宇宙空間で宇宙船同士を速度を合わせて同一の軌道上で接近させる操作のことをランデブーと呼びます。
そして、ランデブーの後、宇宙船同士が結合する操作をドッキングと呼びます。
ランデブーとドッキングの有名な例として、「こうのとり」による国際宇宙ステーションへの補給物資の輸送が挙げられます。
今回は二つの宇宙船をランデブーさせる手法について検討します。
ランデブーを達成するための条件を導いていきます。
ランデブーとホーマン軌道
ランデブーの過程では二つの宇宙船が登場します。
ランデブーする対象(国際宇宙ステーションなど)を標的機、ランデブーする機体(こうのとりなど)を追尾機と呼びます。
追跡機が位置$\RM{A}$、標的機が位置$\RM{B}$におり、$\RM{A}$から正反対の位置$\RM{C}$でランデブーするとします。
図で表すと次のようになります。
なお、標的機と追跡機は同一平面上にあるとし、$r_1 < r_2$とします。
軌道周期の計算
追跡機が半径 $r_1$ の円軌道を角速度 $\omega_1$、標的機が半径 $r_2$ の円軌道を角速度 $\omega_2$ で運動しているとします。
このとき、各宇宙船が円軌道を一周する時間をそれぞれ $T_1,\, T_2$ とすると、
\begin{eqnarray}
T_1 &=& \ff{2\pi}{\omega_1} = 2\pi\sqrt{\ff{r_1^3}{\mu}} \\[5pt]
T_2 &=& \ff{2\pi}{\omega_2} = 2\pi\sqrt{\ff{r_2^3}{\mu}}
\end{eqnarray}
とできます。
ただし、$\mu$は重力定数と呼ばれるのもので、中心の天体(地球・太陽等)の質量を$M$、万有引力定数を$G$として、$\mu \NEQ GM$と表せます。
周期はケプラーの第三法則からも計算できます。
詳しい計算過程はこちらで解説しています。
また、$r_1 < r_2$であるため、$\omega_1 > \omega_2$ であることを後ほど利用します。
$\RM{B}$から$\RM{C}$までの飛行時間 $T_t$ は、$\angle \RM{AOB} = \alpha_H$とすると、
\begin{eqnarray}
T_t &=& \ff{\pi \,-\, \alpha_H}{2\pi}T_2 \tag{1}
\end{eqnarray}
と求められます。
ホーマン軌道上の移動時間の計算
次に$\RM{A}$から$\RM{C}$までの移動時間(遷移時間)を計算します。
ただし、$\RM{A}$から$\RM{C}$までの遷移軌道をホーマン軌道とします。
このとき、$\RM{A}$から$\RM{C}$までの遷移時間 $T_c$ はホーマン軌道の周期$T_H$の半分なので、次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
T_c &=& \ff{1}{2}T_H \EE
&=& \pi\sqrt{\ff{a^3}{\mu}} \\[5pt]
&=& \pi\sqrt{\ff{1}{\mu}\left(\ff{r_1+r_2}{2}\right)^3} \\[6pt]
&=& \pi\sqrt{\ff{(r_1+r_2)^3}{8\mu}} \tag{2}
\end{eqnarray}
となります。
※ホーマン軌道に関する周期もケプラーの第三法則の公式より計算できます。
$\RM{A}$点での増速
さて、$\RM{A}$点にて円軌道からホーマン軌道への変化に必要な増速 $\D v_1$ は、
\begin{eqnarray}
\D v_1 &=& v_H – v_1 \\[5pt]
&=& \sqrt{\mu\left( \ff{2}{r_1} \,-\, \ff{2}{r_1 + r_2} \right)} \,-\, \sqrt{\ff{\mu}{r_1}} \\[6pt]
&=& \sqrt{\ff{2\mu r_2}{r_1(r_1+r_2)}} \,-\, \sqrt{\ff{\mu}{r_1}}
\end{eqnarray}
と求められます。
ランデブーを成功させる条件
ランデブーを達成するためには標的機と追跡機が同時に $\RM{C}$ に到達しなければなりません。
つまり、ランデブーを達成するためには、$T_t = T_c$ となる必要があるということです。
式(1)と式(2)を等号で結ぶことで、$\alpha_H$ を次のように求められます。
\begin{split}
&\ff{\pi \,-\, \alpha_H}{2\pi}\cdot2\pi\sqrt{\ff{r_2^3}{\mu}} = \pi\sqrt{\ff{(r_1+r_2)^3}{8\mu}} \\[6pt]
\therefore\,\, &\alpha_H = \pi\left\{ 1 \,-\, \sqrt{\ff{1}{8}\left( 1 + \ff{r_1}{r_2} \right)^3 } \right\}
\end{split}
$r_1 \leq r_2$の条件で考えると $\DL{0 \leq \ff{r_1}{r_2} \leq 1}$ なので、$\alpha_H$ の範囲は、
\begin{eqnarray}
0 \leq \alpha_H \leq \pi\left( 1 \,-\, \sqrt{\ff{1}{8}} \right) \NEQ 0.646\pi
\end{eqnarray}
となります。
角度に直すと、$0 \leq \alpha_H \leq 116^{ \circ }.36$となります。
ランデブーを達成するためには、$\alpha_H$ がこの範囲になるように計画を立てなければならないことが分かります。
つまり、各円軌道の半径を決め、$\alpha_H$を事前に決定し、
標的機と追跡機の位置関係がちょうど$\alpha_H$になった瞬間にホーマン遷移を行えば、ランデブーが達成できるということです。
$\alpha_H > 116^{ \circ }$ の場合のランデブー方法
諸事情によりどうしても $\alpha_H$ が $116^{ \circ }$ よりも大きくなってしまう場合のランデブー方法を考えます。
結論としては、$\alpha_H$ が $116^{ \circ }$ 未満になるまで待ってからランデブーを実行することになります。
$\alpha_H$ の内、$116^{ \circ }$ を超える分の角度を位相調整角と呼びます。
また、位相調整角を $\D \alpha_H$ sとおきます。
このとき、$\alpha_H$ が $116^{ \circ }$ を超える場合、$\D \alpha_H = 0$ となるまで待機する時間の合計がランデブーに要する時間となります。
会合周期
ここで、二つの天体の相対位置が再び同じ位置になるまでの周期を会合周期と呼びます。
ということで、会合周期 $T$ を計算してみましょう。
二つの円軌道の角速度をそれぞれ $\omega_1, \, \omega_2$ とすると、単位時間当たり $\D \omega$ だけ角度差がついていきます。
角度差が積もり積もって、$2\pi$ になったとき相対位置が再び同じになります。
数式にすると次のように表せます。($\omega_1 > \omega_2$と仮定しています。)
\begin{eqnarray}
2\pi &=& T\D\omega = T(\omega_1 \,-\, \omega_2) \EE
\end{eqnarray}
すなわち、各円軌道の周期を $T_1, \, T_2$ とすると、以下のように計算できます。
\begin{eqnarray}
2\pi &=& T(\omega_1 \,-\, \omega_2) \EE
\ff{2\pi}{T} &=& \ff{2\pi}{T_1} \,-\, \ff{2\pi}{T_2} \EE
\therefore \ff{1}{T} &=& \ff{1}{T_1} \,-\, \ff{1}{T_2}
\end{eqnarray}
まとめると、会合周期の公式は次のように表せます。
ランデブー開始までの待機時間
繰り返しになりますが、$\angle \RM{AOB}$が $116^{ \circ }$ を超える場合、事前に計算した $\alpha_H$ になるまで待つ必要があります。
この時間を待機時間と呼び、$\D \tau$ で表します。
目標の $\alpha_H$ を超える分の角度を $\D \alpha_H$ とすると、待機時間は $\D \alpha_H = 0$ となる時間に相当します。
先程の会合周期での計算を応用すると、$\D \alpha_H$と$\D\tau$ との間に次の関係が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
\D\alpha_H &=& |\omega_1 \,-\, \omega_2|\D\tau \EE
\end{eqnarray}
$\omega_1 > \omega_2$なので、それぞれの円軌道の周期を$T_1,\,T_2$を利用すると、
\begin{eqnarray}
\D\alpha_H &=& (\omega_1 \,-\, \omega_2)\D\tau \EE
\D\tau &=& \ff{\D \alpha_H}{\omega_1 \,-\, \omega_2} \EE
&=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi\left( \ff{1}{T_1} \,-\, \ff{1}{T_2} \right)} \tag{3}
\end{eqnarray}
となります。
先ほどの会合周期の公式を式(3)に適用すると、$\D \tau$ は次のようになります。
\begin{eqnarray}
\D\tau &=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi}T
\end{eqnarray}
ただし、$T$ を会合周期とします。
以上のことから、待機時間を含めたランデブーまでの遷移時間 $T_R$ は、
\begin{eqnarray}
T_R &=& T_c + \D\tau \EE
&=& T_c + \ff{\D \alpha_H}{2\pi}T \tag{4}
\end{eqnarray}
と求められます。
位相調整角とランデブー遷移時間の関係
位相調整角の大きさとランデブー遷移時間の関係を調べます。
式(4)を変形すると、
\begin{eqnarray}
T_R \,-\, T_c &=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi}T \EE
\ff{T_R \,-\, T_c}{T_2} &=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi}\ff{T}{T_2} \EE
&=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi}\ff{\ff{T_1 T_2}{T_2 \,-\, T_1}}{T_2} \EE
\therefore \ff{\D \tau}{T_2} &=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi}\ff{1}{\ff{T_2}{T_1} \,-\, 1 }
\end{eqnarray}
となり、これを $T_1,\,T_2$ に関して周期の計算式を適用すると、
\begin{eqnarray}
\ff{\D \tau}{T_2} &=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi \left\{\left(\ff{r_2}{r_1}\right)^{\ff{3}{2}} \,-\, 1 \right\} }
\end{eqnarray}
となります。
見やすくするため $\DL{\rho = \ff{r_2}{r_1}}$ とおくとこのようになります。
\begin{eqnarray}
\D \tau &=& \ff{\D \alpha_H}{2\pi (\rho^{\ff{3}{2}} \,-\, 1 )}T_2 \tag{5}
\end{eqnarray}
式(5)から、遷移時間は位相調整角 $\D\alpha_H$ に比例して増加することが分かります。
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