位置・速度・加速度のベクトル|高校物理から大学物理へ 【大学物理】【物理基礎】

スポンサーリンク
ホーム » 力学 » 力学入門 » 位置・速度・加速度のベクトル|高校物理から大学物理へ 【大学物理】【物理基礎】

高校物理から大学物理に移行するにあたり、最も基本的かつ重要なポイントを解説します。

そのポイントとは、ベクトルにより位置・速度・加速度を表すことです。

高校物理でも速度や加速度をベクトルで表現することを学んだと思いますが、そのことを意識する場面は少なかったと思います。

しかし、大学物理では速度や加速度がベクトルであることをはっきりと表現するようになります。

今回は、大学物理習得の第一歩として、位置・速度・加速度のベクトルによる表示法について解説します。

スポンサーリンク

高校物理の復習:位置・速度・加速度とは

大学物理に入る前に、高校物理、特に高校力学の初歩の内容を復習しましょう。

力学とは、物体の運動を研究する学問です。

この物体の運動は、位置・速度・加速度を使って記述されます。

速度$v$は、位置の変化(=変位)$\D{x}$を、移動に要した時間$\D{t}$で割ったものとして与えられます。

\begin{eqnarray}
v &=& \ff{(x+\D{x}) \,-\, x}{(t+\D{t})-t} \EE
&=& \ff{\D{x}}{\D{t}}
\end{eqnarray}

$\D$は”デルタ”と読み、差分や変化量であることを表します。

位置の時間変化

さて、$\D{t}$を限りなく小さくした極限値が、その点での瞬間の速度になります。

通常、物理学では瞬間の速度を速度として扱います。瞬間の速度を明示的に表すと次のようになります。

速度の定義

\begin{eqnarray}
v &=& \lim_{\D{t}\to 0}\ff{\D{x}}{\D{t}} \EE
&=& \ff{\diff x}{\diff t} \\
\,
\end{eqnarray}

次に、加速度$a$は速度の変化$\D{v}$を、それに要した時間$\D{t}$で割ったものとして与えられます。

加速度も同様に、その点での瞬間の加速度を、加速度として扱います。

加速度の定義

\begin{eqnarray}
a &=& \lim_{\D{t}\to 0}\ff{\D{v}}{\D{t}} \EE
&=& \ff{\diff v}{\diff t} = \ff{\diff^2 x}{\diff t^2} \\
\,
\end{eqnarray}

加速度をさらに時間で微分した物理量はあるのでしょうか?

答えをいうと、加速度を時間でさらに微分した物理量は実際に存在します。

この物理量を加加速度ジャーク:jerk)と呼びます。

ジャーク$j$は次のように表せます。

\begin{eqnarray}
j &=& \ff{\diff a}{\diff t} = \ff{\diff^3 x}{\diff t^3}
\end{eqnarray}

物理学でジャークが登場することは無いので、安心してください。

ただ、エレベータの乗り心地にジャークの大きさが関係しているそうです。

ところで、運動方程式では変位を二階微分した加速度が用いられますが、どうして加速度なのでしょうか?

なぜ、自然は加速度を運動方程式の変数として選んだのでしょうか?ジャークや速度ではダメだったのでしょうか?

この理由については、別の機会に考察しましょう。

微分による表現

この先の展開を見据え、微分による速度・加速度の表現を詳しく見ていきます。

位置は時間の関数となるため、$x(t)$と表せます。すると、$\D{t}$秒経過後の変位は$x(t+\D{t})$と表せる訳です。

すると、変位$\D{x}$は、

\begin{eqnarray}
\D{x} &=& x(t+\D{t}) \,-\, x(t)
\end{eqnarray}

と表せます。

速度の式に適用すると、

\begin{eqnarray}
v &=& \lim_{\D{t}\to 0}\ff{x(t+\D{t}) \,-\, x(t)}{\D{t}}
\end{eqnarray}

となります。これはそのまま微分の定義となっています。

つまり、ある時刻での速度$v(t)$は、

\begin{eqnarray}
v(t) &=& \ff{\diff \,x(t)}{\diff t}
\end{eqnarray}

と表せます。

時刻$t$での瞬間の速度を時間の関数として表現することで、速度が時間により変化することを明示的に示せます。

加速度も同様に、

\begin{eqnarray}
a(t) &=& \ff{\diff^2 \,x(t)}{\diff t^2}
\end{eqnarray}

時間の関数として表せます。

位置・速度・加速度は時間の関数として表現できることは重要な視点となります。

ここまでは、暗黙の了解で一次元の運動に限って話を進めていましたが、現実は三次元です。

そのため、三次元でも運動を記述できるような、表現方法を考える必要があります。

さらに、三次元と言わず、もっと高次元であっても同じ形式で議論できるような統一的な表現であることが望ましいです。

こんな要求に答えられるよう、位置・速度・加速度を高次元に拡張することを考えましょう。

スポンサーリンク

大学物理の第一歩:位置・速度・加速度ベクトル

高次元の話をする前に、足元を固めなければなりません。

先ほどの議論では速度や加速度の大きさのみしか議論しませんでした。しかしながら、変位・速度・加速度は、どの方向にどんな大きさで移動しているのか?という情報を含みます。

つまり、速度や加速度は大きさに加えて、どの方向に向かっているのか?ということも同時に表現しなければなりません。その道具として、ベクトルを使います。

ベクトルとは、空間に二点$P, Q$をとり、$P$から$Q$に向かう有向線分(向きを持った線分)のことです。

ベクトル

ベクトル表現には、高次元に拡張した際に、式の見た目が変わらないというメリットもあります。

位置

始めに、位置をベクトルを使って表しましょう。

ベクトルによる変位の表現

時刻$t$において、物体が$\left(x(t), y(t), z(t) \right)$の位置にあるとき、原点からの位置ベクトル$\B{r}(t)$は、

$$\B{r}(t) = \B{r}\Big( x(t), y(t), z(t) \Big)^T$$

と表せます。大学物理では通常、ベクトルを太字で表現します

※詳しいベクトルの表記方法については、ベクトルの記法と記号の意味で解説しています。

さらに表記を簡単にするために、$\B{r}(t)$としましょう。単純なことですが、表記の簡略化は後々威力を発揮します。

速度

次に、速度をベクトルによって表現することを考えましょう。

ベクトルによる速度の表現

速度の定義を使うと、直感的には次のようになりそうです。

\begin{eqnarray}
\B{v}(t) &=& \ff{\diff \, \B{r}(t)}{\diff t}
\end{eqnarray}

速度をベクトルで表しているので、この速度を速度ベクトルと呼びます。

ところで、ベクトルを微分していますが、どんなルールで計算すればよいでしょうか?

これは意外と単純で、ベクトルの各成分をそれぞれ微分し、並べることで速度ベクトルを表します。

行列の表現を借りると、次のように表現できます。

\begin{eqnarray}
\B{v}(t) &=& \ff{\diff \, \B{r}(t)}{\diff t} \EE
&=&
\left(
\ff{\diff \,x(t)}{\diff t},
\ff{\diff \, y(t)}{\diff t},
\ff{\diff \, z(t)}{\diff t}
\right)^T
\end{eqnarray}

このままでも良いのですが、足し算を使って次のように速度ベクトルを表現しましょう。

\begin{eqnarray}
\B{v}(t) &=& \ff{\diff \, \B{r}(t)}{\diff t} \EE
&=& \ff{\diff\, x(t)}{\diff t} \B{i} +
\ff{\diff\, y(t)}{\diff t} \B{j} +
\ff{\diff\, z(t)}{\diff t} \B{k}
\end{eqnarray}

$x, y, z$軸それぞれの方向の単位ベクトルを$\B{i}, \B{j}, \B{k}$としてこのように表現します。

※ベクトルの微分・積分については、ベクトルの微分積分で解説しています。

加速度

加速度も同様にベクトルで表現することができます。

先ほどと同様に、加速度ベクトルは次のように表せます。

\begin{eqnarray}
\B{a}(t) &=& \ff{\diff \, \B{v}(t)}{\diff t} \EE
&=& \ff{\diff\, v_x(t)}{\diff t} \B{i} +
\ff{\diff\, v_y(t)}{\diff t} \B{j} +
\ff{\diff\, v_z(t)}{\diff t} \B{k} \EE
&=& \ff{\diff^2\, x(t)}{\diff t^2} \B{i} +
\ff{\diff^2\, y(t)}{\diff t^2} \B{j} +
\ff{\diff^2\, z(t)}{\diff t^2} \B{k}
\end{eqnarray}

ただし、速度ベクトルの各成分を$v_x, v_y, v_z$とします。

以上、三次元での位置・速度・加速度のベクトルによる表現方法でした。

このように、高校で習った力学(=質点の力学)をより現実に近い状況に拡張・適用することが、大学物理の方針となります。

スポンサーリンク

高次元へ

ベクトルの利点

前節では、一つの質点だけについての位置・速度・加速度を考えましたが、より多くの質点が存在する場合のベクトルでの表現を考えましょう。

まずは、質点が二つあるとき、それぞれの質点の位置は、

\begin{eqnarray}
\B{r}_1(t) &=& \B{r}_1 \Big( x_1(t), y_1(t), z_1(t) \Big)^T \EE
\B{r}_2(t) &=& \B{r}_2 \Big( x_2(t), y_2(t), z_2(t) \Big)^T \EE
\end{eqnarray}

と表せます。

さて、この二つのベクトルをまとめて表現してやると、

\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix}
\B{r}_1(t) \\
\B{r}_2(t)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
x_1(t) \\
y_1(t) \\
z_1(t) \\
x_2(t) \\
y_2(t) \\
z_2(t)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
x_1(t) \\
x_2(t) \\
x_3(t) \\
x_4(t) \\
x_5(t) \\
x_6(t)
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}

となる訳です。

さらに、上から順に$x_1, x_2, \cdots, x_6$とラベルを付け替えてやると、最後の式のように表せます。

単にラベルを付け替えただけですが、見方を変えると面白いことに気が付きます。

実は、このベクトルは6次元空間の位置ベクトルと見なせるのです。

6次元空間での位置

二個の質点をまとめて、2×3=6個の成分を持つベクトルとして一つにまとめることができるのです。

一般に、三次元空間内の$N$個の質点を、$3N$次元上のベクトル($3N$個の成分を持つベクトル)として表すことができるのです。

うれしいことに、次元が増えてもベクトル表記であれば見た目が変わらず、$\B{r}(t)$と表記できます。

ベクトル表記は、見た目を変えずに議論を高次元に拡張できることが大きなメリットとなります。

この考え方は、統計力学にて大いに活躍することになります。

後は、微分のルールを決めれば速度も加速度も高次元に拡張できます。

前提として、高次元では、それぞれの軸に$x,y,z,\cdots$と割り振ると文字が足りなくなるので、$x_1, x_2, x_3,\cdots, x_n$と数字の添え字で座標を表すことにします。

それに伴い、各軸方向の単位ベクトルも$\B{e}_1,\B{e}_2, \B{e}_3, \cdots, \B{e}_n$と表すことにします。

こうすると、一般の次元でのベクトルの微分をこのように表すことができます。

一般の次元での速度・加速度ベクトル

\begin{eqnarray}
\B{v}(t) &=& \ff{\diff \,\B{r}(t)}{\diff t} = \sum_{i=1}^n\ff{\diff \, x_i(t)}{\diff t}\B{e}_i \EE\\
\B{a}(t) &=& \ff{\diff \,\B{v}(t)}{\diff t} = \sum_{i=1}^n\ff{\diff^2 \, x_i(t)}{\diff t^2}\B{e}_i \\
\,
\end{eqnarray}

ただし、$x_j(t)$は時間のみに依存するとしています。

まとめると何が良い?

大学物理の初歩を解説する記事で、高次元の話をいきなり持ち出すことに疑問を感じたでしょう。

なぜ、高次元空間でのベクトルを考えるのか?

その理由について解説します。

まず、物体の運動はエネルギーの大きさによって決まります。

外力が働いていないとき、エネルギーは常に一定に保たれます。

エネルギーが一定に保たれる例として、断熱容器に閉じ込められた気体が該当します。

気体分子の総数を$N$とし、各分子の速度ベクトルを$\B{v}_i$とします。

さらに、$\B{v}_i = (v_{i1}, v_{i2}, v_{i3})^T$とすると、気体の全エネルギー$U$は、次のようになります。

\begin{eqnarray}
U &=& \ff{1}{2}m\sum_{i=1}^N \left( v_{i1}^2+v_{i2}^2+v_{i3}^2 \right) \EE
&=& \ff{1}{2}m\sum_{i=1}^{3N} v_i^2 \tag{1}
\end{eqnarray}

ただし、分子の質量を$m$とし、また、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)は考えません。

その上で、添え字を整理すると式(1)のように簡略化できます。(純粋に、数学的な変形です。)

式(1)は、$3N$次元上を移動する一個の質点の全運動エネルギーとも見なせます。

$N$個の気体分子を$3N$次元上の一個の質点の運動として変換できした。

こうすることで、一個の質点の問題として扱えるため、見通しが良くなります。

統計力学への招待

式(1)は単なる式変形ですが、ハミルトンの正準方程式という眼鏡を通して、式(1)を改めて眺めると、大きな意味を持つことに気が付きます。

簡単に言うと、相空間という空間上では、エネルギー一定の質点の運動は、球面として表すことができるのです。

ハミルトンの正準方程式を使うことで、物体の振る舞いを位相空間内で運動に変換できるのです。

面白いことに、この性質は一般の次元でも成立し、エネルギー一定の質点は位相空間内で超球面上を動きます。

先ほどの話を思い出してください、無数の分子を一個の質点としてまとめて相空間の運動にプロットすると、その質点は超球面上を運動するのです。

これは驚くべきことです。

無数の分子を含む気体の振る舞いをたった一個の質点の運動として解析できるのですから。

このような流れで、統計力学は議論を進めていき、ニュートンの運動方程式から気体の巨視的な性質を導いていきます。

とは言え、いきなりこんなことを説明されてもサッパリ分からないでしょうが、麓から古典力学の頂上を眺めて、ほんの少しでも面白いと感じてもらえればと思います。


大学物理の各分野についてはこの記事で詳しく解説しています。

タイトルとURLをコピーしました