ベルトランの定理とは?|万有引力の法則はなぜ逆二乗則か?

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系全体のエネルギーとポテンシャルエネルギーのグラフを描くことによって、

大まかな物体の軌道形状や軌道半径の最小値・最大値を計算できます。

詳しくは、エネルギーと軌道の形状についての記事で解説しています。

しかし,軌道半径の最小値と最大値が決まっても閉軌道になることは保証できません。

※ 閉軌道:スタート地点に戻ってきて再び同じ軌道を描くような軌道

とはいえ、地球や月など多くの天体の軌道は現実に閉軌道(楕円軌道)を描いています。

どのような中心力であればこのような閉軌道になるのでしょうか?

今回は、物体が閉軌道を描くために必要となる中心力の条件について考えてみましょう。

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逆四乗の力に比例する中心力での軌道

閉軌道を描くための条件を求める前に、逆二乗ではなく逆四乗の力に比例する場合の軌道を考えましょう。

逆四乗の力のポテンシャルエネルギー$U(r)$は次のように書けます。

$$ U(r) = -\frac{1}{3}\frac{k}{r^3} $$

ただし、$k$を定数とします。

さらに、系全体のエネルギーを$E$、質点の質量を$m$、動径ベクトルの長さを$r$、角運動量を$l$として、極座標の下でのエネルギーを考えると以下のように書けます。

\begin{eqnarray}
E &=& \frac{1}{2}m\dot{r}^2 + \frac{l^2}{2mr^2} + U(r) \EE
\therefore\,\,\, E &=& \frac{1}{2}m\dot{r}^2 + \frac{l^2}{2mr^2} \,- \frac{1}{3}\frac{k}{r^3}
\end{eqnarray}

ここで、$V’$を次のように定義します。

$$ V’ = \frac{l^2}{2mr^2} + U(r) = \frac{l^2}{2mr^2} – \frac{1}{3}\frac{k}{r^3} $$

このとき、$r$に関してグラフを描いてみると下図のようになります。(図の赤線

ところで、$ E- V’ $について考えてみましょう。

なお、$ E- V’ = \DL{\frac{1}{2}m\dot{r}^2}$となります。

※ 軌道変化を調べるため($\dot{r}$に関して整理する)に、これについて考えています。

→微分の表記法の解説記事はこちら

全エネルギーは常に一定なので、グラフ上では緑色の直線で表されます。

まず、エネルギーが$E_1$のとき、図のように$V’$と$r_1, r_2$の二点で交わります。

したがって、$\DL{\frac{1}{2}m\dot{r}^2}$は斜線部の範囲で値を取ります。

よって、軌道半径の取り得る範囲は$0\leq r \leq r_1$または$ r_2 \leq r $となります。

つまり、軌道半径が$r_1$より小さければ、その質点の軌道は常に$r_1$以下の有界な軌道になることが分かります。

それでは系全体のエネルギーが増えたとき軌道がどうなるのかを見ていきましょう。

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軌道の安定条件

全エネルギーが増加し$E_2$となって、$V’$の極大値で直線が接する場合を考えましょう。

なお、この接点を$r_1$とします。

接点では$E_2- V’ = 0$なので、$\dot{r_1} = 0$となり軌道半径が一定(=円軌道)となります。

なお、$V’$の極値と$E$の接点となる$r$では一般に円軌道を描きます。

では、少し$E$が増加し、$r_1$からわずかに軌道半径が増えたらどうなるでしょうか?

この場合もはや、軌道半径の増加を止めるものは何もありません。

軌道半径は際限なく増加していき、質点は無限の彼方に飛び去って行くことになります。

エネルギーが少し増えただけで円軌道は有界な軌道でなくなってしまいました。

このように、軌道半径が少し変化しただけで有界な軌道でなくなる円軌道を不安定な軌道,軌道半径が変化しても有界な軌道となる円軌道を安定な軌道と呼びます。

安定な軌道となる中心力と、不安定な軌道となる中心力をまとめると、以下のようになります。

安定な軌道・不安定な軌道

距離の逆四乗に比例する中心力 → 不安定な軌道

距離の逆二乗に比例する中心力 → 安定な軌道 

では、不安定な軌道と安定な軌道の違いはどこにあるのでしょうか?

$V’$の形にどうやら秘密がありそうです。

まず、エネルギーと動径ベクトルの関係で解説したように,中心力が距離の逆二乗に比例する場合は極小値の$r_1$から少しエネルギーが増加したとしても,

$V’$上の二点で交わるため、軌道半径は上限を持つことになります。

したがって、有界な軌道になるのです。

このことを気に留めて、逆四乗に比例する力と逆二乗に比例する力、それぞれの場合の$V’$のグラフを見比べると、

2つのグラフについて、極値近傍で上に凸か下に凸かの違いがあることに気づきます。

つまり、安定な軌道の場合は$V’$のグラフは極値近傍で下に凸、不安定な場合は上に凸な形状となっているのです。

これを微分を使って表現すると、次のようになります。

安定な形状・不安定な形状

安定な軌道 → 極値にて二階導関数の符号が正

不安定な軌道 → 極値にて二階導関数の符号が負

したがって、軌道の安定条件を数式で表現すると次のようになります。

軌道の安定条件

$$ \left. \frac{\partial^2 V’}{\partial r^2} \right|_{r=r_1} = \left. -\frac{\partial f(r)}{\partial r}\right|_{r=r_1} + \frac{3l^2}{m{r_1}^4} > 0$$

ただし、$$ f(r) = -\frac{\partial U(r)}{\partial r} $$

軌道の安定条件に$V’$を代入して符号を見ることで、その軌道が安定か不安定かを判定できます。

軌道が有界となる条件を得ることができました。

次は中心力がどのような式であれば軌道が有界になるのか具体的に計算してみましょう。

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軌道が安定する中心力の条件

軌道の安定条件から、中心力がどのような比例関係にあれば、軌道が有界となるのか調べてみましょう。

軌道の安定条件に関しての右辺を移項すると、次のようになります。

\begin{eqnarray}
\left. \frac{\partial f}{\partial r} \right|_{r=r_1} < -\frac{3l^2}{m{r_1}^4}
\end{eqnarray}

$r_1$では円軌道になっており、中心力と遠心力が釣り合っています。

したがって、$\DL{f(r_1) = -\frac{l^2}{mr_1^3}}$となります。

すなわち、$ \DL{\frac{3f(r_1)}{r_1} = -\frac{3l^2}{mr_1^4}} $と変形できることに注意すると、

\begin{eqnarray}
\left. \frac{\partial f}{\partial r} \right|_{r=r_1} < -\frac{3f(r_1)}{r_1} \tag{1}
\end{eqnarray}

となります。

ここで,中心力が$k$を正の定数として距離のべき乗として次のように表せるとします。(中心力のため符号は負です。)

$$ f(r) = -kr^n $$

これを式(1)に代入して、

\begin{eqnarray}
-knr^{n-1} &<& 3kr^{n-1} \EE
n &>& -3
\end{eqnarray}

と整理できます。

この結果から、円軌道が安定となるための中心力の条件が$\DL{\ff{1}{r^2}}$よりゆっくり変化するような、べき法則に従う力であることが示されました。

ただし、求められた円軌道の安定条件は有界な軌道を描く条件です。

閉軌道を描く条件ではないことに注意してください。

繰り返しになりますが、閉軌道はスタート地点に再び戻ってきて、また同じ軌道を描く軌道です。

閉軌道を描く条件は、軌道半径の下限と上限の範囲内で運動すれば良い有界な軌道よりも厳しい条件になります。

それでは、閉軌道を描く条件を導出してみましょう。

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ベルトランの定理

円軌道は有界かつ閉軌道になっています。

そのため、閉軌道になる条件を導出するに当たって円軌道を基礎に考えます。

円軌道から軌道がわずかに変化した場合を考えましょう。

系全体のエネルギーが少し増加すると、最初の円軌道(半径$r_0$)の周りに軌道半径が変化する余地が少し生まれます。

この軌道が閉軌道になるために、再びスタート地点に戻ってくる必要があるため、$r$の変化は$r_0$を中心とした単振動でなければなりません。

→単振動についての解説はこちら

数式で表すと次のようになります。

$$ u = u_0 + a\cos \beta \theta \tag{2} $$

ただし、$\DL{u \equiv \ff{1}{r} , u_0 = \ff{1}{r_0} }$とします。

$a$は円軌道からの変動に対する振幅であり、$\beta$は中心力$f(r)$の円軌道の半径$r_0$まわりのテイラー展開から計算される値です。

テイラー展開の一次近似(わずかな変化を考えているので一次近似で良い)を取ると、$\beta$を以下のように表示できます。

$$ \beta^2 = 3 + \left. \frac{r}{f(r)}\frac{df}{dr} \right|_{r=r_0} \tag{3} $$

ベータが7の場合の運動の軌道

式(2)から、閉軌道となるためには$\beta$が有理数でなければならないことが分かります。

なぜなら,無理数の場合では何回転しても最初のスタート地点に戻ってくることができないからです。

さて、式(3)を変形すると次のようになります。

$$ \frac{\diff \ln |f(r)|}{\diff \ln r} = \beta^2- 3 $$

これを積分すると、$k$を定数として$f(r)$を次のようにできます。

$$ f(r) = -\frac{k}{r^{3-\beta^2}} $$

以上より、円軌道からのわずかな変化の場合では、軌道が閉軌道となる条件は『$\beta$が有理数である』ということが分かりました。

では、円軌道からの変化が大きい場合、$\beta$はどのような条件になるのでしょうか?

それを計算するためには、1次で打ち切ったテイラー展開を3次まで計算する必要があります。

詳細な計算過程は省きますが、ベルトランによって次のような関係を満たす必要があることが示されました。

$$ \beta^2(1-\beta^2)(4-\beta^2) = 0 $$

$ \beta = 0 $の場合は軌道の安定条件を満たさず適当ではありません。($\beta = 0$は円軌道に相当)

したがって、一般の場合、閉軌道を描くためには中心力は$ \beta = 1, 2 $である必要があると言えます。

つまり、一般の場合に閉軌道を描くために、中心力$f(r)$が$f(r) = -kr$(フックの法則)または、$\DL{f(r) = – \ff{k}{r^2}} $(クーロンの法則)に従う形である必要があることが示せました。

ベルトランの定理

閉軌道を描く中心力はフックの法則かクーロンの法則に従う力のみである

→天体力学のまとめ記事はこちら


ベルトランの定理を認めると天体が楕円軌道を描くという観測事実から万有引力が距離の逆二乗に比例すると判断できます。(フックの法則に従う場合は,距離に比例して力が増大することになり物理的に不適切なためです。)

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