三角関数にまつわる、オイラーの公式とフーリエ級数展開について解説します。
物理学では、運動方程式を解くことが主要な課題になります。
運動方程式を数学的に記述すると、微分方程式と呼ばれる方程式になります。
微分方程式を解くことで、物体の過去から未来までの運動の情報を完全に得られるため、解がどのような関数で記述されるのかが最大の関心事項となります。
さて、微分方程式の解として良く三角関数が現れます。
そのため、三角関数は物理学において最も重要な関数の一つになる訳です。
今回は、微分方程式の解法についての解説は行いませんが、微分方程式の解として三角関数が現れる理由に深い関連を持つオイラーの公式についての紹介をします。
また、発展的な内容ですがフーリエ級数展開についても紹介します。
参考記事
三角関数と物理学
三角関数が物理学において重宝される理由はたくさんありますが、最も分かりやすい理由は三角関数が微分方程式の解になるためです。
具体例として、振り子やばねの振動のような単振動の微分方程式は、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff^2 x}{\diff t^2} = -\omega^2 x
\end{eqnarray}
と表されますが、この微分方程式の解の一つとして、
\begin{eqnarray}
x(t) = C\cos \omega t
\end{eqnarray}
があります。
このように三角関数は運動の様子を表す解となるため、物理学では重宝されるのです。
参考記事
三角関数の微分積分
ここからは物理学に三角関数を応用するための道具立てについて解説します。
最初の一歩として、三角関数の微分と積分について考えます。
三角関数の微分
微分の定義は次の式で表されました。
微分の定義式を適用して三角関数の微分を導出しましょう。
まず、$\cos x$の微分は、
\begin{eqnarray}
\big( \cos\theta \big)’ &=& \lim_{h\to 0}\ff{\cos(x+h)-\cos x}{h} \EE
&=& \lim_{h\to 0}\ff{\cos x \cos h -\sin x \sin h-\cos x}{h} \EE
&=& \lim_{h\to 0}\ff{\cos x (\cos h-1) -\sin x \sin h}{h} \EE
&=& \lim_{h\to 0}\left( \ff{\cos x (\cos h-1)}{h} -\ff{\sin x \sin h}{h} \right)\EE
&=& -\sin x
\end{eqnarray}
となります。計算の過程で三角関数の加法定理を利用しています。
次に$\sin x$の微分は、
\begin{eqnarray}
\big( \sin x \big)’ &=& \lim_{h\to 0}\ff{\sin(x+h)-\sin x}{h} \EE
&=& \lim_{h\to 0}\ff{\sin x \cos h +\cos x \sin h-\sin x}{h} \EE
&=& \lim_{h\to 0}\ff{\sin x (\cos h-1) +\cos x \sin h}{h} \EE
&=& \lim_{h\to 0}\left( \ff{\cos x (\cos h-1)}{h} +\ff{\cos x \sin h}{h} \right)\EE
&=& \cos x
\end{eqnarray}
となります。
$-\cos x, -\sin x$についても同様に計算できて、微分の結果は表のようになります。
\begin{array}{c|c}
f(x) & f'(x) \\\hline
\cos x & -\sin x \\\hline
\sin x & \,\,\,\,\,\cos x\,\,\,\, \\\hline
-\cos x & \,\,\,\,\sin x\,\,\,\, \\\hline
-\sin x & -\cos x \\
\end{array}
さて、$\tan x$の微分に関しては少し複雑な計算を行う必要があります。
ここで、商の微分の公式を思い出しましょう。商の微分の公式は次の式で表せました。
さて、$\DL{\tan x = \ff{\sin x}{\cos x}}$であるので、微分する際には商の微分の公式を用いて、
\begin{eqnarray}
(\tan x)’ &=& \left( \ff{\sin x}{\cos x} \right)’ \EE
&=& \ff{\cos x \cos x \,- \sin x(-\sin x)}{\cos^2 x} \EE
&=& \ff{\cos^2 x + \sin^2 x}{\cos^2 x} \EE
&=& \ff{1}{\cos^2 x}
\end{eqnarray}
と求めることができます。(→$\cos^2 x + \sin^2 x = 1$となる理由)
三角関数の積分
積分は数学的には微分の反対の操作であるため、先ほどの表の左右を逆にすれば積分の結果となります。
よって、三角関数の積分の結果は次のようになります。(ただし、$C$を積分定数とします。)
\begin{array}{c|c}
f(x) & \DL{\int f(x) \diff x} \\\hline
\cos x & \,\,\,\,\,\,\sin x + C\,\,\,\, \\\hline
\sin x & -\cos x + C \\\hline
-\cos x & -\sin x + C \\\hline
-\sin x & \,\,\,\,\,\cos x + C\,\,\,\, \\
\end{array}
以上をまとめると、下図のように$\cos x$と$\sin x$の微分や積分は、相互に循環していることが分かります。
三角関数の級数展開
次の一歩として、三角関数の級数展開を考えます。
級数展開とは、$\cos x, \sin x$を$x$の多項式によって表す手法のことです。($a_k$は定数)
\begin{eqnarray}
\cos x &=& a_0 + a_1x + a_2x^2 + a_3x^3 + \cdots \EE
&=& \sum_{k = 0}^{\infty} a_k x^{i}
\end{eqnarray}
三角関数を多項式で表すことが可能なのか疑問に思うでしょう。
結論から言えば三角関数の級数展開は可能です。
三角関数の級数展開表示を理解するため、始めにマクローリン展開について説明します。
マクローリン展開
関数$f(x)$が$x=0$近傍で無限回の微分が可能であるとき、次の定理が成立します。
\begin{eqnarray}
f(x) &=& f(0) + f'(0)x + \ff{f”(0)}{2!}x^2 + \cdot + \ff{f^{(n)}(0)}{n!}x^n +\cdots \EE
&=& f(0) + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{f^{(k)}(0)}{k!}x^k
\end{eqnarray}
このような級数展開をマクローリン展開と呼びます。
三角関数の級数展開
マクローリン展開の前提条件となる無限回の微分が三角関数について可能かどうかですが、$\cos x, \sin x$の微分が循環する様子から分かるように、どちらの関数も無限回の微分が可能です。
したがって、$\cos x, \sin x$についてのマクローリン展開を考えることができて、それぞれ次のように級数展開できます。
$\cos x$に関しては、
\begin{eqnarray}
\cos x &=& \cos 0 + \sum_{k=1}^{\infty}(\cos x)^{(k)}_{x=0}\ff{x^k}{k!} \\
&=& 1 \,- \sin 0\cdot x \,- \ff{1}{2!}\cos 0 \cdot x^2 + \ff{1}{3!}\sin 0\cdot x^3 + \ff{1}{4!}\cos 0\cdot x^4 + \cdots \EE
&=& 1 \,- \ff{1}{2!} x^2 + \ff{1}{4!} x^4 + \cdots \EE
&=& 1 + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{(-1)^k }{2k!}x^{2k}
\end{eqnarray}
となり、$\sin x$に関しては、
\begin{split}
\sin x &= \sin 0 + \sum_{k=1}^{\infty}(\sin x)^{(k)}_{x=0}\ff{x^k}{k!} \\
&= 0 + \cos 0\cdot x \,- \ff{1}{2!}\sin 0\cdot x^2 \,- \ff{1}{3!}\cos 0\cdot x^3 + \ff{1}{4!}\sin 0\cdot x^4 \EE
&\qquad + \ff{1}{5!} \cos 0\cdot x^5 + \cdots \EE
&= x \,- \ff{1}{3!}\cdot x^3 + \ff{1}{5!}x^5 + \cdots \EE
&= \sum_{k=1}^{\infty}\ff{(-1)^{k+1} }{(2k-1)!}x^{2k-1}
\end{split}
となります。
$\cos x$と$\sin x$を多項式によって表すことに成功しました。
準備が整ったので、物理学で頻繁に登場する指数関数と三角関数との関係を探っていきます。
オイラーの公式の導出
指数関数の中でもネイピア数$e$を底とする$e^x$が物理学では重要な対象になります。
$e^x$が重要な理由は微分方程式の解として表れるためですが、詳細に関しては振り子の運動と微分方程式を参照して下さい。
ここでは、$e^x$の級数展開を考え、この級数展開から$e^x$と三角関数を繋げるオイラーの公式を導出します。
指数関数の級数展開
$e^x$の級数展開を考えましょう。
先述と同様に$e^x$をマクローリン展開すると次のようになります。
\begin{eqnarray}
e^x &=& e^0 + \sum_{k=1}^{\infty}(e^x)^{(k)}_{x=0}\ff{x^k}{k!}
\end{eqnarray}
$e^x$は微分しても$e^x$のままという性質があるため、上式は次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
e^x &=& e^0 + \sum_{k=1}^{\infty}(e^x)^{(k)}_{x=0}\ff{x^k}{k!} \EE
&=& 1 + x + \ff{1}{2!}x^2 + \ff{1}{3!}x^3 + \cdots \EE
&=& 1 + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{x^k}{k!}
\end{eqnarray}
以上より、$e^x$の級数展開を求めることができました。
オイラーの公式:$e^{ix} = \cos x + i\sin x$
今までの指数関数では指数が実数の場合のみを考えていました。
では、$e^x$の指数に虚数を入れたらどうなるでしょうか?
早速、指数が虚数の場合の$e^x$について考えてみましょう。
この指数関数を考えるにあたり、逆転の発想をします。
すなわち、$e^x$という関数は、$\DL{1 + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{x^k}{k!}}$という多項式により定義された関数であると考えるのです。
つまり、
\begin{eqnarray}
e^x &\equiv& 1 + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{x^k}{k!} \tag{1}
\end{eqnarray}
と見なすということです。
このように見なすことで、指数が虚数となっても$e^x$の値について考えることができます。
実際に計算してみましょう。
$x = ix’$として($x’$は実数)式(1)に代入すると、
\begin{eqnarray}
e^x &=& e^{ix’} \EE
&=& 1 + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{(ix’)^k}{k!} \EE
&=& 1 +ix’ \,- \ff{1}{2!}x’^2 \,-i\ff{1}{3!}x’^3 + \ff{1}{4!}x’^4 +i\ff{1}{5!}x’^5 + \cdots
\end{eqnarray}
とでき、ここで$x=x’$として級数展開の結果を実部と虚部に分けて整理すると、
\begin{eqnarray}
e^{ix} &=& \left( 1\,- \ff{1}{2!}x^2 + \ff{1}{4!}x^4 \,- \cdots \right) +i\left( x \,- \ff{1}{3!}x^3 + \ff{1}{5!}x^5 \,-\cdots \right) \EE
&=& \left( 1 + \sum_{k=1}^{\infty}\ff{(-1)^k }{2k!}x^{2k} \right) + i\left( \sum_{k=1}^{\infty}\ff{(-1)^{k+1} }{(2k-1)!}x^{2k-1} \right)
\end{eqnarray}
とできます。
計算結果の実部と虚部を見比べると、それぞれが$\cos x$と$\sin x$の級数展開に対応していることが分かります。
以上より、$e^{ix}$について以下の式が成立することが分かります。
$e^{ix}$と三角関数を繋げる式をオイラーの公式と呼び、微分方程式を解く際に重要な役割を果たします。
オイラーの公式に関しては、右辺から左辺への変形を行うこともあるので、注意してください。
さて、$e^{-ix}$に関しても、式(1)を使って同様に計算を行うと、
\begin{eqnarray}
e^{-ix} &=& \cos x \,- i\sin x \\
\end{eqnarray}
となります。
虚部の部分の符号が変化することに注意してください。$e^{-ix}$の結果についても覚えておくと良いでしょう。
フーリエ級数展開
三角関数にまつわる話題として、フーリエ級数展開についても触れておきます。
フーリエ級数展開とは周期が$T$の周期関数$f(x)$を三角関数の和で表現する手法のことです。
フーリエ級数展開とは
フーリエ級数展開は、$a_k, b_k$を定数として、次のように表されます。
特に、周期が$T = 2\pi$のときフーリエ級数展開は、
\begin{split}
&f(x) = \ff{a_0}{2} + \sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cos kx+ b_k\sin kx \right) \EE
&a_0 = \ff{1}{\pi}\int_0^{2\pi} f(x) \diff x \EE
&a_k = \ff{1}{\pi}\int_0^{2\pi} f(x)\cos kx \,\diff x \EE
&b_k = \ff{1}{\pi}\int_0^{2\pi} f(x)\sin kx \,\diff x \\
\end{split}
と簡単に表されます。
マクローリン展開では関数を$x$のべき乗の多項式で表す手法ですが、フーリエ級数展開では関数を三角関数の多項式で表す点が異なります。
フーリエ級数展開では式が複雑化しており、直ぐにはフーリエ級数展開を行うメリットは分かりませんが、熱伝導方程式や波動方程式を解く際に、その有用性が理解できるようになります。
三角関数の直交性
フーリエ級数展開について理解するためには、三角関数の直交性から話を始めなければなりません。
三角関数の直交性とは、次のような積分を行ったときに、特定のペア以外の計算結果が$0$になる性質を言います。
$$
\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx \diff x =
\left\{
\begin{split}
0 \qquad (m\neq n) \EE
\pi\qquad (m=n)
\end{split}
\right.
$$
$$
\int_{-\pi}^{\pi}\cos nx\cos mx \diff x =
\left\{
\begin{split}
0 \qquad (m\neq n) \EE
\pi\qquad (m=n)
\end{split}
\right.
$$
$$
\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\cos mx \diff x = 0 \qquad\qquad\qquad\,\,
$$
このように、同じペア以外の積分の計算結果が$0$になる様子が、直交したベクトルの内積の計算結果が$0$となることを連想させるため、三角関数の直交性と呼ばれます。
具体例として、次のような計算結果が得られます。
\begin{split}
&\int_{-\pi}^{\pi}\sin x\cos x \diff x = 0 \EE
&\int_{-\pi}^{\pi}\sin^2 x = \pi \EE
&\int_{-\pi}^{\pi}\cos^2 x = \pi \EE
\end{split}
三角関数の直交性について、証明しましょう。
証明
$n, m$を自然数とします。
まず、$\DL{\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx \,\diff x}$の積分について考えます。
三角関数の積和公式より、
\begin{eqnarray}
\sin nx\sin mx = -\ff{1}{2}\Big( \cos(n+m)x – \cos(n-m)x \Big)
\end{eqnarray}
となります。
$n\neq m$の場合、$\DL{\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx \,\diff x}$の積分は、
\begin{split}
&\quad\,\,\, \int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx \,\diff x \EE
& = -\int_{-\pi}^{\pi} \ff{1}{2}\Big( \cos(n+m)x \,- \cos(n-m)x \Big)\diff x \EE
& = -\ff{1}{2}\left[ \ff{1}{n+m}\sin(n+m)x \,- \ff{1}{n-m}\sin(n-m)x \right]_{-\pi}^{\pi} \EE
& = 0
\end{split}
となって計算結果が$0$になることが分かります。
一方、$n= m$の場合、
\begin{split}
\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx \,\diff x &= \int_{-\pi}^{\pi} \sin nx\sin nx \,\diff x \, \diff x \EE
& = \ff{1}{2}\int_{-\pi}^{\pi} \Big( 1 \,- \cos(2nx) \Big)\diff x \EE
& = \ff{1}{2}\left[ x \,- \ff{1}{2n}\sin(2nx) \right]_{-\pi}^{\pi} \EE
& = \pi
\end{split}
と求められます。
次に、$\DL{\int_{-\pi}^{\pi}\cos nx\cos mx \,\diff x}$の積分について考えます。
積和公式より、
\begin{eqnarray}
\cos nx\cos mx = \ff{1}{2}\Big( \cos(n+m)x + \cos(n-m)x \Big)
\end{eqnarray}
となるので、$n\neq m$のとき、
\begin{split}
&\quad\,\,\, \int_{-\pi}^{\pi}\cos nx\cos mx \,\diff x \EE
& = -\int_{-\pi}^{\pi} \ff{1}{2}\Big( \cos(n+m)x + \cos(n-m)x \Big)\diff x \EE
& = -\ff{1}{2}\left[ \ff{1}{n+m}\sin(n+m)x + \ff{1}{n-m}\sin(n-m)x \right]_{-\pi}^{\pi} \EE
& = 0
\end{split}
と計算できて、結果は$0$になることが分かります。
一方、$n= m$の場合、
\begin{split}
\int_{-\pi}^{\pi}\cos nx\cos mx \,\diff x &= \int_{-\pi}^{\pi} \cos nx\cos nx \,\diff x \, \diff x \EE
& = \ff{1}{2}\int_{-\pi}^{\pi} \Big( 1 + \cos(2nx) \Big)\diff x \EE
& = \ff{1}{2}\left[ x + \ff{1}{2n}\sin(2nx) \right]_{-\pi}^{\pi} \EE
& = \pi
\end{split}
と求められます。
最後に、$\DL{\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\cos mx \,\diff x}$の積分について考えます。
積和公式より、
\begin{eqnarray}
\sin nx\cos mx = \ff{1}{2}\Big( \sin(n+m)x + \sin(n-m)x \Big)
\end{eqnarray}
となるので、$n\neq m$のとき、
\begin{split}
&\quad\,\,\, \int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\cos mx \,\diff x \EE
& = \int_{-\pi}^{\pi} \ff{1}{2}\Big( \sin(n+m)x + \sin(n-m)x \Big)\diff x \EE
& = -\ff{1}{2}\left[ \ff{1}{n+m}\cos(n+m)x + \ff{1}{n-m}\cos(n-m)x \right]_{-\pi}^{\pi} \EE
& = 0
\end{split}
計算結果は$0$となり、
一方、$n= m$のとき、
\begin{split}
\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\cos mx \,\diff x &= \int_{-\pi}^{\pi} \sin nx\cos nx \,\diff x \, \diff x \EE
& = \ff{1}{2}\Big[ \sin^2 nx \Big]_{-\pi}^{\pi} \EE
& = \pi
\end{split}
とできて、$n, m$に関わらず$\sin nx \cos mx$の積分の計算結果は$0$になります。
以上より、三角関数の直交性が示せました。
フーリエ係数の導出
フーリエ級数展開は関数$f(x)$を三角関数の和として表す手法です。
とりあえず、$f(x)$が周期$2\pi$の関数であるとし、次のように三角関数の和で表せると仮定します。
\begin{eqnarray}
f(x) &=& \ff{a_0}{2} + \sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cos kx + b_k\sin kx \right) \\
\end{eqnarray}
ここからは、係数$a_k, b_k$を求めることを考えましょう。このときに、先ほど紹介した三角関数の直交性を使います。
すなわち、$\sin kx, \cos kx$を上式の両辺に掛けて積分を実行すると、$a_k, b_k$それぞれは
\begin{split}
\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\cdot\cos kx\, \diff x &= \int_{-\pi}^{\pi} \ff{a_0}{2} \cos kx\, \diff x \EE
&\quad + \int_{-\pi}^{\pi} \cos kx \cdot\sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cos kx + b_k\sin kx \right) \diff x \EE
&= 0 + \int_{-\pi}^{\pi} \cos kx\left(a_k \cos kx\right)\diff x \EE
&= a_k \pi
\end{split}
\begin{split}
\therefore a_k = \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\cos kx\, \diff x
\end{split}
\begin{split}
\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\cdot\sin kx\, \diff x &= \int_{-\pi}^{\pi} \ff{a_0}{2} \sin kx\, \diff x \EE
&\quad + \int_{-\pi}^{\pi}\sin kx \cdot\sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cos kx + b_k\sin kx \right) \diff x \EE
&= 0 + \int_{-\pi}^{\pi} \sin kx\left(b_k \sin kx\right)\diff x \EE
&= b_k \pi
\end{split}
\begin{split}
\therefore b_k = \ff{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\sin kx\, \diff x
\end{split}
と求められます。
フーリエ係数の導出ができました。
フーリエ級数展開と複素数
フーリエ級数展開にまつわる話の締めくくりとして、指数関数による表示を与えましょう。
三角関数と指数関数を結ぶオイラーの公式を思い出すと、$\cos x$と$\sin x$は次のように表せます。
これらをフーリエ級数展開の式に代入すると、次のようになります。
\begin{split}
f(x) &= \ff{a_0}{2} + \sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cos kx + b_k\sin kx \right) \EE
&= \ff{a_0}{2} + \sum_{k=1}^{\infty}\left( a_k\cdot\ff{e^{ikx} + e^{-ikx}}{2} + b_k\cdot\ff{e^{ ikx} \,- e^{-ikx}}{2i} \right) \EE
&= \ff{a_0}{2} + \sum_{k=1}^{\infty}\left( \ff{a_k \,- ib_k}{2} \right)e^{ ikx} + \sum_{k=-\infty}^{-1}\left( \ff{a_k \,-(- ib_k)}{2} \right)e^{- ikx}
\end{split}
ここで、$\DL{c_k = \ff{a_k \,- ib_k}{2}}, \DL{c_{-k} = \ff{a_{-k} \,- (-ib_{-k})}{2}}, c_0 = \DL{\ff{a_0}{2}}$とおくと、
\begin{split}
f(x) &= \sum_{k=-\infty}^{\infty}c_ke^{ikx}
\end{split}
とできて、フーリエ級数展開を簡単に表示することができます。
フーリエ係数$c_k$に関しては、$k$の正負に関わらず、
\begin{split}
c_k &= \ff{a_k \,- ib_k}{2} \EE
&= \ff{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi} \Big( f(x)\cos kx \,-if(x)\sin kx \Big) \, \diff x \EE
&= \ff{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)e^{-ikx} \, \diff x
\end{split}
とできます。
周期が$T$であっても同様に計算でき、フーリエ級数展開の複素数表示は次のように与えられます。
このように、複素数を使うことでフーリエ級数展開を簡単に表現できるようになるのです。