三体問題、それは三つの物体が万有引力によって引かれ運動するときの、軌道の一般解を計算する問題です。
ところで、17世紀後半、万有引力の法則からケプラーの法則が完璧に説明できることが示されました。また、二つの物体が万有引力に引かれながら運動するとき、その軌道が楕円・双曲線・放物線の二次曲線となることも明らかになっていました。
この問題は二体問題と呼ばれるもので、二体問題は完璧に解くことができます。では、天体を一つ増やして三つにしたとき、どんな軌道を描くのでしょうか?
多くの物理学者がこの問題に挑みましたが、天才達のあらゆる挑戦をはねのけ続け、ついぞ答えは導けませんでした。
3つの天体の運動に関する問題のため、この問題は三体問題と呼ばれています。三体問題は多くの学者達を悩す物理学の難問となりました。
どうして、三体問題は解を求められないのか?
今回はその理由について考察していきます。
三体問題の運動方程式
いきなりですが、三体問題の運動方程式は以下に示すようになります。
なお、三物体の配置は図の通りであるとします。
この運動方程式たちを行列表示すると、次のようになります。
※ 右辺の最初の行列を係数行列と呼びます。
行列表示が出来たので、次は係数行列を対角化することを考えます。
三体問題の固有値
係数行列を対角化したときの固有値を$\lambda_1, \lambda_2, \lambda_3 $とすると、
計算より、それぞれの固有値を次のように表せます。
→なぜ対角化を行うのか?
各固有値についての運動方程式について考えてみましょう。
まず、 $\lambda_1=0$となるときの運動方程式を考えてみましょう。
このとき、(座標変換後の) $\lambda_1 $に関する運動方程式は次のようになるはずです。
$$ \ddot{\boldsymbol{X}_1} = \lambda_1 \boldsymbol{X}_1 $$
つまり、
$$ \ddot{\boldsymbol{X}_1} = 0$$
となります。
すなわち、ベクトル$ \boldsymbol{X}_1 $に関しては、大きさ・向きの両方が時間変化しないことを意味します。
外力が作用しないとき、系の重心は移動しないため、
物理的には$ \boldsymbol{X}_1 $が重心の位置ベクトルを表していると解釈できます。
今、三つの天体は外力を受けていないため重心の位置は時間変化しません。
したがって、三天体の重心は静止または等速直線運動をし、加速度は$0$となるのです。
固有値 $\lambda_1$ が$0$となる理由は理解できました。
それでは、固有値$\lambda_2, \lambda_3$について考えましょう。
三体問題はどうして解けないのか?
固有値 $\lambda_2, \lambda_3$ に対応する運動方程式は、次のよう表せます。
$$ \ddot{\boldsymbol{X}_2} = \frac{1}{2r_a^3r_b^3r_c^3} \left\{ -(m_1+m_2)r_b^3r_c^3-(m_2+m_3)r_a^3r_b^3 -(m_1+m_3)r_a^3r_c^3 – \sqrt{R} \right\} \boldsymbol{X}_2 $$
$$ \ddot{\boldsymbol{X}_3} = \frac{1}{2r_a^3r_b^3r_c^3} \left\{ -(m_1+m_2)r_b^3r_c^3-(m_2+m_3)r_a^3r_b^3 -(m_1+m_3)r_a^3r_c^3 + \sqrt{R} \right\} \boldsymbol{X}_3 $$
二つの式の右辺を見ると、三次式や平方根が含まれており、かなり複雑な式となっていることが見て取れます。
専門的には、このような方程式を非線形方程式と呼びます。
非線形方程式はほとんどの場合で解くことはできません。
そして、上記の方程式は解くことのできない非線形方程式なのです。
したがって、三体問題の方程式は解けないことになります。
これが三体問題が解けない理由です。
※ ここで言う”解けない”とは、べき乗関数や指数関数、三角関数などの初等関数と呼ばれる関数の組み合わせで、解を表現できないという意味です。
非線形方程式の「解ける」、「解けない」の詳しい説明は別の記事で詳しく説明します。気になる方は、そちらも参考にして下さい。