二体問題の解法と軌道方程式の導出| 二天体はどんな軌道を描くのか?

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二つの天体が万有引力によって引かれている場合の軌道を求める二体問題について考えます。

いきなりですが、二体問題における座標と物体の配置を下図のように設定します。

具体的には、質量$m_1$の物体が点$P_1$の位置にあり,原点から$P_1$までの位置ベクトルを$\boldsymbol{r}_1$, 質量$m_2$の物体が点$P_2$の位置にあり,$P_2$までの位置ベクトルを$\boldsymbol{r}_2$ とします。

→ベクトル・微分の表記方法についての解説はこちら

また、それぞれの天体の大きさは無視し、点として天体を近似した質点を考えます。

また、$P_1$と$P_2$を結ぶベクトルを $\boldsymbol{r}$とします。

外力が作用しないため、この線上に重心$G$があることを意識すると良いでしょう。

まずは、それぞれの質点に対しての運動方程式を立てます。

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二体問題の運動方程式

いきなりですが、二体問題の各質点の運動方程式は、以下のように表せます。

二体問題の運動方程式

\begin{eqnarray}
m_1 \ddot{\boldsymbol{r}_1} &=G\frac{m_1m_2}{|\boldsymbol{r}_2-\boldsymbol{r}_1|^3} (\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2) \tag{1} \EE\\
m_2 \ddot{\boldsymbol{r}_2} &=-G\frac{m_2m_1}{|\boldsymbol{r}_2- \boldsymbol{r}_1|^3} (\boldsymbol{r}_1-\boldsymbol{r}_2) \tag{2} \\
\,
\end{eqnarray}

二つの運動方程式の辺々を加え合わせると、

$$ m_1\ddot{\boldsymbol{r}_1} + m_2 \ddot{\boldsymbol{r}_2} = \boldsymbol{0} $$

となります。

これを時間$t$で二重積分を行い、積分定数(定ベクトル)を$ \boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} $で表すと、以下のように整理できます。

$$ m_1\boldsymbol{r}_1 + m_2\boldsymbol{r}_2 = \boldsymbol{a}t + \boldsymbol{b} $$

ところで、 $P_1, P_2$の重心$G$の位置ベクトル $\boldsymbol{r}_G$は、以下のように表せます。

$$ \boldsymbol{r}_G = \frac{m_1\boldsymbol{r}_1 + m_2\boldsymbol{r}_2}{m_1 + m_2} $$

これを先ほどの積分の結果と比較することで、重心の位置ベクトルは、

$$ (m_1 + m_2) \boldsymbol{r}_G = \boldsymbol{a}t + \boldsymbol{b} $$

と表せます。

→重心についての詳しい解説はこちら

式を整理して、

$$ \boldsymbol{r}_G = \frac{\boldsymbol{a}t + \boldsymbol{b}}{m_1 + m_2} $$

となります。

これより、二天体の重心は等速直線運動(または静止)することが分かります。

一方、$ \boldsymbol{r} = \boldsymbol{r}_2 \,- \boldsymbol{r}_1 $であることに注意して、式(1)$ \div m_1 \,- $式(2)$ \div m_2 $を計算すると、

$$ \ddot{\boldsymbol{r}} = -G\frac{m_1+m_2}{r^3} \boldsymbol{r} $$

となります。

ここで重力定数を $ \mu \equiv G(m_1 + m_2) $(ミュー)とすると、

二体問題の運動方程式

\begin{eqnarray}
\ddot{\boldsymbol{r}} + \mu\frac{\boldsymbol{r}}{r^3} = \boldsymbol{0} \tag{3}\\
\,
\end{eqnarray}

となります。

式(3)が二体問題の運動方程式となります。

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角運動量積分(外積の利用)

式(3)の両辺に、$\boldsymbol{r}$の外積計算を実施すると、

$$ \ddot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} + \mu\frac{\boldsymbol{r} \times\boldsymbol{r} }{r^3} = \boldsymbol{0} \times\boldsymbol{r} $$

となります。

→外積についての詳しい解説はこちら

整理すると、

$$ \ddot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} = \boldsymbol{0} $$

となります。

ここで、次の微分について考えます。

\begin{split}
\frac{\diff}{\diff t}( \dot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} ) = \ddot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} + \dot{\boldsymbol{r}}\times\dot{\boldsymbol{r}}
\end{split}

$ \ddot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} = \boldsymbol{0} $であることを利用すると、

\begin{split}
\frac{\diff }{\diff t}( \dot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r}) = \boldsymbol{0}
\end{split}

となります。

したがって、

$$ \dot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} = \boldsymbol{h} = const. $$

が得られます。

$ \dot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} $の計算結果が定ベクトルとなるので、これが角運動量であることが分かります。

角運動量を$ \boldsymbol{h} $で表すと、外積の性質から、ベクトル $ \boldsymbol{h} $ は、$ \boldsymbol{r}, \dot{\boldsymbol{r}} $と直交していることが分かります。

→角運動量の詳しい解説はこちら

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エネルギー積分(内積の利用)

式(3)の両辺に$\dot{\boldsymbol{r}}$の内積を掛けると、

\begin{split}
\ddot{\boldsymbol{r}}\cdot\dot{\boldsymbol{r}} + \mu\frac{\boldsymbol{r} \cdot\dot{\boldsymbol{r}} }{r^3} = \boldsymbol{0} \cdot \dot{\boldsymbol{r}}
\end{split}

となり、式は次のように変形することができます。

\begin{split}
\frac{1}{2}\frac{\diff}{\diff t}(\dot{\boldsymbol{r}}\cdot \dot{\boldsymbol{r}}) + \frac{\diff}{\diff t}\left( -\frac{\mu}{r} \right) = 0
\end{split}

→内積の詳しい解説はこちら

積分すると、

$$ \frac{1}{2}(\dot{\boldsymbol{r}}\cdot \dot{\boldsymbol{r}}) -\, \frac{\mu}{r} = \eps = const. $$

が得られます。

積分の結果が定数となることが分かりました。

以上のことから,運動エネルギーとポテンシャルエネルギーが保存されることが分かります。

→運動エネルギー・ポテンシャルエネルギーについての解説はこちら

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ラプラス積分・ラプラスベクトルとは?

式(3)に角運動量$ \boldsymbol{h} $の外積を掛けると、

\begin{split}
\ddot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{h} + \mu\frac{\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{h} }{r^3} = \boldsymbol{0} \times\boldsymbol{h}
\end{split}

となります。

$ \boldsymbol{h} = \dot{\boldsymbol{r}}\times\boldsymbol{r} $であることに注意し、左辺第二項に対してベクトル三重積の公式を利用すると、

\begin{split}
\frac{\diff}{\diff t}\left( \dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{h} + \frac{\mu}{r}\boldsymbol{r} \right) = \boldsymbol{0}
\end{split}

と変形できます。

積分を行うと、

ラプラス積分・ラプラスベクトル

\begin{eqnarray}
\dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{h} + \frac{\mu}{r}\boldsymbol{r} = -\boldsymbol{P} = const. \tag{4} \\
\,
\end{eqnarray}

となります。

式(4)をラプラス積分とよび,$ \boldsymbol{P} $をラプラスベクトルまたは離心ベクトルと呼びます。

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軌道方程式

いよいよ天体の軌道を求めていきましょう。

ここまでで結局、何を目的に計算を行っていたのか? と言うと、

式(3)の運動方程式を$\boldsymbol{r}$のみの形に整理することを目指して計算していたのです。

それでは、ラプラス積分と$ \boldsymbol{r} $の内積を計算し、$\B{r}$ のみの式を導きましょう。

計算を実行すると、

\begin{split}
\dot{\boldsymbol{r}}\times \boldsymbol{h} \cdot \boldsymbol{r} + \frac{\mu}{r}\boldsymbol{r}\cdot\boldsymbol{r} &= -\boldsymbol{P}\cdot \boldsymbol{r} \EE
\therefore \,\,\, -h^2 + \mu r &= -\boldsymbol{P}\cdot \boldsymbol{r}
\end{split}

となります。

さらに$ \boldsymbol{P} $と $ \boldsymbol{r} $の成す角を$ \nu $(ニュー)と置くと、

$$ -h^2 + \mu r = -rP\cos\nu $$

と変形できます。

これを$r$について整理すると、以下のような式が導けます。

\begin{split}
r = \DL{\frac{\frac{h^2}{\mu}}{1+\frac{P}{\mu}\cos\nu}}
\end{split}

ここで,$ \DL{p \equiv \frac{h^2}{\mu}, e \equiv \frac{P}{\mu}} $と置くと、

軌道方程式

離心率を$e$として、軌道方程式は次のようになる。

\begin{eqnarray}
r = \frac{p}{1+e\cos\nu} \tag{5} \\
\,
\end{eqnarray}

と見通しの良い形にできます。

式(5)は二次曲線の極形式の方程式とも呼ばれるものです。

また、天体力学では上式のことを軌道方程式とも呼びます。

軌道方程式から、二体問題の天体の軌道は楕円・放物線・双曲線のいずれかになることが分かります。

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二次曲線と離心率の関係

ところで、上で求めた軌道方程式の $e$ は離心率と呼ばれます。

二次曲線の曲線の形が離心率の値により決まることが知られています。

具体的には、以下のような関係にあります。

$ 0 < e < 1 $ のとき:楕円

$ e = 1 $ のとき:放物線

$ 1 < e $ のとき:双曲線

まず、$ 0 < e < 1 $の場合での楕円軌道について見てみます。

天体力学ではよく取り上げられる重要な軌道になります。

楕円軌道では、$x$軸と$\boldsymbol{r}$の成す角が$\nu$に相当し,$\nu$を真近点離角と呼びます。

楕円軌道

次に、$ e = 1 $の場合での放物線軌道について見てみます。

放物線軌道

最後に、$ 1 < e $の場合での双曲線軌道について見てみます。

双曲線軌道では、二通りの軌道が存在することが特徴です。

双曲線軌道

以上より、二体問題の軌道は二次曲線になることが数学的に示されました。

それでは、天体を一つ増やして三体問題としたとき、天体はどんな軌道を描くのでしょうか?

数学に自信のある方は、ぜひ挑戦してみてください。自由研究の良い題材になるかもしれません。

詳しくは三体問題と固有値の回で解説しています。

→天体力学のまとめ記事はこちら


二体問題自体、非線形方程式なので初見で解くのは難しいと思います。覚えてしまえばワンパターンなのですが……

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