ひずみエネルギーとは?|定義と計算方法【材料力学】

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伸びや圧縮を受けるとばねには位置エネルギー(=弾性エネルギー)が蓄えられると習いました。ばねの位置エネルギーの正体について少し考えてみましょう。

ばね自体は素線と呼ばれる細い針金をらせん状に巻いた部品です。実は、ばねが変形したときに素線は伸びたり縮んだりているのでなく、ねじれているのです。

このねじれが積み重なって、マクロなスケールでは伸びたり縮んだりしているように見えているだけなのです。つまり、ばねの本質的な変形はねじれと言うことができます。

この事実を踏まえると、ばねの位置エネルギーの正体について理解できます。ばねの変形がねじれによるものであることから、ばねの位置エネルギーなるものは、素線のねじれによって生じたものなのです。

つまり、ねじれの変形はエネルギーと結びつくのです。さて、材料力学では、変形により生じたエネルギーのことをひずみエネルギーと呼びます。

今回は伸びや曲げ、ねじりによって生じるひずみエネルギーについて解説していきます。

※ ひずみやばねの変形についての詳しい内容を知りたい方は以下のリンクを参照してください。

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ひずみエネルギーとは?

基本から始めましょう。そもそも、ひずみエネルギーとは何でしょうか?ひずみとは基準となる長さで部材の変形量で割った無次元量のことです。

基準の長さを$l$、伸び変形量を$\lambda$(ラムダ)とすると、ひずみ$\varepsilon$(エプシロン)は次のように表せます。

ひずみ

基準の長さを$l$、変形量を$\lambda$としてひずみ$\varepsilon$は次のように表される

\begin{eqnarray}
\varepsilon = \ff{\lambda}{l} \EE
\,
\end{eqnarray}

では、エネルギーとは何でしょうか?

エネルギーは『仕事をする能力』と定義されます。ここでいう”仕事”とは、労働の意味での仕事ではなく、物理学の用語としての仕事です。

物理学の用語としての仕事は、「力」×「移動距離」で定義されます。つまり、力を$F$移動距離を$x$として、仕事は$Fx$で表される訳です。なお、仕事はスカラー量となります。

※ 仕事は厳密には内積を使って$\B{F}\cdot\B{x}$と記述されます。(→内積とは?

さて、定義上、実際に物体が移動した後で無ければ仕事は計算できません。そのため、例えばばねを自然長から変形させて静止させた状態では、仕事を計算することができないのです。

とはいえ、ばねの固定を外せば直ちに運動を始めるでしょう。言うなれば、変形したばねには仕事が蓄えられていると見なせる訳です。このように蓄えれられた仕事をエネルギーとエレガントに表現することにします。

エネルギーはひとたび開放されれば、仕事に転化し表に現れるため仕事をする能力と定義することができるのです。

なお、仕事とエネルギーは同じ次元を持ちます。(単位はジュール $[\RM{J}]$です)それでは、ひずみとエネルギーを合体させたひずみエネルギーについて考えてみましょう。

ひずみは物体を変形させた度合いを表すものであり、エネルギーは蓄えられた仕事のことでした。合わせると、ひずみエネルギーとは、物体を変形させたことにより物体内部に蓄えれた仕事となる訳です。

これより、ひずみエネルギーは部材の変形に伴って生じるエネルギーであることが分かります。

※ ひずみとエネルギーについての詳しい内容を知りたい方は以下のリンクを参照してください。

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伸びによるひずみエネルギー

さて、一口に部材の変形と言っても様々な変形の仕方が考えられます。

代表的な変形の仕方は、軸線方向と平行に変形する伸び、反対に垂直方向に変形する曲げです。さらに、軸回りの回転によるねじり変形があります。

エネルギーと呼ぶだけでは定量的な議論ができないため、ひずみエネルギーを具体的に表す方法について考えいきましょう。まずは、軸力によるひずみエネルギーを計算してみましょう。(→軸力とは?

図のように、断面積が$A$で長さ$l$の棒に大きさ$P$の軸力が働いているとします。また、棒のヤング率を$E$とします。(→ヤング率とは?

軸力による伸び

この軸力により、棒が$\lambda$変形したとします。さて、フックの法則から、軸力と伸びの間には次の関係があることが知られています。(→棒の伸びの計算

\begin{eqnarray}
\lambda = \ff{Pl}{EA}
\end{eqnarray}

これより、伸びと軸力の間には次のような比例関係を持つグラフが描けることが分かります。

ひずみエネルギーの関係

さて、軸力が$\D P$増加したときに伸びが$\D \lambda$だけ変化したとしましょう。すると、グラフ上では台形の領域が現れます。このときの台形の面積$\D U$を計算してみましょう。

\begin{eqnarray}
\D U &=& \ff{1}{2}(P + P + \D P)\cdot \D \lambda \EE
&=& P\D \lambda + \ff{1}{2}\D P \D\lambda \EE
&\NEQ& P\D \lambda
\end{eqnarray}

台形の面積の公式より上のように求められます。

軸力の変化量が微小だとすると、微小量同士の積である$\D P \D \lambda$は無視できるほど小さいと言えます。したがって、$\D U$は$P\D \lambda$と近似できます。

ところで、$\D U$の次元について考えると、仕事やエネルギーの次元と一致することが分かります。(力×距離のため)

さらに、棒は伸びた状態で静止しているため、$\D U$の実態はエネルギーであると言えます。つまり、$\D U$の正体はひずみエネルギーと言えるのです。

$\D U$が台形の面積であったことを思い出すと、これらの台形を足し合わせた三角形の領域もひずみエネルギーの大きさを表すことが分かります。

上のグラフは軸力を$0$から増加させたときのひずみエネルギーの変化を表します。軸力を加える過程は、徐々に大きさを増加させていく過程となるため、$P$の軸力を加えたときに生じるひずみエネルギーは、グラフでの三角形の面積に相当します。

これより、軸力の大きさを$P$としたとき、棒に蓄えられるひずみエネルギー$U$は次のように計算することができるのです。

\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}P\lambda
\end{eqnarray}

これに先程求めた伸びの大きさを代入すると、次のように計算することができます。

\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}\ff{P^2l}{EA}
\end{eqnarray}

まとめると、棒に蓄えられるひずみエネルギーは次のように表せます。

棒のひずみエネルギー

棒の長さを$l$、断面積を$A$、ヤング率を$E$、軸力の大きさを$P$とすると、棒に蓄えられるひずみエネルギーの大きさ$U$は次のように表される。

\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}\ff{P^2l}{EA} \\
\,
\end{eqnarray}

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曲げによるひずみエネルギー

次に、曲げによるひずみエネルギーを考えてみましょう。

断面積が$A$でヤング率が$E$、断面二次モーメントが$I$のはりに、大きさ$M(x)$の曲げモーメントが働いているとします。(→断面二次モーメントとは?

曲げによるひずみエネルギー

この状況で幅が$\D x$の微小要素に蓄えられるひずみエネルギーを計算しましょう。

さて、中立軸に原点をとり、距離$y$ 離れた位置に$\sigma(y)$ の応力が働いているとしましょう。この応力による伸び$\lambda$はフックの法則より$\varepsilon \D x$と計算できます。

また、この微小部分の$x$軸方向に平行方向の断面積を$\D A$とすると、この面に働くせん断力は$P=\sigma(y)\D A$と表せます。(→せん断力とは?

この部分に注目すると、棒の伸びの問題と同じであることに気が付きます。したがって、この部分に蓄えられるひずみエネルギー$\D U$は次のように計算できるのです。

\begin{eqnarray}
\D U &=& \ff{1}{2}P \lambda \EE
&=& \ff{1}{2}(\sigma(y)\D A)(\varepsilon \D x) \EE
&=& \ff{1}{2}\sigma(y)\varepsilon \D A \D x
\end{eqnarray}

ここで、曲げ応力に関して$\sigma(y) = \DL{\ff{M(x)}{I}y}$ と表せること、フックの法則より$\varepsilon=\DL{\ff{\sigma(y)}{E}}$となることを利用すると上式は次のように変形できます。(→曲げ応力の公式

\begin{eqnarray}
\D U &=& \ff{1}{2}\sigma(y)\varepsilon \D A \D x \EE
&=& \ff{1}{2}\ff{\sigma(y)^2}{E} \D A \D x \EE
&=& \ff{1}{2}\ff{M(x)^2y^2}{EI^2} \D A \D x \EE
\end{eqnarray}

ここから$\D U$の極限を考えて、積分に持ち込みましょう。積分は、次のように面積に関する積分と$x$についての積分の二重積分となります。

\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l\left( \int_A \ff{1}{2}\ff{M(x)^2y^2}{EI^2} \diff A\right) \diff x \EE
&=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{M(x)^2}{EI^2} \diff x \int_A y^2 \diff A \EE
&=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{M(x)^2}{EI}\diff x \EE
\end{eqnarray}

式変形にて、断面二次モーメント$I$ が$\DL{\int_A y^2 \diff A}$と定義されることを利用しています。

曲げのひずみエネルギー

はりの長さを$l$、断面二次モーメントを$I$、ヤング率を$E$、曲げモーメントを$M(x)$とすると、はりに蓄えられるひずみエネルギーの大きさ$U$は次のように表される。

\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{M(x)^2}{EI} \diff x\\
\,
\end{eqnarray}

※ 曲げモーメントが一定の大きさであるとき、$U=\DL{\ff{1}{2}\ff{M^2l}{EI}}$と表せます。

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ねじりによるひずみエネルギー

最後に、ねじにより蓄えられるひずみエネルギーを求めましょう。円柱をねじると、その断面では図のようにねじれ変形が起きます。

さて、円柱の長さを$l$、横弾性係数を$G$、断面二次極モーメントを$I_p$、ねじりトルクの大きさを$T$とします。(→断面二次極モーメントとは?

ねじりのひずみエネルギー

この状態にて、中心から$r$離れた位置にある微小面積$\D A$におけるひずみエネルギー$\D U$を計算してみましょう。

ねじりによって、微小要素が$\D \lambda$だけ移動したとし、この断面に働くせん断応力を$\tau$(タウ)とします。ポイントは、微小な移動であるため直線の移動とみなすことができる点です。

これより、棒の場合に求めたひずみエネルギーの式を適用でき、$\D U$は次のように計算できることが分かります。

\begin{eqnarray}
\D U &=& \ff{1}{2}(\tau \D A) \D\lambda \EE
\end{eqnarray}

ここで、伸び$\D \lambda$はせん断ひずみを$\gamma$(ガンマ)として$\D \lambda = \gamma (r\D \theta)$と表せるので、上式は次のように簡単にできます。

\begin{eqnarray}
\D U &=& \ff{1}{2}\tau\gamma \D A (r\D \theta ) \EE
&=& \ff{1}{2}\tau\gamma \D A \D x
\end{eqnarray}

ここで、$r\D \theta=\D x$としています。ここで、$\gamma = \DL{\ff{\tau}{G}}$、$\tau = \DL{\ff{T}{I_p}r}$と表せることを利用すると次のように変形できます。(→せん断ひずみとねじり角の公式

\begin{eqnarray}
\D U &=& \ff{1}{2}\ff{T^2 r^2}{GI_p^2} \D A \D x
\end{eqnarray}

曲げの場合と同様に、$\D U$の極限を考えて積分計算に持ち込むと、

\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l\left( \int_A \ff{1}{2}\ff{T^2 r^2}{GI_p^2} \diff A\right) \diff x \EE
&=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{T^2 }{GI_p^2} \diff x \int_A r^2 \diff A \EE
&=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{T^2 }{GI_p}\diff x \EE
\end{eqnarray}

とできます。式変形にて、断面二次極モーメント$I_p$ が$\DL{\int_A r^2 \diff A}$と定義されることを利用しています。

ねじりによるひずみエネルギー

丸棒の長さを$l$、断面二次極モーメントを$I_p$、横弾性係数を$G$、ねじりトルクを$T$とすると、丸棒に蓄えられるひずみエネルギーの大きさ$U$は次のように表される。

\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{T^2 }{GI_p}\diff x \EE
\,
\end{eqnarray}

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ひずみエネルギーの公式

最後に棒の伸び、はりの曲げ、棒のねじりによるひずみエネルギーの公式をまとめます。それぞれのひずみエネルギーは次のように表せます。

棒のひずみエネルギー

棒の長さを$l$、断面積を$A$、ヤング率を$E$、軸力の大きさを$P$とすると、棒に蓄えられるひずみエネルギーの大きさ$U$は次のように表される。

\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}\ff{P^2l}{EA} \\
\,
\end{eqnarray}

曲げのひずみエネルギー

はりの長さを$l$、断面二次モーメントを$I$、ヤング率を$E$、曲げモーメントを$M(x)$とすると、はりに蓄えられるひずみエネルギーの大きさ$U$は次のように表される。

\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{M(x)^2}{EI} \diff x\\
\,
\end{eqnarray}

ねじりによるひずみエネルギー

丸棒の長さを$l$、断面二次極モーメントを$I_p$、横弾性係数を$G$、ねじりトルクを$T$とすると、丸棒に蓄えられるひずみエネルギーの大きさ$U$は次のように表される。

\begin{eqnarray}
U &=& \int_0^l\ff{1}{2}\ff{T^2 }{GI_p}\diff x \\
\,
\end{eqnarray}

なぜひずみエネルギーを考えるのか?

ひずみエネルギーなるものをわざわざ考えたのには、理由があります。その理由とは、変形の計算を簡便に行うための布石とするためです。

前提として、エネルギーは力×距離として表される物理量であるため、ひずみエネルギーも力×距離で表されるはずです。これより、ひずみエネルギーを力で割れば距離が求められるのでは?と発想の転換できるのです。

ひずみエネルギーにおいて、距離は変形量に相当します。(その力が働いている点での変形量)この直感を理論的に整理することで、カスティリアノの定理と呼ばれる公式を導くことができます。

これより、ひずみエネルギーをカスティリアノの定理と組み合わせることで、変形量を計算する際に絶大な威力を発揮するのです。

つまり、微分方程式を解くという煩雑な計算をショートカットして目的の答えにたどり着けるのです。カスティリアノの定理の詳細については以下の記事で解説しています。

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