この記事では、ベクトルの内積と外積の計算方法とその導出を解説します。内積と外積が複合した計算式の性質も併せて解説します。
ベクトルは大きさと向きで表される量です。
例としてベクトルは次のように表されます。
\begin{eqnarray}
\B{a} &=& a_x \B{i} + a_y \B{j} = \left( \begin{array} a a_x \\ a_y \end{array} \right) \EE
\B{b} &=& b_x \B{i} + b_y \B{j} + b_z \B{k} = \left( \begin{array} b b_x \\ b_y \\ b_z \end{array} \right)
\end{eqnarray}
※通常、力学では二次元または三次元の世界を考えるため、ベクトルの成分はせいぜい三個程度です。
内積とは?
ベクトルの内積はスカラーになります。内積をスカラー積と呼ぶこともあります。
内積は次のように定義されます。
ところで、ベクトルの幾何学的配置は次のように表せます。
余弦定理より$\triangle \RM{OPQ}$に関して次の式が成り立ち、
\begin{eqnarray}
|\B{B}-\B{A}|^2 &=& |\B{A}|^2+|\B{B}|^2 – 2 |\B{A}| |\B{B}|\cos \theta \EE
\end{eqnarray}
$\B{A} = (A_x, A_y, A_z)^T$、$\B{B} = (B_x, B_y, B_z)^T$とすると上式は、
\begin{eqnarray}
(B_x-A_x)^2 &+& (B_y-A_y)^2 + (B_z-A_z)^2 {\\} \\ &=& (A^2_x+A^2_y+A^2_z)+ (B^2_x+B^2_y+B^2_z)^2 \,-\, 2\B{A}\cdot\B{B}
\end{eqnarray}
となり、$\B{A}\cdot\B{B}$は、
\begin{eqnarray}
\B{A}\cdot\B{B} &=& A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z
\end{eqnarray}
と表せます。線形代数を用いて内積を表現すると次のように表現できます。
些細な別パターンの内積表現と思わるかもしれませんが、外積の計算の際には線形代数の表現に大いに助けられます。
外積とは?
ベクトルの外積もまたベクトルになります。外積のことをベクトル積と呼ぶこともあります。
二つのベクトル$\B{A} = A_x \B{i} + A_y \B{j} + A_z \B{k}, \,\, \B{B} = B_x \B{i} + B_y \B{j} + B_z \B{k} $があったとき、外積を次のように定義します。
右辺の行列式を書き下すと、
\begin{eqnarray}
\B{A}\times \B{B} = (A_yB_z \,-\, A_zB_y)\B{i} &\,-\,& (A_xB_z \,-\, A_zB_x)\B{j} \\
&+& (A_xB_y \,-\, A_yB_x)\B{k}
\end{eqnarray}
と表現できます。
このままでは何がなにやら分からないので、分かりやすく表現した次の行列式が外積の公式として用いられます。
外積の幾何学的意味
外積の表すベクトルの幾何学的意味を考えます。
外積のベクトルと$\B{A}, \B{B}$との位置関係を知りたいので、外積とそれぞれのベクトルの内積を計算します。
\begin{eqnarray}
\B{A}\cdot(\B{A}\times \B{B}) &=& \left(A_x, A_y, A_z\right)\left( \begin{array} A A_yB_z \,-\, A_zB_y \\ -(A_xB_z \,-\, A_zB_x) \\ A_xB_y \,-\, A_yB_x \end{array} \right) \EE
&=& A_x(A_yB_z \,-\, A_zB_y) \,-\, A_y( A_xB_z \,-\, A_zB_x) \EE
&\,&\, + A_z(A_xB_y \,-\, A_yB_x) \EE
&=& 0
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
\B{B}\cdot(\B{A}\times \B{B}) &=& \left(B_x, B_y, B_z\right)\left( \begin{array} A A_yB_z \,-\, A_zB_y \\ -(A_xB_z \,-\, A_zB_x) \\ A_xB_y \,-\, A_yB_x \end{array} \right) \EE
&=& B_x(A_yB_z \,-\, A_zB_y) \,-\, B_y( A_xB_z \,-\, A_zB_x) \EE
&\,&\, + B_z(A_xB_y \,-\, A_yB_x) \EE
&=& 0
\end{eqnarray}
従って、
”$\B{A}\times\B{B}$は$\B{A}$と$\B{B}$に垂直である”
ことが分かります。
また、ベクトルの立ち上がる方向は右ねじが進む向きと約束します。
このように約束するため、計算の順序によりベクトルの向きが変わります。
今回は、$\B{A}\to \B{B}$の順序で計算を行っているので、$\B{A}\times\B{B}$は上向きになります。
このように、回転と計算方向がリンクすることが分かります。
外積の”大きさ”
外積の表すベクトルの大きさを計算します。
\begin{eqnarray}
|\B{A}\times\B{B}|^2 &=& (A_yB_z \,-\, A_zB_y)^2 + (A_xB_z \,-\, A_zB_x)^2 \\
&\,& \,\, + \,(A_xB_y \,-\, A_yB_x)^2 \EE
&=& (A_x^2+A_y^2+A_z^2)(B_x^2+B_y^2+B_z^2) \\
&\,&\,\,\, – \,(A_xB_x+A_yB_y+A_zB_z)^2 \EE
&=& |\B{A}|^2|\B{B}|^2 \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})^2
\end{eqnarray}
$\B{A}$と$\B{B}$の作る角を$\theta (0 \leq \theta \leq \pi)$とすると、$\B{A}\cdot\B{B}=|\B{A}||\B{B}|\cos \theta$なので、上式に代入すると
\begin{eqnarray}
|\B{A}\times\B{B}|^2 &=& |\B{A}|^2|\B{B}|^2(1-\cos^2 \theta) \EE
&=& \left\{ |\B{A}||\B{B}|\sin \theta \right\}^2 \EE
\therefore |\B{A}\times\B{B}| &=& |\B{A}||\B{B}|\sin \theta
\end{eqnarray}
となります。($\sin \theta > 0$より)
従って、
”$|\B{A}\times\B{B}|$は$\B{A}$と$\B{B}$を二辺とする平行四辺形の面積$S$に等しい”
ことが分かります。
外積の演算法則
外積の演算法則を以下に示します。
スカラー三重積とベクトル三重積
スカラー三重積とベクトル三重積に関する重要な公式を示します。
スカラー三重積
次の三つのベクトルの積をスカラー三重積と呼びます。(計算結果がスカラーになるため)
$$ \B{A}\cdot(\B{B}\times\B{C}) $$
$\B{A} = A_x\B{i} + A_y\B{j} + A_z\B{k}, \, \B{B} = B_x\B{i} + B_y\B{j} + B_z\B{k}, \, \B{C} = C_x\B{i} + C_y\B{j} + C_z\B{k}$とすると、スカラー三重積は次の公式が成り立ちます。
証明を以下に示します。
外積の定義式を利用します。
\begin{eqnarray}
\B{A}\cdot(\B{B}\times\B{C}) &=& (A_x\B{i} + A_y\B{j} + A_z\B{k})\cdot\left(
\begin{vmatrix}
A_y & A_z \\
B_y & B_z
\end{vmatrix}
\B{i} \,-\,
\begin{vmatrix}
A_x & A_z \\
B_x & B_z
\end{vmatrix}
\B{j} +
\begin{vmatrix}
A_x & A_y \\
B_x & B_y
\end{vmatrix}
\B{k} \right) \EE
&=& A_x
\begin{vmatrix}
B_y & B_z \\
C_y & C_z \\
\end{vmatrix}
\,-\, A_y
\begin{vmatrix}
B_x & B_z \\
C_x & C_z \\
\end{vmatrix}
+ A_z
\begin{vmatrix}
B_x & B_y \\
C_x & C_y \\
\end{vmatrix} \EE
&=& \begin{vmatrix}
A_x & A_y & A_z \\
B_x & B_y & B_z \\
C_x & C_y & C_z \\
\end{vmatrix}
\end{eqnarray}
外積の演算法則と行列式の性質から、スカラー三重積について以下の公式が成り立ちます。
行列式の性質から、上の公式が証明できます。
証明
\begin{eqnarray}
\B{A}\cdot(\B{B}\times\B{C}) &=&
\begin{vmatrix}
A_x & A_y & A_z \\
B_x & B_y & B_z \\
C_x & C_y & C_z \\
\end{vmatrix}
=
\begin{vmatrix}
B_x & B_y & B_z \\
C_x & C_y & C_z \\
A_x & A_y & A_z \\
\end{vmatrix}
=
\begin{vmatrix}
C_x & C_y & C_z \\
A_x & A_y & A_z \\
B_x & B_y & B_z \\
\end{vmatrix} \\[6pt]
&=& –
\begin{vmatrix}
A_x & A_y & A_z \\
C_x & C_y & C_z \\
B_x & B_y & B_z \\
\end{vmatrix}
= –
\begin{vmatrix}
B_x & B_y & B_z \\
A_x & A_y & A_z \\
C_x & C_y & C_z \\
\end{vmatrix}
= –
\begin{vmatrix}
C_x & C_y & C_z \\
B_x & B_y & B_z \\
A_x & A_y & A_z \\
\end{vmatrix} \EE
\end{eqnarray}
ベクトル三重積
次の三つのベクトルの積をベクトル三重積と呼びます。(計算結果がベクトルになるため)
$$ \B{A}\times(\B{B}\times\B{C}) $$
ベクトル三重積の証明を以下に示します。
証明
まず、$\B{B}\times\B{C} = (B_yC_z \,-\, B_zC_y)\B{i} \,-\, (B_xC_z \,-\, B_zC_x)\B{j} + (B_xC_y \,-\, B_yC_x)\B{k}$です。
次に各成分に対して計算を行います。
$\B{i}$成分に関して、
\begin{eqnarray}
&A_y&(B_xC_y \,-\, B_yC_x) + A_z (B_xC_z \,-\, B_zC_x) \EE
&=& (A_yC_y + A_zC_z)B_x \,-\, (A_yB_y+A_zB_z)C_x \EE
&=& (A_yC_y + A_zC_z)B_x \,-\, (A_yB_y+A_zB_z)C_x + (A_xB_xC_x \,-\, A_xB_xC_x) \EE
&=& (A_xC_x + A_yC_y + A_zC_z)B_x \,-\, (A_xB_x + A_yB_y + A_zB_z)C_x \EE
\end{eqnarray}
計算結果は、$(\B{A}\cdot\B{C})B_x \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})C_x$となります。
$\B{j}$成分に関して、
\begin{eqnarray}
&-& A_x(B_xC_y \,-\, B_yC_x) + A_z (B_yC_z \,-\, B_zC_y) \EE
&=& (A_xC_x + A_zC_z)B_y \,-\, (A_xB_x+A_zB_z)C_y \EE
&=& (A_xC_x + A_zC_z)B_y \,-\, (A_xB_x+A_zB_z)C_y + (A_yB_yC_y \,-\, A_yB_yC_y) \EE
&=& (A_xC_x + A_yC_y + A_zC_z)B_y \,-\, (A_xB_x + A_yB_y + A_zB_z)C_y \EE
\end{eqnarray}
計算結果は、$(\B{A}\cdot\B{C})B_y \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})C_y$となります。
$\B{k}$成分に関して、
\begin{eqnarray}
&-&A_x(B_xC_z \,-\, B_zC_x) \,-\, A_y(B_yC_z \,-\, B_zC_y) \EE
&=& (A_xC_x + A_yC_y)B_z \,-\, (A_xB_x+A_yB_y)C_z \EE
&=& (A_xC_x + A_yC_y)B_y \,-\, (A_xB_x+A_yB_y)C_y + (A_zB_zC_z \,-\, A_zB_zC_z) \EE
&=& (A_xC_x + A_yC_y + A_zC_z)B_z \,-\, (A_xB_x + A_yB_y + A_zB_z)C_z \EE
\end{eqnarray}
計算結果は、$(\B{A}\cdot\B{C})B_z \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})C_z$となります。
以上の結果から、
\begin{eqnarray}
\B{A}\times(\B{B}\times\B{C}) &=& \left( \begin{array} (\B{A}\cdot\B{C})B_x \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})C_x \\ (\B{A}\cdot\B{C})B_y \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})C_y \\ (\B{A}\cdot\B{C})B_z \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})C_z \end{array} \right) \EE
&=& (\B{A}\cdot\B{C})\B{B} \,-\, (\B{A}\cdot\B{B})\B{C}
\end{eqnarray}
となることが証明できました。
二体問題で運動方程式を解く際にスカラー三重積やベクトル三重積が活躍します。