ナブラ・ラプラシアンとは?|ベクトルの表記と微分演算子

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ここでは、ナブラ・ラプラシアンと呼ばれる微分演算子について解説します。また、微分やベクトルの表記法についても紹介します。

ナブラの定義

微分演算子$\nabla$(ナブラ)を次のように定義する

\begin{eqnarray}
\nabla \equiv \bold{i}\frac{\del}{\del x} + \bold{j}\frac{\del}{\del y} + \bold{k}\frac{\del}{\del z}
\end{eqnarray}

ただし、$\B{i,j,k}$ を単位ベクトルとする。

ラプラシアンの定義

微分演算子$\Delta$(ラプラシアン)を次のように定義する

\begin{eqnarray}
\D &=& \equiv \ff{\del^2}{\del x^2} + \ff{\del^2}{\del y^2} + \ff{\del^2}{\del z^2} \\
\,
\end{eqnarray}

初学者や大学で力学を勉強し始めた方に向けた記事になっています。

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ニュートンの記法とは?

時間微分は力学・物理で良く出てきます。(力が時間微分で書かれるため)

「$x$を時間$t$で微分せよ」と言われたら普通は次のように書くと思います。

$$ \frac{\diff x}{\diff t},\,\, \frac{\diff^2 x}{\diff t^2} ,\,\, \mathrm{etc}. $$

この表記方法をライプニッツの記法と言います。

多くの読者にとって見慣れた表記法だと思います。

ただ、この記法には欠点があります。それは……

画数が多くてしかもスペースを取ることです。

漢字を書くことに比べれば大したことないだろ? 少々スペースを取ることの何が問題なんだ?

と思ったそこのあなた!以外とこれが面倒なんです。いや、冗談ではなく真面目な話、本当に面倒なんです。

というと、大学で物理学を本格的に学び始めると、運動方程式を微分方程式で表すことが標準になります。

この微分方程式は時間微分で記述されるため、頻繁に$ \DL{\frac{\diff x}{\diff t}, \frac{\diff^2x}{\diff t^2}} $と書くことになります。

いちいち書いていると手が疲れますしスペースも無駄になります。そこで、時間微分を上にドットを付けることで表すことで、時間微分を簡略して表記することにします。

例えば、一階の時間微分や二階の時間微分を次のように表します。

$$ \frac{\diff x}{\diff t} \equiv \dot{x},\,\, \frac{\diff^2x}{\diff t^2} \equiv \ddot{x} $$

この表記方法をニュートンの記法と言います。

時間に関する微分のみドットを付けて表現することに、注意して下さい。(時間微分以外でニュートンの記法を使うと、何で微分しているのか分からなくなるためです。)

時間微分の表記

次のような時間微分の表記法を、ニュートンの記法と呼ぶ

\begin{eqnarray}
\dot{x}\equiv\frac{\diff x}{\diff t},\,\, \ddot{x}\equiv\frac{\diff^2x}{\diff t^2} \\
\,
\end{eqnarray}

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ベクトルの記法

ベクトルとは、向きと大きさを持つ量です。

ベクトルを図示する際は矢印で表現することが一般的です。さて、このベクトルも表記方法に色々なパターンがあります。

まず、ベクトルのおなじみの表記方法は、高校で習った文字の上に矢印を乗せる表記方法です。例えば、このようにベクトルを表記します。

$$ \vec{a}, \vec{x}, \overrightarrow{\mathrm{AB}} $$

しかし、大学で学ぶ物理では、このようなベクトル表記を使わずにベクトルを太字で表現します。つまり、ベクトルを次のように表記するのが標準となります。

$$ \boldsymbol{a}, \boldsymbol{x}, \boldsymbol{\mathrm{ AB}} $$

なお、筆記の場合は、太字で表現するのが面倒なため、次のようにベクトルを表記します。

$$ \mathbb{a}, \mathbb{x} $$

※ ベクトルの筆記体は複数の流儀があります。

ベクトルの成分表示

ところで、ベクトル$\bold{A}$が$(A_x, A_y, A_z)$と表されるとき、ベクトル$\bold{A}$を次のように表記すると約束します。

$$ \bold{A} = A_x\bold{i} + A_y\bold{j} + A_z\bold{k} $$

$\bold{i}, \bold{j}, \bold{k}$は、それぞれ、$x$方向、 $y$方向 、$z$方向 の単位ベクトルを表します。

→ベクトルについてのより詳しい解説はこちら

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ナブラとは?

空間の全域またはある領域にあるスカラー$\phi$(温度・密度・濃度・圧力など)が分布しているとき、その領域のある点$P(x,y,z)$での$\phi$の値は、$P$の座標を使って$\phi (x,y,z)$となります。

$\phi$(ファイ)を関数と読み替えて、$\phi$が定義されている領域と関数$\phi(x,y,z)$を合わせた概念をスカラー場と呼びます。

これに対して、流体の速度や電場、磁場、重力場のように、空間のある領域でベクトル$\bold{A}$が分布しているとき、ある点$P(x,y,z)$でのベクトル$\bold{A}$は、$\bold{A}(x,y,z)$と表せます。

また、このように定義されたものをベクトル場と呼びます。ベクトル解析の記号にナブラ($\nabla$)という記号があります。

ナブラはベクトル微分演算子と呼ばれる記号で、次のような性質を持ちます。

①勾配:grad(グラディエント)

スカラー場$\phi$の空間内での変化率を表すと、これは変化の大きさと向きの情報を持つため、変化率はベクトルとなります。この変化率を勾配またはグラディエント(gradient)と言います。

スカラー場の変化率は次のように表現されます。($x,y,z$各方向の単位ベクトルを$\bold{i}, \bold{j} , \bold{k} $と表しています)

\begin{eqnarray}
\mathrm{grad}\,\phi &=& \frac{\del \phi}{\del x}\bold{i} + \frac{\del \phi}{\del y}\bold{j} + \frac{\del \phi}{\del z}\bold{k}
\end{eqnarray}

さて、次のようにベクトル微分演算子ナブラ:$\nabla$を定義します。

ナブラの定義

微分演算子$\nabla$(ナブラ)を次のように定義する

\begin{eqnarray}
\nabla \equiv \bold{i}\frac{\del}{\del x} + \bold{j}\frac{\del}{\del y} + \bold{k}\frac{\del}{\del z} \\
\,
\end{eqnarray}

すると、先ほどの式は次のように書き表せます。

\begin{eqnarray}
\mathrm{grad}\,\phi &=& \bold{i}\frac{\del \phi}{\del x} + \bold{j}\frac{\del \phi}{\del y} + \bold{k}\frac{\del \phi}{\del z} \EE
&=& \left( \bold{i}\frac{\del}{\del x} + \bold{j}\frac{\del}{\del y} + \bold{k}\frac{\del}{\del z} \right)\phi \EE
&=& \nabla\phi
\end{eqnarray}

つまり、

$\RM{grad}$(グラディエント)の表記

\begin{eqnarray}
\mathrm{grad}\,\phi = \nabla \phi \\
\,
\end{eqnarray}

とできます。$\RM{grad}$ の計算例についてはこちらで解説しています。

$\mathrm{grad}\,\phi$とは通常せず、$\nabla\phi$と表記します。注意点は$\nabla\phi$はベクトルであるということです。

②発散:div(ダイバージェンス)

ベクトル場$\B{A}=A_x\B{i} + A_y\B{j} + A_z\B{k}$に対して、次の計算を発散(ダイバージェンス)と呼びます。

\begin{eqnarray}
\RM{div} \B{A} &=& \ff{\del A_x}{\del x} + \ff{\del A_y}{\del y} + \ff{\del A_z}{\del z}
\end{eqnarray}

となります。発散はスカラーとなることに注意してください。ナブラを使って、発散を表現することを考えます。

内積の性質を利用すると、次のように上手く表すことができます。

\begin{eqnarray}
\RM{div} \B{A} &=& \ff{\del A_x}{\del x} + \ff{\del A_y}{\del y} + \ff{\del A_z}{\del z} \EE
&=& \left( \bold{i}\frac{\del}{\del x} + \bold{j}\frac{\del}{\del y} + \bold{k}\frac{\del}{\del z} \right)\cdot\Big( A_x \B{i} + A_y \B{j} + A_z \B{k} \Big) \EE
&=& \nabla\cdot \B{A}
\end{eqnarray}

つまり、

$\RM{div}$(ダイバージェンス)の表記

\begin{eqnarray}
\RM{div} \B{A} = \nabla\cdot \B{A} \\
\,
\end{eqnarray}

となります。$\RM{div}$ の計算例についてはこちらで解説しています。

③回転:rot(ローテーション)

ベクトル場$\B{A}=A_x\B{i} + A_y\B{j} + A_z\B{k}$に対して、次の計算を回転(ローテーション)と呼びます。

\begin{eqnarray}
\RM{rot} \B{A} &=& \left( \ff{\del A_z}{\del y}\,- \ff{\del A_y}{\del z} \right)\B{i} \,- \left( \ff{\del A_z}{\del x}\,- \ff{\del A_x}{\del z} \right)\B{j} + \left( \ff{\del A_y}{\del x}\,- \ff{\del A_x}{\del y} \right)\B{k}
\end{eqnarray}

ナブラを使って、回転を表現することを考えます。まず、行列式を用いると、次のように上述の式を変形できます。

\begin{eqnarray}
\RM{rot} \B{A} &=&
\begin{vmatrix}
\DL{\ff{\del}{\del y}} & \DL{\ff{\del}{\del z}} \\
A_y & A_z
\end{vmatrix}
\B{i}\,-
\begin{vmatrix}
\DL{\ff{\del}{\del x}} & \DL{\ff{\del}{\del z}} \\
A_x & A_z
\end{vmatrix}
\B{j}+
\begin{vmatrix}
\DL{\ff{\del}{\del x}} & \DL{\ff{\del}{\del y}} \\
A_x & A_y
\end{vmatrix}
\B{k} \EE
&=&
\begin{vmatrix}
\B{i} & \B{j} & \B{k} \\
\DL{\ff{\del}{\del x}} & \DL{\ff{\del}{\del y}} & \DL{\ff{\del}{\del z}} \\
A_x & A_y & A_z
\end{vmatrix}
\end{eqnarray}

これを外積の公式と比較すると、ナブラを用いてローテーションは次のように書くことができます。

$\RM{rot}$(ローテーション)の表記

\begin{eqnarray}
\RM{rot} \B{A} &=& \nabla\times\B{A} \\
\,
\end{eqnarray}

$\RM{rot}$ の計算例についてはこちらで解説しています。

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ラプラシアンとは?

物理学では、二階微分が頻繁に登場します。したがって、二階微分に関しても記号を特別に割り当てることにしましょう。この記号を$\Delta$とし、ラプラシアンと呼ぶことにします。

天下り的になりますが、ラプラシアンを次のように定義します。

ラプラシアンの定義

微分演算子$\Delta$(ラプラシアン)を次のように定義する

\begin{eqnarray}
\D &=& \equiv \ff{\del^2}{\del x^2} + \ff{\del^2}{\del y^2} + \ff{\del^2}{\del z^2} \\
\,
\end{eqnarray}

スカラー関数を$\phi$とすると、$\D \phi$を次のように表せます。

\begin{eqnarray}
\D \phi &=& \ff{\del^2 \phi}{\del x^2} + \ff{\del^2 \phi}{\del y^2} + \ff{\del^2 \phi}{\del z^2}
\,
\end{eqnarray}

ここで、ラプラシアンはナブラと内積を用いて以下のように表せます。

\begin{eqnarray}
\nabla^2 \phi = \nabla\cdot(\nabla \phi)
\end{eqnarray}

ベクトルの微分や積分内積や外積についても解説しています。

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