワイヤーがねじれた角度は、ワイヤーに取り付けた鏡に反射させたレーザ光の角度変化から検出します。

具体的な実験の解析に入る前に、偶力光てこについての解説を行います。

偶力

互いに平行で大きさが等しく、逆向きである一組の力$\B{F}, -\B{F}$のことを偶力と呼びます。

偶力の模式図

偶力の合力は$\B{0}$になりますが、モーメント(トルク)は$\B{0}$にはなりません。

偶力の働く棒の腕の長さを$\B{l}$とすれば、モーメント$\B{N}$は、

\begin{eqnarray}
\B{N} = \B{r}\times \B{F}
\end{eqnarray}

と計算されます。

キャベンディッシュの実験において偶力の大きさは次のように計算されます。

\begin{eqnarray}
N = 2l\cdot F \tag{1}
\end{eqnarray}

光てことは?

小球が万有引力により引かれると、小球を吊り下げているワイヤーがねじれ、取り付けられている鏡も一緒に回転します。

鏡が回転することで、レーザ光の反射角は変化します。

そこで、鏡が$\theta$回転したときのレーザ光の反射角の変化について考えましょう。

光てこの模式図

復習になりますが、鏡に対し入射角$\alpha$で入射した光線は、入射角と同じ反射角で反射します。

注目すべきことは入射角=反射角となることです。

また、入射角と反射角の合計は$2\alpha$となります。

それでは、鏡を$\theta$回転させたときの反射角の変化について考えてみましょう。

まず、鏡が$\theta$回転すると当然、鉛直軸も$\theta$回転します。

すると、入射角は$\alpha + \theta$に変化するので、反射角も$\alpha + \theta$とならなければなりません。

すなわち、入射角と反射角の合計は$2\alpha + 2\theta$となります。

ただ、入射光の位置は変わらないので、反射法則の幾何学的関係を保つためには、反射光が初期よりも$2\theta$移動する必要があります。

すなわち、鏡が$\theta$回転すると、反射光は$2\theta$変化するのです。

このように回転が増幅される様子を例えて、この現象は光てこと呼ばれます。

キャベンディッシュの実験でも光てこを利用して、ワイヤーのねじり角$\theta$が算出できます。

光てことキャベンディッシュの実験

実験開始前にレーザの反射光とスクリーンが直交するように調整し、実験開始後にワイヤーが$\theta$だけねじれると、光てこによって反射光は$2\theta$回転します。

それに対応して、スクリーン上での輝点は$S$の距離を移動することになります。

また、スクリーンと装置との距離を$L$とすると、$\tan 2\theta = \DL{\ff{S}{L}}$の関係が成立します。

ねじれ角は微小なため、$\tan 2\theta \NEQ 2\theta$と近似でき、

\begin{eqnarray}
2\theta &=& \ff{S}{L} \EE
\therefore \, \theta &=& \ff{S}{2L} \tag{2}
\end{eqnarray}

の関係が成立します。

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万有引力定数の測定理論

それでは、キャベンディッシュの実験から万有引力定数を測定する方法について解説していきます。

キャベンディッシュの実験において、未知の値は小球に働く力の大きさ$F$です。

が、これを求めるためには、さらにねじり剛性の値が必要になります。

ワイヤーの横弾性係数断面二次極モーメントが分かっていれば、ねじり剛性を求めることができますが、今回は、ねじり剛性を実験的に求める方法を取り、より正確なねじり剛性について検討します。

周期とねじり剛性率

ワイヤーに吊り下げられた腕は中心点を回転軸として振動します。

回転軸周りの慣性モーメントを$I$、復元モーメントを$-N$とすると、回転軸周りの運動方程式は次のようになります。

\begin{eqnarray}
-N = I\ff{\diff^2 \theta }{\diff t^2}
\end{eqnarray}

ここで、ねじり角の公式を思い出すとワイヤーのねじれ角は、$\DL{\theta = \ff{Ta}{GI_p}}$であり、これをトルク(=モーメント)$T$について整理すると、

\begin{eqnarray}
N=T = \ff{GI_p}{a}\theta
\end{eqnarray}

となります。

ここで、ねじり剛性率を$k=\DL{\ff{GI_p}{a}}$とすると先ほどの式は、

\begin{eqnarray}
I\ff{\diff^2 \theta }{\diff t^2} = -k\theta
\end{eqnarray}

となります。

この微分方程式は定数こそ違いますが、振り子の運動方程式で検討した微分方程式と同じ形式です。

したがって、振動の周期$T$は直ちに計算でき、

\begin{eqnarray}
T = 2\pi\sqrt{\ff{I}{k}} \tag{3}
\end{eqnarray}

となります。

これをねじれ剛性率について変形すると、

\begin{eqnarray}
k = \ff{4\pi^2 I}{T^2}
\end{eqnarray}

となります。

腕の質量を無視し、小球を質点と近似すると慣性モーメントは、

\begin{eqnarray}
I = 2\times m l^2
\end{eqnarray}

であるので、ねじり剛性率は

ねじり剛性率

\begin{eqnarray}
k = \ff{8\pi^2 m l^2}{T^2} \\
\,
\end{eqnarray}

と求められます。

最終変位法

始めの大球の位置で腕の振動が静止した後、大球を点対称の位置に移動させます。

大球を移動させた後に腕の振動が静止した位置までの回転角を$\theta^{\prime}$とおきます。

このとき、万有引力が働いていない中立状態からの角度変化は$\DL{\ff{\theta^{\prime}}{2}}$となります。

最終変位法の模式図

式(2)のねじれ角の式を利用すると、

\begin{eqnarray}
\theta^{\prime} = \ff{S}{2L}
\end{eqnarray}

となります。

よって、ねじり秤の腕に働くモーメント$N$は式(3)より、

\begin{eqnarray}
N = k\ff{\theta^{\prime}}{2}
\end{eqnarray}

となります。(中立の位置で働くモーメントのため)

最終変位法の模式図

一方、万有引力の大きさを$F$とすると、$N=2Fl$であるので、

\begin{eqnarray}
2Fl = k\ff{\theta^{\prime}}{2} \tag{4}
\end{eqnarray}

と等号で結べます。

いよいよフィナーレです。

万有引力は$\DL{F=G\ff{Mm}{r^2}}$であるので、

\begin{eqnarray}
2G\ff{Mml}{r^2} = k\ff{\theta^{\prime}}{2}
\end{eqnarray}

となり、今までの結果を代入すると、万有引力定数は、

万有引力定数

\begin{eqnarray}
G = \ff{\pi^2 r^2lS}{MT^2 L} \\
\,
\end{eqnarray}

と求められます。

補正係数

ここまでは、一組の小球と大球との間に働く万有引力について考えましたが、実際には、もう一つの大球からの万有引力も小球に影響を与えるはずです。

この影響を考慮して理論式を見直してみましょう。

キャベンディッシュの実験の補正係数

最も近い大球から受ける万有引力の大きさを$F_1$、もう一つの大球から受ける万有引力の大きさを$F_2$とします。

それぞれの万有引力の大きさは、

$$
\left\{
\begin{split}
&F_1 = G\ff{mM}{r^2} \EE
&F_2 = G\ff{mM}{r^2 + 4l^2}
\end{split}
\right.
$$

となります。

今注目している小球が受ける正味の万有引力$F$は、$F_2$の水平方向分力$F’_2$を$F_1$から引いたものになるので、

これを計算すると次のようになります。

\begin{eqnarray}
F &=& F_1 \,- F’_2 \EE
&=& G\ff{mM}{r^2} \,- \ff{r}{\sqrt{r^2 + 4l^2}}\cdot G\ff{mM}{r^2 + 4l^2} \EE
&=& G\ff{mM}{r^2} \,- \ff{r^3}{(r^2 + 4l^2)^{\ff{3}{2}}}\cdot G\ff{mM}{r^2} \EE
F &=& (1\,- \beta)G\ff{mM}{r^2} = (1\,- \beta)F_1
\end{eqnarray}

ただし、$\beta \equiv \DL{ \ff{r^3}{(r^2 + 4l^2)^{\ff{3}{2}}} }$としています。

これを式(4)に代入すると、

\begin{eqnarray}
2Fl &=& k\ff{\theta^{\prime}}{2} \EE
2(1\,- \beta)G\ff{mM}{r^2}l &=& \ff{8\pi^2 m l^2}{T^2}\cdot \ff{S}{4L} \EE
G &=& \ff{1}{1\,-\beta}\cdot \ff{\pi^2 r^2lS}{MT^2 L} \EE
\end{eqnarray}

$\beta \ll 1$のとき、$\DL{\ff{1}{1\,-\beta}\NEQ 1+\beta}$と近似できます。

したがって、もう一つの大球からの万有引力を考慮した場合の、万有引力定数の修正理論式は次のようになります。

補正係数による万有引力定数

\begin{eqnarray}
G &=& (1+\beta)\ff{\pi^2 r^2lS}{MT^2 L} \\
\,
\end{eqnarray}

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世界の計量

実験により求めた万有引力定数を用いて、地球の質量を計算する方法について考えましょう。

質量$m$の小球は、重力加速度$g$で加速され、地面に落下していきます。

小球の方が一方的に地面に落下しているように感じられますが、宇宙規模で考えれば小球と地球は互いに引張りあっています。

引き合う地球と小球

規模こそ異なりますが、キャベンディッシュの実験と状況は同じです。

さて、地球の質量を$M_E$、小球の質量を$m$、重力加速度を$g$、地球の半径を$R$、落下距離を$r$とすると以下の式が成立します。

\begin{eqnarray}
mg = G\ff{mM_E}{(R+r)^2} \\
\end{eqnarray}

これを$M_E$について整理すると、

\begin{eqnarray}
M_E &=& \ff{(R+r)^2 g}{G} \EE
&\NEQ& \ff{R^2 g}{G} \tag{5}
\end{eqnarray}

となります。($r\ll R$のため、このような近似が成立します)

地球の半径を求める方法はいくつかあり、自分の身長と地平線までの距離を使って求める方法や、日の出日の入りの時間差から求める方法などがあります。

さて、地球の半径は$6371 \, \RM{km}$、重力加速度は$9.8 \, \RM{m/s^2}$、万有引力定数は$6.67\times 10^{-11}\, \RM{m^3/kg\cdot s^2}$であるので、地球の質量$M_E$は、式(5)より、

\begin{eqnarray}
M_E &=& \ff{(6.371\times 10^6)^2 \times 9.8}{6.67\times 10^{-11}} \EE
&\NEQ& 6.0\times 10^{24} \, \RM{kg}
\end{eqnarray}

と求められます。

とてつもなく莫大な質量ですが、この質量が比較的単純な実験により求められることは驚きです。

さらに、地球の平均密度$\rho_E$は、

\begin{eqnarray}
\rho_E &=& \ff{M_E}{\DL{\ff{4}{3}\pi R^3}} \EE
&=& \ff{6.0\times 10^{24}}{\DL{\ff{4}{3}\pi (6.371\times 10^6)^3}}
&\NEQ& 5.5\times 10^{3} \, \RM{kg/m^3}
\end{eqnarray}

と求められ、地球の平均密度は約$5.5 \, \RM{g/cm^3}$であることも判明しました。

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万有引力定数をめでたく求められましたが、まだまだ疑問は尽きません。それは何かというと重力の伝搬速度です。重力の伝搬速度についての情報は万有引力の法則の数式には含まれておらず、暗黙の了解として重力の伝搬速度を無限大として扱われます。しかしながら、近接作用説を採る物理学の立場としては、重力は有限の伝搬速度を持たなければなりません。果たして、重力の伝搬速度を実験的に求めることはできるのでしょうか?

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